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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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小さな異変


「すっかり遅くなっちゃったね」

 

 真っ暗になった空を見上げて私たちは足早に歩く。入会申請書を確認したあと、ついつい話し込んでしまい寮に戻るのが遅くなってしまった。早く帰らないと夕食に間に合わない。

 街灯に照らされた図書館横の道を四人で歩いていると、コツンと肩になにかが当たった。

 

「あいたっ」

 

 私は驚いて振り返る。コロコロ、となにかが転がる音がして足元を見ると、小さな小石が落ちていた。

 

「どうしたの? ディアナ」

「……なんか肩に小石が当たったみたい」

「小石?」

 

 ラクスが不思議そうな顔をして私の足元を見る。

 

「図書館の屋根から落っこちてきたかな?」

 

 みんなで横の図書館を見上げるが、屋根の方は真っ暗でなにも見えない。

 

「ごめん行こ行こ、夕食に間に合わなくなっちゃう」

 

 私たちはさらに急ぎ足で寮に向かう。そしてもう少しで寮の玄関に着くというところで、またなにかがバシッと当たる感触がした。しかも今度は後ろのスカーフの端だ。スカーフの中にいるパンムーが息を呑む気配がした。

 

「⁉」

 

 私は頭を押さえて後ろを振り返る。後ろには校舎へ続く道とその左側に寮の前庭があるが、寮の明かりに照らされていないところは真っ暗でなにも見えない。

 

「ディアナ?」

 

 ファリシュタが心配そうに声をかけてきた。

 私の足元にはさっきと同じような小石が落ちている。

 

 ……なに?

 

 私は周りを警戒しながらスカーフの中に手を入れる。パンムーに怪我はないか確かめるためだ。私の指をパンムーががしりと掴み、頬ずりしているのがわかった。無事のようだ。

 

 今の、偶然じゃないよね? 誰かが投げてきた?

 

 私は足元の小石を拾って手のひらに乗せる。小石はビー玉のような丸い小石だった。

 

「ディアナ?」

「なんかあったのか?」

 

 ハンカルとラクスも私の方に戻ってくる。

 

「……これが頭にぶつかってきた」

「……! さっきのと同じやつか?」

 

 私たちは無言で今来た道を凝視する。

 

「……ディアナ、怪我は?」

「大丈夫だよ」

「とりあえず中に入ろう。外だとなにも見えないから」

 

 ハンカルに促されて私たちはそのまま寮へ入り、入会申請書の提出箱を階段の裏に戻して食堂へ向かう。四人で夕食の席に着くと、ハンカルが私が拾った石を観察し出した。

 

「……よく磨かれてはいるが、ただの石だな」

「武器の投石で使われるものとはちょっと違うな」

「そうなの? ラクス」

「うん。投石で使う石はもっとゴツゴツしてるし、重いんだ。これは綺麗すぎるし、なにより軽い」

「攻撃用の石じゃないってことかな?」

「うーん……どうだろ」

 

 ラクスがそう言って腕を組むのを横目で見ながら、ハンカルが口を開く。

 

「あまり見たことがないタイプの石だな。俺の故郷の川には丸く研磨された石がたくさんあるが、こんなに綺麗な球体はそんなになかったと思う。……ディアナ、気をつけた方がいい」

 

 ハンカルが眉根を寄せてその石を私に返す。私はハンカルの言葉に首を傾げた。

 

「どうして?」

「自然界であまり見ないということは、この石は故意に作られてるということだ。なにか目的があって、この形にしてるんだ」

「ということは、やっぱり私に向けられた攻撃ってこと?」

 

 私の言葉に隣のファリシュタが目を見開いた。ハンカルは周りをぐるりと見回したあと、私に顔を寄せて小声で言った。

 

「まだわからないが、もしまた同じことがあったら寮長に相談した方がいいかもしれない」

「……わかった、そうする。まぁ、これだけで終わるかもしれないしね」


 

 しかしその小さな嫌がらせはその後も続いた。

 小石はどこからかぶつかってくるし、それが終わったかと思えば今度は水が飛んでくるようになった。水鉄砲から発射されたような水の塊が死角から飛んできて私のスカーフやマントをびっしょりと濡らすのだ。

 その度に部屋に戻ってタオルで拭いたり新しいものと取り替えなくてはいけなくなる。

 

 なんて面倒な嫌がらせ!

