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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

服毒して生き残ったら王太子妃

服毒して生き残った王太子妃が牢屋に入れられたって本当ですか?【連作短編⑨】

作者: 龍 たまみ

連作短編⑧⑨は繋がっているため、⑧を先に読んでいただいた方がお楽しみいただけると思います。

話が長くなってしまったので、連作短編⑧⑨⑩を【ファイ国編】としたいと思います。

 シーダム王国の王太子妃アラマンダが毒に精通しているということで、ファイ国のユイン第五王子を手伝い、無事にババタの駆除に効果が出始めて、目に見えてババタ大量発生が収束に向かっていた。


 明日の朝、アラマンダはシーダム王国に向けて帰国するためにルートロックの聖獣ドラゴンが迎えにくる予定になっている。


 その深夜遅く。


 アラマンダの貴賓用の寝室の扉が強く叩かれる。


「メオ様!」


 アラマンダは、寝台で共に横たわってリラックスしていたメオを自分の右手の指輪の中に隠す。

 何だかやけに外が騒がしい。


「おい! ここを開けろ!!」


 アラマンダは慌てて、夜着から着替えて身なりを整えた。その上に厚手のショールを羽織り、自分が貴賓として扱われていない状態に嫌な予感がする。

(罠にはめられたようね……)


 アラマンダが扉を開けると、騎士服を着た男性三名に取り押さえられ、すぐに拘束される。


「ユイン第五王子が手引きした毒を扱う者とはそなたで間違いないな? よし、連れて行け」

(あー、やっぱりね)

 毒を扱う時の注意点は、何か事件があったときに自分が一番最初に疑われる可能性があるということだ。

 ということは、他国であるこの地で何か毒に関する事件が起きたということになる。


「あのう、何かあったんですか?」


 アラマンダの手首を縄で拘束して、歩き始めた騎士の一人に声をかける。


「何をのんきなことを言っている。そなたが持ち込んだ毒で国王陛下が倒れられたに決まっているだろう」

「……私はユイン第五王子に依頼されて、この国に参ったのですが?」

「そんなものは知らん。疑いがかかっているのだから、大人しく牢屋に入っておくこったな」


 王国騎士団だろうか。牢屋の衛兵なのか、よくわからないが今はそのまま牢屋に入るのが一番だろう。

 疑いがかかっているなら仕方がない。疑いが晴れるのを待つしかない。

 ……でも、ひとつ気になることがある。


「すみません。ちなみに国王陛下が飲まれた毒の種類はご存じですか?」

「そんなものはわからん。息ができないと言って寝台の中で真っ青になって倒れていたということしかな」

(呼吸困難を引き起こす毒……どれかしら。ファイ国の医師が解毒できるといいのだけれど)


「万が一、私の知識がご入用になりましたらお呼びくださいとどなたか王族の方にお伝えいただけますか?」


 アラマンダが、騎士にそう伝えた瞬間。

 後ろから男性がツカツカと速足でやってくるのが見えた。

 こげ茶色の髪と瞳を持つ人物だ。


「そこの女。そんな必要はない。お前の手助けなどいらん。お前が毒を持ち込んだのであれば解毒薬も持っているという意味だろう」

「いえ。解毒薬は持っておりません」

「ふん。どっちでもいい。父上が亡くなったら、お前の命もないと思っておくんだな」


(この方は……この物言いからして、父上とおっしゃっているので、王子で間違いないでしょうね。何番目かはわかりませんが)


 アラマンダは、その勝ち誇った様子の男性の顔を見て、ペコリとお辞儀をするとそのまま塔の中の牢屋の中に入れられた。その男が扉を閉める瞬間にニヤッと薄気味悪く笑ったような気がする。


(他国に毒を持って行ったら、こういう罠には嵌められそうねぇと思っていたけれど、やっぱり予想通りだったわね)


