表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/570

冬休みの一時帰宅


 冬休みまでの数週間は劇の練習を集中して行うことができた。イバン王子がシムディアクラブよりこちらを優先して来てくれたおかげだ。

 王子にもケヴィンにもラクスがやっている基礎練習をしてもらったのだが、超人の王子は置いておいて、ケヴィンも普通にこなせたことに驚く。

 

「これでも大国ザガルディの高位貴族だからな。これくらいできて当然だ」

「ちっこいのに優秀なんだなケヴィンは!」

「ちっこいは余計だ! あと呼び捨てにするな!」

 

 ドヤ顔をしていたケヴィンにラクスが絡んで今日も漫才が始まった。どうやらラクスは打てば響くケヴィンのことが気に入ったらしい。

 

「ディアナ、今日はなにをするんだい?」

「今日は三つ目の武術演技を仕上げちゃいましょう」

 

 イバン王子に聞かれてそう答える。集中して練習できたおかげでクィルガーと兵士が複数の魔物と戦うシーンの武術演技がほぼ出来上がっていた。

 

「まさかこんなに早くできるとは思ってなかったですけど」

「いや、この武術演技というものがなかなか面白くてね、夢中になって練習してしまったよ」

 

 王子はそう言って爽やかな笑顔を見せる。今までにない動きなのが気に入ったのか寮の自室に戻っても練習していたそうだ。

 

 でもそれだけじゃない、本当に超人なんだよこの人……。

 

 イバン王子はラクスみたいに最初から太鼓のリズムに乗れていたわけではなかったが、一度見たら即座に同じ動きができるのだ。私が太鼓のリズムに乗って足を大きく鳴らすと、その箇所も全て覚えてすぐにマスターした。

 

 ラクスは体で覚えるタイプだったけど、イバン王子は頭と体全てを使って覚えてる感じ。きっと生まれた時から出来が違うんだろうね。

 

 ケヴィンも基礎体力はあるし覚えも早いのでサクサクと武術演技の動きが決まっていった。たまに二人からシムディアで使う剣の型を教えてもらったりして、それも演技に取り込んでいく。

 王子とケヴィンがファリシュタに対してきついことを言ったりしないかと思って注意深くみていたが、そっちの心配は全く必要なかった。

 二人とも女性に対する接し方がめちゃくちゃ優しいのだ。

 

 こんな自然なレディファースト初めて見たよ……。

 

 元々物腰の柔らかい王子はファリシュタに対しても同じ態度で接していたし、ケヴィンなんか私たちがなにか重たいものを持っていたらすぐに代わって持ってくれるし、教室の扉も開けてくれる。

 大国の高位貴族で先輩なのに、だ。

 

「ザガルディの男性は女性に対して特に気を配ることで有名だとは聞いていたが、これほどまでとは……」

 

 とハンカルが苦笑しながら言う。

 

 なるほど、これはザガルディ特有のものなんだね。

 

 私はただただ感心していたけど、ファリシュタは完全に恐縮していた。違う意味で緊張してしまうらしい。でもレディファーストのおかげで厳しい空気にはならず練習をすることができた。

 その日出来上がった武術演技を見て私はニヤニヤが止まらなかった。二人から四人の武術演技になって、見るからに面白いものになってきている。

 

 これは……絶対いけるよ!

 

 

 

 そして冬休みに入り、寮にいる学生はほとんどが王都の中にある館へと移動していった。一番館が遠い場所にある国の学生から馬車に乗って移動するので、アルタカシークの学生は一番最後だ。ラクスとハンカルと「また来年」と言い合って順番に見送る。

 

「乗合馬車だったらすぐに帰れるんだけどねぇ」

「ディアナの家の前は乗合馬車は停まらないと思うよ?」

 

 クスクスと笑いながらファリシュタが言う。

 

 それもそうか。……それに、クィルガーの護衛なしで帰ったら絶対に怒られるもんね。

 

