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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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示された道


「……ディアナ、顔に出過ぎだ」

 

 小声でそう言われてハッと我に返ると、クィルガーがこちらを振り返って呆れた顔になっていた。

 

「すみません……びっくりしちゃって……」

 

 私も小声でそう答える。もう一度ちゃんと部屋の奥を見ると、王様が座っているのはどうやら円形の部屋の中心で、魔法陣の中心でもあるらしい。

 こちらから見て手前、左、奥という並びでローテーブルがコの字に置いてあり、その囲いの中に王様が体を左に向けて座っていた。

 テーブルがあるのではっきり見えないが、分厚いヤパンの上に胡座をかいて座っているようだ。王様は手元の書類を読んでいる。

 

 遠いので顔はわからないけれど、頭に被った白いターバンが後頭部で結ばれていて、クィルガーのターバンのように四角い布が耳の後ろから背中まで垂れている。服も白っぽい生地に金色の刺繍が施されているように見えた。

 目の上までかかっているターバンの下から長い黒髪がその顔を隠すように伸びていた。

 王様は手元の書類を目の前のテーブルの上に置くと、私たちの方に顔を向けた。

 

「其方には聞きたいことがある」

 

 王様の声はやはり拡声筒を通した声のようだ。そのいつもの鋭い声に、私は下を向いて答える。

 

「はい」

「もう一つの記憶があるというのは本当か?」

「はい、本当です」

「どうして隠していた?」

「……説明しても信じてもらえないだろうと思っていましたし、エルフという存在であることがすでにマイナスなのに、そのような話をしてさらに不信感を持たれたくなかったのです。それを証明する手段も今までありませんでしたから」

「なるほど。私と其方が繋がったあの時の現象から、その方法を思いついたのか?」

「はい。あの時水面に映ったのはアルスラン様の見てるものでした。見ているものが映像として映るのなら、自分の中にある記憶ももしかしたら映るのではないかと思ったのです」

「なぜそのように考えられるのだ?」

「なぜ……ですか?」

「見ているものが映るというならば、繋がった者同士の視点を見ることができるということしか普通は思いつかぬ。頭の中にある記憶を見せられるとは考えないと思うが……」

「……そうですね……もしかしたら以前の世界でそういう映画を観ていたからかもしれません」

 

 王様に言われて初めて気付いたが、私がそう思いついたのは昔観たSFアニメ映画の影響かもしれない。

 

「映画とは?」

「ええと……演技しているところを特殊な機械で撮影、録画して、それを巨大なスクリーンに映して鑑賞するものなんですが……すみません、口ではうまく説明できません。見ていただいたらわかると思います」

 

 前の世界にあるものはここにはないものばかりだ。口で説明するのは無理がある。

 

「……そうだな。ソヤリ、準備を」

「はっ」

 

 王様がそういうと、ソヤリが廊下の壁際に置いてあった机を持ち上げ、私たちの方へ歩いてくる。クィルガーが立って場所を開けると、王の間の出入り口の前にその机を置いた。机の上にはすでに大きいお盆が用意されている。

 

「ディアナはこちらへ」

 

 ソヤリに促されて机の側に立つ。机を挟んだ正面には王の間の出入り口があって、奥にいる王様が立ち上がっているのが見えた。私のすぐ左側にクィルガーが、机の右側にソヤリが立つ。

 

「ここでお見せするんですか?」

「ええ、王の間に入ることはできませんから」

「……まぁ私が入るのを警戒するのはわかりますけど」

 

 だからってここまで王様に来てもらうのもどうなんだろう。

 

「入れないのは貴女だけではありません。この中には誰も入れないのです」

「え?」

「教えておいた方が良さそうですね」

 

 ソヤリはそう言って服の中から一枚の小さな紙を取り出した。私にくれた手紙用の紙だ。それを王の間に向かってヒュッと投げる。

 ひらりと舞いながら出入り口の方に向かった紙は、王の間の床に張り巡らされた魔法陣が放つ紫色の光に触れると、バチン! っという音とともに破裂した。

 

