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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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逆転の発想


「……一つよろしいですか? アルスラン様」

「なんだ?」

 

 今までずっと黙っていたソヤリが王様に向き直る。

 

「演劇クラブの活動をしないという道もあると思いますが。今まで通りの学生生活を送るだけでクィルガーと家族でいるという条件は満たせます。演劇クラブはまだ正式に決まったわけではありませんし、目立つ可能性の高い演劇クラブを作らないという選択肢もあるのでは?」

 

 ソヤリの言葉に私は「えっ」という声をあげた。


「まぁ確かに、演劇クラブをせずに静かに学生生活を送る方が安全ではあるな」

「ク、クィルガーまで……ちょっと待ってくださいよ、そんな……っ」

 

 私が二人の意見に慌てていると、王様が静かに言った。

 

「演劇クラブを作ることを選択肢に入れた理由はいくつかある。一つはもうすでに学院ではディアナの存在が目立っていること。成績で一位を取り、大国の王子と劇を披露し、二つの事件に巻き込まれているディアナが、この先一般学生に埋もれて過ごすことは難しいであろう」

 

 おおう……そう言われるとそうかも……。

 

「もう一つは目立たないことが身の安全に繋がるのかといえば、決してそうではないということだ」

「どういうことですか?」

 

 王様の言ってることがよくわからなくて質問する。

 

「目立たず過ごすことで一般的な学生からの敵意は減るだろうが、テルヴァの目からは決して逃げられぬ。むしろ目立たない方が奴らは動きやすくなる」

「えええ」

「今回のことでも分かったであろう、テルヴァは静かに誰にも気付かれずに策を巡らし忍び寄ってくる。目立たず過ごすより、たくさんの目が其方に向けられている方がいいのだ」

「……なるほど」

 

 王様の言葉にソヤリがそう言って頷く。

 

「それに、今回のことでわかったが、こちらの予想よりテルヴァの動きが早い」

 

 王様はそう言って眉根を寄せる。

 

「そうなんですか?」

「其方とクィルガーがテルヴァと接触したのは去年の四の月だ。其奴らをクィルガーが殲滅したあと、すぐに其方はアルタカシークにきた。アリム家の養子としてお披露目されたのが五の月の終わり。ということはテルヴァはそれから学院入学までの三ヶ月ほどの間に、アルタカシークの高位貴族に其方を攫う取引を持ち込み、準備したということになる」

 

 あ……そっか。考えてみたら確かにすごいね。

 

「そもそもテルヴァの集団を殲滅したのに、其方がアルタカシークに向かったという情報がどうやって奴らに伝わったのか」

 

 王様のその言葉にクィルガーがぐっと顔を顰める。

 

「私が奴らを殲滅した時に、森にまだテルヴァがいたということですか」

「おそらくそうであろう。テルヴァには二つの派閥がある。魔女の痕跡を調査するものたちと、魔石使いを狙うものたちだ」

 

 その説明に私はマルムたちのことを思い出す。

 

「テルヴァにも派閥が……じゃあザガルディで私を攫ったテルヴァは魔女の調査をしていた派閥ってことですか?」

「そうだ。そしてその派閥の動きをもう一方の派閥の者が監視していたのではないかと思う」

「その監視がディアナのことを自分の派閥に報告したのか……クソ、もっと注意を向けておけばよかった」

 

 王様の推測にクィルガーが悔しそうにそう呟いた。

 

「報告を受けたテルヴァの長は世界中に張り巡らせた情報網を使ってディアナがアルタカシークの貴族になったことを掴んだのであろう。そして学院に入ることを知り、其方を攫う計画を立てた。私もそこまでは可能性の一つとして考えてはいたが……」

 

 王様によると私を攫う計画を立てても、私がどの寮に入るのかは決まっていなかったし、協力貴族への根回しに時間がかかるため、一年生時にテルヴァが事を起こす可能性は低いと予想していたらしい。

 

「本格的に動き出すのは二年生になってからであろうと考えていたのだが、その予想に反して奴らの動きは早かった」

「……なぜそんなに早く動けたのでしょう?」

 

 私の問いに王様は少し目線を落として言った。

 

「可能性としては、学院の中にテルヴァに協力する者がすでに入り込んでいるということが考えられる」

「今回の高位貴族とは別に、ですか?」

「そうだ。……今回の事件でわかっていないことが一つだけある」

「?」

「其方を前庭に呼び出した手紙を部屋に入れた人物が誰なのかわかっておらぬ」

「捕まったバチカリク家の息子ではないんですか?」

「其方の部屋は女子区域の奥の方にある。男子生徒がそこに入ることはできぬし、その息子の供述によると手紙を其方の部屋に入れるのは他の者がやると父親から言われていたらしい」

「……じゃあその息子とは別にあの手紙を入れた人物がいるってことなんですね」

「そういうことだ。それが誰なのかは特定できておらぬ」

 

 ということは、私を狙うテルヴァの関係者が寮内にまだ潜伏してるってことだ。

 