 それからようやくアルタカシークの学生の移動日になって学院の正面玄関に向かう。正面玄関前のロータリーには各家の馬車と乗合馬車がいつも通り一緒くたに並んでいた。

 私はその中にアリム家の馬車を見つけてファリシュタとともにそこに歩いて行く。馬車の御者さんが「お帰りなさいませ」と言って馬車の扉を開けて私とファリシュタを中に入れてくれた。ファリシュタはすでに緊張でカチコチだ。

 

「ファリシュタ、まだ馬車の中だよ」

「だだ、だって、ここを出たら馬車の警護のためにクィルガー様がいらっしゃるんでしょう?」

 

 ファリシュタにはアリム家の馬車を狙う者がいるかもしれないから、念のためクィルガーが迎えにきてくれるという感じで言ってある。

 

 私がエルフでテルヴァから狙われてるなんて言えないもんね。

 

 私は久しぶりにクィルガーに会えるのが嬉しくてワクワクしながら門を潜った。

 ところが待っていたのはクィルガーではなく、満面の笑みの双子だった。

 

「あー! きたきた!」

「久しぶり! ディアナ!」

「トグリとチャプ⁇ なんで?」

 

 私が馬車の窓を開けると、双子の馬が馬車の左右を挟むように移動してきた。

 

「兄上に急な仕事が入ったんだ。間に合わないから僕らに行けって」

「上司の命令には逆らえないからね!」

 

 右からトグリ、左からチャプが話してくるので顔が忙しい。

 

「クィルガーって二人の上司なんですか?」

「兄上は王宮騎士団副団長になったからね!」

「副団長は王国騎士団全員の上司だよ!」

「さすが兄上!」

「ね!」

 

 副団長になったんだ……知らなかった。

 

「あ! そっちの子が館に招待する学生さん?」

「可愛いね! 名前なんて言うの?」

 

 声のかけ方がただのナンパだよチャプ……。

 

 私はため息をついて、戸惑うファリシュタに二人を紹介する。クィルガーの弟ということに驚いていたが、二人が高位貴族らしからぬ気軽さで話しかけるので、彼女も徐々に緊張が和らいだみたいだ。

 

 ファリシュタにとってはこの二人がお迎えでよかったのかもしれない……。

 

 王宮騎士団の騎士二人に左右を挟まれて移動する馬車はめちゃくちゃ目立っていたが、クィルガーの館は城を降りたらすぐなのでもう気にしないことにした。テルヴァだってこんなやかましい馬車は狙わないだろう。

 双子とペチャクチャ喋っていたらあっという間に館に着いた。門からの長い道を進んで正面玄関前のロータリーまでくると、ファリシュタの顔がみるみる青ざめていった。その気持ちはよくわかる。

 

「私も初めてきた時はびっくりしたよ」

「わわわわ私、こんなお屋敷に入って大丈夫なんでしょうか……っ」

 

 ファリシュタが驚きのあまり口調が戻ってしまっている。

 

「大丈夫だよ。ファリシュタは私の大事な友達なんだから」

「ディアナ……」

 

 馬車から降りた私たちを見届けて、双子は「年越しの宴でまた会おうね!」と言って城へ戻っていった。代わりに迎えに出てきていた私のトカルと護衛の兵士たちが側に控える。

 

「おかえりなさいませ、ディアナ様」

「ただいま戻りました、イシュラル」

 

 一歩前に進み出たイシュラルがファリシュタにも挨拶する。

 

「ようこそいらっしゃいました、ファリシュタ様」

「は、はい。よろしくお願いします」


 イシュラルに案内されて階段を上り、玄関の扉を開けてもらう。玄関ホールにはクィルガーのトレルたちと一緒にヴァレーリアが待ってくれていた。

 

「ヴァレーリア!」

「おかえり、ディアナ」

 

 久しぶりに顔を見れて嬉しくなって、私は思わずその胸に飛び込みそうになるが、ファリシュタがいるのに気付いて慌てて思いとどまった。私のその様子にふふふ、とヴァレーリアが笑う。

 

 あ、あれ? ヴァレーリアなんか雰囲気が変わってない? キラキラしているというか、幸せオーラがダダ漏れになってるというか。

 

