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四本目 ギルドホール

 竜人族の死体の引き渡しのために、オレはギルドホールと呼ばれる建物に足を運んだ。役所、なんて呼ぶ人もいる。

 ギルドホールの役割のひとつに、依頼ごとを仲介するというものがある。今回のような指名手配の賞金首の換金も、そのひとつだ。


「ずいぶんと人が多いな」


 ルーシーはあたりをキョロキョロと見回して落ち着きがなかった。

 好奇心の赴くままにどこかに走っていってしまうことを危惧していたが、杞憂だったようだ。

 ルーシーは人の多さにビビっているらしく、落ち着きこそないがどこかに行ってしまうようなことはなかった。


「このくらいの人集りは普通だ」


「こんな数の生命体、一度に見たことない」


 ルーシーは真顔で言った。

 そうだったな。ルーシーが言うにはあの高原から一度も出たことがなく、誰かが入ってくることもなかったみたいだから、片手で数えられない人数はすべて"たくさん"になるだろう。


「……まぁいい。じゃあオレは換金に行く」


「私も行く。勝手な行動をするな」


「いや、なに目線なんだよ……」


 ともかく、ルーシーも換金についてくるそうなので、オレはイビィを従えて換金の窓口へ向かった。

 窓口には愛想のない受付嬢が座っていた。


「この手配書の男、持ってきたぜ」


 受付嬢は無言で手配書を受け取ると、窓口の横にあるハッチを開けた。

 この中で死体を確認して、一致していれば換金できる。

 オレは一言も言葉を発さない受付嬢を一瞥してから、ハッチをくぐった。


 ハッチの中は、真ん中にどんと机が置かれているだけの簡素な部屋。奥にはもう一つハッチがあって、そこから役人が出てきて手配書と自体を確認する流れだ。

 イビィも慣れたもので、机の上に竜人族の死体を吐き出す。

 しばらく待つと奥のハッチから白衣を着た初老のノームが出てきた。いつも世話になっているドッティアだ。


「お。相変わらず仕事が早いな」


「まぁな。今回は向こうから来てくれて楽だった」


 挨拶もそこそこに、ドッティアはイビィのねとねとの胃液が付くのも厭わず、竜人族の死体の検分を始めた。

 時折ドッティアの手元が青白い光を放つ。

 指名手配犯と同一人物かどうかを鑑定するための、同定魔法なるものがあるらしいのだが、それは企業秘密とのことで教えてはもらえなかった。


「……うん。間違いないな」


 ドッティアはうなずく。


「たしかに受け付けた。オマエの仕事ぶりには感心するよ、感心するが……」


 ドッティアはチラリとルーシーを盗み見た。


「ガールフレンドをこんなとこに連れてくるのは感心せんな」


「が、ガールフレンドじゃない!!」


 なんつーことを言うんだ、この老ノームは。


「なんだ、違うのか。オレはてっきり……」


 ドッティアはニヤニヤしながらオレをからかう。

 たしかにルーシーは顔こそ可愛いが、雌雄同体だし、なにより性格が傲慢すぎる。


「冗談でも言うな。ドッティアといえど許さん」


「ははは。まぁそう怒るな」


 ドッティアは笑い飛ばした。

 それからハッチ横の呼び鈴を鳴らす。

 しばらくするとハッチが開き、若い二人組のノームが車輪付きの担架を運んできた。

 慣れた手付きで自体を担架に乗せると、一礼してハッチから出て行く。


「受付嬢もそうだが、ここのヤツらは本当に愛想がないな」


「ん、まぁな。ドラゴニュート様に振りまく愛想以外、意味はないからな」


 このギルドホールはドラゴニュート一族によって運営されている。

 ここで働く者の大半は、そのドラゴニュート一族からのおこぼれを期待して働いている。

 魔界で人を集めて何かができる、というのは基本的にはそういうことだ。


「ドッティアが特別か」


「馬鹿言え。オレだってここ独自の魔法目当てだ」


 ドッティアは威張って言うが、それを公言していいのだろうか。


 オレとドッティアがそんなふうに雑談していると、奥のハッチがノックされた。

 ドッティアは振り返り、手短にどうぞと返事した。

 ハッチが開くと、そこには例の無愛想な若ノームがいた。なぜか大層悔しそうな表情を浮かべている。


「ドッティアさん。エルドラド=ドラゴニュート様がそちらの方にお会いしたいとのことで、こちらにいらっしゃるそうです」


「なに!?」


 ドッティアは思わず声をあげた。オレも同じ気持ちだった。

 エルドラドといえば、ドラゴニュート一族の次期当主だ。

 そんな人物がいったいなんの用があってオレに会いたいと言うんだ。


「エルドラド=ドラゴニュート様はすぐにこちらにいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないよう」


 若ノームはそれだけ伝えると、バタンとハッチを閉めた。

 普段はただただ無愛想だが、今は自分がエルドラドにお目通り叶わなかったことが悔しくて仕方ないらしく、苛立ち混じりの不愉快な対応だった。


「エルドラド様はこの指名手配犯にひどくお怒りだったらしいからな……」


 ドッティアは然りという様子で額を掻いた。


「ルーシー、オマエは絶対に一言も話すなよ!」


「なぜ?」


「エルドラドはやばいくらいの権力者だ。余計な一言で首が飛ぶ」


「なんだ、そういうことなら大丈夫だ。私ほど礼儀に通じた者はいない。完璧な受け答えをしてみようぞ」


「そういうとこだぞ。絶対に話すな」


 たったひとつの不安要素が大きすぎる。

 ちなみにイビィは早々に姿を消している。


「っく……。ルーシーのことは不安だが、もう時間がない……!」


 オレは腹を決めた。

 と、同時にハッチが音を立てて開いた。

 比較的小柄な種族であるノームが主に通行する小さめのハッチ、そこに体を無理矢理捻じ込ませながら入室してくる巨体。

 それこそが、エルドラド=ドラゴニュートだった。

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