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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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魔石配布と終業式


 演劇クラブのメンバーが集まった次の日、学年末テストの結果を踏まえた成績の上位者が発表された。中間テストの時と同じように談話室に紙が貼り出され、私たちはそれを見に行く。

 談話室に入ると、私の姿を見た生徒たちが一瞬目を見開いて道を開ける。

 

 なんか……珍獣みたいだね、私。

 

 それまでは「没落貴族なのに高位貴族の養子になった変わった子」という感じだったのが「王に保護されている特殊なエルフ」という視線に変わっている。

 

 まぁ仕方ないよね。いきなりこんな耳の長い種族が現れたら戸惑うだろうし。

 居心地はよくないけど、これにも慣れないと。

 

 紙の前まで来るとハンカルが眉を上げた。

 

「なんとか今回は目標を達成できたみたいだな」

 

 一年生の欄を見ると、同率一位で私とハンカルの名前が書いてあった。

 

「よかったぁぁ、これで正式に演劇クラブができるよ」

「ここひと月ほど頑張ってたもんな、ディアナは」

「ハンカルが勉強見てくれたおかげだよ」

「演劇クラブへの執念のおかげだと思うが」

「……一位同士の話にはついていけないな、ファリシュタ」

「ふふふ、次元が違いすぎるから逆に面白いけど」

 

 隣でラクスが「自分が前より成績上がっててもディアナとハンカルを見てたら全然喜べない」と言っていた。どうやらラクスもファリシュタも中間より成績が上がったらしい。

 

「今年は演劇クラブの設立がかかってたから必死に頑張ったけど、来年からはもう少しのんびりやるよ」

「そうなのか?」

「もうあんな詰め込んで勉強するのは嫌だよ」

「ライバルが減るのは寂しいな」

「だから勝手にライバルにしないでってば」

 

 そんなことを言い合いながら他の上位者も見てみると、やはり五年生の一位はイバン王子とレンファイ王女だった。

 

 あの二人はなんか当然のように一位にいるね。

 

 でも前に王子が言っていた言葉を思い出す。あの二人は裏では相当な努力を重ねているらしい。大国の王子と王女という立場は本当に大変そうだ。

 

「あっケヴィンがいる! あいつ成績優秀なんだな」

 

 ラクスの指差す方を見ると、三年生の六位にケヴィンの名前があった。

 

「ほんとだ」

「すごいね」

「本人は五位以上を狙っていたから悔しがっていたけどね」

 

 その声に振り向くと、イバン王子のもう一人のお付きであるアードルフが立っていた。どうやら王子に代わって成績表を見にきたらしい。言われて初めて気付いたがアードルフの名前も五年生の五位にある。

 

「やっぱり王族の側近は優秀じゃないといけないんですか?」

「主に恥をかかせてはいけないからな。ディアナは今回も一位か……ハンカルも。これはイバン様に報告しておこう」

 

 アードルフはそう言って行ってしまった。

 

「……あ、ヤティリの名前もあるよ」

 

 ファリシュタがそう言って一年生の欄を見ている。顔を寄せてよく見ると十位にヤティリの名前があった。

 

「三級なのに上位者の中に入るなんて……ヤティリってすごいんだね」

 

 ファリシュタが感動して目を瞬かせている。成績は階級関係なく評価されるが、子どものころからの教育の差や魔石使いとしての素質の差で、上位者には一級や二級の人が多いのだ。その中で十位に入ったヤティリは相当優秀ってことになる。

 実はさっきから人だかりの中にヤティリがいるのだが、ここで私が話しかけると目立ってしまう。そういうのは嫌がりそうなタイプなので私は心の中でヤティリを褒め称えた。

 

 成績表を見終わって人混みから抜けると、少し先にティエラルダ王女の姿が見えた。王女は私の姿に気付くと全力で目を逸らし、顔を引き攣らせて談話室を出ていった。

 

 完全に避けられてるね。

 

 今回のことで一番態度が変わったのは彼女だ。今までは「なんか気に食わない他国の高位貴族」だったのが「口にするのも憚る禁忌の存在」に変わったらしい。王様や私が言った「新しいエルフ」という単語は彼女には届かなかったようだ。まるで恐ろしい魔獣を見るかのような目で私を見るようになった。

 

「ディアナ、あまり気にするな」

「大丈夫だよハンカル。ただ全く絡まれなくなるのも寂しいなぁと思っただけ」

「……ディアナは本当に変わってるよな」

 

 ラクスに思いっきり呆れられて、私は苦笑した。

 

 自分でもこんな気持ちになるとは思わなかったよ。

 

 

 

 成績発表のあとには、一年生に自分用の魔石が授与される。各階級の授業の時に使われる教室で渡されるので、私とハンカルは大講堂に向かった。

 

 一級の一年生って八人しかいないから小教室で十分だと思うけど……。

 

 大講堂にその八人が集まり、奥の扉からバイヌス先生がいつも通り靴を鳴らして歩いてきた。先生は私をチラリと見たが、不機嫌そうな顔はそのままだ。

 

