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八本目 第一関門

 書類を提出したオレは、即座に振り返った。

 ナイフを抜き放つのも忘れない。

 眼前には既に得物を持ったデカブツたちが迫っていた。


 ――小賢しい雑魚が考えつきそうなことだ。

 参加書類を提出して安心したところを攻撃、さっさと脱落させる。

 集まっている人数のわりに受付が早く回ってきたのもこのせいだ。

 とっくに受付を終えたヤツらが、新しく受付にきた弱そうなヤツを潰すためにたむろしていたのだ。


 斬り掛かってきた獣人の剣を天使の羽根のナイフ(エンジェルフェザー)で受け流す。

 刃同士が擦れ合い、軽く火花が飛ぶ。


「ほぅ! まぐれでも運のいいヤツ!」


 獣人はその軽い身のこなしで斬り掛かった勢いを殺さず、地面を滑るようにして下からの斬撃に移行する。

 オレは迷わず斬り上げる刃を踏み付けて止めた。刃は先程の天使の羽根のナイフ(エンジェルフェザー)との接触で使い物にならなくなっている。

 驚きと焦りで硬直する獣人の顔面に水球を叩き付けた。


「もがっ!」


 予想外の攻撃だったのか、獣人は仰反る。

 仰け反った獣人ごと薙ぎ払うように、今度は細身のトカゲ男が死角からの攻撃を試みる。

 オレは小柄な体格を生かし、薙ぎ払いをしゃがんでかわす。

 即座にトカゲ男の足の甲を目掛けて、竜滅石(リュウメツセキ)のナイフを振り下ろす。ナイフは足をやすやすと貫通し、地面まで突き刺さる。


「いぎっ!?」


 トカゲ男は痛みから逃れるように後退した。

 当然、ナイフで固定されていた足は裂ける。


「ぎぃやぁぁぁあああ!」


 トカゲ男は痛みのあまりのたうち回った。


「おい、オマエら」


 この期に及んでまだ奇襲を仕掛けようと気色ばむ連中を睨み付けた。

 驚くべきことにコイツらは、先ほどの一連の流れは偶然だと思っているらしい。

 なぜかニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべて各々武器を構える。


「面倒くせぇ! 全員一度にかかってきやがれ!!」


 オレの怒声を開始の合図にして、そこからは乱闘騒ぎだった。

 振り下ろされた大斧を天使の羽根のナイフ(エンジェルフェザー)で両断し、突っ込んでくる竜人族は竜滅石(リュウメツセキ)のナイフで斬りつけ、魔法にはこちらも魔法で対抗し、それはもう混乱を極めた。

 ここは魔界、不意打ちのような姑息な方法だって正義だ。最後まで生き残っていれば、の話だが。


「全員失せろぉぉぉ! 《濁流(タビッドカレント)》!!!!!」


 轟音と共に大量の水を生成する。

 不規則な流れを生じながら、襲いかかってくるヤツらを飲み込み威力を強めていく。

 水圧は壁を破壊し、飲み込まれた者たちごと部屋の外へと押し流した。


 後に残ったのはぐちゃぐちゃになった受付窓口と、攻撃が当たらないように気を遣っていた受付嬢とルーシーだけだった。


「あ、あはは。お兄さん強いんだね」


 受付嬢は乾いた笑い声をあげていた。


「アイツら全員魔王決定戦の参加者ってことでいいんだよな」


 念のため、受付嬢に確認する。

 もっとも、今さら確認したところでどうしようもないのだが。


「うん……はい、大丈夫ですよ。そうじゃなきゃこんなとこにいないと思いますし」


 ここの受付嬢は適当に笑って誤魔化した。


「じゃあ問題はないな。おい、ルーシー。帰りにアイスでも……」


 受付嬢の近くにいるであろうルーシーに視線を向ける。

 そこには本日二度目となる地面に臥したルーシーの姿があった。


「またかよ、ルーシー!」


 今度は心配なんてしないぞ。

 オレはルーシーを抱き起こしてペシペシとほおを叩いた。


「う、うーん……。またあれだ……。妙な……魔力」


 ルーシーはふらつくのかこめかみを抑えながら、ぼそぼそとつぶやいた。

 ……コイツ本当はどんな魔力でもこうなるんじゃないか?


「でも、エルドラド……様はいなかったぞ」


 咄嗟で受付嬢の存在を思い出し、敬称をつける。

 当然ながら、あんなに目立つ巨体はあの場にはいなかった。

 仮にあの場にいたとしたら、周りのヤツらが気が付かないはずがない。


「人が多すぎて誰の魔力なのかはちっともわからなかった……。ただ例の魔力とよく似ていた」


 似ていた? 違うものだっていうのか?

 ということは、エルドラド以外にも神属性の魔力を持つ者がいるってことか?

 オレは聞きたいことがたくさん脳裏に浮かんだが、それらは一旦飲み込んだ。


「……ツレが気分悪いみたいなんで帰る。魔王決定戦の連絡、頼むぞ」


「は、はい……」


 ぽかんと呆けている受付嬢を残して、オレはルーシーを抱きかかえて受付窓口(跡地)を去った。

 しばらく行ったところでイビィを呼び出す。


「ルーシーが倒れた」


「またですか!? 厄介ですねぇ、そこらに捨てていきます?」


「馬鹿言え。大切な神素材の供給源だぞ」


「聞こえておるぞ、馬鹿どもめ」


 ルーシーは怒りでプルプルと震えながら呻く。


「馬鹿はオマエだ。だからついてくるなと言ったのに」


「いやだ。グレンばかりが楽しそうなのは癪に触る」


 別段楽しそうにしていたわけではないんだけどな。

 ルーシーは不貞腐れたのか、抱きかかえられたまま少々無茶な姿勢でそっぽを向いた。


「はぁ……。また工房に帰るのか」


 今日一日で何度工房とギルドホールを行き来する羽目になるんだ?


「いや、いい。大丈夫だ」


 ルーシーはオレを押し退けるようにして地面に降り立った。

 機嫌でも損ねたのか? オレはギリギリ手が届かない距離まで逃れたルーシーを見た。


「アイス……と言ったな! それはおそらく食べ物、そうだろう! それを食おう! 早く! 早くしろ、グレン!!」


 なにがどうなったのか、そこには楽しみが堪えきれずにぴょんぴょんと飛び跳ねるルーシーの姿があった。

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