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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
夏休みIの章 王都散策

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ごちそうと社交


 染石の儀式が終わり、歓談の時間が始まった。たくさんの使用人によって席の前にローテーブルが並べられ、お酒と料理がどんどんと運ばれてくる。

 

 うわぁぁ美味しそう!

 

 主催者であるカラバッリが乾杯の挨拶をして、招待客たちが料理に手を伸ばす。私がチラリとターナを見ると、


「親族が食べられるのは今くらいしかないから、遠慮せず食べなさい」

 

 と言われたので、「いただきます」と心の中で言ってから、私は目の前にあるシャリクをお皿に取った。本当はサラダや前菜料理を最初に食べた方がいいのだろうけれど、この匂いは我慢できない。

 肉厚で茶色の照りのあるシャリクを串から外し、ナイフで一口サイズに切り分けたあと、パクリと口に運んだ。噛んだ瞬間肉汁がジュワッと溢れて甘めのタレと絡まって旨みが口一杯に広がる。

 

「んんんー! 美味しいです!」

 

 私は淑女らしく口の中でもぐもぐさせながらその味を堪能する。

 

 ああ、やっぱりお肉って最高。美味しい。幸せ。

 

 目を閉じてその幸せに浸っていると、横からクスクスと笑いながらターナが口を開く。

 

「本当にディアナは美味しそうに食べるわねぇ。見てるだけでこちらまで幸せな気持ちになるわ。ねぇあなた」

「よく食べるのはいいことだ」

 

 カラバッリも私を見てフッと笑いながらお酒に口をつけている。よく言われるけれど、私としては普通に美味しい料理を美味しくいただいているだけだ。でもそれだけでみんなが幸せな気持ちになるんだったらいいかなと思う。

 私はいつもより豪華なピラフや羊の肉を使ったミートパイ、蒸し餃子のようなものや太麺のスープパスタを次々とお皿に盛って食べていった。

 今日はお祝いなので未成年の私も少しだけお酒を出された。葡萄酒の他にもビールっぽいものやウイスキーらしきものもあったが、一番ジュースっぽい葡萄酒だけ飲んだ。

 

「ディアナは酒の方もいけそうだな」

「無理はしちゃだめよ」

 

 カラバッリとターナに見守られながらクピクピ飲んだが、全然平気そうだ。

 

「体が少し温かい気がしますけど、大丈夫ですよ」

 

 前世ではお酒を飲める年齢になる前に死んでしまったので、こちらの世界に来て初めてお酒というものを飲んだが、今まで気持ち悪くなったとか酔いすぎたという状態になったことはない。

 

 前から思ってたけどこのエルフの体って強いよね。体力はあるし、ご飯はたくさん食べられるし、お酒にも強い。恵麻の時はアレルギー体質で胃も弱かったからなんか得した気分だ。

 

 私はそのあともコモラの作った料理を探しつつ、食べて、食べて、食べまくった。

 

「そろそろお客様が動き出すわね」

 

 ターナの声にハッとして顔を上げると、料理をあらかた楽しんだ招待客の人たちがクィルガーとヴァレーリアに挨拶に行っていた。まずは近い親族から始まり、高位貴族、中位貴族の順番でお喋りするらしい。

 

「ディアナはそのまま食べていて大丈夫よ」

 

 と言われたが、なんとなく食べるスピードを落としてお客さんがやってくるのを待つ。ちなみに私が今食べているのはデザートのパクヴァだ。

 うん、これも美味しい。もぐもぐ。

 

「カラバッリ様、ターナ、この度はおめでとう」

 

 初めに私たちの元にやってきたのは柔和な笑みを浮かべたご婦人と、その夫らしき人だった。向かいの席にいた人たちだから親戚だろう。

 

「ありがとう、ユバーシュ。あなたはディアナに会うのは初めて?」

「ええ。去年のお披露目会にはいけませんでしたし、残念ながらディアナはうちの寮ではないから」

「ディアナ、こちらはユバーシュ。私のいとこで今は学院の緑の寮の寮長をしているのよ」

 

 え! 学院の関係者さん?

