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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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予感と怒り クィルガー視点


 日が落ち簡単な夕食を済ませたあと、王の間の入り口の前でソヤリからとある報告を受け、俺はぎゅっと眉を寄せた。

 

「カミラは関与していない、だと?」

 

 昼間にソヤリからディアナが報告し忘れていたシムディア大会での嫌がらせの件を聞いて「あの馬鹿!」とまた怒りを溜めていたのだが、それについてカミラに確認しに行っていたソヤリが、急ぎ足で王の間に帰ってきたのだ。

 

「ええ。シムディア大会でディアナに降ってきた剣については『知らない。シムディア大会には行ったけど騎士団が多かったのでなにもせずに帰ってきた』とカミラは言いました。嘘はついていないようです」

「カミラがやってないってことは……」

「……他にディアナを狙っている者がいるかもしれないということですね」

 

 ソヤリが無表情のまま言った言葉に、俺は息を呑む。と同時に背中から首にかけてピリッと痺れる感覚がした。

 

 嫌な予感がする。

 

 小さなころからたまにあるこの感覚は、俺の本能がなにかしらの危機を感じた時に起こる。

 ソヤリはそんな俺のことを一瞥すると、王の間の入り口の前まで進んで膝をついた。王の間の入り口には扉はなく、その先の部屋の奥にはアルスラン様が静かに座られている。

 

「どうやらディアナを狙う者がまだ別にいるようです。どうされますか? アルスラン様」

「……オリムとガラーブに警戒するよう連絡を。もちろん本人にもな」

「はっ」

「クィルガー、学院騎士団へ行き護衛をもう一度ディアナにつける指示を出せ」

「は!」

 

 アルスラン様の命令を聞いて俺は踵を返し、この建物の出口へ向かう。さっき感じた嫌な予感が自分の中でどんどん膨れ上がっていくのがわかって、足が自然と速くなる。

 建物の出口の扉を開けて外へ出ると、騎士が出入りする城壁の塔の方から学院騎士団の若い騎士が慌てた様子で走ってくるのが見えた。

 その騎士は俺の前まで来ると跪き、ゼェゼェと肩を揺らして言った。

 

「ク、クィルガー様! 寮長のガラーブから、ご息女のディアナ様が行方不明になったと連絡がありました! クィルガー様に学院まで来ていただくようにと……」

 

 俺はその言葉を最後まで聞かずに走り出した。「クィルガー様! お待ちください!」と後ろで報告に来た騎士が叫んでいるが、待てるわけがない。

 

 クソ! 行方不明だと⁉ ディアナになにがあった⁉

 

 俺は騎士専用の階段を一気に駆け下りながら通信の腕輪を起動させてソヤリに繋ぐ。ソヤリに事情を説明すると、俺の声を聞いていたアルスラン様がすぐに指示を出した。

 

『クィルガー、学院騎士団長と協力して学院をすぐに封鎖し、調査を始めろ。この件に関しては其方が現場の指揮を取れ。王宮騎士団の騎士を使ってもよい』

「は!」

 

 王宮から執務館を経て隣接している騎士棟へ飛び込む。

 

「クィルガー? どうした⁉」

 

 騎士棟の執務室の扉を開けた俺の様子を見て、中にいた王宮騎士団長が驚いた声をあげる。

 

「俺の娘が事件に巻き込まれた。王の命令で今すぐに動ける騎士を数人ほど連れて学院へ向かう。王宮の警備の代わりを手配してくれ」

「……! わかった。第五班の騎士なら動けるはずだ。連れて行け」

 

 俺の剣幕と王の命令という言葉を聞いて騎士団長が即座に対応する。

 

 五班の騎士たちに指示を出すと、数分後には騎士棟の前に数人の騎士と馬が準備された。騎士の中にはトグリとチャプの姿が見える。いつもと違って真剣な顔で俺の指示を聞いている。

 俺はジャスルに乗って学院へと走った。

 

 

 学院の正門を潜るとすぐに門が締められた。どうやら学院騎士団長がすでに学院の封鎖を命じていたらしい。

 校舎の横を回り込みながら寮の方へ向かう。

 

「クィルガー様! こちらです!」

 

 寮の前に着くと、学院騎士団の騎士が待っていた。ジャスルから降り、騎士に案内されて前庭の方へ歩いていく。

 

 寮の中じゃないのか?

