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告白・パンツ・コロッケパン(後編)

 告白した男子と一緒に上階に行かないにしても百田先生の声がした下の階にわざわざ来るとは思っていなかった。


 俺の驚きとは裏腹に七瀬さんはとんとんというリズムで階段を降りてくる。


「ん? 百田先生ならもうどこかに行ったみたいだな」


「本当ですか? さっきのあれは四元君がやった百田先生のマネかと思ったのですが」


 すっとぼけようかと思ったけれど、七瀬さんにはバレているようだ。きっと、以前に教室で百田先生のものまねを友人に見せた時にたまたま見ていたのだろう。そう思うとかなり恥ずかしい。


 七瀬さんは階段を降りると、なぜかそのままグラウンドを眺めている俺の横に並んだ。


「七瀬さんに見破られるようじゃ、まだまだだな」


「かなり似ていたと思いますが、本物の百田先生はあそこまで巻き舌な感じじゃないですから」


「今度からは修正しとくよ」


「でも、四元君のおかげで助かりました。ありがとうございます」


 七瀬さんは丁寧にお辞儀をしながらお礼を言う。俺は彼女のその姿を横目でちらりと見て小さく頷いた。


「それにしても、告白されるっていうのも大変だな。あんな風になかなか諦めてくれなくて話を強引に進めようとする奴がいると」


「さっきみたいな人はほとんどいません。ただ、いつもお断りをするというのは大変と言いますか悪い気がしています」


「それなら、誰かと付合ったらいいんじゃないか。七瀬さんが告白すればたいていはOKしてくれると思うし。それか次に告白してきた人と付合えば告白してくるやからはいなくなるんじゃないか」


「世の中そんなに単純ではないのです。それに私だってお付合いするにあたって相手が誰でもいいというわけではありませんから」


 並んでいる七瀬さんがちらちらとこっちを見ている気がするが、できるなら今はそれをやめて欲しい。


「ところで、四元君はどうしてさっきから目頭を押さえながら俯いているのですか」


 七瀬さんは無自覚だと思うけど、追い詰めるように俺の方を見つめてくる。


 どうして、俺がそんな風に思っているかといえば、さっき階段を降りてくる七瀬さんのスカートがふわりとして、偶然ではあるが、彼女の絶対領域のその先にある水色の下着が見えてしまったからだ。


 見てしまった直後に七瀬さんの顔を見て普通に話すなんてことは俺には難易度が高すぎてできない。


「こうやって心を落ち着かせて精神の休息をとっているんだ。休憩時間だから身体も心も休めないといけないからね」


 嘘はついていないが俺の瞼の裏にはしっかりとさっきの光景が焼き付いている。


 できるならしばらく一人でいて心を落ち着かせたいと思っているのに七瀬さんはそれを許してくれない。


 邪険に追い払うわけにもいかず困っていると、隣から可愛らしくもはっきりと聞き取れる大きさでお腹が鳴る音が聞こえた。


「まだ、昼ごはん食べてないのか?」


 なるべく目を合わさないようにしながら問い掛けると、頬を紅潮させてお腹を両手で抑えた七瀬さんは小さくコクリとしてから口を開いた。


「話したいことがあるからと呼び出されていたので、まだ食べていないです。今日はお弁当も持って来ていないので、これから購買部に行ってパンでも買おうかと思っていたところです」


 それを聞いた俺は足元に置いていたビニール袋を手に取るとそれを七瀬さんの方に差し出した。


「ちょっとパンを買い過ぎたから。コロッケパンしか残ってないけど食べていいよ」


 今から購買部に行ったところで、ほとんどのパンは売り切れているだろう。もしかしたら、完売になっているかもしれない。


 あんな奴の告白のために呼び出されて、貴重な休憩時間を消費して、まともなご飯も食べられないのはかわいそうだなと思った。それにパンツを見てしまったことについて申し訳ないという気持ちもあった。


「そ、そんな悪いです。それは四元君のお昼ご飯です」


「ううん、俺はもう別のパンを二つ食べたから大丈夫。それにこれ総菜パンだから早く食べないと悪くなりそうだし、七瀬さんが食べてくれればちょうどいいから」


「わかりました。ありがとうございます。でも、パンのお代はちゃんと払いますね」


 七瀬さんはポケットから小銭入れを取り出してコロッケパンの値段を聞いてきたけど、それについて答えなかった。ここでお代をもらっては、パンツを見てしまったことへの贖罪にならない。もちろん、コロッケパンの代金程度で償えるものでもないと思っているけれどさ。


「俺が勝手に買い過ぎて、それを七瀬さんにあげるだけだからお金はいいよ」


「そうは言っても悪い気がします。今度何かお礼をしますね」


「本当に気を使わなくていいから」


 パンの入った袋を渡した俺は再びぼんやりとグラウンドを見つめて心を空っぽにしようとした。


「このパンとても美味しいですね」


 教室に戻って食べるものだと思っていたのに七瀬さんはどうしてかここでコロッケパンを食べ始めていた。


 そして、にこりと笑った顔に思わずドキリとしてしまう。


 ほんと、その笑顔で告白してOKしない男子なんているのかな。


 七瀬さんの笑顔とパンツがしばらく俺の頭から離れそうにないと思って、小さく鼻でため息をついた。


「ほんと、こういうところなんですよね」


 七瀬さんが小さく呟いた声は心地よい風に流されて俺には届かなかった。


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