 さきほどの男が王子であって、国王陛下の毒殺を目論んでいるとしたら彼は国王陛下を助けるわけがない。私を呼び寄せたユイン第五王子が姿を現さないことから考えると、彼も私を手引きした者として捕えられているか、すでに殺されている可能性が高い。

 国王陛下とユイン王子をともに葬ってしまえば、一気に邪魔者は片付くし、毒を持ち込んだ私を犯人にして捕まえて処罰を与えたと国民に知らせれば、賞賛されて新たな王が誕生するというストーリーが出来上がる。

 結局、事実など調べるつもりは最初からないと考えておいたほうが良さそうだ。


「ユイン第五王子……大丈夫かしら……。国王陛下もすぐに解毒できるといいのだけれど……何を飲まされたのかしら……」

 今は、何もすることがない。

 しばらく状況を見て探るしかない。


 そして冷たい石室でできた牢屋の中で座ったまま朝を迎えた。


「ちょっとショールを羽織るだけだと寒いわね。腰も痛くなってしまうわ」

 アラマンダは自分の両腕で身体を抱え込み、寒さをしのぐ。


 すると、指輪からほんのりひだまりのような色が発光してぽかぽかと身体が温かくなってきた。

(メオ様だわ。指輪の中から魔法で温めてくれているのね)

「ありがとうございます。メオ様」


 アラマンダは、指輪の中にいるメオ様に向かってお礼を述べる。


「そろそろドラゴン様も迎えに来る時間じゃないかしら? どうやって伝えたら良いかしら……」

 アラマンダが独り言をつぶやくと、それを聞いたメオ様が指輪の中からスルッと現れた。


「あら? 私がお呼びしなくても出てこれますの?」

「もちろんだにゃ。これは王宮魔導士が作った指輪だけれど、解析なんて簡単だから自分で出入りできるように書き換えたにゃ。ドラゴンは……書き換える能力はないみたいだけどにゃ」


(確かにドラゴン様が自力で出入りすることが可能だったとしても、身体が大きすぎるからちょっと大変よね。それに引き換えメオ様は、どこからか迷い込んだ猫にしか見えないわね)


 メオは牢屋の上部の天井付近に取り付けてある鉄格子のはまった小さな小窓にピョンと飛び乗り、外に身を乗り出す。


「もうドラゴン、来ているにゃ。おーーーい!!」

 メオが人語で声をかける。


 ドラゴン様は、すぐ近くに『隠ぺい魔法』をかけた状態で待機していたらしい。


「ドラゴンよ。アラマンダが捕まったからその旨、ルートロックに伝えるにゃ。まぁ我がおるから処刑だど最悪の事態にはならないから安心せよと伝えよ。我はしばらくアラマンダとこの国の情勢を見極める。ことによっては……この国にはお仕置きが必要になるにゃ」


 メオは冷静なようで、言葉の不穏な言葉をにじませる。

 アラマンダが捕らえられたことを内心、怒っているのかもしれない。


 メオがドラゴンに言伝を頼むと、今度は塔の下に目を向けて、下の様子を見る。

 目を閉じて、しばらくヒゲをぴくぴくと震わせていた。

(やっぱり、あのおヒゲはセンサーみたいね)


 アラマンダはメオ様の真剣な横顔を見ながら、どんな能力を秘めているのかしらと想像を楽しんでいた。


「アラマンダ。やっぱりユイン王子も捕まっているみたいだにゃ」

「それは……ご無事だといいのですけれど。メオ様、私は構いませんので、ユイン王子の様子を見に行っていただけませんか? 私より立場が不安定な方ですので、何かされていないかとても不安です」

「うむ、ユイン王子が死ぬ前に助け出したほうが良さそうにゃ」


 そのメオの不穏な発言を聞いて、アラマンダは青くなる。

(メオ様は……そこまでわかるということよね? 拷問にでも合っているということかしら)


