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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
夏休みIの章 王都散策

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ネックレスの注文


 クィルガーとヴァレーリアの結婚式が終わり、クィルガー邸に戻って来て初めて三人揃っての夕食の時間になった。

 私は上機嫌でご飯をもぐもぐと食べている。

 

「嬉しそうだな、ディアナ」

「えへへ。だってようやく正式にヴァレーリアと家族になれたんですもん。嬉しいですよ」

 

 結婚式と同時に婚姻証明書が発行されて、私たち三人は親子として国に認められたのだ。なんというか、他人に「私たちは正真正銘親子です!」と宣言できるのは、思った以上に嬉しいことだった。

 

「それにしてもヴァレーリア、大丈夫ですか?」

 

 私はにこにこと笑っているヴァレーリアに問いかける。あまり食事に手をつけていないし、顔色もあまり良くないのだ。

 

「大丈夫よ。少し結婚式の疲れが出ただけ。ゆっくり休めばすぐに治るわ」

「一年かけて準備して来たからな。緊張が解けて疲れが出たんだろう。しばらくゆっくり過ごすといい」

 

 そう言ってクィルガーが隣のヴァレーリアの頬をするりと撫でる。

 

「でも本当に明日私がいなくていいの?」

 

 ヴァレーリアがそう言って眉を下げる。

 明日は私のネックレス作りをする予定になっている。本当はヴァレーリアと私で打ち合わせをする予定だったのだが、体調の悪い彼女に休みを取らせるために、急遽クィルガーと私で行うことになったのだ。

 

「そりゃクィルガーでは不安ですけど」

「おい」

「サモルがいるから大丈夫ですよ。私よりセンスありそうですし」

「そうね……でも迷った時は遠慮なく呼んでちょうだい。その方が私も安心だわ」

「わかりました」

「商人と会う時はそいつは部屋に置いておけよ」

 

 クィルガーがそう言って私の頭の上を指す。私の頭上ではパンムーが果物をもぐもぐと食べていた。私がエルフと公表して以来、パンムーも今まで以上に表に出て生活するようになった。結婚式は流石にお留守番させたが、それ以外は自由にさせている。

 そもそも体長が十五センチにも満たないので周りでウロチョロしていてもあまり気にならないのだ。

 

「パンムーどうする? 明日は部屋にいる? スカーフの中にいる?」

 

 と私が聞くと、パンムーはスカーフを尻尾でポンポンと叩いた。スカーフの中にいたいようだ。

 

「ああ、そういえばディアナ。結婚式で妙なことを聞いたんだが……」

「なんですか?」

「おまえ、学院でお披露目した劇の題材に、あの本使ったんだってな?」

「ングフッ」

 

 クィルガーの思わぬ言葉に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

 

「ゴホッゴホ……な、なんのことですか?」

「しらばっくれるな。黄の寮に入っている子どもを持つ親が言ってたんだよ。『子どもが絶賛していましたよ、お嬢様が披露した劇が素晴らしかったと。父親であるクィルガー様のあの本を題材にしたのもさすがですね』ってな」

 

 あああー! そりゃそこから情報漏れるよね! しまった!

 

「…………」

「ディアナ、こっちに来い」

「……はい」

 

 私は顔を引きつらせながらスゴスゴとテーブルを回り込んでクィルガーの横に座る。

 

「言いたいことはあるか?」

「すみませんでした」

 

 私が素直に謝ると、クィルガーはニッと笑って私の頭を思いっきりぐわしした。

 

「いだだだだだだだだだ‼」

「お、ま、え、は——! 俺には隠し事はしないんじゃなかったのか‼」

「ここ、これはちょっと例外ですよぅ! クラブメンバーを募集するためにはあれくらい面白いものじゃないとダメだったんです!」

「他にもあっただろうが!」

「ないですよ! 本当に面白い本だったんですから! おかげで学生にもめちゃくちゃ好評だったんですよ!」

 

 離された頭をさすりながら涙目でそう訴えると、ヴァレーリアがふふふと笑って言った。

 

「確かにあれは面白い物語よね」

「ヴァレーリア⁉」

 

 その言葉にクィルガーがギョッと目を見開いてヴァレーリアを見る。

 

