少女と幽霊
自分を幽霊と名乗る少女に出会ったのはどれくらい前のことだったろうか。
私が少女に名を問うと、彼女は 「名前はありません」 と答えた。
「名前がないから、幽霊なのです。」 そう言って少女は笑った。
「それでは行きましょう」 少女が言うので、私もついていく。
少女の足取りは軽く、まるで生きているかのようだった。
どこへ行くのか尋ねた私に、少女は足を止めずに振り向いて答えた。
「どこへでも行くことはできます。あなたの行きたい場所はどこですか?」
私はしばらく考え込んだ。
先程まで私はどこに行こうとしていたのだろう。ここはどこだろう、なぜ私はここにいるのだろう。
ただ立ち尽くす私は、少女のどこか優しさを感じさせる瞳を見つめるしかなかった。
「━━━へ行こうと思っていたのではないですか?」
解答を出したのは少女だった。
私はそこに行こうとしていたのだ、どうして忘れていたのだろう。こんなに重要な事を、私が存在するためのその意義を、忘れてはいけない事だったハズなのに。
「さようなら」
少女は消え、私は残された。少女には少女の目指す場所があるのだろう。私にそれがあるように。
ふと、空から白いものが落ちてきた。それらはあっという間に地表に消えていく。私はただひたすら立ち尽くすしかなかった。
これを私の名前にしよう。
そう思ったことで、私は幽霊ではなくなった。