 

 チラリと寮の方を振り返ると、玄関の扉は閉められているが、談話室の窓からたくさんの学生たちが外の様子を窺っているのが見えた。数人が俺や騎士たちを見てなにか言っている。

 前庭の中へ入っていくと、一本の大きな木の下に学院騎士団長のアントンを含む騎士数人とガラーブ、そしてファリシュタと学生二人がいるのが見えた。俺の姿を見た騎士たちがギョッとして道を開け、その場に跪く。

 俺はアントンとガラーブの前まで進んで口を開いた。

 

「ディアナが行方不明だと?」

「は!」


 俺の言葉にアントンが青ざめた顔で答える。それを見たガラーブがため息を吐いて俺の目を見る。

 

「クィルガー、落ち着け。殺気を放ちすぎだ」

「……これでも抑えている」

「若い騎士たちを怯えさせるな。ちゃんと説明するからその怒気を抑えろ。こっちには学生もいるんだぞ」

 

 相変わらずの騎士口調のガラーブの言葉に胸の中で渦巻いていたものが少しだけ落ち着く。チラリとガラーブの後方を見ると、ファリシュタが俺を見て明らかに怯えていた。

 

 ディアナの友達を怖がらせるわけにはいかないな。

 

 俺は目を閉じて深呼吸をする。

 

「落ち着いた。話を聞かせてくれ」

 

 ガラーブは俺の目を見て「さっきよりはマシだな」と言って頷いた。

 

「ディアナが夕食の時間になってもファリシュタの部屋に来なかったことが事の始まりだ。今までなんの理由もなくディアナが来ないということはなかったらしい」

 

 ガラーブから視線を向けられ、ファリシュタが怯えながらコクコクと頷く。

 

「それを不審に思ったファリシュタがディアナの部屋へ行き扉をノックしたが、中から返事はなかったそうだ」

「今日は夕食で俺たちと演劇クラブについて話をする約束をしていたので、困ったファリシュタが俺たちに相談しに来たんです」

 

 怯えて声が出せないファリシュタに代わって、隣にいた黒髪の男子生徒が説明を引き継ぐ。そいつともう一人の男子生徒はハンカルとラクスという名前で、ディアナとともに演劇クラブの活動をしていた仲間らしい。男というだけで気に食わないが今はそんなことを言っている場合じゃない。

 

「ディアナは約束を破ったことはないですし、演劇クラブの話をするというのに居ないっていうのはあり得ません。なので三人で寮長室に相談しに行ったんです」

「ハンカルたちからディアナのことを聞いてなんとなく嫌な予感がしたんだ。だからすぐに合鍵を持ってディアナの部屋に向かった。鍵を開けて入ると中には誰もいなかったが、机の上にこんな手紙があったんだ」

 

 ガラーブがそう言って俺に一枚の紙を渡す。そこには寮の前庭で待っているという内容が書かれていた。

 

「その手紙を読んで、急いでこのチカの木の下にやってきたんだが誰もいなかった。携帯灯で照らしながらその辺を探ったんだが特に争った形跡もなかった。しかしそこでファリシュタがある声を聞いたんだ」

「声?」

 

 ガラーブの説明を受けて俺はファリシュタへ視線を向ける。一瞬ビクッとしながら、ファリシュタはようやく口を開いた。

 

「そっちの木々の間から、パンムーの鳴き声が聞こえたんです……」

「パンムーの?」

 

 俺が聞き返すと、ファリシュタのスカーフの中からのそのそとパンムーが顔を覗かせた。俺の顔を見て今にも泣き出しそうな声で「パムゥ……」と鳴いている。

 

「パンムー……ディアナになにかあったんだな?」

 

 俺がなるべく静かな声でそう言うと、パンムーはコクリと頷いた。

 

