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六本目 神の属性

「ルーシー!?」


 オレは倒れているルーシーに駆け寄った。

 肩に手を置くと大きく上下に揺れている。苦しいのか肩で息をしていた。


「イビィ! 工房に繋げ!」


 イビィはすぐに現れた。


「ハイです、御主人!」


 イビィはほとんどノーモーションで空間に歪みを作り出す。工房に繋がったのを確認する間もなく、オレはルーシーを抱えて飛び込んだ。


「オイ、ルーシー、なにがあった!? 大丈夫か!?」


 強く揺さぶると、ルーシーは目を開けた。とろんとした目付きから、意識がはっきりしていないのがわかる。


「……ま」


「ま?」


「禍々しい魔力……耐えられない……」


 ルーシーはつぶやいた。

 禍々しい魔力? 思い当たるものはひとつしかない。

 エルドラドの魔力だ。

 しかしなぜ? 天使ってそんなに脆いものなのか?


「ふ、ふふふ……不思議そうな顔をしているな。私のような神属性は、魔属性に弱い……! もっとも、大抵の魔力なら、魔属性でも跳ね返せる。だが、奴の魔力は質が違った……!」


「意外と元気だな、オマエ」


 あの場を離れたせいか、ルーシーは途端に饒舌になった。まだ苦しそうではあるものの、それほど重症そうには見えない。


「私は治癒魔法が得意でな。元凶が近くにないなら、この程度のダメージ、すぐに回復できる……!」


 そう言いながら、ルーシーはみるみる元気になっていった。

 なんだろう、よかったんだけど納得いかない。オレの心配を返せ。


「それにしても、ふふっ。グレン、貴様相当焦っていたな。やはり私のこの美貌に惚れたか?」


 ルーシーは腹立たしいことにセクシーポーズを決めながら言った。


「馬鹿言うなよ。オレはまだ羽根くらいしか素材をもらってないのに死なれちゃ困ると焦っただけだ」


「随分とこころない照れ隠しだな」


 精一杯の嫌味も、ルーシーにはノーダメージだった。

 くそ、本当に腹立たしい。助けるんじゃなかった。


「それにしても……あの爬虫類ヅラの男、実に異質な魔力だ」


 すっかり元気になったルーシーは、うーむと考え込むそぶりを見せた。


「たしかに強大な魔力かもしれないが……」


「いや、異質だ。明らかに質が違う」


 ルーシーは言い切った。


「魔力に属性があるのは知っているな?」


 もちろん知っている。

 例えばオレの魔力は水属性。水を操ったり生み出したり、水にまつわる魔法が得意だ。

 他の属性が使えないわけではないが、魔力の属性を変換する変換魔法(コンバート)を使う必要があるので、発動に時間がかかったり、使える魔力量が限られたりで、使い勝手は良くない。

 エルドラドはハッチの扉を溶かしていたことから、おそらく炎属性だろう。


「エルドラドは炎属性に見えたが、別に珍しい属性でもない。一体何が異質なんだ?」


「うむ……。()()()炎属性ではない……というべきか。グレンは意識していないようだが、炎や水といった自然属性の他に、魔力には神属性・魔属性がある」


 ああ、さっき神属性と魔属性の魔力がどうとか言っていたな。


「これは私の憶測だが、貴様ら魔族はデフォルトで魔属性を持っているため、意識していないのだろう。そして神属性は私のような天使や神しか持たない」


 ルーシーは一度言葉を切った。

 どうやらオレが理解するだけの時間をくれたらしい。

 たしかに、武器や防具には魔属性や神属性が存在するが、魔力については聞いたことがないな。

 ルーシーの言う通り、わざわざ言うまでもなく、魔族の魔力には魔属性が含まれているから、そういう話は削ぎ落とされていったのかもしれない。

 神や天使の魔力には神属性が含まれているというのもなんとなくわかる。

 だからこそ、天使であるルーシーの体の一部を使うことで、神属性が武器に付与できるんだろう。

 話の整理がついたオレはうなずいた。


「あの爬虫類ヅラの男は、その神や天使しか持ち得ない神属性を持っていた」


 ルーシーは信じられないと言いたげだった。


「炎属性と魔属性と神属性……それらが渾然一体となった魔力。魔属性だけなら跳ね返せる。だが、神属性も含まれるとなると、私の体はその魔力を吸収してしまう」


 ルーシーはがっくりと肩を落とした。


「なんでエルドラドが神属性なんて……」


 オレが問うと、ルーシーはわからないと首を振った。

 ――そもそもドラゴニュート一族は神属性を持っているものなのかもしれない。

 オレはそう思うことで無理やり納得した。


「まぁともかく、オマエとエルドラドは相性が悪いんだろうな……」


 もし今後ギルドホールに行くことがあっても、ルーシーは置いて行ったほうがいいかもしれないな。

 ふと、自分の手に握られている金属製の札に気が付く。


「やべ、換金してない」


 またギルドホールに向かわなくては。

 オレが出かけようとすると、ルーシーに服の裾を掴まれた。


「……ギルドホールに行くんだけど」


「私も連れて行け」


「いやいや、さっき倒れたばっかだろ。留守番してろ」


「行く」


 強情だ。

 いやこうなることはわかっていたのだが。

 オレは少し考える。

 ルーシーはエルドラドの魔力に当てられると倒れてしまう。

 だが、ギルドホールに行ったところでエルドラドに会うことは稀だろう。


「また倒れても知らないぞ」


「倒れない」


 いったいその自信はどこからくるんだ。……なにを言ってもダメそうだ。


「……イビィ、ギルドホールに繋げてくれ」


「合点承知です。御主人」


 オレは諦めてルーシーを連れていくことにした。

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