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うさぎとかめの世界

「ねえねえ、えほんよんで!」


小さな女の子に、そんなことを言われた。


「おねがい、おにいちゃん!」

俺はこの子のお兄ちゃんではない。いやそんなことはどうだっていい。が、この子は誰だ?どこかに親がいるだろうと周りをみるが、こちらを見ている人はいない。

ここは公園だ。喉が乾いたので、飲み物を買うためにたまたま立ちよったどこにでもある公園だ。なんかそういうイベントをやっているのかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。

これはどうするべきか……こうしている間にも女の子がよんでよんでとしつこい。どうしてこうも諦めが悪いのか。別に子供は嫌いじゃないが、好きというわけでもない。それにねだられているのは絵本の読み聞かせだ。そんなことやったことがない。

お父さんとかお母さんはどこと聞いてみても答えてくれない。これはどうするべきなのか……

「おにいちゃん、はやくよんでよー」

そうはいっても、絵本はどこにあるんだよ。

「ねっ、ほら、これよんで!うさぎとかめ!」

気がつくと、女の子は絵本を持っていた。たしかにうさぎとかめと書いてある。あの有名な話だろう。でもどこから出したんだ、さっきまで持っていなかったはず……

「もおおにいちゃん!は!や!く!」

そういって絵本を押し付けてくる。しょうがなく俺が手に取ると、女の子は満面の笑みで俺をベンチへ引っ張ってきた。俺が座ると、女の子も隣に座って絵本を覗き込んできた。


「うさぎとかめ」


俺は絵本をゆっくりと開いた。


はずだった。


ここは、どこだ?

見渡す限り、草、草、草。

さっきまでいた公園じゃない。

だれもいない。

隣にいたはずの女の子もいない。

というか、なにか、おかしい。


「おいら、かけっこは だれにも まけないんだ」


声が聞こえた。


「ぼくだって、まけないように がんばるよ」


やっぱり聞こえる。というか、なんだかすごく聞きたくないセリフな気がする。

二つの声の会話は続く。


「それなら、あのやまの てっぺんまで、しょうぶしよう」


あああ、もう嫌だ。これはきっと、あのうさぎとかめのはじめのシーンだ。なんでかわからないけど、そうなんだろう。


「うさぎどんと かめさんの かけっこ しょうぶだって?」


勝手に声が出た。え、は?それもすごく高い声が。体も勝手に動いている。というか飛んでいる。さっき声がした方に向かっていくようだ。やっぱりそこにはうさぎとかめがいた。

……いやまて。まてまてまて。はっ?なんで俺が飛んでるんだよ!?

いやわかる。俺は今鳥になってるんだろう。

…………そこじゃない。そこじゃないんだ。どうして鳥になってるんだよ。

意味がわからないのにどんどん動物が集まってくる。くまやきつね、りす……ってたいして集まってないな。なんでこのメンバーなのかわからないが。

なんだろう。かけっこ勝負とやらが始まるのかと思いきや、ぜんぜん始まらないのだが。


「かめさん、かけっこ しょうぶしないのかい?」

「だって、うさぎどんは かけっこが とくいじゃないか」


かめがなにやら勝負するのを渋っているらしい。

ってそれはだめだろ!一応絵本通りにした方がこういうのはよかった気がする。なんならそうしなければここから帰れないとなにかが言っている。えーっとどうするか……このまま放置はなしにして、絵本通りに進める天の力的なのはないのか?さっき俺が強制的に動かされたみたいに。

……それがないからこうなってるのか。

とりあえず説得するしかないか。


「かめさん、だいじょうぶだよ。かめさんなら うさぎどんにだって かてるよ」


なんかすごい、言い方とうさぎとかめの呼び方が絵本っぽくなってるな。勝てるかもしれないにしときたかったのに。これもあの謎の力なのか?


「なんだって?おいらが、かめさんに まけるって いいたいのか?」


やばい、うさぎがキレそう。


「ちがうよ。うさぎどんが かつか、かめさんが  かつか、わからないって いいたいだけだよ」

「そうだよね。まだ わからないよね」


お、かめがやる気になってくれるか?


「うさぎどん、かけっこ しょうぶしよう」


よかった、よかった。しっかし、あんなぐねぐねの道を登るのか。実際にみると意外とキツそうだな。


「いちについて ようい どん!」


始まったみたいだ。やっぱりうさぎは速いなー。そしてかめは遅いな。絵本通りなら大丈夫だろうが。


「フレー、フレー、うさぎどん!」

「フレー、フレー、かめさん!」


なんかちゃんと応援してる。俺も勝手に声出てるし。

うさぎは見えなくなったけど、そろそろ寝てる頃か?

って、おい!かめ!なんで止まるんだよ!まだ半分もいってないだろ!