「ヴァレーリアも読んだことあるんですか?」

「半年くらい前かしら? サモルが本屋で面白い本を買ったんだって言って持って来たのよ」

「な……っ」

 

 クィルガーがあまりの衝撃に言葉を失っている。そんなに嫌なのだろうか、自分の物語を読まれるのは。

 話を聞くと、ヴァレーリアは元々あまり本を読まないらしく、クィルガーの本のことは知らなかったそうだ。サモルも商売の情報収集が目的で本屋に行っていたため、ベストセラーの物語には目がいかなかったらしい。

 

「だからヴァレーリアたちは、クィルガーの正体を知らなかったんですね」

 

 ザガルディにいたころにその本を読んでいたら、クィルガーがアルタカシークの王宮騎士団の有名な騎士であると気付いていただろう。

 サモルが王都の本屋の店主とアリム家について話していたら「クィルガー様といえばこの本ですよ」とクィルガー物語を紹介されたそうだ。

 

「普段本を読まない私でも面白く読めたわよ」

「ですよね! 本当に面白いですよね、あの本!」

「やめろ……」

 

 盛り上がっている私とヴァレーリアの間でクィルガーが顔を顰めて唸っている。

 

「そうだ、あの物語で気になっていたことがあったんだけど……クィルガー、聞いていい?」

「なんだ? ヴァレーリア」

「結局助けた村長の娘さんからの求愛はなんで断ったの?」

「ゴフッ」

「物語には詳しくは書かれていなかったけれど……」

「そ、いや、俺は読んでないから知らないし、あの本は全部事実ってわけじゃないと思……」

「あら、じゃあ求愛はされなかったの?」

「……」

 

 クィルガーは口をへの字にして黙ってしまった。沈黙は肯定だよクィルガー。

 

「クィルガー」

 

 推し黙るクィルガーの肩に手を置いて、ヴァレーリアはその顔を覗き込む。

 

 ヴァレーリア、顔は笑ってるけど目が笑ってないよ! でも嫉妬するヴァレーリアも可愛い!

 

「ちゃんと教えてくれないと、私気になってさらに体調が悪くなってしまうかも」

「ぐ……っそれは……。あ、あとで言う」

「ええーここで言ってくださいよ。自分は貴族で相手が平民だったからっていう理由じゃないんですか? あ、ちなみに私の劇では『この国が恋人みたいなもんだから』って台詞にしましたけど」

「そんな恥ずかしいこと言うか!」

「じゃあなんて言ったんですか?」

「うるさい!」

 

 クィルガーは顔を赤くして、怒りながら目の前にある水を一気に飲んだ。結局私はその場で真相を教えてもらうことはできなかった。

 ちぇっクィルガーのケチ。

 

 

 翌日の午前中にサモルが細工職人を連れてやってきた。平民と会う時用の商談部屋に案内されて、クィルガーと一緒に二人から挨拶を受ける。

 この世界では対面する相手と明らかな身分差がある場合は座る高さを変えるのがしきたりだ。王の間のように床の位置自体を変えることもあるし、座る椅子やヤパンの高さを変えることもある。

 クィルガー邸の商談部屋ではヤパンの高さで表すパターンらしい。挨拶を終えて私とクィルガーが高めのヤパンに座り、テーブルの向かいのペラペラのヤパンにサモルと職人が座る。サモルはにこにことしているが、職人はかなり緊張しているようだ。私たちとは目を合わせず、ずっと下を向いている。

 

 まあエルフの私にびっくりしてるって言うのもあるんだろうけど

 

「ディアナ様、こちらの細工職人のガシュは愛想は良くありませんが、細工の腕は確かです。口がうまく商売慣れしているその辺の職人など相手にならないくらい、素晴らしいものを作ってくれます」

 

 サモルの説明に私はふんふんと頷く。寡黙で真面目な職人という感じなのだろう。腕一本でその道を極める頑固職人という雰囲気が出ている。

 ガシュはツンツンと立てた短い黒髪にねじり鉢巻のようなターバンを巻いていて、サモルの説明に恐縮している。

 

「先日ディアナ様のトカルから繊細な形のネックレスがご希望だと伺いましたので、ガシュに何パターンかデザイン図を描いてもらいました」

 

 サモルがそう言うと、後ろに控えていたイシュラルが数枚の紙をテーブルの上に広げた。

 

