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五本目 賞金首の対価

 小さなハッチから巨体が捻り出される。

 先刻倒した竜人族と比べて、すべてのスケールが圧倒的に上回っていた。

 体のサイズも、ツノの数もその立派さも、鱗の輝きだって段違いだ。

 顔付きはドラゴンそのもので、左右に張り出したエラのような鱗も、この前の竜人族とは比べ物にならないほど、豪華だった。

 全身が黄金に輝く鱗に覆われた出立ちは、名に恥じない威風堂々たるものだった。


「お目通り叶い光栄です、エルドラド様」


 ドッティアは大仰にお辞儀をした。


「お会いできて光栄です。エルドラド様」


 オレも頭を下げる。

 横目でルーシーを見るとふんぞり返っていたので、慌てて頭を掴んで下げさせる。


「うむ。苦しゅうない。そっちの小さいのが――ああ、どちらも小さいが――我輩の偽物を語る不届き者を成敗したのか。よいよい、褒めて遣わす」


 エルドラドは不愉快なくらい傲慢な言い草だった。不快指数なら、ルーシーを上回る。


「表を上げろ。許可する、名を名乗れ」


 急に顎を上に引き上げられるよう力が掛かった。

 オレは問答無用でお辞儀の体制から、若干上向きの直立の体勢にされた。

 エルドラドは人差し指を上に向け、ちょいと動かしたようだ。……なるほど魔法によるものか。


「グレン……グレン=グレアルシードと申します」


「ほぅ……」


 エルドラドは目を細めた。

 視界の端に口パクで「馬鹿者!」というドッティアが見えた。

 ファミリーネームを名乗ったことを咎められている。エルドラドの表情が変わった原因も、おそらくそれだ。


「グレアルシード。嫌な名だ」


 エルドラドはせせら笑った。

 一瞬名乗るべきではなかったかという考えがよぎったが、オレがこの名前を名乗るのは広く知れ渡らせるためだ。

 エルドラドのような権力者に伝わるなら、それに越したことはない。

 ――それにこの反応、まさか聞き覚えがあるのか?


「ふん……まぁよい。名は覚えたぞ」


 顎にかかっていた力から解放される。

 オレは思わず顎をさすった。


「質問に答えよ。くだんの者はドラゴニュートの名を騙り、なにをした?」


「……私が見た限りでは、脅して金品を巻き上げていました」


 エルドラドの金色の目に、真っ赤な光が宿る。

 怒りにより魔力が一時期に増幅されたのだろう。

 ただでさえデカい図体も、こころなしか膨張した。


「ドラゴニュートの名を騙ってそのような矮小なおこないを……」


 エルドラドは怒りの矛先をハッチへ向けた。

 叩き付けた拳が、鋼鉄製のハッチを破壊する。

 拳は熱を放っているのか、ハッチの扉は砂糖菓子のように溶けた。


「……ああ、取り乱してしまった。まぁこの苛立ちも、そこの者のおかげで解消されたというわけだ」


 ドラゴンじみた顔付きのせいで表情が読みにくいが、どうやら微笑んでいるようだ。

 ……感謝されていると受け取って大丈夫だろう。


「ありがたいお言葉です」


「ふふん、我輩は気分がいい。ひとつ望みを聞いてやろう。なにかあるだろう? 役職が欲しいとか領地が欲しいとか」


 よほど上機嫌なのか、エルドラドはあろうことか、オレの望みをひとつ叶えると言う。

 役職や領地、そんなものはいらない。オレは誰かの下につくのはまっぴらごめんだ。

 オレの望みは……。


「『グレアルシード』。この名を持つ者について、ご存知のことがあれば教えてください」


「ほぅ……。役職でも権力でもなく……? なぜ、我輩がその名を知っていると?」


 エルドラドの金色の瞳がギラリと光る。

 それは先程までの上機嫌な様子でもなければ、一目置いたような目でもない。

 あの竜人族に向ける不快感に、限りなく近かった。


「僭越ながら、先程名乗った際、なにか知っていらっしゃる様子でしたので」


「ふん……」


 鼻を鳴らし、エルドラドは冷たい視線をオレに向けた。


「興が削がれた。先程の話はなしだ」


 エルドラドは踵を返すと、先程自分が破壊したハッチを踏み越え、部屋を出て行ってしまった。

 足音が遠ざかっていく……。


「おっ……めぇ、馬鹿ッ!」


 エルドラドの足音が完全に聞こえなくなったところで、ドッティアはオレに掴みかかる勢いで言った。


「ああいうときはだな、要らなくても例に挙げたものを復唱しろ!! 結果帰っていったからよかったものを、一歩間違えれば打首だぞ!?」


 まぁ、たしかにドッティアの言う通りだ。

 しかし、名前ひとつであそこまで機嫌が悪くなるのは予想外だった。


「なんでもいいって言うし。大体知ってるようなんだし、役職や領地より良心的じゃないか?」


「人にはなぁ、どうしても触れられたくないものってのがあるんだ!」


「へぇ、じゃあドッティアにも?」


「話をややこしくするんじゃない」


 ドッティアはため息をついた。

 よくよく見ればシャツに汗染みができている。

 エルドラドの発する空気が変わった時に一番肝を冷やしたのはドッティアだったのかもしれない。


「ともかく、だ! 理由はわからんが、もう二度とオレの前でエルドラド様に『グレアルシード』のことを聞かんでくれ! 聞くならオマエひとりの時に聞け!」


「わかったよ……」


 ドッティアの気迫に押されるような形で、約束させられてしまった。

 まぁ、これほどまでにドッティアを怯えさせるなら、この話題は避けてやったほうがいいだろう。


「ほら、換金札だ。さっさと金もらって次の指名手配犯でも討ってこい」


 ドッティアは手のひらサイズの金属の板――換金札を投げて寄越すと、破壊されたハッチを跨いで奥に引っ込んでいってしまった。


「――行くか」


 エルドラドがいる間、大人しくしていたルーシーにアイスのひとつでも奢ってやろう。


「よし、行くぞ……ルーシー?」


 返事がないことに違和感を覚え、辺りを見回すと、ルーシーは地面に倒れていた。


「!? ルーシー!?」


 慌てて駆け寄る。

 いったいなにがあったっていうんだ!?

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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◾️改訂履歴

2022/04/27 誤字を修正しました。や役職→役職

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