 

「初めまして、ディアナ」

「あ、初めまして! ユバーシュ様。えっと、緑の寮といえば……」

「うちの寮にはレンファイ様がいらっしゃいますよ」

「ああ、そうなんですね」

「レンファイ様は貴女のクラブに入るんですってね」

「はい」

「でしたら来年度は寮で会う機会もあるかもしれませんね」

「違う寮の私が別の寮に気軽に行っていいんでしょうか?」

「もちろん大丈夫よ」

「では学院で会えるのを楽しみにしています」

 

 私がそう言ってにこりと笑うと、ユバーシュも笑い返してくれた。それから二言三言カラバッリと話をして去っていく。

 

「優しそうな方ですね。うちの寮長さんとは大違いです」

「あらユバーシュは優しそうに見えて怒ったら怖いのよ。彼女も一級だから」

「えええ」

「ターナの家系は一級が多いからな」

 

 カラバッリがそう言って頷いている。

 

 一見穏やかそうに見えて実は怖いっていうのがおばあ様の血筋なのかな……。

 

 親戚の人との挨拶を終えて次にやってきたのはオリム先生と、カラバッリと同じ年代っぽいダンディなおじさま四人だった。カラバッリがその人たちを見た途端、嫌な顔をする。

 

「カラバッリ様、この度はおめでとうございます」

 

 おじさま方のうち、人当たりの良さそうな人が笑顔で挨拶する。

 

「……其方ら、今日まとめて来なくてもよかろう」

「いやぁオリム様が行かれる日にご一緒しないと、ゆっくりお話しすることもできなさそうだったので」

 

 その人はそう言ってチラリと私を見た。

 

 へ? 私?

 

「是非ともカラバッリ様の可愛がっているお孫さんを紹介していただきたく」

「すみませんカラバッリ様、彼らがディアナと話がしたいとうるさいもので」

 

 すまなそうな顔をしてオリム先生が謝ると、おじい様はため息を吐いて私のことを紹介した。

 

「……孫のディアナだ。ディアナ、こっちは以前国の執務の長官をしていた者たちだ。とっくに引退したジジイどもなのであまり相手にしなくてよい」

「え?」

「それはあんまりですよカラバッリ様!」

 

 人当たりのいいおじさまがそう嘆くと、そのおじさまを押しのけて暑苦しそうなおじさまが顔を出した。

 

「初めましてディアナ。私は元王国騎士団長のヒシヤトだ。おお、噂通りなんとも愛らしい娘さんだ。これからもよろしく」

「あ、ずるいですぞヒシヤト様。私は元地方執務長官のヤルギリと申します。現役中は国中を駆け回っていたのでいろんな話を知っています。興味があればお話ししましょう」

「え? え?」

 

 私が二人のおじさまの勢いに目を白黒させていると、後ろから落ち着いた雰囲気のおじさま二人が前の二人を押しのけて座った。

 

「お二人とも、若い娘さんを困らせてはいけませんよ。初めましてディアナ、私はクシュラサといいます。以前は国の執務をまとめる総執務長をしていました。騒がせてすまないね。私たちはアルスラン様が認めた貴女のことを、一目見たいと思っていただけなのですよ」

「……前に行政執務長官をやっていたアサビだ。以後よろしく」

「あ、はい……ディアナです。よろしくお願いします」

 

 私は戸惑いながら四人のおじさまに挨拶をする。よくわからないけれど、私がエルフということを気にしていない様子でぐいぐいくるおじさま方にびっくりする。

 

「元長官ということは、おじい様とずっと一緒に働いていた方達ということですか?」

「そうだ。我々は先代の王の時代からともに城に仕えていた」

 

 カラバッリはそう言って少し寂しそうな顔をする。それを不思議に思っていると、ターナがふふっと笑って口を開く。

 

「この方達はとても優秀で、先代の王を立派に支えていらしたのよ。みなさま、孫のディアナをよろしくお願いしますね」

「なんと嬉しいことを言ってくださるのだターナ様。我らが臣下として王に仕えるのは当たり前のこと。執務から引退したとはいえ現王のアルスラン様にも忠義を誓っております。そのアルスラン様が魔石使いとして認めたディアナを我々も見守っていきたいと思っていますよ」

 

 人当たりのいいヤルギリがそう言ってニカリと笑う。

 

「ディアナは成績も優秀ですし、演劇クラブという今までにない風を学院に吹かそうとしています。私も副学院長としてディアナの活躍を楽しみにしています」

 

 オリム先生もにこにことそう言ってくれるので、私はなんだか嬉しくなってきた。私がエルフと知ってもこうして快く迎えてくれる高位貴族の人たちがいることに胸が熱くなる。

 

「オリム先生……ありがとうございます。私、魔石使いとしてこの国に貢献できるように頑張ります」

 

