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地獄行きの切符と新世界への一歩

「あ、ティアナ、おかえりなさい!」

戻った彼女を一番に迎えたのは、リラのその言葉だった。どうやら、今回の食事は彼女が用意してくれたようだ。

「へえ、朝御飯?おいしそう!」

その言葉に、リラはほんの少し照れたように笑った。その話声で、他の三人も寄って来る……。

「さすがお姉様ですわ!お料理なんてなさったことなかったでしょう?」

「そうなの。適当に切ったり入れたりしてたらこうなったのよ。」

「それでこんなにおいしそうな料理ができたなら、リラさんは天才なんだね!」

皆が口々にそう褒める。確かに、彼女の料理はこの上なくおいしそう・・・・・だった。味見を、と思って黙ってそれを口に運んだフェリドが最初の犠牲者となった。

「う、うう……。」

彼はそう呻き声を漏らして、その場に力なく崩れた。誰もがその様子に目を見張る……。

「ちょっと何よー、下手くそな演技ねえ!まずそうな演技ならもっとそれらしくやりなさいよ!……んんんっ?」

二人目のティアナも撃沈。一体、彼らに何が起きたというのか……?この二つの変死体に共通していることはただ一つ、リラの料理を食べた直後に昇天した、と言うこと……。ジュリアが、恐る恐るその凶器・・を口に運んだ。そして……。

「おっ、お姉様、これっ!お塩とお砂糖を間違っている上に、入れすぎです!」

「えええっ?」

リラは、ジュリアが口にしたスープの方を一口飲んだ。二つの変死体を作ってしまった肉料理の方に手を出す勇気は、彼女にはなかった……。そして、舌がおかしいのではないかと言う疑念を抱く。

「な、何?これ……。」

彼女は固まった。そう、スープのはず、だ……。それなのに、口の中に嫌という程どろりとした甘さが広がる……。見た目とは裏腹の、想像を絶する味……。彼女は、この世に生み出してはならない物を生み出してしまった……。二つの変死体は、自力で死の淵から生還した。

「あ……うん、よし。リラの料理は観賞用ってことで。」

ティアナはおかしな形に唇を歪めながらそう笑った。一同が、コクリと頷く……。

「大丈夫ですよ、お姉様。旅の間に少しずつ覚えて行けばいいんですから。私でよろしければお教えしますわ。」

ジュリアの優しい笑顔に、リラは肩を落としながらも素直に頷いた。

「ぷっ……。」

その様子を見ていたエルリックが、急にそう吹き出した。四対の視線が、一度に彼に注がれる……。

「な、どうしたのよ?急に笑うなんて、気持ち悪い……。あ、まさかリラの料理食べたのっ?」

ティアナのその言葉に、リラが白い目を向ける……。いくらなんでもひど過ぎるだろう、という、抗議の意を込めて……。

「まさか、違いますよ。リラさんにも苦手なことってあるんだなあ、と思って……。ほら、今までなんでも簡単にやってるってイメージがあったし。」

「そうねー、正直ちょっと悔しかったから、良かったわ。人柱にされたことを除いて、ね!」

意地悪に笑う彼女に、リラはさらに口を尖らせた。その様子を見て、フェリドとジュリアが苦笑をもらす。彼にしか聞こえないような声で、ジュリアが囁いた。

「……お姉様をお願いします、フェリドさん……。」

彼の瞳に宿った疑問の色を見てとったジュリアの唇が、柔らかく綻んだ。そこから、また小さく言葉が漏れる。

「あなたに頼むのが、一番良いんです……。」

「勘違いじゃないか?僕は彼女に警戒されている。あの言葉遣いが何よりの証拠だろ?」

「……そうですね。でも、あなたに頼むのが一番良いんです。お姉さまは、気を許せないと思っていらっしゃる相手には決して柔らかい言葉は使いません。でも、ほんの少しずつでもあなたに対する態度は軟化しているでしょう?ですから、辛抱強くお姉様の心が開くのを待って差し上げて下さい……。」

彼女のその言葉は、彼には全くもって意味不明だ。しかし、その表情から隠された何かがあるということを悟った彼は、黙って頷き返した。いつかそんな日が来ることを、期待して……。

「よし、じゃあ、明日の船で戻ろうか!その後は、ルクタシアに行こう。エルリックの炎の聖具を探しに、ね。」

「ちょっとー!何勝手に仕切ってるのよ!大体、聖具の話は聞かなくていい訳?」

ティアナの不満を、一同は笑って受け流した。彼女の首にかけられているダイアモンドのペンダント。それが、何よりの証拠だ。それは、一行にとっては新しい世界への第一歩だ……。新世界への希望と期待で、彼らの表情は明け方の空と相まって明るくなっていた。

こんにちは、霜月璃音です。

久々の更新となりましたが、読者様のお気に召したでしょうか?

のろい更新を気長に待ち続けて下さっている皆様、本当にありがとうございます。

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