「ひゃっ!」

 

 紙が弾け飛んだ⁉

 

「このようになにかがこの魔法陣の中に入ろうとすると弾き返されるのです。紫の光に触れると怪我を負いますので気をつけてください」

「は、はい……」

 

 なんということだ……王の間には誰も入れないなんて。

 

「ア、アルスラン様はこちらには来れるのですよね?」

「……いえ、王はこの魔法陣から出ることはできません」

 

 ええええ⁉

 

「じゃあご飯とかどうするんですか? お風呂とか着替えは?」

「……最初に聞くことがそれですか」

 

 ソヤリが少し呆れたような声を出す。

 

「人間として生活する基本じゃないですか」

「自分が食いしん坊だからだろ」

「むぅ……そんなことないですよクィルガー」

「その辺は問題ないので心配はいりませんよ」

「なんの話をしているのだ其方らは……」

 

 さっきより小さく、そして直に聞こえる声がしてそちら視線を向けると、王様が本タワーの間から姿を現していた。

 

 ていうか本タワーが左右に分かれて道ができていってる⁉

 

 よく見ると王様が本タワーに向かって手をしっしっと振っている。まるで「どけ」と言われて本タワーが左右に避けるみたいだ。

 

 うわぁ……魔法みたい。

 

 それは自分がイメージする魔法の世界だった。王様の手先から黄色のキラキラが飛んで周りの本タワーが動いていく。

 その本タワーが避けた場所を王様がゆっくりと歩いてきた。

 

 ……わお……めちゃくちゃイケメンだ。

 

 ようやくその顔がわかる距離になって私は王様を改めて観察する。裾の長いゆったりとした白い上着を羽織り、その下は金の生地の服を袷にして紺色の帯で締めている。さらに下に着ている白い服の立襟が首元に見えていた。多分全部めちゃくちゃ高級な生地だ。

 長い黒髪がかかる肌は薄い褐色で、太くて黒い眉毛がキリッと入った彫りの深い顔をしていた。

 

 あ……目の色がヘーゼルだ。

 

 ヘーゼルアイは薄いグリーンから目の中心に向かって薄い茶色に変化していくとてもミステリアスな瞳で、私が好きな瞳の色だ。

 どことなくエキゾチックな雰囲気を持つ王様の顔は少しヴァレーリアと似ていた。

 

 ただめっちゃくちゃ顔色悪いね。それに痩せすぎてる気がする。

 

 王様は魔法陣の端っこまでくると、そこで足を止めた。

 

「アルスラン様、そこからこちらは見えますか?」

「ああ、問題ない」

 

 王の間はこちらより一段高くなっている、そこから目の前にある机を見下ろすようにして王様は腕を組んだ。結構背が高い。クィルガーより少し低いが百八十以上はありそうだ。

 

「ディアナ」

 

 クィルガーに言われて私はポケットから水流筒を出し、お盆の中にお水を流す。水が溜まると水流筒を止めて脇に置き、服の下からネックレスを取り出して、透明の魔石を指で摘んでお盆の中の水に浸した。準備完了だ。

 

「まずなにからお見せすればいいですか?」

「其方が生きていたという世界の街を」

「わかりました」

 

 私は頭に前世の光景を思い浮かべて「私の記憶を映して」と命じる。すると水面がパァッと光り、そこにビル群が映し出された。

 

「昨日見たのと違うぞ?」

 

 クィルガーが映像を見ながら言ってくる。

 

「これは私が住んでいた国の首都の街並みです。経済が発展した大きな街でした」

「首都とは?」

 

 王様が映像に視線を向けたまま聞いてくる。

 

「国の中心の街のことです。ここでいう王都のようなものですね。私の国は王が治めているわけではないので首都という呼び方になってます」

「王が治めていない?」

「国民が選挙というもので国の代表を決めるという制度だったのです」

「ほう、それは興味深い……。この巨大な建物は住居なのか?」

「住居もありますし、会社……ええと、ここでいう商人たちの仕事場が入っていたりもします」

「この中に商人が?」

 