「思った以上に学院の中も危険ってことですね。なにか策はないのでしょうか?」

「まずは其方に護衛をつけることだな」

「え、また騎士団の人についてもらうんですか?」

「いや、今度は学生の中から護衛の能力のある者をつけた方がよかろう」

「学生の護衛ですか?」

「その方が其方の周りで起こる怪しい動きを捉えやすい。人選に心当たりもある」

「はあ……」

 

 学生で護衛ができるってどんな人なんだろう。

 

「ただそれだけでは対テルヴァの策として不十分だ。他にも考えてはいるが……」

 

 王様はそう言ってまた一点を見つめ思考に沈んでいく。私もなにかいい案がないか考える。

 もし、自分が逆の立場だったらどうだろう。自分がテルヴァだとして、どんなことをされたら手が出しにくいと思うのか?

 

「……なるべく集団で行動するっていうのが一番有効そうですよね。今回も一人で行動したのがまずかったわけですし」

 

 ザガルディの街でテルヴァに攫われた時もトイレで一人になった時を狙われたのだ。一人にならないのが一番の対策な気がする。

 

「もちろんそれが一番いいが、問題は自室に一人でいる時だ。そこまでは護衛も入れぬからな」

「そうですね……相部屋だったらそんな心配いらないんですけど」

 

 エルフということがバレてしまうのでそれはできない。

 ううん、と私は腕を組む。なんせ私は隠し事が多い。エルフであることを隠してテルヴァから身を守るというのは想像以上に難しい。

 私は学生生活の中でエルフであることも、特級であることも、前世の記憶があることも隠さなければいけない状況にほとほと疲れていたことを思い出す。

 

 本当に、周りに言えないことが多すぎで頭がいっぱいいっぱいになるんだよね。

 

 そんな気持ちから私はポツリと、

 

「いっそのことエルフって言っちゃえたら楽なんですけど」

 

 と呟く。その瞬間クィルガーがクワッと目を見開いて怒鳴った。

 

「馬鹿! そんなことできるわけないだろ!」

「ですよねぇ……でもエルフって言っちゃえば相部屋になれるし、テルヴァから狙われているってことも言えるし、さっきアルスラン様が仰ってたみたいにたくさんの目が私に向けられることになりますし……」

 

 言い訳をするようにクィルガーに説明しているうちに、自分の案が意外といい対策であることに気付く。

 

 え、これって本当にいい案じゃない? テルヴァだって私がエルフだと公表するのは予想外だろうし。

 

 私はチラリと王様を見る。

 

「ダ、ダメでしょうか?」

「……」

 

 黙って考えている王様に代わってソヤリが口を開いた。

 

「ディアナ、それはアルスラン様がエルフという存在を肯定するという意味になるのですよ? それがどういうことかわかっていますか?」

「え?」

「エルフは魔女時代の代表的な存在です。それゆえ人間によって滅ぼされた。そんなエルフを学院で保護するということは、アルスラン様が過去の人間たちの過ちを認め、エルフの存在を肯定するということです。そんなことをしたら全ての魔石使いたちから反感を買います」

「ああ……そうですよね」

 

 エルフの存在を肯定するということは魔女時代を肯定するということだ。魔女の存在を消して発展してきた魔石時代の魔石使いにとっては許されないことだろう。

 

 自分のことばかりで王様の立場を全く考えてなかったね……。

 

「申し訳ありません……考えが足りませんでした」

 

 私がそう言うと王様は視線を上げ、私を静かに見つめる。

 

「……いや、それも一つの手かもしれぬ」

「え」

「⁉」

「アルスラン様⁉」

 

 ソヤリやクィルガーも王様の言葉に驚く。

 

「ディアナがエルフだと公表するのは危険です」

「わかっている。ディアナを昔のエルフとして表に出すわけではない」

「?」

 

 ソヤリが珍しく困惑の表情をしている。

 

「ディアナは魔石術を使えるエルフだ。そのような存在が今までいたか?」

「いえ」

「であれば、『魔石使いのエルフという新しい存在が生まれたのだ』と言えば、魔女時代を肯定したことにはならぬ」

「ディアナを魔女時代とは違う新しいエルフだと発表するということですか?」

「そうだ」

「あ、新しいエルフ……ですか? 私が?」

「事実、其方は体はエルフではあるが中身は違う世界の記憶持ちだ。昔のエルフとは違うではないか」

「そうですけど」

 

 おおお、なんかすごいことになってきたよ。

 

「其方が新しいエルフとして魔石信仰を支持する姿勢を見せれば、魔石使いたちは其方の存在を否定できぬ。そしてテルヴァのことをはっきりと敵であると公言することもできる」

「それは、テルヴァにとっては痛いでしょうね」

 

 ソヤリが冷静さを取り戻して相槌を打った。

 

「隠れて手に入れるつもりの存在が堂々と表に出るのだからな。クィルガー、其方はどう思う?」

 