 マズイな。この前のようにディアナになにかあってもパンムーが一緒なら状況を知らせるなり、協力して逃げたりできたかもしれないのに……。

 

「その鳴き声がするという方に行けばそのマイヤンがこの袋に入れられて隠されていた」

 

 そう言ってガラーブが差し出してきた小さな革袋を受け取る。

 

「む? 他になにか入ってるのか?」

 

 手のひらになにかの感触を感じて革袋の口を開く。中に入っているものを取り出して、俺は言葉を失った。

 それはディアナがつけていたネックレスだった。

 

「……最悪だ」

 

 俺はそれだけ言ってギュッと目を閉じる。

 

「クィルガー、魔石の指輪と透明の魔石ともう一つはなんだ? 見たことがないが」

「……まだ知られていないが魔石装具の一つだ。俺の持っている親機と対になっていて、これをつけていればディアナの居場所がわかるというものだ」

「なに⁉ そんなものがあるのか?」

「クソ……これとパンムーをここに隠していったってことは……」

 

 ディアナが魔石のネックレスを持っていることや、パンムーがずっと一緒にいるということを知っているのは俺たち家族とサモルとコモラ、王とソヤリ……そしてテルヴァしかいない。

 

 なぜだ。なぜここにテルヴァがいる? ディアナを呼び出した奴は貴族だ。そいつが引き入れたのか? 

 

 俺は右手に持っていたディアナのネックレスを握りしめる。

 

 これがないとディアナは魔石術も使えない。まだ学院内にいればいいが、もしすでに外に運び出されていたらどうする? この広い王都の中でディアナを探し出すことができるのか?

 いやそれよりディアナは無事なのか? 

 もしディアナの身になにかあったら、俺は……俺は……っ。

 

 その瞬間、胸の奥で熱いものがブワッと吹き出した。

 

「クィルガー! 馬鹿! 抑えろ‼」

「わぁ! 兄上! ここでそれはマズいです‼」

「みんな距離を取って! 兄上! 落ち着いてください!」

 

 ガラーブが俺に怒鳴りながら自分の体の後ろにファリシュタたちを庇い、トグリとチャプが周りの騎士たちに指示しながら俺の肩を両側から掴む。

 

「……俺は冷静だ」

「なに言ってるんですか! 目が光りだしてますよ!」

「ここで『覚醒』したら階級の低い騎士たちが失神しちゃいます!」

 

 弟たちの声を聞きながら俺は自分の中に意識を向けた。自分の胸の中で怒りが渦巻いている。覚醒状態になる直前の状態だ。周りを見ると騎士たちが数人しゃがみ込んで胸を押さえている。ガラーブの後ろでは男子二人が顔を顰めながらファリシュタを庇っていた。

 

 ダメだ、抑えろ。周りを危険に晒すな。こんなところで覚醒したってディアナが見つかるわけじゃない。落ち着け。

 

 俺は胸元を押さえてその怒りを抑えようと意識する。カタルーゴ人特有のこの怒りの渦は一度出てくるとなかなか収まらない。

 フゥ……フゥ……とゆっくりと息を吐く。額から汗がポタリと落ちた。

 

 しばらくしてトグリとチャプが俺の顔を覗き込む。

 

「よかった。光が消えた」

「はぁ……マジでビビった」

「鎮静の魔石術を使わなきゃいけないところだったよ」

「兄上に魔石術かけるとか怖すぎ」

 

 二人はそう言うと学生たちの方へ向かう。

 

「ファリシュタ、大丈夫?」

「怖かったよね、ごめんね」

「あ……だ、大丈夫です……」

 

 ファリシュタが青ざめた顔で頷く。

 

「君たちも大丈夫?」

「学生には辛かったでしょ」

「だ、大丈夫……です。多分」

「驚きましたが、俺は一級なのでまだ大丈夫です」

 

 学生の三人が無事なことに胸を撫で下ろしていると、ガラーブにギロリと睨まれた。

 

「馬鹿野郎」

「……悪い」

 

 周りにいた騎士たちも回復して立ち上がっている。ガラーブは肩をすくめて報告を再開した。

 