 そう言われるとビルの中にこっちの商人が働いてる姿を想像しちゃうね。それによく考えてみたら会社員は商人とは違うか。

 

「私の国では貴族という身分はなくなっていて、国民はみんな平等で仕事に就いてお金を稼ぐというシステムだったんです。なので商人とは少し違うかもしれません」

 

 私はそう言ってビル群に通勤するスーツ姿の人たちを映す。

 

「みんな同じ服を着ているんだな。それに髪の毛が黒い」

 

 クィルガーの感想に私は苦笑する。

 

「同じ服に見えますけど細かいところは違うんですよ? ただ、面白みがないと言われればその通りですけど。あと私の国は黒や茶色の髪の人が多かったんです。他の国には金髪の人もいましたけど。この世界のように地毛が緑や紫色の人はいませんでした」

「そうなのか」

「其方が住んでいたのはここではないのか?」

「私の住んでいた場所は首都から少し離れた郊外の住宅街でした」

 

 王様に問われて、私はクィルガーたちにも見せた綺麗で明るい住宅街を映す。

 

「この道は私のお気に入りの散歩コースで、毎日よく歩いたんです」

 

 そこに車が通る。興味を惹いた王様に昨日と同じように車の説明をする。

 

「油で動く機械か……本当にこれは魔石術ではないのだな?」

「違います。この世界に魔石術のような不思議な力はありませんでしたから。ただ私も機械にそこまで詳しいわけじゃないので車の中の構造までは説明できないですけど」

「説明できないものに乗るのか?」

「ちゃんと動くのであれば問題ないですよ」

 

 私がそう言うと三人とも不思議そうな顔をした。

 

「それほど機械の数が多く、その構造は複雑なんです。この世界にある機械を全て説明できる人なんていませんよ」

「機械が発達した科学の国……か」

 

 王様がそう言って顎に手をやる。

 

「其方はこの国でなにをしていたのだ? 職業は?」

「学生だったので就職はまだしてませんでした」

 

 私は水面に学校の映像を映しながら日本の小学校から大学までの教育制度について説明する。

 

「大学……なるほど。かなり教育が熱心な国だったのだな」


 知識欲の塊である王様にとってはかなり惹かれる話だったみたいだ。


「私はエンタメ……娯楽のプロデュースの仕事をするのが夢でしたから、その仕事が盛んな外国に大学の途中で留学しました」

 

 そこで映像はアメリカのロサンゼルスの街に切り替わる。私が死ぬ直前に歩いていた街並みだ。

 

「でもこの街に来た直後、私は死にました」

 

 街中を歩いていた私の目の前に、強風に煽られた設置交換中だった立て看板がぶっ飛んできて、そのまま映像は真っ暗になった。

 

「……っ。ディアナ……今のが?」

 

 痛々しそうな顔をしてクィルガーが私に問う。

 

「前の世界の私の最後の記憶ですね。それでこのまま死ぬはずだったんですけど、なぜか目が覚めたら氷の中にいました」

 

 再び映像が切り替わり、氷の中のものになる。この世界で目覚めた時の映像だ。私は氷が溶けて落ちたところからパンムーと出会って歌うところまでを映す。

 

「視点がぐるぐる回るから気持ちが悪いな」

「歌って踊ってますからねぇ。とにかく私はいい声になったことに感動して思いっきりはしゃいでました」

 

 その後、大蛇が現れて逃げ惑い、そしてクィルガーが上部の穴から入ってくるところが映る。

 

「あ、クィルガーが来ましたよ」

「なるほど、これで俺の記憶と繋がるのか」

「あの時は本当に死ぬかと思いましたから、誰かが来てくれたことに心の底から安堵しましたよ」

 

 そして私はそこで一旦映像を止めた。

 

「私が前の世界にいた時からこの世界にやってきた時の映像をお見せしましたが……その、どうでしたか?」

 

 私の問いに、王様は腕を組んで顎に手をやったままじっと水面を見つめていた。

 