 王様に問われてクィルガーが難しい顔をする。

 

「ディアナの身の安全を考えるとすぐに同意することはできません。どのような敵が現れるのか想定できませんから」

「そうか」

「ディアナはどう思うんだ?」

 

 クィルガーに聞かれて私はうーん、と考える。

 

「正直昔のエルフとして禁忌だなんだと言われることに辟易していたので、そのエルフとは違う存在として暮らせるのなら嬉しいです。ただそのことでクィルガーやおじい様たちが変な目で見られたら嫌だなとは思います」

「うちのことは心配いらない。そうなったらそうなったで、父上なんかは張り切っておまえのことを守ろうと動き出すさ」

「は、張り切らなくていいですよ」

「確かにカラバッリ様なら自ら威嚇して回りそうですね」

「ええっ」

「今回の事件を知ってバチカリク家に乗り込もうとしていたからな」

「おじい様⁉」

 

 ソヤリとクィルガーの言葉に驚いていると、王様がポツリと言った。

 

「カラバッリは相変わらずだな……」

 

 どうやらおじい様はここにいる三人が呆れるくらいの猛将だったらしい。

 

「ディアナがそう考えているなら最終的な判断はアルスラン様にお任せします。俺は家族としてディアナを精一杯守るだけですから」

「……わかった。これについては後日言い伝える」

「はっ」

「あとは今回の事件についての最終報告だな」

 

 王様はそう言って踵を返して部屋の中に戻っていく。腰を拳でトントンと叩きながら。

 

 え? もしかしてこの時間立ってただけで疲れちゃったの? 

 

 チラリとソヤリを見ると、珍しく眉間に皺を寄せている。どうやら彼は王様のこととなると感情が豊かになるらしい。これは発見だ。

 王様が部屋の中心まで戻っている間にクィルガーとソヤリが机を片付けた。私は再びクィルガーとともに出入り口前に跪く。

 元の位置に戻った王様が一枚の紙を読み上げる。王の間に拡声筒を通した声が響いた。

 

「ディアナを攫い、テルヴァに渡そうとしていたバチカリク家当主は毒により死亡。テルヴァの主導者及びディアナを実際にさらったテルヴァの者たちは館の中で自害。計画に協力したバチカリク家の長男は処刑。直接計画を知らされていなかった妻たちとその子どもらは王都より追放。バチカリク家は解散となり、その所有財産は一旦王宮預かりとなる」

 

 淡々と読み上げられる報告に背筋がピリッとなる。

 

 やっぱり処刑になったんだ……。

 

 テルヴァに唆されて有力な高位貴族が滅びる結果になった。自分たちの望みを叶えるためなら高位貴族をも簡単に手の内で転がすことができる。

 テルヴァの怖さを私は改めて思い知った。

 

「ディアナについてはこれまで通りクィルガーの娘として学院に通うことを許す。エルフの公表については熟考したのち伝える」

「はい」

「わかっていると思うが、今日ここで見たことは決して口にするな」

「はい」

 

 一段と低くなった声で言われ、私は大きく頷きながら返事をした。

 

「なにか他に質問はあるか?」

「……私はいつ学院に戻れますか?」

「ふむ。明日から戻ってもいいだろう。そろそろ学年末テストが行われるであろう?」

「え? あ」

「演劇クラブ設立の条件に変更はないからな」

 

 ええええ!

 

「私丸三日も授業に出てません!」

「この三日間については考慮するようオリムに伝えておこう」

 

 まずい、早く帰って勉強しなきゃ。今回の事件のことで勉強のことなんか頭からポーンと抜けてたよ!

 

「クィルガー、明日の朝、寮まで送ってやれ」

「はっ」

 

 王様との対面はそこで終わった。

 私とクィルガーは王の間をあとにして、再び箱に入って騎士棟まで戻る。

 騎士棟の療養室で降ろされて箱から出て私はうーん、と伸びをした。ずっと緊張し通しだったので体がバキバキだった。

 

「あいたたた」

「ディアナ?」

「緊張が解れた途端、頭が痛くなってきました」

「大丈夫か?」

「寝たら治ると思います」

 

 私はそう言ってクィルガーの腰にぎゅっと抱きついた。

 

「クィルガーとヴァレーリアとこれからも一緒にいれるんですね……」

「ああ、そうだな」

 

 クィルガーはフッと笑って私の肩をポンポンと叩く。

 

「よかった……本当によかったです」

「ああ。だが大変なのはこれからだぞ」

「ふっふっふん。二人がいれば大丈夫ですよ」

「馬鹿、能天気すぎだ」

 

 クィルガーがハァッとため息を吐く。

 

「ヴァレーリアにも報告してくださいね」

「もちろんだ。きっと泣いて喜ぶさ」

 

 

 その夜、私は久しぶりによく眠った。

 

 

 

 

ディアナにとって怒涛の三日間が終わりました。

明日から日常に戻ります。


次は再会と学年末テスト、です。

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