「アラマンダ。我の相棒をここに置いておくゆえ、まぁ、相棒と言っても能力は我と全く一緒の猫ゆえ我だと思って扱っておくれ」

「相棒ですか?」


 アラマンダが質問を返すのが早いか、メオが分裂するのが早いか。

(メオ様が……二匹になったわ)


「ちょっと行ってくるにゃ」

「えぇ、ユイン王子をどうぞ宜しくお願い致します」


 アラマンダが言い終わらないうちに、塔の小窓からメオは飛び出していった。


「あの高さも平気なのですね」

 アラマンダがポツリとつぶやくと、もう一匹のメオが答える。

「あれくらい朝飯前だにゃ」


 アラマンダは、クスリと笑う。


「本当に、そっくりなのですね」

「我もメオだからにゃ」


 アラマンダは前世の忍者を思い出した。

(何ていったかしら……忍者が同じ身体を分裂させる術がありましたわよね……えっと……『分身の術』!!)

 前世の記憶なのに、忘れずに思い出せたことが何となく嬉しかった。


 アラマンダはユイン第五王子の無事を願い、これから起こり得る悪いシナリオのシュミレーションを行ったいた。


 どれくらい時間がたったのだろう。

 小窓から差し込む太陽光の影の位置からすると昼過ぎくらいなのかもしれない。


 アラマンダの塔の扉がガチャガチャと音がしたので、もう一匹のメオ様も指輪にスッと入ってしまった。


「すみません。失礼致します」

 初めて顔を合わす男性が扉部分に立っていた。緑の髪に眼鏡をかけた、細身の男性だ。


(私を殺しにきたわけでは……なさそうね)

「私の名はノアと申します。第三王子です」

「私、シーダム王国の王太子妃、アラマンダと申します」


 アラマンダは、美しいカーテシーで挨拶をする。

「アラマンダ王太子妃殿下。兄が申し訳ございません。実はご相談したいことがございまして、兄に気づかれないようにこっそり伺いました」

(この人は国王陛下の味方なのかしら。ユイン王子との関係も探らないと敵か味方か今の段階ではわからないわ)


 アラマンダ、とりあえず会話をしてこの男性の目的を探ることにした。


「実は、国王陛下が毒を飲んでしまったようなのですが、解毒薬がわかりません。何かお知恵をいただくことはできませんか?」

(この方は……国王陛下を亡き者にしようとはしていないようね……)


「あのう、ご協力したいのはもちろんなのですが、国王陛下にお会いして直接診察することは可能でしょうか?」

「……それは、残念ながらできません。兄の手配した衛兵が国王陛下の部屋の前にいるので、私も入室できずにいるのです。毒を飲んでからの症状は、医師に詳細を教えていただきました」


(ん~。直接お会いする方が毒の特定が早いけれど、医師の方が診察した症状が細かくかかれていれば、何の毒かある程度特定できるかもしれないわね)


「わかりました。では、その医師の診断書を拝見しても宜しいでしょうか」

「えぇ……こちらになります」


 アラマンダは、ファイ国の言葉で綴られた診断書をゆっくり目で追っていく。


(この大陸の全ての言語を学んでおいて良かったわ。これも幼少期からルートロック殿下をお支えするために身に着けて学習して成果だけれど、今、こうして役にたっている)


 アラマンダは、気になる記述を見つける。

(確か、先ほどの騎士は国王陛下は呼吸困難に陥っていた……と言っていたわよね。他の症状は、爪先の変色……と白目の充血。意識混濁。あとは舌に赤い斑点)


 どういう毒かしら。

 アラマンダは首をかしげる。シーダム王国で採取されたり手に入る毒でもこのような症状ができる物がない。

(このファイ国の毒かしら? でも、それなら医師にもすぐ解毒できそうよね?