「この一年を通して魔石学をきちんと学んだ証として、其方ら専用の魔石を贈る。一級の魔石は他のものと違い、かなり貴重なものとなっている。そのような魔石を用意してくださった学院長に感謝するように」

 

 生徒たちは真剣な表情で頷く。

 そもそも一級の大きさの魔石は貴重で高品質なものなので値段もかなり高いらしい。一人に四つの魔石を用意しなくてはいけないので毎年準備するのも大変そうだ。

 一人一人名前が呼ばれて、魔石の入った上等そうな箱が手渡されていく。


「ディアナ」

「はい」

 

 名前を呼ばれて先生の前に立つ。後ろにいる他の生徒が私の耳を見ているのがわかる。

 

「これからも励みなさい」

「ありがとうございます」

「昨日言ったことを違えぬように」

 

 昨日言ったこととは「魔石使いとしてこの国に貢献する」ということだろう。この魔石を渡すということは、エルフの私を魔石使いとして認めるということだ。

 

「……はい」

 

 バイヌス先生と目を合わせて、私はしっかりと頷いた。

 

「自分の魔石を持った一級の魔石使いとして、最初のテストだ。みな箱から赤の魔石を取り出し、上の鐘を鳴らしなさい」

 

 魔石の授与が終わると突然バイヌス先生が課題を出した。一年生たちはその言葉に驚きながらも自分の箱を開ける。

 

 おおー、これが私の魔石かぁ。

 

 蓋を開けると、中に長さ三センチほどの楕円形の魔石が四つ並んでいた。指紋一つついてない魔石は神秘的な輝きを放っている。私は赤の魔石を手に取って斜め上にかざす。

 

 綺麗だなぁ。

 家に帰ってからどんなネックレスにするか考えなきゃね。

 

 生徒たちが順番に赤い魔石を握って、上の鐘に向かって衝撃の魔石術を使っていく。シムディア大会で使われていたあの鐘を鳴らすのにどれくらいの力が必要なのか、私は他の子が鳴らす音を聞きながら考える。

 

 多分、最小の〇・五でいいんだよね?

 ていうかそれ以上小さくできないし……。

 

 力の一番大きい私が最後だ。マリアーラ王女が鳴らし終えるのを待って、私は前に出て赤の魔石を握った右手を上へ突き出す。

 

「『キジル』衝撃を」

 

 そう命じると赤い光が勢いよく飛び出して伸びていき、鐘にぶつかった。

 

 ジャァァァァン!

 

 と、予想以上に大きな音が鳴って自分でビクッとしてしまった。

 

 ぎゃあ! 最小でも大きすぎたみたい!

 

 思わず耳を塞いで失敗したという顔をしていると、後ろにいたバイヌス先生が、


「……おまえの来年の課題はこれだな」

 

 とポツリと呟いた。

 

 

 

 後日、卒業式が行われた。卒業式は希望者以外の在校生は参加しないので各々自由に過ごしている。あのキンキンとうるさいストルティーナ王女が卒業すると思っただけでも少しホッとする。

 

 その後の終業式は大講堂で行われた。この前の全校集会と同じように講堂のフィールド部分に生徒たちが並ぶ。そこで副学院長の挨拶があり、帰国についての日程が発表された。

 終業式の間もかなりの視線を浴びたが、私はいつも通りの態度で過ごした。こうやって注目された方がテルヴァが手を出しにくいのなら、それに越したことはない。

 終業式が終わって大講堂から出る時にイバン王子が話しかけてきた。「来年もよろしく」というような内容だったけれど、それを見た周りの生徒たちが驚いて私たちを見た。

 

 イバン様……わざとここで話しかけてくれたんだね。

 

 イバン王子が今までと変わらない態度で私と接しているのを見て「大国の王子もディアナを新しいエルフとして認めるのか」と他の生徒たちは思うだろう。その事実は生徒たちが各国に帰ったあと、その親たちに伝えられるはずだ。

 

 アルタカシークの王だけでなく、大国の王子も存在を認めたエルフ。

 

 来年度からはそんなふうに見られるのかもしれない。

 

「さすがだね……」

 

 イバン王子が去っていく背中を見つめながら、私は心の中で感謝した。

 

 

 終業式が終わればあとは部屋の荷物をまとめて、出発の早い国の人から王都内の国の館へ随時移っていく。もちろん使用人はいないので荷物をまとめるのも自分たちでしなくてはいけない。王族はお付きの学生がやってくれるが、その他の人は初めての荷造りに苦戦しているらしい。

 ちなみに私は出発がまだまだ先なので荷造りは全然していない。前世のころから旅行が好きで、パッキングはしょっ中やっていたので大丈夫だろう。

 私はコモラのクッキーの残りを食べながら、イリーナから渡された紙を確認していた。

 

「うーん、やっぱり衣装を作るって大変だよねぇ」

 

 その紙には衣装を作るのに必要な道具と材料が書かれていた。来年に向けて何を準備したらいいかイリーナに聞いていたのだ。この世界にはまだミシンがない。みんな手縫いで作っていくので時間もかかる。