「……このような映像を、想像だけで作ることは不可能だな」

 

 そして私の方に視線を向ける。王様と目が合って体に緊張が走る。

 

「其方に前の人生の記憶があることを信じるしかなさそうだ」

 

 王様のその一言に体の力が少し抜けた。

 

「ありがとうございます」

「なぜエルフの体に生まれ変わったか心当たりは?」

「全くありません。むしろ生まれ変わるなら普通の人間に生まれたかったです」

「それは面接の時にも言っていたな」

 

 入試の時の面接の日に、ソヤリに「エルフについてどう感じているか」と聞かれてそう答えた気がする。

 

「……其方がこの世界で望むことは、家族とともにいることと、娯楽のプロデュースをすることだったか?」

「はい。そうです」

「プロデュースとはなんだ?」

 

 私はクィルガーとヴァレーリアに説明したのと同じようなことを王様とソヤリに伝える。

 

「娯楽というのはそんなに金になるのか?」

「なります。娯楽は人を集めますから、そこにはたくさんのお金が動くんです」

「ザガルディの闘技場みたいなものか」

 

 と、クィルガーがなにかを思い出しながら言う。

 

「ザガルディに闘技場があるんですか?」

「ああ、円形の闘技場で奴隷が魔物と戦ったり、腕に覚えのある戦士たちが戦い合う様子を入場料を払った客たちが観るんだ。勝ち続けて優勝すれば、奴隷は身分から解放されるし、戦士たちには多額の賞金が支払われる」

「お金の動きについてはそれと同じような感じですね。催し物をして、人を集めてお金をもらい、その資金でさらに事業を拡大していく。私はその事業の中で企画を立ち上げたり、周りに宣伝する仕事がしたいんです」

「それを演劇でするということか?」

 

 王様の問いに「はい」と頷く。

 

「演劇、そして音楽というジャンルは前の世界では人気の娯楽でした」

 

 私はそう言ってお盆の水面にとあるライブの映像を映す。

 

「これは?」

「野外フェスといって有名な音楽家たちが外に設置された舞台で演奏するイベントです」

 

 映像には舞台の上で歌を歌うバンドと、その前でもみくちゃになりながら盛り上がる観客の姿が映し出されている。上下に揺れる人々の熱狂した姿にクィルガーが少し引いている。

 

「頭がおかしくなったのか? ここにいる奴らは」

「これは音楽のリズムに乗って体を動かしてるんですよ。映像からは音が出ないので狂ってるようにしか見えませんけど」

 

 次に劇場の中を映す。満員の客席と音楽を奏でるオーケストラ、そして舞台の上で歌いながら演技をする役者の姿が映る。

 

「これは私が大好きなミュージカルの舞台です。ミュージカルというのは演劇と音楽を合わせたとても素晴らしい劇なんですよ」

 

 役者たちが歌い踊って、その感情を表現している。オーケストラの生の音も素晴らしくて私は泣きながらこの舞台を観たのだ。

 それを思い出して笑みが溢れる。

 

 ああ、本当にこれをもう一度観ることができたらいいのに……。

 

「……音楽は、そちらの世界では身近なものだったのだな」

 

 王様の言葉にコクリと頷く。

 

「音楽は本当に素晴らしいものなんです。聞いてるだけで幸せな気持ちになったり、気分を盛り上げたり……私は前の人生で小さなころから音楽の力に何度も助けられました。うまくいかなくて苦しい時もありましたけど、やっぱり音楽が好きという気持ちだけは変わらなかったです」

 

 私は顔を上げて王様を見つめる。

 

「この世界で音楽がダメなのはわかってます。だからその他の娯楽の中から演劇をまず作り替えたいと思ったんです」

「なるほど、それで演劇か……。そういえばさっき言っていた映画というのは?」

「は! 忘れてました。映画も素晴らしい娯楽なんですよ」

 

 私は好きだったアクション映画が上映されていた映画館の映像を映す。

 