「ノア様。ちなみに王宮医師の見解では、どの毒だと推察しているのですか?」

「……それが、ムソウ茸というキノコ類の毒に似ているとのことですが、ムソウ茸の毒を摂取しても舌の赤い斑点が出ないそうです」

「そうなのですね。ムソウ茸はシーダム王国にもございますから、初めに呼吸困難をお聞きした時はムソウ茸の毒を疑っていたのですが……」


 アラマンダの頭に一つの仮説が浮かび上がる。


「すぐに国王陛下の毒が解毒できないように二つの毒を混ぜた物を使用したかもしれません」


(私が王太子妃の選考会で行ったのは、毒液を二液で攪拌することで中和することができた。……ということは、逆に二つの毒を混ぜて、解毒を遅らせて死に至らしめる確率を上げるということもできるかもしれない)


「確かに……その可能性はありそうですね」

 ノア王子も毒が混合されている物かもしれないと理解を示してくれる。


「ノア様。まず、ムソウ茸の毒の解毒薬は王宮であれば常備されているのではありませんか? それで呼吸困難の症状を先に緩和させてみましょう。その間に二つ目の毒の特定をした方が良いかもしれません」


「わかりました。医師と相談してみます」


 アラマンダは、追加で提案してみる。


「ムソウ茸と……この王宮にある他の毒を少しで構いませんので、持ってきていただけませんか? 私はシーダム王国の毒以外の知識があまりございません。私の知らないファイ国の毒の特性が書かれた資料などもお持ちいただけると助かるのですが」


「かしこまりました、準備してこちらに運びいれたいと思います」


 ノア王子は、アラマンダの考えを尊重してくれる人のようだ。塔にいても国王陛下の命の灯火が消えないように最善を尽くす姿を見てそう感じた。


 ■■■


 ほどなくして、ノア王子が再び塔の扉を開けて入ってきた。

 手にはたくさんの資料と少量の毒の入った小瓶をいくつも持っている。


「重たいのに、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそご協力いただき感謝申し上げます」


「それで……国王陛下はムソウ茸の解毒薬をお飲みになったのでしょうか?」

「ええ。私は第一王子に禁じられていて国王陛下の寝室に入ることはできないのですが、医師にお願いいたまして、先ほど解毒薬を飲ませたら呼吸は楽になったようです」


 アラマンダは、第一王子が王宮医師まで懐柔して解毒薬を飲ますことすらしないかもしれないと、考えていたがそこまでの手は回していなかったようだと、ほっと胸をなで下ろした。


「私はムソウ茸の毒耐性はあるのですが、それを少量接種してみて他のこれかもしれないと疑わしいもう一つの毒を摂取してみたいと思います」


 そのとんでもない発言を聞いて、ノア王子は目を瞠った。


「いや、他国の王太子妃殿下にそのようなことはさせられません。私もムソウ茸には耐性がつけられておりますので、その実験は……私の身体で行ってください」


「いえ。ノア様もこの国の王子でいらっしゃいますから、それは了承致しかねます」

「私は第三王子ですし、万が一のことがあっても替えがききますから……」


 確かに、王子というものは誰かに何かがあったときの為に多めに子供を産んでいるという事実はあるけれど、そんな悲しいことは言わないで欲しいとアラマンダは思う。


「ノア様。ノア様はお一人なのです。替えなどききませんよ。誰もあなたにとって代わることなどできはしません。ひとまず、どちらが被験者になるかはおいておいて、今は二つ目の毒がどれなのか目星をつけるのが先決ですわ」


「そうですね。わかりました。では、私はもう一度、解毒薬を飲んだ後の国王陛下の経過を医師に確認してまいりますので、毒の特定をアラマンダ王太子妃殿下にお願いしても宜しいでしょうか」