 

「衣装係がイリーナだけじゃ絶対間に合わないよね。改めて衣装係を募集する? それともミシンを作っちゃう?」

 

 振り子時計があるってことは歯車はあるんだから、ミシンが作れないこともないと思うんだよねぇ。ただミシンの構造が全然わからないからお手上げなんだけど。

 

 と思っていたら、最後の一文に驚くべきことが書いてあった。

 

「噂では『縫製機』と呼ばれるものが最近発明されたらしい? もしかしたらアルタカシークの市場で出ているかもしれない、だって! 縫製機ってミシンと同じようなものかな? うわぁ、すでに出来ているなら欲しいな」

 

 これは帰ってサモルに聞こう。もしかしたらめちゃくちゃ高いかもしれないからクィルガーにも要相談だ。

 

 そして私たちの中では一番帰国まで時間がかかるラクスが出発する日になった。寮の玄関前までみんなで見送りに行く。

 

「道中気をつけてね、ラクス」

「おう、ファリシュタも元気でな」

「来年は違う部屋になることを願うよ」

「ひどいぞハンカル! ハンカルも山道大変そうだけど気をつけてな」

「ああ」

 

 みんなと挨拶を終えたラクスのマントを、私はちょいちょいと引っ張る。怪訝な顔をするラクスの耳元に顔を寄せて、私は小声で囁いた。

 

「ラクス、ラクスの国に伝わる踊りがあると思うから、それをたくさん覚えてきて」

「‼」

 

 ラクスの目が大きく開かれる。

 

「な……っなんで、それを?」

「見てればわかるよ。大丈夫、他の人には言わないから。私、その踊りを見てみたいんだ」

「……演劇のためか?」

「もちろんそうだよ。その踊りがいいものならアレンジして取り入れたいの」

「そんなことしていいのか? 踊りは禁忌だぞ?」

「大丈夫だよ。私、新しいエルフだから」

 

 私はそう言って胸を張った。新しいエルフが作る新しい踊りだから禁忌ではないのだ。

 

「なに話してるんだ?」

 

 私たちがコソコソ喋っているのを見てハンカルが近付いてきた。

 

「来年に向けてラクスに課題を提供したんだよ」

「課題?」

「あ、そうそう、二人にお願いしたいことがあるんだ。もし国に変わった音出しがあったら持ってきて欲しい。もちろんできればでいいから」

「音出しを?」

「今回劇で使ったやつの他にもいろんな音を出すものが欲しいんだよ」

 

 図書館の本にあったような変わった音出しもあるかもしれない。

 

「音出しか……俺の国には角笛があるが、他にもないか聞いてみるよ」

「俺の国にもあるからなんか持ってくる」

「ありがとう二人とも」

「……ディアナ、もしかして来年どんな劇をやるのかもう決めてるのか?」

「ふっふっふん。まぁね」

「え! そうなのか⁉」

「集まったメンバーを見た時になんとなく方向性は決めたよ。でもまだ来年までの秘密」

「来年というか四ヶ月後だけどな」

 

 ハンカルがそう言うと、ラクスも笑った。

 

「そう思うと結構すぐだな」

「じゃあ四ヶ月後に」

「おう!」

 

 ラクスが大きく手を振りながら去っていく。私たちもラクスの姿が見えなくなるまで手を振った。

 

 次の日にハンカルを見送る。ウヤトはアルタカシークに隣接しているが、標高の高い山々を越えていかなければならないので結構時間がかかるんだそうだ。

 

「山道気をつけてね、ハンカル」

「ああ、ファリシュタも無理せずに元気でな」

「また四ヶ月後にね。音出しもよろしく」

「ああ。ディアナもこれから大変だと思うが無茶はするなよ」


 ファリシュタには無理をするなと言って、私には無茶をするなと言うってどういうことなんだろ。


 ハンカルを見送って寮の中に引き返す。

 

「さてそろそろ荷物まとめようかな」

「え、ディアナまだまとめてなかったの?」

「大丈夫だよまだ時間あるし、これからやれば楽勝だよ。荷物まとめるのは得意なんだ」

「そうなんだ。私も得意だからすぐに終わっちゃった。ほらうちって農家だから」

 

 ファリシュタがそう言ってクスクス笑った。他の学生がいるところでこんなに堂々と平民のころの話をするのは初めてだ。私は驚いてファリシュタを見るが、彼女は「でも荷物を片付けたらやることがなくなっちゃって暇なんだよね」と笑っている。

 

 いつの間にかファリシュタがたくましくなってる……。

 

「ファリシュタ、なんかいい顔になったね」

「え? そう?」

「うん、声にも張りがあるし、いい感じだよ」

「本当に? ふふ、嬉しい」

 

 私たちは笑い合いながら階段を上った。

 

 

 

 

ディアナをどう受け止めるかは生徒それぞれ。

一番忌避感を露わにしたのはティエラルダでした。

終業式が終わってあとは帰るだけ。


次は王の孤独と帰宅、です。

一年生の章は次で完結。

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