 

 さらには中庭のベンチに置いていた私の荷物がとんでもない高温になっていて持ち上げた途端指を火傷をしたり、熱いお湯が飛んでくるようにもなった。

 

 ……段々手口が過激になってきてない?

 

「ディアナ、早めに寮長に言った方がいい。このままだといつ大怪我をするかわからない」

「うん……」

 

 ハンカルとそんな話をしながら寮の玄関ホールに入ると、そこに人だかりができていた。

 

「なんだろ?」

「あ、今度行われるシムディア大会の対戦表じゃないか?」

 

 と、ラクスが顔を輝かせてその人だかりの方へ向かう。

 

「対戦表?」

「シムディア大会は複数チームがトーナメント方式で戦っていく大会なんだ。きっと抽選が終わって各チームの対戦相手が決まったんだよ」

「へぇ。やっぱり毎年強いチームとか決まってるの?」

「そりゃ常勝チームっていうのはいくつかあるよ。もちろんイバン様のいるチームが一番強いけどな」

 

 人だかりの後ろの方でラクスの説明を聞きながら、壁に貼られているその表を見ようとつま先立ちになる。

 と、次の瞬間、グイッとスカーフが強い力で後ろに引っ張られた。

 

「ひゃぁっ⁉」

 

 私は即座に両手でスカーフごと両耳を押さえてしゃがみ込む。上部のスカーフが大きく後ろにズレて頭頂部の髪が露わになる。

 

「……! ディアナっ」

 

 異変に気付いたファリシュタがすぐに自分のマントの中に私を入れてくれた。ラクスとハンカルもそれに気付いて、すぐに私を囲み周りの視線から守ってくれる。

 

 あぶ……あぶ……あっぶなぁぁぁぁ!

 

 みんなは多分私のスカーフが取れて髪が全部表に出てしまうことを気にしてくれたんだろうけど、私はエルフの耳が出そうになってめちゃくちゃ焦った。

 

 心臓がバクバクしてるよぉ!

 

 なんとか手が間に合って耳が出るのは防げたが、手の反応がもう少し遅かったらここでエルフということがバレるところだった。

 スカーフと私の髪の間でもみくちゃになってるらしいパンムーが後頭部でバタバタともがいている。

 

 ぐぅぅぅ……どこの誰だか知らないけど、もう怒った!

 

「大丈夫? ディアナ」

「うん大丈夫、ありがとうファリシュタ」

 

 私はファリシュタのマントの中でスカーフを結び直して、すっくと立ち上がった。心配する三人に向かって鼻息荒く宣言する。

 

「今から寮長さんのところに行ってくる!」

 

 

 

「だから言っただろう、警戒しろと」

「すみません……」

 

 怒った勢いのまま寮長室にやってきたが、ガラーブに「もっと早く言え! 怪我したいのか!」と逆にめちゃくちゃ怒られて私はしょんぼり項垂れる。

 今回は今までの嫌がらせの詳細を他人視点から伝える人がいるだろう、とハンカルが付いてきてくれていた。ガラーブはまずハンカルからその報告を受ける。

 

「しょうもない嫌がらせだが、段々悪化してきてるな」

「俺もそこが気になってます」

「石や水の出所はわからなかったのか?」

「いつもディアナになにかが当たってから周りを探るんですが、怪しい動きをしている人は見つけられませんでした」

「見つからないようにかなり遠くから攻撃をしているってことか……」

 

 寮長とハンカルのやり取りを聞いて私は口を開く。

 

「魔石術を使ってるんでしょうか?」

「……いや、魔石術を使えば使った魔石の色の光が現れるはずだ。それに小石はともかく水を飛ばす魔石術なんてないからな」

 

 そうなのか……。

 

「何か特殊な武器でも使ってるんでしょうか……」

「今はまだわからん。さっき玄関ホールでスカーフを引っ張られたと言っていたがそれはどんな感じだった? 直接指で引っ張られたのか?」

「んんー……一瞬のことだったのでよくわかりません」

「もし直接引っ張っていたのならかなり危険だぞ。すぐ後ろにその犯人がいたということだからな」

 

 ガラーブにそう言われ、私は初めてその事実に気付いてヒヤリとする。

 