「わぁ! 素敵ですね!」

 

 紙には植物の蔦をモチーフにした細やかなネックレスのデザイン画が描かれていた。どれもこの頑固そうな職人が描いたとは思えないほど可愛らしく、美しいものだった。

 

「こちらが最も一般的な蔦のデザインで、こちらはアティルの花をモチーフにしたものです」

「こっちの三日月の透かしの中に蔦が絡まっているデザインも可愛いですね」

 

 私が気になったデザイン画を指すと、ガシュはバッと顔を上げてなにか言いたそうにしている。

 

「このデザインにはどのような意図あるのですか? ガシュさん」

「あ、その、サモルからディアナ様のお好きなものが劇や音出しの音だと聞いて考えたものです。三日月には『波動』や『響き合う』と言う意味があるので、響き合う三日月の中に『繁栄』を意味する蔦を絡ませてみたらどうかと……」

「『響き合う』……! すごい、とてもいいですねそれ!」

 

 まるで響き合う音楽が、この先繁栄していくという意味にも取れるではないか!

 

 サモルは私と目が合うとにっこりと笑って、「私もこのデザインが最もディアナ様にぴったりではないかと思いました」と頷く。

 

「クィルガー、どうですか? このデザイン」

「確かに、おまえにはピッタリだとは思う」

 

 となぜかクィルガーは呆れるように笑って答える。

 

「イシュラルはどう思う?」

「私はこちらのアティルの花のデザインも可愛らしくてディアナ様にピッタリだと思うのですけれど、でもこちらだと魔石とのバランスがいまいちですね……」

 

 イシュラルの言葉にガシュが頷く。

 

「ディアナ様の魔石は大きいので、他にも大きなモチーフがあるとどうしても難しくなります……」

「そうですよね。ディアナ様、こちらの三日月のデザインは少し幅がありますが、授業を受けられる際に邪魔にはなりませんか?」

「うーん……そうだね、服の上にマントを着るから、今の大きさだと少し邪魔になるかも。もう少し小さくできますか?」

「はいっできます!」

「ディアナ様、三日月部分の金属ももう少し細くしては?」

「そりゃその方が可愛いけど……」

 

 かなり繊細なものになってしまうが、できるのだろうか。

 

「もっと細くできます?」

「はい!」

 

 ガシュは即答した。サモルを見ると、「大丈夫」と頷いたので、それでお願いする。

 

「ディアナ、おまえの魔石を見せてやれ。魔石が収まる場所がちゃんと合わないと格好が悪いからな」

「ああ、そうですね」

 

 クィルガーに言われて私はゴソゴソと腰袋から魔石が包まれた布を取り出してテーブルに乗せる。布を開いて「どうぞ、測ってください」と言うとガシュは目を見開いて「いいのですか?」と聞いてきた。

 いいのですかもなにも実物を測らないと作れないではないかと思ったが、どうやら他の貴族は平民に魔石に触らせるなんてしないらしい。いつもおおよその大きさを聞いて作るんだそうだ。

 

「え……そんな感じで作って完成したあとにちゃんと魔石がはまるんですか?」

「魔石をはめるところには接着剤としてマギアコードがつけられるからな。多少大きさが合わなくてもくっつくことはくっつく。ただピッタリ合わずに隙間からマギアコードの灰色が見えるのはなんか嫌だろ? 他の貴族はそれより魔石を触らせることの方が嫌なようだが、俺にはよくわからん」

 

 クィルガーがそう言って自分の腕輪についている魔石をぽこっと外す。そしてまた腕輪に戻すとキュッと音がしてくっついた。

 

「あ、これってそういう仕組みだったんですか。マギアコードって接着剤になるんですね」

「そうだ。また授業で習うと思うが、マギアコードにはいろんな役割があるんだよ」

 

 ガシュは私たちの会話をポカーンとした表情で聞いていた。どうやらマギアコードのことも知らなかったらしい。貴族はとにかく魔石のことについて平民の前で喋らないんだそうだ。自分たちだけが知っているという優位性を感じたいがために。

 

「平民が知ったところで魔石は使えないんだから、秘密にする意味なんてないと思うけどな」

「……ゴホン、失礼ですがクィルガー様が変わっておられるのですよ」

 

 とクィルガーの後ろに控えていたカリムクが静かに言った。

 ガシュはそれから手袋をして私の魔石を慎重に測っていった。その間やることがないので私はサモルに縫製機のことを聞く。

 

「縫製機、ですか? ああ、それなら見たことがあります」

「本当に? あの、それってどんな機械なんですか? 早く服が縫えるんでしょうか」

「私が見たものは足で板を漕いでそれを動力に針を高速で動かすことができるというものでした。確かにすごい速さで縫っていましたよ」


 おおお! それはまさしく足踏みミシンではないか!