「かしこまりました」


 ノア王子は立ち上がると、再び国王陛下の元に急いで走っていった。


「う~ん。二つ目の毒がどれかしら。シーダム王国にない毒から選びましょう」


 アラマンダは手にした資料を読んでいく。虫由来の毒、魚由来の毒……動物由来の毒。

 順番に目を通していく。致死量もきちんと確認しておかないといけない。


「ん~。私の知らない毒はこの虫の毒と、この動物の毒の二つかしら」


 他の毒は、接種したことはないけれど、知識としてどんな症状が出るのかは以前、王宮の禁書庫で読んだことがあるから該当していない。


 アラマンダは右手と左手にそれぞれの小瓶を手に持つ。


「この二つのどっちかだと思うのだけれど、どっちかしら……」


 アラマンダの独り言が聞こえたようで、指輪の中からメオがひょこっと飛び出してきた。


「もう一つの毒は、こちらにゃ」

 メオが可愛い肉球で小瓶をちょんちょんと触る。


「メオ様は、そんなこともわかりますの?」

「にゃ。わかる時とわからない時があるにゃ。今は、もう一匹のメオが歩き回って調べた情報からわかったにゃ」


 どうやら、メオ様は分裂して動いていても、意識と情報は共有できているらしい。


(まぁ、メオ様が特定してくださったのなら、この毒で間違いないわね。この解毒薬を作ってもらったら国王陛下の容態も快復するのではないかしら)


 二つ目の毒が特定できたところで、牢屋の小窓からメオが戻ってきた。


「ただいまにゃ」

「おかえりにゃ」


 そう二匹のメオがお互いに声をかえると、スーッと影が重なり元の一匹のメオに戻ってしまった。


「おかえりなさい、メオ様」

「もーーう! 大変だったにゃ!!」


 少しばかりお怒りモードのメオに、アラマンダは目を丸くする。

(メオ様の怒ったところ初めて見ましたわ)


「どうでしたか? ユイン様はご無事ですか?」

「にゃ。無事……ではないにゃ! あの拷問していた人間みんな電気でビリビリの刑にしてやったにゃ」


 電気でビリビリと感電させてしまうほど、ひどいことをユイン様に行っていたとアラマンダは彼がどうなったのか心配になる。


「それで、メオ様。今、ユイン様はいずこですか? お怪我などされているのでしょうか?」

「ユイン王子は、今、我の『空間収納』の中にいるにゃ」


 アラマンダは嫌な予感がして、背筋がゾクゾクするのを感じた。


「アラマンダの予想通りにゃ。拷問で大けがをして瀕死の状態ゆえ、手当てができる環境が整うまで我の空間の中で時間を止めてあるにゃ」

「……そんな……瀕死の状態ですって……」


 アラマンダは、口元を手で覆う。

(いくらなんでも……ひどすぎるわ。そこまでしてユイン様が脅威の存在になったということなの?)


 毒を持ってきたのはアラマンダだが、ババタの大量発生を収束するのに必死だった彼の功績をそんな風に一瞬に奪ってしまうなんて許せなかった。彼が国民の為を思って奔走した結果、助けを求めたのがシーダム王国だったにすぎない。


「……でも、今はまだ息があるということですわね」

「まぁ、アラマンダがここを出て無事を確認してからゆっくり我が治療したら、問題ないはずにゃ」


 メオは、傷の程度までは詳しくアラマンダに伝えなかった。今は、アラマンダが動揺するような発言をして不安にさせてはいけないとの配慮したからだ。



 そこへ再び、牢屋の扉を開ける音がする。


「ノア様が戻ってきたようですわ」

「わかったにゃ」


 一言、返事をしたメオは、すぐに指輪の中に姿を消した。


「お待たせいたしました、アラマンダ様」

「どうでしたか? 国王陛下のご容態は?」

「おかげ様で、呼吸が楽になったおかげで、少し落ち着いているようです」

「それは良かったですわ。私の方ももう一つの毒の特定ができましたわ。この小瓶の毒に対する解毒薬はございますか?」


 アラマンダが手渡した小瓶の中身を見て、ノアは少し動揺したようだった。


「実は、この毒の解毒薬はまだ開発されていないのです……」


(解毒薬が存在しないから、この毒を二つ目の毒に選んだのですね。何て陰険なのでしょう。そこまでして王位が欲しいというのですね)