 私がそう言ってにこりと笑うと、それを見たおじさま方がなぜか「うっ」と言って胸を押さえた。

 

「なんと可愛らしい」

「こんな可愛い孫ができるとは」

「羨ましいですぞ、カラバッリ様」

「……ずるいですな」

「……其方ら、もういいだろう。他の招待客もいるのだ。さっさと行け」

 

 おじさま方からジトッとした目で見られたカラバッリは、鬱陶しそうにしっしと手を振る。おじさま方は悔しそうに「学院で会えるオリム様も羨ましい」と文句を言いながら去っていった。

 

「あの方達は去年のお披露目会にはいらしてないですよね? 私が忘れているだけでしょうか」

「お披露目会に招いたお客様は現役で働いている方に限定しましたからね。どうやら去年からディアナに会いたくて仕方なかったようですよ。彼らはカラバッリ様と本当に仲が良かったですから」

「仲良くはない」

 

 ターナの説明にムスッとした顔でカラバッリが答える。その言い方がクィルガーそっくりだ。

 それからは予想通り私のことを探ろうとする人や、クィルガーに第二夫人を勧めようとする人たちがきたけれど、全部ターナが対処してくれた。

 

「いくらカラバッリ様でも、エルフを家族として受け入れるなんて難しいのではないですか?」

「あら、私たちはディアナをエルフとしてではなく、とても可愛い孫として迎え入れたのです。難しいことなんて一つもありませんわ」

「去年のお披露目会から我々を騙していたなんて、高位貴族としてどうなのでしょう?」

「エルフであることを公にしないと指示されたのはアルスラン様ですよ。あなたは王の判断が間違っていたと仰るのかしら?」

「アリム家のためにはもっと若くて高位の嫁が必要ではないのかね?」

「ヴァレーリアはとてもよくできたお嫁さんよ。それに若い高位貴族の嫁が来ても、あまりに未熟な娘ですと私も困りますわ」

「しかし夫人が一人だけというのも……」

「あら、カラバッリ様は私しか娶りませんでしたが、それでは不十分だったと仰るのかしら?」

 

 すごい。おばあ様が笑顔で無双している。あまりに鮮やかに相手を言い負かすので私が怒る暇もない。おじい様は口を挟まずとりあえず相手を睨んでいる。それだけでも十分怖いけど。

 でもこれと同じようなことをクィルガーとヴァレーリアも言われてるってことだよね? 大丈夫かな二人とも。

 

 そう思って右側の台の上にいる二人を見ると、ヴァレーリアはにこやかに相手をしているが、クィルガーは明らかに作り笑いで対応していた。額にうっすら青筋が浮かんでるのが見える。

 

「おばあ様、クィルガーは大丈夫でしょうか? 笑顔でキレそうな顔してますけど」

「相変わらず顔を作るのが下手ねぇ。大丈夫よ、社交の時に怒らないように小さなころから躾けているから。それよりもヴァレーリアの方が心配ね」

「え?」

「先ほどから飲み物に手をつけていないんじゃないかしら。少し休憩させましょう」

 

 ターナはそう言うと自分のトカルに合図を出す。するとそのトカルがスススッとヴァレーリアに近付いて耳打ちをした。ヴァレーリアはそれを聞いて頷くと、クィルガーとお客さんに断って席を離れ、大広間の控室に向かった。

 

「花嫁はああやって式の途中で何度か中座して、スカーフを新しいものに変えるの。休憩も兼ねてね」

「なるほど」

 

 こちらの結婚式は三日間行われる。その間中ずっと客の相手をしているのも疲れるので、何度も休憩時間が取られるらしい。招待客もこの三日間でいろんな家の結婚式に行かなくてはならないので、長居する人もそんなにおらず、挨拶をしたらすぐに帰る人が大半なんだそうだ。

 

 ここには踊りや音楽がないから余興みたいなのがないし、基本的に食べて飲んで話して帰るって感じなんだろうな。

 

 それからデザートを食べ終えて食後のお茶を飲んでいると、意外な人が現れた。

 

「カラバッリ様、ターナ様、おめでとうございます」

「まぁバイヌス様、お久しぶりですね」


 仏頂面のバイヌス先生が一人でやって来て、二人に挨拶をしている。

 

 こういう華やかな行事は嫌いそうなのに、意外だ。

 

 そんな私の心を読んだのか、片眉を上げてバイヌス先生が言った。

 

