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一本目 それゆけ魔界の武器職人

 魔界では、殴り合って生き残ったヤツが正義だ。


「オイ、チビ。誰に断って道歩いてンだぁ?」


 小さな体躯だろうが、どんなズルだろうが、最終的に生き残ったヤツが偉くてスゴい。


「オイオイ……シカトぶっこいてンじゃねぇぞ!」


 多種多様な種族が生きる魔界では、体が小さいだけで圧倒的に不利、圧倒的に弱者。


「ふざけンなよぉぉぉおおおてめぇぇぇえええ!!」


 イキり散らしながら殴りかかってくる竜人族のチンピラ。

 おいおい、オマエこそいいのかよ、()()()


「いッ!?」


 どうせ生まれ付きの頑丈な体に頼り切った戦い方しかしてなかったんだろ?

 硬い鱗に覆われた拳を貫かれるのはどんな気分だ?


「いっでぇぇぇえええええ!!!!!」


 ブッシャアアアッと馬鹿みたいな量の血飛沫を上げながら、竜人族はのけぞった。

 自慢の拳には黒い刀身のナイフが刺さっている。


「お、オレの鱗がこんな、こんなナイフごときでぇぇぇ!?」


()()()()()()()()()じゃない。そいつの刀身は竜滅石(リュウメツセキ)で出来ている。オマエみたいな竜人族には効果テキメンだ」


「こンの……! 武器頼りのチビが、語りやがって!!」


 テイルスイング。竜人族は全身が武器と言っても過言じゃない。

 空気が裂けんばかりの凄まじい轟音と共に、地面を削り取る一撃。地面が砕けた衝撃で、辺り一面が砂煙に覆われる。当たればひとたまりもない。


「ヘヘヘッ! ドラゴニュート様をシカトするからこんなことになるんだぜぇぇぇ!」


 ――だが、当たらなければどうということもない。

 考えなしに放たれた一撃は、砂煙という絶好の煙幕へと早変わりする。


「ドラゴニュートってのはもっと賢いと思ってたが……ナイフ、返してもらうぜ」


 ドラゴニュートを名乗るチンピラが返事をするよりも早く、拳に刺さったままのナイフを一気に肩口へとスライドさせる。

 咆哮のごとき叫び声が轟いたが、そのまま延長線上の首まで切り裂くと、それも収束していった。


「まったく、これだから身体ばかりデカくて頑丈なヤツは嫌いなんだ」


 オレは服に付いた砂埃を払い、うつ伏せに倒れた竜人族を蹴って仰向けにした。

 ポケットから手配書を取り出し、まじまじと見比べる。


「コイツに間違いないな」


 指名手配犯・ビルゲル=ドラゴニュート。罪状は『ドラゴニュートを騙ったこと』。


「大貴族サマの種族を騙るなんて、本当に馬鹿」


 指名手配に(こう)なることは火を見るより明らかだ。……いや、馬鹿すぎて火が見れなかったのかもしれないが。


「それにしてもデカい図体だな……おい、イビィ」


 倒すところまではいいが、コイツの言う通りチビなオレは、デカい荷物を運ぶような力はない。

 オレは付き人の名前を呼んだ。


「ハイです。御主人」


 空間を捻じるようにして亜空間を開きながら、付き人・イビィは現れた。

 黒い球体にこれまた暗い翼を生やし、猫の顔を貼り付けたような生物。

 可愛らしい外見とは裏腹に、体の約九十パーセントが胃袋という、とんでもな生き物だ。


「この竜人族を運んでくれ。換金する」


「合点承知です。御主人」


 オレの顔よりひとまわり小さいくらいだったイビィの体が、口を起点に十倍、いや二十倍くらいに巨大化する。

 そのまま竜人族をひと呑みにし、またシュルシュルと元のサイズに戻る。


「……おい、消化するなよ?」


 満足そうに舌舐めずりするイビィに、そう言わずにはいられなかった。


「しませんよ〜。コイツをそのまま食べるより、オカネに変えたほうがいっぱい食べられますもん」


「なんというか、見た目に似合わずしたたかだなぁ……」


「まっ、アクマですからね」


 イビィはゲップを一発かますと、オレの周りを飛び回った。


「いやぁしかし御主人は強いですね。自分の三倍はある竜人族を瞬く間に倒してしまうなんて」


「フン。おだてたって武器は作ってやらないぞ。これはオレだけの力だ」


「チッ」


 イビィは隠す様子もなく舌打ちする。

 コイツは自分で言っていた通り、狡賢いアクマだ。気を許すとすぐにつけいられる。


「あっそうだ。その竜人族、相当口が臭かったから、腹の中に竜涎香(リュウゼンコウ)があるかもな」


「じゃ、一旦工房に戻ります? 御主人」


 イビィは空間にねじれを生み出し、オレの工房へ空間を繋げる。


「気が利くな」


「ええそりゃあもう」


「武器は作らないけどな」


「チッ」


 空間のねじれを踏み越えて、オレは自分の工房に入った。程よい狭さとシンと冷えた空間。非常に落ち着く。

 イビィは鉄製の大きな作業台に先程の竜人族を吐き出した。ねとねとした粘液にまみれている。オレはイビィに冷ややかな視線を送る。


「スミマセン。胃袋なもので」


 イビィは悪びれる様子なく言った。

 オレはため息を吐いた。


「《(ウォーター)》」


 指先をくるくると回し、空気中の水分を集める。集めた水分を瞬時に増幅させ、樽一杯分の水を生成する。

 その水を自在に操り、竜人族にへばりついたねとねとを洗い流す。


「さて。お楽しみ……っと」


 オレは手を擦り合わせて舌舐めずりした。

 この瞬間が最高にワクワクする。


「《摘出(リムーバル)》」


 竜人族の体が白っぽく光る。その光は徐々に身体の中心付近に集まっていき、白く輝く球体が浮かび上がってくる。

 この魔法はオレが開発した特殊魔法だ。

 死体からめぼしい素材を集めて取り出すことができる。

 徐々に光が減衰していき――。


「……! これは!」

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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◾️登場人物簡易プロフィール

グレン=グレアルシード (男/外見年齢14才/142cm/35kg)


本作の主人公。

外見は黒髪短髪の小柄な少年だが、実年齢は百を超える。

多種多様な魔族の血が混ざり合った結果、膨大な魔力と高い魔法適正と引き換えに、非力で小柄な体躯となってしまった。

武器作成の才能があり、足りない力はオーダーメイドの武器で補っている。

実力は伴っているものの、若干横柄な性格をしていて、他者を見下す傾向がある。この傾向は、コンプレックスから体格に恵まれた者に対して特に顕著に現れる。


◾️改稿履歴

2022/04/10 魔法の名前を変更しました。(《解剖(アナトミー)》 →《摘出(リムーバル)》)


2022/04/15 後書きと登場人物簡易プロフィールを追加しました。

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