「前の白い壁に映像が映ってますよね? これが映画です。ここは映画館といって映画を大きなスクリーンで観るための施設です」

「手前にいるは客か?」

「そうです、複数人で席に座って同じ映画を観るんです」

 

 前のスクリーンに有名なカーアクション映画の映像が流れる。

 

「この映像はどうなっているのだ?」

「カメラという機械を使っていろんな視点から人の演技を撮影して録画するんです。で、その録画した映像をまた違う機械で繋ぎ合わせて、一つの作品を作ります。一つ一つに物語があってとても面白いんですよ」

「車というやつがぶつかって大破しているが……これも演技なのか?」

 

 クィルガーがそう呟きながら食い入るように観ている。彼はアクション映画が大好きなタイプのようだ。

 

「そうですよ。全部この映画のために爆発させたり壊したりするんです。これを作るのにとてもお金がかかるんですよ」

「そうなのか……」

「これにも音はついているのか?」

「もちろんついてます。映画ができた初めのころは無音だったんですけど、私のいた時代はすごい録音機械と音響設備があったので、迫力のある音で映画を観ることができました」

 

 三人はそれから私の映し出す映画館の映像を黙って見ていた。

 しばらくして王様が口を開く。

 

「このような娯楽がその世界ではたくさんあったのか?」

「はい。大きな事業として動いているものはたくさんありました。私の生まれ育った国は平和な国でしたから、特に娯楽が盛んだったように思います」

「そうか……」

 

 私は一旦そこで映像を止めた。フッと光が消えた水面を、王様はじっと見つめながらなにかを考えている。

 彼がなにを考えているのかわからなくて心臓がドキドキしてきた。

 

「……其方からの情報は、私の考えが及ばぬものが多い。それはとても興味深いことだ。だが其方がこの世界に及ぼす影響も計り知れぬ」

「……そうですね」

 

 王様は胸の前で指を二本立てて私に見せる。

 

「其方に与えられる道は二つある。一つは昼に告げた通り城内の施設に入り、その存在を表舞台から消して暮らすこと。この道は孤独ではあるがクィルガーたちと面会するのは自由とする。それに其方の存在は完全に隠されるため、テルヴァから狙われる心配もない」

 

 そう言って指を一本折り曲げる。

 

「もう一つの道は今まで通りクィルガーの娘として学院に通い、演劇クラブを育てる道。こちらは其方の希望が全て叶えられるが、身の危険度はかなり高い。テルヴァという敵は常に付き纏うし、私からの監視もかなり厳しくなる。其方がなにか怪しい動きをした時点で私は其方を処分する。それに新しい娯楽を立ち上げるということがどんな敵を生むのか、そちらも考えねばならぬ」

 

 私の望む道が想像以上に険しいものだと私はそこでやっと自覚する。

 

「其方はどちらを選ぶ?」

 

 安全だけど孤独な道か。

 危険で困難が多いけど望みが叶う道か。

 

 私は少しだけ考えて、ふっと口元を緩めた。

 

「……アルスラン様、私は前の人生で自分の夢が叶わないまま死にました。でも、不思議と後悔はなかったんです」

 

 結果が出せないうちに死んだのは悲しかったけど、自分のやってきたことに後悔はなかった。

 

「だからこの世界でも後悔しない方を選びます」

 

 もし命を狙われてすぐに死んでも、夢が叶わなくても、やりたいことを追いかける人生を生きたい。

 

 私は横にいるクィルガーを見上げる。彼は私と目が合うと心配そうな顔を向けた。

 そんなクィルガーににこりと笑って、私は王様に告げた。

 

「それに、面会だけでは嫌です。私はクィルガーとヴァレーリアの側に家族としてずっといたいんです」

「ディアナ……」

 

 クィルガーがそう言って私の肩に手を置く。

 王様はそんな私たちを見て、少し目を細めた。

 

「そちらを選ぶのだな」

「はい」

 

 私は王様の目を正面から見つめて、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

ディアナの記憶を知って王様が示した道。

一番大事なものがはっきりしていたディアナは

迷いなく答えました。


次は逆転の発想、です。

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