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時の子

「あーあ、疲れた。お兄ちゃんたちが荷物をなくしたせいだからね!」

「何よ、どこかのおチビさんが悲鳴を上げたりしなかったらなくさなかったわよ!」

「ティアナ、抑えて……。」

エリゼの言葉にいちいち反応してみせるティアナに、リラがいい加減うんざりしたようにそう言った。アランも、エリゼをたしなめる。

「エリゼ、いい加減にしろよ。フェリドさんたち、困ってるだろ?」

「だってこのおばさんがー!」

「だから誰がおばさんよーっ?」

果てしのない言い合いに、五人分の溜息が重なった。彼女たちは今、アランに案内されて彼とエリゼの家にお邪魔していた。なんとか荷物を見つけた一行だったが、ティアナとエリゼの様子が相変わらずで、ほとほと困り果てていた。

「そう言えばフェリドさん、時の子の行方に心当たりがあるとかで、ここを訪れたんでしたよね?それで、どうですか?」

話題を変えようと思い立ったジュリアの問いかけに、フェリドではなくエリゼがきょとんとしてそれに答えた。

「何よ、お兄ちゃん。私を探しに来たの?」

「はっ……?」

ティアナが、思わず疑問符つきで息を漏らした。そのままフェリドに視線を当てる。フェリドが、硬直した。

「ちょっと、まさかこの生意気なおチビさんが時の子だなんて、言わないわよね……?」

醸し出している黒い空気に、フェリドがゴクリと唾を飲んだ。その様子で全てを理解したリラが、あまりにも哀れなので彼を庇ってやる。

「そうみたいよ。ほら、妖精の如き時の子、って言ったじゃない。かわいらしいし、イメージぴったりだと思うけど……。」

「確かに、妖精っぽいわね……。」

ティアナが肯定の言葉を漏らしたことに、誰もが驚いた。その瞬間までは……。

「ピクシー妖精っぽいもの!」

ガクン、と六人分の肩が沈む。またしてもエリゼがティアナに突っかかった。

「何よー、おばさんにはこんなにかわいい私がピクシー妖精に見えるって言うの?目、ちゃんと見えてる?」

「自称かわいいだなんて、最高に性質たち悪いわよ!」

「姉さん、人のことは言えないでしょ……。姉さんだって自称美人じゃないか……。」

エルリックの呆れ顔でのツッコミに、彼女は憤慨して答えた。

「私の場合は自他ともに認めるってやつなの!」

「……。」

もう構わない方が賢明だと判断したエルリックは、そっとリラとジュリアに目配せして黙り込んだ。エリゼと出会ってからの短い時間で、彼女の闘争心に火がついてしまったようだ……。子供相手に見苦しいな、と思いながらも、皆が皆自分に火の粉が飛んで来るのを恐れて黙っていた。

「僕たちは、エリゼを探しに来たんだよ。エリゼにも、一緒に旅に来て欲しくて……。」

「……どういうことですか?」

アランのその言葉で、フェリドは二人にことの概略を聞かせた。さすがのティアナとエリゼも、その間はずっと黙っていた。

「……なるほどね……。」

アランはその話を聞き終えてから、しばらく黙って考え込んでいた。彼は十五歳、エリゼは十一歳ということだったが、二人は一体どういう関係なのだろうか?リラがぼんやりとそんなことを考えていた、その時だった。

「……わかりました。」

アランがそう声を上げたので、はっきり言ってどうでもいいことを考えていたリラは、ふと現実の世界に頭を引き戻した。

「エリゼは……旅に同行させます。ただ……心配なので、俺も連れて行ってもらえませんか?もちろん、皆さんの迷惑にならなければ、なんですが……。」

「ちょ、ちょっと待って、アラン。」

リラが慌てて口を挟んだ。

「すごく危険な旅なのよ?ハーバナントの魔物に何度も襲撃されたし……。」

「わかってますよ。」

アランは、リラに笑顔を向けながら続けた。

「だから、エリゼを皆さんに預けるだけ預けて待っている、なんてこと、できないんです。彼女を護ることは、僕が父さんから引き継いだ大切な仕事ですから。あ、もちろん皆さんを信用していないとか、そういうことじゃあないんです。ただ、俺の仕事は、自分でしたいんです……。」

フェリドはアランのその言葉と視線を受けて、しばらく悩んでいた。できることならば、自分の弟同然に思っている彼を、こんな危険な旅に参加させたくはない。だが、彼にそう言えば、エリゼも連れて行かせないと言うだろう。彼女の今の保護者は、目の前のこの少年なのだ……。

「……わかった……。君に、この旅への同行をお願いするよ。エリゼの守護者としての、ね。時の聖具がどうしても必要になるから、エリゼにhあどうしても一緒に来てもらわないとならないんだ……。君たち二人をこんな危険な旅に連れ出すのは、本当に申し訳ないと思っている……。」

「仕方ないじゃない。お兄ちゃんの不始末は、妹の私がどうにかしないと!」

別に不始末じゃないんだけどな、と、フェリドは心の中で苦笑する。どうやらアランにはそれが通じているようで、彼からは軽い目配せが返って来た。

「ようし、じゃあよろしくね!エリゼ、アラン!」

リラの明るい言葉に、二人も笑顔で応じた。

「よろしくお願いします。」

ジュリアに対する時も、もちろん笑顔……。

「ほら。」

ティアナが、エリゼに向かって手を差し出した。一同が、好奇の視線でその成り行きを見つめる……。

「一緒に旅に行くんだから、仲直り位しておきましょ。」

「あ、姉さんが大人になった!」

エルリックの感動は、一瞬の出来事だった。

「まあ、私が大人になって許してあげるわ。」

「どっちが大人だ、どっちが!」

エリゼの言葉に憤慨する、ティアナ……。エルリックは小さく、前言撤回、と呟いた。

「先が思いやられるな……。」

まだ言い合いを続けている二人に、五対の目が仕方なさそうに細められた。

連載が二十話を越えると同時にお気に入り登録件数も二十件を超えて驚いています。

皆様、本当にどうもありがとうございます。

レポートなどとの兼ね合いでどうしても定期的な更新はできませんが、どうぞ今後もお付き合い下さいませ。


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