「……さっきの続きだが、その革袋が見つかってディアナの身になにかあったとわかったから、アントンを呼んで指示を出してもらった。学院の封鎖はすでに完了していて、校舎内と寮内の捜索が行われているが、まだ見つかっていない」

「……そうか」

「学生たちにも寮から出るなと言っている。ただどうやってディアナが行方不明になったのか情報がなさすぎてな……」

「手紙の筆跡は?」

「鑑定してもらったがそんなに癖のある字ではなかったから、おそらく男性だろうということしかわかっていない」

「わかった。……あ、ディアナが事件に巻き込まれた時の状況ならわかるかもしれないな」

「どういうことだ?」

 

 俺はファリシュタのスカーフに隠れているパンムーを呼ぶ。さっきの俺の怒気にやられたのかかなり怯えた様子だ。

 

「パンムー、ディアナを助けるにはおまえの力が必要だ。ディアナになにがあったのか教えてくれないか?」

 

 俺がなるべく優しくそう言うと、パンムーは怯えながらもスカーフから飛び出して地面に降り立った。俺はしゃがんでパンムーを見つめる。ガラーブが訝しげな目を向けて言った。

 

「なにをする気だ?」

「まぁ見ててくれ。パンムー、頼む」

 

 パンムーはその言葉を聞いてジェスチャーを始めた。一つ一つなんのジェスチャーか確認しながら最後まで解読していく。

 それによるとディアナはここにきてある男子学生と会い、話をしている途中で後ろから何者かに羽交い締めにされた。その時に口元になにか当てられ、気を失ったようだ。

 そのあと小さな箱に入れられたところでパンムーはスカーフから引っ張り出され、ネックレスとともに革袋に入れられた。

 パンムーのジェスチャーに驚いていたガラーブが徐々に不機嫌になっていく。

 

「口元になにか当てられ気を失ったということは……毒か?」

「……おそらくな」

 

 俺たちの会話を聞いて、ファリシュタがヒュッと息を呑んで口元を押さえた。

 

 テルヴァが関与していることは間違いないな……。

 

「ガラーブ、ディアナの捜索は俺と騎士団で続ける。そっちは寮内の学生への指示とこいつらの保護を頼む」

「わかった」

「あー……ファリシュタ、ハンカル、ラクス……その、怖い目に合わせて悪かった。不安だと思うがガラーブの言うことを聞いてちゃんと休んでくれ。ファリシュタ、パンムーのことを頼む」

 

 少し微笑んでそう言うと、ファリシュタは「はい……」と頷きながらポロポロと涙をこぼした。

 

「ク……クィルガー様……うっ……ディアナ……大丈夫ですよね? すぐに見つかりますよね?」


 ファリシュタはそう言ってギュッと手首のブレスレットを握りしめる。

 

「ああ、俺がすぐに見つける」

 

 俺はファリシュタの不安を拭うように言い切った。

 

 

 

 学院騎士団と王宮騎士団に指示を出し、人気のない所でソヤリに繋いで状況を報告する。

 

『……テルヴァでしたか』

「ああ、間違いない」

『魔石装具と魔石のネックレスを外されたのは痛いですね。アルスラン様が上で王都を探っていらっしゃいますが、今のところ異変は感じ取られていないようです』

「わかった。こっちは学院内の探索を徹底的に行う。ただテルヴァを探索しろとは命じられないからな、時間がかかりそうだ」

『……ディアナの正体がバレてしまいますからね。仕方ありません。私の部下も数人そちらに向かわせました。テルヴァと繋がっているその手紙の男子学生は何食わぬ顔で寮にいるでしょうから』

 

 ソヤリの言葉を聞いてギリっと奥歯を噛み締める。

 

「クソが……っ、見つけたらボコボコにしてやる」

『すぐに殺さないようにしてください』

 

 俺はソヤリの言葉を無視して踵を返した。

 

 

 

 

ディアナの危機にブチ切れ寸前のクィルガー。

ガラーブや双子は

こんなにすぐ切れるクィルガーを

初めてみました。


次は絶望からの機転、です。

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