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彼女の事情/彼氏の事情

 ※ クロエ視点


 年頃の乙女というものは悩みが多いものです。学生としての本分である勉強はもちろんのことですが、友人関係、おしゃれ、流行の確認、それに恋愛など、悩み事というのは毎日尽きないものなのです。


 そして、私こと七瀬クロエも今とても悩んでいます。


 目の前の箱の中には、有名洋菓子店のケーキが二つ入っていて。一つは看板商品のイチゴのショートケーキ、もう一つは青肉と赤肉の両方を使ったメロンのショートケーキが入っています。


 神様と体重計が許してくれるのであれば両方とも食べたいところではありますが、そこはぐっと堪えてどちらかを選ばなければいけません。


 二つのケーキを見つめること十秒。


 結論はメロンのショートケーキです。やはり、季節限定というのは心惹かれてしまいます。


 私が箱から取り出したケーキを皿に乗せてフォークを準備したところで、ちょうどお母さんが紅茶を淹れて持って来てくれました。ジャストタイミングというところです。


 いただきますをしてクリームのついた赤肉のメロンから頬張ると果汁とクリームの絶妙なバランスに思わず唸ってしまいました。


「ところで、お母さん、誕生日でもないのにこのお店のケーキを買ってくるなんてどうしたの?」


 今日お母さんが買ってきたケーキは普段使いのお店よりも高級なお店のケーキです。宝くじが当たるような何かいいことがあったのかもしれません。


「うーん、そうね、いいことというよりも大事なことかしら」


「大事なこと……」


 お母さんは一度フォークを皿に置いて紅茶に口を付けてから私の目を見て話し始めました。


「お母さんね。再婚しようと思うの」


「えっ!?」


「突然のことで驚いたわよね。もちろんまだ決まりってわけじゃないわよ。クロエがどう思っているかなってことも大事だから」


 お母さんにそんな相手がいるなんて全く知りませんでした。


 でも、お母さんを幸せにしてくれる人なら……。


「いいんじゃない。お母さんがいいなと思える人となら。私だっていつまでもお母さんと一緒というわけにはいかないと思うし」


「えー、なになに寂しいこと言ってくれるじゃない。でも、ちょっと安心した。クロエがどんな反応するか気になっていたから」


 私だって高校生ですから、お母さんにはお母さんの人生があるということくらいはわかります。お母さんが再婚しようと思えるような人だから変な人でないことも予想がつきます。適度な距離でうまくやっていけばいいんだということも理解わかる年頃です。


 そのあと、お母さんが再婚を考えている人がどんな人かと聞いて、女子同士ちょっと盛り上がってしまいました。


 でも、その話の中でちょっと気になることがありました。


 お相手の方には私より少し年上の男の子がいるというのです。


 少し年上ということは大学生くらいでしょうか。どんな人かわかりませんが急にそんな歳の近い異性と一緒に暮らすというのは緊張というか警戒してしまいます。先日、屋外階段の踊り場で告白してきたような人でないといいのですが……。


 こうして、私の悩み事がまた一つ増えてしまいました。



 ※雅紀視点


 親父から再婚の話を聞いた時は青天の霹靂だと思った。


 でも、あとから思い返してみればそれらしい兆候がなかったわけではない。


 母さんと離婚した直後の親父は萎びた茄子のような感じで覇気もなく、子供である俺の方が親父を心配したくらいだった。それでも時間が経つにつれて徐々に元気を取り戻してきて、俺が高校に入る頃にはおしゃれにも少し気を使いだしていた。


 イケオジやちょいワル系でもない親父がちょっと色気づいたり、若作りしたりしていたので、会社で可愛い部下でもできたのかなくらいに思っていた。まさか、俺の知らないところで彼女ができていたとは驚きだ。


 年頃の息子に彼女ができないのに親父に彼女ができるなんて……。


 再婚については親父がいいと思う相手ならそれでいいと思った。どうせ俺はあと何年かしたら家を出るつもりでいるから、それまで上手くやっていればいい。適当にいい息子を演じて親父が幸せに暮らせるならそれでいいと思っていた。


 再婚相手に俺より少し年下の女の子がいるということを聞くまでは……。


 俺より少し年下ということは中学生くらいだろうか。女子中学生といえば反抗期まっさかりではないか。そんな年頃の義妹といきなり一緒に生活するなんて絶対に上手くいきっこない。女子中学生から見ればいきなり現れた男子高校生イケメンではないなんて最もいい扱いで空気であり、ほとんどの場合はバイ菌以下の扱いを受けるにちがいない。


 そんなことを考えて憂鬱な日々を過ごしていた俺だが、ついに両家の顔合わせの日がやって来た。


 会場は個室のある洋食店。先に店に着いた俺と親父が席について待つこと数分。


 お店の人に案内されてやって来たのは反抗期まっさかりの女子中学生ではなく、昨日も学校で顔を合わせた七瀬さんだった。


 紺色のブラウスに白のレースの入ったスカートというコーディネートは制服姿しか見たことのない俺にとってはとても新鮮に映った。


「よ、四元君!?」


 驚きと戸惑いが入り混じった表情で小さな口をぱくぱくさせながら絞り出すように言った。


 別に幽霊を見たわけじゃないのだからそんなに驚かなくても思ったけど、窓ガラスに写った俺の顔も七瀬さんと同じような表情をしている。


「あら、知り合いなの」


 七瀬さんと同じくらいの背の高さで柔和な笑顔と黒のロングヘアーの女性は親父の再婚相手である美咲みさきさんだ。


 親父から再婚を考えていると話があった時に一度写真を見せてもらったけど、写真よりも実物の方が素敵というか綺麗だなと思った。


「はじめまして、四元雅紀といいます。七瀬さんとは同じクラスなんです」


 相変わらず、口をぱくぱくさせて言葉に詰まっている七瀬さんに代わって説明をした。それにしても、美咲さんとは初対面だけど、クラスメイトの前ではじめましてって言うの恥ずかし過ぎ。


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