かめは動かない。あー、もー!


「ぼく、かめさんが しんぱいだから みてくるね」


よしっ、いくぞ!ってどう行けば……

……お、おお?飛べた!?まってろよー、かめ!


「かめさん、だいじょうぶ?」

「あ、ことりさん。ぼく、もう うごけなくて」

「かめさん、がんばろうよ!みんな、おうえんしてくれてるんだよ」

「フレー、フレー、かめさん!」


おお、ナイスタイミング!


「みんな、ありがとう!ぼくは、あきらめないよ!」


かめはまた走り出した。あーよかった。


……あれ?かめがもう最後の曲がり角にいるのに、うさぎが見えないんだが。まさか、まだ寝てるとかはないよな?ちょっと待ってくれよ!いやでも、それはいいのか?……だめだ、ここで妥協したらだめな気がする。よし……


「フレー!!フレー!!うさぎどん!!」


俺の甲高い声が大音量で響いた。これだけうるさければさすがに起きるだろ!

あ、うさぎいた。まあもうかめが着くから大丈夫だろ。


ぱたん。


……あれ?


「わあっうさぎさんもかめさんもすごかったねー!」

いつの間にか俺はあの公園にいた。

「おにいちゃん、よんでくれてありがとう!よむのじょうずなんだねっ」

女の子がばいばーいと言って走っていく。

なんだったんだろう。まあいいか、なんだかんだ楽しかったし。


「……そろそろ行くか」

俺は公園の出口へ向かった。


むかしむかしの おはなしです。

あるところに、うさぎと かめが いました。

「おいら、かけっこは だれにも まけないんだ」

うさぎは とくいそうに じまんしました。

「ぼくだって、まけないように がんばるよ」

かめも いいました。


「それなら、あのやまの てっぺんまで、しょうぶしよう」

うさぎが いいました。

ふたりの まえには ぐねぐねの やまみちが ひろがっています。

「うさぎどんと かめさんの かけっこ しょうぶだって?」

くまや きつね、りすに ことり、

もりの なかまたちが おうえんに やってきました。

ですが、かめは なやんでいました。

「かめさん、かけっこ しょうぶしないのかい?」

「だって、うさぎどんは かけっこが とくいじゃないか」

「かめさん、だいじょうぶだよ。かめさんなら うさぎどんにだって かてるよ」

ことりが いいました。

「なんだって?おいらが かめさんに まけるって いいたいのか?」

「ちがうよ。うさぎどんが かつか、かめさんが  かつか、わからないって いいたいだけだよ」

「そうだよね。まだ わからないよね」

かめは しょうぶを することにしました。

「うさぎどん、かけっこ しょうぶしよう」


「いちについて ようい どん!」

うさぎは びゅーんと とびだします。

かめは ゆっくり ゆっくり やまみちを のぼります。

「フレー、フレー、うさぎどん!」

「フレー、フレー、かめさん!」

うさぎは、あっというまに みえなくなりました。


うさぎは やまの まんなかで、うしろを ふりむきます。

「かめさんは ずいぶん ゆっくりだなあ。ちょっと、きゅうけい しようっと」

そして、ふわふわの クローバーの うえで、ぐうぐう ねむってしまいました。


そのころ かめは、ゆっくり はしっていました。

「まだ、てっぺんまで はんぶん いじょう ある」

のどは からからで、いきは ぜいぜい。

あしは つかれて ぼうきれの ようです。

かめは ついに たちどまってしまいました。

そのとき、ことりが やってきました。

「かめさん、だいじょうぶ?」

「あ、ことりさん。ぼく、もう うごけなくて」

「かめさん、がんばろうよ!みんな、おうえんしてくれてるんだよ」

そのとき、

「フレー、フレー、かめさん!」

なかまたちの こえを きくと、げんきが でました。

「ぼくは、あきらめないよ!」


ふうふう いいながら、かめは はしりつづけました。

いよいよ、さいごの まがりかどです。

そのとき、

「フレー!!フレー!!うさぎどん!!」

「しまった!ねすごした!」

うさぎが とびおきました。


うさぎは すごい はやさで かめを おいかけます。

「かめさんに、まけてたまるか」

「ぼく、うさぎどんには、まけないよ」

あと、もうすこしで てっぺんです。

「フレー、フレー、かめさん!」


てっぺんに さきに ついたのは、かめでした。

「やったあ、ぼく、がんばったよ」

かめは うれしくて にこにこ。

「がっくり、まけちゃった」

うさぎは、しょんぼり。


「うさぎどん、いっしょに はしってくれて ありがとう」

かめが いうと、うさぎも ようやく かおを あげました。

「うん。また、しょうぶしようね」

ふたりは なかよく あくしゅをして、にっこりと わらいました。

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