 アラマンダは犯人が、この毒の解毒薬がないからこの毒に奔走されている間に一つ目のムソウ茸の毒で亡くなることを想定したのだろう。


「……困りましたわね……」


 アラマンダも手詰まりだった。塔の牢屋にいてはどこにも行けない。


「実はですね。ここで監視を行っている、塔の衛兵を全員懐柔することができたので、この塔にいる衛兵とこの塔の周り一体に配置されている騎士は私の手の者です。だから、ある意味この塔は居心地は悪いですが、あなたを守る環境は整っております」


 アラマンダはノア王子の配慮を有難く受け取る。

(私の身も案じて、国王陛下の対応に追われながらも、平行して私の安全も確保してくださっていたのだわ)

 ノア王子も、信頼できる人間だと思われる。

 周りがノア王子の臣下で固められて、私の安全が保障されているならば物を運び入れることもたやすいのではないかと、アラマンダは一つの提案をする。


「ご配慮くださりありがとうございます。では、この場で私が解毒薬が作れるかいくつか試薬を作ってみても構いませんでしょうか? いろいろ道具や材料を運び入れたりしていただく必要はございますが……あとは火が使える状態だと蒸留作業もできて助かるのですが……」


「……それは本当ですか?! それならば是非、解毒薬の作成にご協力いただきく存じます!! 塔内に火気の扱える場所がございますので、そこまでは自由に出入りできるように、十分安全確認を行い、騎士の配置を行います。すぐに、準備致します!」


 前向きに検討してくれているノア王子に、アラマンダは必要な道具、実験器具、材料を記した物を手渡した。


 アラマンダは言うべきか悩んだところで、大事な情報をこのノア王子には話して大丈夫だろうと考え打ち明けることにする。


「実は……第五王子のユイン様のことなのですが……」


 アラマンダが言いかけたところで、ノアは顔をしかめてギリリと歯を食いしばった。


「私も行方を捜しておりまして、先ほどユインが拷問を受けた場所までは特定できたのですが……彼の行方は分かっておりません。申し訳ありません。大量の血だまりがあったので、まだ命があるのかも……わかりません」


 アラマンダは、メオの『空間収納』で時間を止めているユイン王子が予想以上に危険な状態なのだと理解する。そして、ある事実だけを述べることにした。


「実は……現在、私の方でユイン様は保護しております。詳細は言えませんが今はまだ何とか命を繋いでいる状態ですので、落ち着いたら……治療しましょう」


(まさか時間を止めているからとは言えないし、早く治療しないと死んでしまうと思われてしまうのもわかるけれど……これ以上はメオ様の能力に関わることだから詳しくは説明できないわ)


「……ありがとうございます。アラマンダ様が保護して下さったのですね。ありがとうございます。……どうやって保護されたかはわかりませんが……先ほど拷問をしていたであろう人物や周りにいた者が雷に打たれたように倒れたいたので……何か私には理解できないような方法でお助け下さったのだと思っております。深くは追及いたしませんので、ご安心下さい。……そして、弟、ユインを助け出して下さり、本当にありがとうございました」


 ノア王子は、少し涙を浮かべてユインの息がまだあることがわかると安心したようだった。

(ノア王子も聡い人だわ。これ以上はシーダム王国の国家機密に関わるかもしれないと……追及しないでくれた。有難いわ)


「では、早速、先ほど教えていただいた必要な物を運び入れる準備を致しますので、少々お待ち下さい」


 ノア王子は涙を浮かべた顔を見られるのが恥ずかしかったのか、ふいっと顔を背けるとすぐさま王宮の研究施設に器具を取りに向かった。


 ■■■


 あれから、数日が経った。

 アラマンダは、今も塔の中で解毒薬を作り続けている。不眠不休に近い状態で、少しでも早く完成するように尽力している。


 シーダム王国のルートロックは、すぐに迎えにくることはせず、ドラゴンが毎日、超高速移動で塔の中にいるアラマンダとルートロックに手紙を運び続けて、状況を知らせていた。