 

「それは高いですか?」

「まだ発明されたばかりで市場には出ていないので値段はわかりません。ディアナ様が買われるのですか?」

「おいディアナ、そんな話は聞いてないぞ」

「売られているのかはっきりわかった時点で聞こうと思ってたんですよ。そのぅ……クラブの予算もどれくらいつくのかわかりませんし……」

「演劇クラブに必要なのか?」

「そうです。役者が着る衣装を作るのに必要なんですよ。手縫いだと今いるメンバーだけでは間に合いませんから」

「衣装? 演劇クラブ?」

 

 私たちの会話を聞いてサモルがなにやらメモをとる。

 

「サモル、その縫製機ってのはすぐに買えるものなのか?」

「いつから売り出されるのか聞きに行かないと、はっきりとは……」

 

 本当に作られたばかりなんだね。うーん、どうしようかな……。

 

「というか、本当に使えそうなものなのかまずは確かめに行きたいですね……」

 

 と私が言うとクィルガーが眉をひそめてこちらを見やる。

 

「行くってどこに」

「その縫製機を作ってる工房、とかに?」

「馬鹿! おまえがほいほいといけるか!」

 

 確かに貴族になった今では貴族区域以外の場所に気軽には行けないし、テルヴァがどこにいるかわからない平民区域の中を私がウロウロするのは危険だ。

 

 でもクィルガーだって冒険者の格好してウロチョロしていたわけだし、服装を工夫すればいけないこともないと思うんだよね。

 

 と思っていると、サモルがニヤッと笑って言った。

 

「では縫製機の工房へ詳しく話を伺ってきましょう。色々と根回しできることもあると思うので」

 

 なにかを企んでいそうな笑みにクィルガーが嫌そうな顔をする。

 

「サモル……」

「クィルガー様にはまた改めてご相談に参ります」

 

 サモルはそう言って測定の終わったガシュを連れて帰って行った。

 

「……なにか手を回してくれるんでしょうか?」

「嫌な予感しかしねぇな」

「あれ、そういえばサモルはどこに帰ったんですか? 敷地内の使用人館ではないんですか?」

「おまえ知らないのか? サモルは三の月の半ばに市民権を買って商業地区で自分の店を出したんだ。今はそっちで暮らしてるぞ」

「ええ⁉ 聞いてませんけど? この家でのお仕事はどうなったんですか?」


 サモルはこの家にやってくる商人の真偽を確かめる仕事をしていたはずだ。

 

「どういう商人が怪しくて、どういう商人が信じられるのかは、半年くらいで大体トレルやトカルたちに教え込むことができたんだそうだ」

「はい、サモルからとても有意義なことを教えてもらいました」

 

 クィルガーの言葉にカリムクが頷く。

 

「父上の館の方の奴らにも同じように教えたそうだから、サモルはそれで貯まったお金で王都の市民権を買って独立したんだよ」

「そうだったんですか……。コモラはこちらにいるんですよね?」

「コモラも市民権を買ったが変わらずうちの厨房で働いてるぞ」

「へぇ……私が学院に行ってる間にいろいろと変わってるんですねぇ」

「……まあな」

「というか、私いまだにこの街のことなにも知らないんですけど」

「安心しろ。この夏休みの間におまえはたっぷり勉強する予定になっている」

「ええええ」

「もちろん護身術の時間もとってるからな。休んでる暇はないぞ」

「ええええええ!」

 

 自分が知らなかった予定を告げられて、私は淑女らしくない悲鳴をあげた。

 

 

 

 

クィルガーの本を劇にしたことがバレて

渾身のぐわしをくらいました。

久しぶりにサモルが出てきてなにやら画策してくれそうです。


次は 満開のアティル、です。


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