表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】機械仕掛けの薔薇 〜軍人✕司祭のスパイサスペンス〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
17.スパイは二人いる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/63

GRATA LOQUI チャットへようこそ I

 ロッカー室には数人の隊員がいたが、しばらくすると銘々に出て行き誰もいなくなった。

 アレクシスは自身のロッカーの扉を開けた。

 中にかけた外套をとり出しながら、ブレインマシンを起動させる。

 ダニエルに連絡をとろうとしたが、そのまえに向こうからメールが入っていたことに気づく。

 今日も遅くなる。そう書いてある。

 この言いようだと、泊まりに来るつもりではあるようだが。

 「より道しないで帰ってね」と添えられている。母親かとアレクシスは苦笑した。

 ロッカーの左側に収納してある数丁の拳銃のうち、一つを手にとる。

 置いてある銃は軍から支給されたものがほとんどだが、この銃はアレクシス自身が買い求めた一般的な護身用のものだ。

 安全装置を確認し、装弾数を数える。

 カシャッ、カシャッとクラシックな音がした。

 電磁波を発射するいわゆる光線銃は実用レベルのものがあるにはあるが、周囲の電気機器への影響も心配されるため使用には許可とのちの報告が要る。



 不意に窓ぎわから、シャッと音がした。ロッカー室内が暗くなる。



 アレクシスは窓のほうを見た。

 窓の遮光(しゃこう)ブラインドがすべて閉められている。

 施設の管理室かこのロッカー室の操作パネルのいずれかで閉めることはできるが、とくにいま閉める必要は思いあたらない。

 何のためにと眉をひそめた。


「銃を置いて」


 おだやかな男性の声がした。背中に硬いものがあたる。

 銃口か。

 アレクシスは背後のほうを横目で見た。

 ロッカー室内は無人になったと思っていたが、いつの間に入室したのか。

 ゆっくりと両手を上げる。


 声からして、先日の諜報担当と察した。


 前回はアレクシスよりもやや背が低いのかと推測したが、いまの声の位置はほぼ同じくらいの身長と推測できる。

 やはり前回は、特定しにくいよう少しかがんでいたのか。

()りない人ですね、パガーニ大尉」

 背後の男が言う。呆れているようなイラついているような、どちらともとれる口調だ。

「わざとですか?」

「きみは諜報担当か」

 アレクシスはそう問うた。

 背後の男は、答えない。

 まあ答えるわけはないだろうとアレクシス自身も思うが。

「話がしたい」

「話せることはありません。恋人が心配なら余計なことはするなと言ったはずです」

 背後から、かすかな金属音がする。

 背中にあてているものは、ほんものの銃口なのだろうか。施設内で使っているのだ。ダミーかも知れないとも思っていたのだが。



「ダニエルは二重(ダブル)スパイか」



 背後の男は黙っている。

 いつまで待っても何の返答もなく、アレクシスはもういないのではと横目でうしろを伺った。

「動くな」

 もういちど背中に硬いものが押しつけられる。

「……いたなら答えろ」

 アレクシスは眉をよせた。

「答えるわけがないでしょう」

「ダニエルに “より道せずに帰れ” と言われてるんだ。さっさとすませて帰りたい」 

「あなたが余計なことをしなければ、こんな時間のムダをやらずにすむんです」

 背後の男が冷静な口調で言う。


 背中にあてられた硬いものが、わずかに上下にゆれた。


 アレクシスは一気に手を伸ばし、自身のロッカーのなかにある外套を引っぱり出した。

 ふり向きざま男の頭にかぶせる。男は視界をさえぎられて頭を大きくふった。

 チェックの最中だった護身用の銃をとる。

 銃口を男に向けるが、男はむりな体勢ながらも外套から目のあたりだけを出してこちらに銃を向けた。


 アレクシスとほぼ同じくらいの身長。黒髪なのは分かった。


 しばらくじっと銃口を向け合っていた。

 男が銃口をこちらに向けつつ体勢を整える。

「……これこそ時間のムダだと思わないか」

 アレクシスは顔をしかめた。

「余計なことはいっさいしないと約束してください。そうすれば退室します」

 男が、抑揚(よくよう)をおさえた口調で言う。

「話が聞きたいだけだ」

「質問には答えられません」

 いまだ外套をかぶりつつ男が言う。

 アレクシスは、外套から出された片目をじっと見すえた。


 黒っぽい瞳か。どこかで見た気がする。


「では勝手にしゃべる。イエスかノーで答えてくれ」

 男は黙っていた。

「ダニエルは二重(ダブル)スパイか」

 男は無反応だった。身の安全のために話せないことはあるとダニエルも言っていた。

 落ちついて彼の任務が終わるのを待つべきなのか。

 だが、その間に危険な目に会いはしないのか。せめて彼を守っているものの確認だけでもしたい。

「……分かった。質問を変える」

 アレクシスはしばらく返事を待ったあと、そう告げた。

「きみは、ダニエルと組んでいるのか」

 あいかわらず男は答えない。

 目の表情に一瞬だけ変化があった気がしたが、どういった感情なのかアレクシスには分からなかった。


「なら……ダニエルを頼む」


 アレクシスはそう言い、銃を持った手を下ろした。そのままカタンと音を立てロッカーに置く。

「以上だ。時間をとらせて申し訳なかった」

 男はじっと銃口をこちらに向けていたが、目の表情に困惑してる様子が見てとれる。

 アレクシスは男に背を向けて帰宅の準備をはじめた。だが外套を男にかぶせたままだと思い出し、苦笑してうしろをふり向く。

 男は銃を下ろしていたが、外套はかぶったままだ。

「すまんが外套を……」

 そう言って男のほうに手をさし出す。

 つぎの瞬間。

 アレクシスのブレインマシンに、差し出し人不明のアクセスがあった。

 『チ(w e l)ャッ(c o m e)(t o)うこそ(c h a t)』と表示される。

 超古代文明について趣味で話し合うチャット。その二人部屋への招待だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