 ルートロックは本当にアラマンダが危機的な状況に陥ったら、来るつもりなのだ。それまでは、アラマンダのやりたいようにさせて、必要な物や足りない物があれば支援すると申し出てくれていた。


(遠く離れていてもルートロック殿下の優しさが手にとってわかるわね)

 アラマンダはルートロックの愛と懐の深さに感謝していた。普通であれば、他国の王太子妃を捕まえて牢に入れるなど、まかり間違えば戦争に発展してもおかしくない。ルートロックも前回、訪問した時でファイ国の置かれている状況は何となくわかっていたので、ファイ国の民を思って事を荒げる事は避ける努力をしていた。


 「王太子妃が牢屋に入れられたって本当ですか?」という驚愕の事実を知ったサルフ宰相の小言を聞くはめにはなっているが、それはいつものことだから通常運転なので問題なかった。


「う~ん、おかしいわね。これで完成したと思うんだけど……」


 その声を聞いたメオが指輪の中から顔を出した。


「にゃ。お~~~~さすがアラマンダ!! 解毒薬、完成しているにゃ」

「え? 本当にこれで解毒できますか?」

「う~ん……できるにゃ!!」


 しばらく考えてからいつものように自信を持って返事をしてくれるメオ様は本当に素晴らしいとアラマンダは思っていた。

(何かの……○×測定器みたいね。100%合っている時はきちんと教えて下さるもの)


「じゃあ、どれくらいで効果が出るのか検証してみましょう!」

「アラマンダ……自分の身体で実験しなくてもいいにゃ。あのノアとかいう王子に任せたらよいにゃ」

「ん~、でも、自分の目で完成を確認したいのよね。ほんのちょこっとこのシーダム王国にない毒の耐性をつけるだけよ。ね? それからすぐに解毒薬すぐに飲むから」


 メオは、猫なのに「はぁー」とため息をつく。

「わかったにゃ。ちょこっとだけにゃ」

「ありがとうございます。では!」


 アラマンダは致死量に至らない、ほんのわずかな毒を口にする。

(……身体が熱くたぎるようだわ、眩暈も少しあるかしら。ふむふむ)


「メオ様。私の舌には赤い斑点が出ていますか?」

「うむ。出てきておる。さぁ、早く解毒いたせ」

「わかりましたわ」


 アラマンダは、すぐに解毒薬を口に含み嚥下した。

(少し解毒には時間がかかるかしら……でも、身体のたぎるような熱さはスゥと引いていくわね)


「よし、検証終了!! 早速、ノア様にこれをお渡しして国王陛下に飲んでいただきましょう!」


 ■■■


 その後、ノア王子からは無事、国王陛下の解毒はできたと報告がきて、アラマンダもこれで一安心だと少し眠りについた。


 その後、国王陛下を弑逆(しいぎゃく)の疑いで第一王子は捕らえたと報告が入った。国王陛下に毒を盛った者はすでに口封じで第一王子により殺されていたようだ。


 第一王子が捕まったことにより、アラマンダは再び貴賓室をあてがわれたが、すぐにシーダム王国に帰るわけにはいかない。まだやるべき大事なことが残っている。


 第五王子のユインの治療を行うためには、指輪に隠れているメオ様の力が必要だったから、アラマンダは衛生的な場所で静かに行いたかったのだ。




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連作短編がたまってきたので、連載版として今後、投稿しようと思っております。

連載版を投稿いたしましたら活動記録に記載したいと思いますので、宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
短編よりも、シリーズ連載の方が読者は読みやすいと思います。 面白い作品なのでランキング占拠はおめでたいことですけどね。
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