「お二人には以前世話になったのでな。少し挨拶に来ただけだ」

「そうなのですか……」

「バイヌス様は一級授業でディアナを教えてらっしゃるのですよね? 授業でのディアナはどうです?」

 

 ターナの質問にバイヌス先生が眉を寄せる。

 

「……ディアナは優秀ですよ。力も強いですし覚えも早い。ただ力を抑える訓練はこれからさらに必要になるでしょう」

 

 う……痛いところを突いてくる。

 

「まぁ、ではディアナの力はそれほどまでに強いということなのですね。バイヌス様、これからもディアナを導いてあげてください」

「……教師としてできる限りのことはしましょう」

 

 先生はそれだけ言って去っていってしまった。本当に少し挨拶に寄っただけだったようだ。

 

「バイヌス先生とお知り合いだったんですね」

「バイヌスの家は優秀な一級の人間をよく輩出する家なのだが、変わった者が多くてな。ある時他の貴族の反感を買って王都から追放されそうになったのだ。たまたまそれを知った我々が少し手を貸して助けたというだけだ」

 

 変わった者が多いっていうのはなんとなくわかるね……。

 

 カラバッリの話を聞いて頷いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「この度はおめでとうございます。久しぶりだね、お嬢ちゃん」

「あ、エンギルさん。お久しぶりです」

 

 すでにほろ酔い気味のエンギルと、シムディアクラブの顧問であるアサン先生が一緒にやってきた。

 

「エンギル、いつの間にディアナと会ったんだい?」

「彼女が国境の関所に来た時にね。あの時から怪しいなと俺は思っていたよ」

「え、そうなんですか?」

「クィルガーのことを呼び捨てにしていたしね。ただの平民の子ではないなと思ってた」

 

 あ、やっぱりバレてたんだ。

 

「お二人はお知り合いなんですか?」

「アサンは別の国でフラフラしていたところをクィルガーに誘われて、四年前からうちの学院の先生になったんだが、俺たちはみんな同い年だから気が合ってね。俺が王都に顔を出すときによく飲む仲間なんだ」

「エンギル、気が合うなんて言ったらクィルガーが怒るよ。それにクィルガーが結婚したんだから、これまでより飲む機会は減るんじゃないか?」

「それを言うなよ! 独身が俺だけになってこれでも焦ってるんだ」

「まぁ、ようやくエンギルも結婚する気になったの? あれだけ自分は結婚はしないと言っていたのに」

「ターナ様、私が結婚しないのはたくさんいる素敵な女性から、たった一人を選ぶということができないからです。この人だと即決できる人に出会うことができれば今すぐにでも結婚しますよ」


 キリッとした顔で言っているが内容は結構最低だ。「あらまぁ」とターナは笑っているし、カラバッリは「お前のような男に嫁ぐ女性が可哀想だから一生独身でいろ」とまで言っている。

 

「アサン先生はご結婚されていたんですね。女子生徒にとても人気があるので独身なのかと思ってました」

「なに? お前学院でそんなにモテてるのか⁉」

「ははは、先生方の中でも俺は若い方だからね。珍しいのもあるんじゃないかな」

 

 いや、絶対顔がイケメンだからだと思うよ。

 

「お前……嫌なやつだな」

「エンギルも早く結婚するといい。家に愛する人がいるというのはいいものだよ」

「うぐっ」

 

 アサン先生にいい笑顔で返されて、エンギルがなんとも言えない顔になった。

 

 そのあとは中位貴族のお客さんが挨拶に来たが、アリム家より明らかに地位が低いので、さっきのように面と向かって嫌なことを言ってくる人はいなかった。

 お客さんの相手をしつつ美味しものを摘んでいる間に夜になり、未成年の私は大広間から下がることになった。主要な人との挨拶は終わったので明日明後日は私は出なくていいらしい。

 しかし人がいないクィルガー邸に戻るのは危険なので、結婚式が終わるまで私はカラバッリ邸に泊まることになった。

 

 嫌な人はおばあ様が退治してくれたし、ごちそうは美味しかったし、面白い人とも会えたから思った以上に楽しかったな。

 でもやっぱり結婚式に音楽は必要だね。それだけが惜しいよ。

 

 

 

 

意地悪な人たちはおばあ様が無双しました。

社交で出会った人たちはこれから先もディアナと関わっていくことになります。


次は ネックレスの注文、です。

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