「今までかなり離れたところから攻撃してきたのに、いきなりディアナとの距離を縮めますかね? 下手をすれば俺たちに見つかる可能性もあるのに」

「……さっき私たちの周りにいた人たちに話を聞けばよかったね。私の後ろに誰かいなかったかって」

「そうだな……」

 

 私とハンカルの話を聞いていたガラーブは腕を組んでしばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。

 

「……しばらくディアナに護衛をつけた方がいいかもしれんな」

「護衛ですか?」

「それは……学院騎士団の騎士をつけるということですか?」

「そうだ」

 

 ハンカルの問いにガラーブはそう答えて頷く。私は驚いて目を見開いた。

 

「騎士の人にわざわざ頼むんですか⁉ めちゃくちゃ目立ちませんか?」

「目立った方がいいんだよ。騎士の護衛がついている生徒にそんなしょうもない攻撃をする奴はいないだろ。騎士は学生とは違う。攻撃された瞬間犯人を捕まえる力があるからな」

「それは心強いですけど……」


 今からずっと授業に行く時も寮に帰る時も騎士の護衛が付くの?

 

 私はその姿を想像してげんなりする。

 

「でも護衛がついて攻撃が止むと、犯人を捕まえることはできなくなりますよね」

「こう着状態にはなるが身の危険は減る」

 

 ガラーブの言葉に私は腕を組んで「うーん……」と眉を寄せる。過激になってきてるとはいえ、命が脅かされるようなことをされたわけじゃない。その段階で護衛が付くことになんとなく抵抗感がある。

 

 ……あまり気が進まないなぁ。

 

「諦めろディアナ。どうせこの件はクィルガーにも報告がいく。その時点で百パーセント君には護衛がつくことになる。それが遅いか早いかの違いだ」

「うっ」

 

 そりゃこんな話聞いたらクィルガーはすぐに護衛をつけるだろう。むしろ自分が行くとか言い出しそうだ。

 

「私としてはそんな大事になる前に犯人を捕まえたいんですけどね……」

「ディアナ、俺も護衛はつけた方がいいと思う。今までは大した怪我もなかったが、これからどうなるかわからないからな」

「ハンカルの言う通りだ。それに今はディアナだけが標的だが、今後君の仲のいい友達が狙われるようになったらどうする?」

「そ、それは嫌です!」

 

 私は慌てて首を振る。ハンカルやラクスはともかく、ファリシュタが攻撃されたら私は多分ブチ切れる自信があるし、そのあと怒りでどうなるかわからない。

 

「……わかりました。護衛をお願いします」

 

 私はがっくり項垂れてガラーブにお願いした。

 

 

 その後、ハンカルに先に帰ってもらって私はその場でソヤリに手紙を書いた。ガラーブから話は行くと思うが自分の言葉で報告しておきたかったのだ。

 私がソヤリと知り合いであることにガラーブは驚いていたが、「必ず渡そう」と手紙を引き受けてくれた。

 

 それから自分の部屋に戻り、まずはパンムーの様子を見る。

 

「パンムー、大丈夫?」

 

 パンムーは私のスカーフから出てきてベッドへ飛び乗ったあと、大きく伸びをして体のあちこちを動かし始めた。首をぐるぐる回して深呼吸をして「パムゥー」とため息をつく。

 

 大丈夫みたいだね。

 

 私はベッドに腰掛けてパンムーの頭を指で撫でる。

 

 今までなにもなかったのに、急に攻撃されるようになったのはなんでだろう。

 

 貴族は基本的に暴力的な行動は取らないので、大体は陰口や嫌な噂を流して相手を貶めるやり方を好む。そんな貴族があからさまに攻撃してきたのだ。

 

 なんかきっかけがあるはずだよ……。

 

 最近やったことといえば劇のお披露目会だ。やはりあれで目立ちすぎたのだろうか。

 

「うーん……目立ちすぎたからって攻撃するのかな……」

 

 考えてもわからなかった。

 私はなんとなく首から下げてるネックレスを服の中から引っ張り出す。クィルガーからもらった発信機とヴァレーリアの指輪を持って指でなぞった。

 

 うん、大丈夫大丈夫。

 

 私は自分を安心させるように心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

お披露目会が終わった途端

嫌がらせが始まりました。

寮長経由でソヤリに相談です。


次はソヤリとの面会 三回目、です。

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