 元々美人だったけど、凛とした美しさの上にふわっとした優しいオーラを纏っていて目が離せない。どこかの女神様みたいだ。そう感じたのはファリシュタも同じだったようで、私と同じようにポカンと口を開けて見惚れている。

 ヴァレーリアが微笑みながら近付いてきてファリシュタに挨拶をする。

 

「ようこそ、あなたがディアナのお友達のファリシュタね?」

「はっはい!」

「私はクィルガーの婚約者のヴァレーリアよ。来てくれて嬉しいわ。って私が出迎えるのはちょっとおかしいのだけれど」

 

 ヴァレーリアはそう言ってふふっと笑う。ヴァレーリアはまだクィルガーの婚約者でこの館ではお客さんという立場なので、本来ならこういうことはしないのだ。

 

「まずは部屋へ案内させるわ。着替えを終えたら一緒にお茶にしましょう」

 

 ヴァレーリアがそういうと、数人のトカルが前にススっと出てきてファリシュタを客用の館へ案内していった。それを見て、カラバッリ邸に初めてきた時のことを思い出す。

 

「ディアナも着替えてらっしゃい」

「はい」

 

 館の奥にある女性館の自室に入り、イシュラルに着替えさせてもらう。人に着替えさせてもらうのもなんだか久しぶりだ。学院のマントを脱いで冬用の私服に着替える。

 

「これ、新しい服ですか?」

「はい。冬用の服をご用意しました」

「……全部あつらえたもの、ですよね」

「……? もちろんでございます」

 

 学院用にたくさんの服を作ってもらったのに、館用の服も別に注文していたらしい。貴族はもちろんオーダーメイドなので一着だけですごい値段になるのだ。

 

 私がきたことでクィルガーの出費が急に増えちゃってるよね……なんか申し訳ない。

 

 その後、着替えが終わるタイミングでヴァレーリアが部屋を訪ねてきた。

 

「ヴァレーリア、どうしたんですか?」

「お客さんがいるから、今じゃないとできないと思ってね」

 

 ヴァレーリアは悪戯っぽくそう言うと、はい、と両手を広げた。そのポーズの意味がわかって私は満面の笑みで彼女の胸に飛び込む。

 

「おかえり、ディアナ」

「ただいま、ヴァレーリア」

 

 そう言ってぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。

 

 ああ……久しぶりのヴァレーリアの感触だよ。温かい、柔らかい、最高。

 

 私は自分の顔をぐりぐりとヴァレーリアの胸に押し付ける。

 

「もう、ディアナったら」

「えへへへへ」

 

 自分が少女の姿でよかった。おっさんに転生していたら完全にアウトだ。

 イシュラルや他のトカルたちも微笑ましく私たちの姿を見守っている。

 

「それにしてもヴァレーリア……なんか雰囲気が変わりましたね」

「そうかしら?」

「そうですよ。どこの女神様かと思いました」

「もう、なに言ってるの」


 私はヴァレーリアの胸から顔を出してニンマリと笑う。

 

「さてはクィルガーとラブラブですね?」

 

 そう言うとわかりやすくヴァレーリアの目元が朱に染まった。

 

「バ、バカ……っ。こんなところでなんてこと言うの……っ」

 

 そう言って両手で自分の頬を覆う。

 

 おおう、可愛い、可愛いよヴァレーリア。

 ていうかクィルガーとラブラブなことは私よりここにいるトカル達の方が知ってるんじゃないかな。

 

 ヴァレーリアはニヨニヨと笑っている私をひと睨みすると、話題を変えた。

 

「あのお友達についてはクィルガーにあらかた聞いているから」

「あらかた?」

「彼女の生い立ちとか今の立場とか。そしてディアナのことを手伝ってくれていることもね」

 

 ファリシュタの生い立ちということは、彼女が特殊貴族であることもわかってるのか。

 

「そこまで知ってるんですか」

「あなたに関わる人物は大体調べてるらしいわ」

 

 それを聞いてなんとなくソヤリの顔が浮かんだ。きっと彼が調べてるに違いない。

 私はファリシュタを連れてきた理由をヴァレーリアに伝えた。

 

「高位貴族に慣れるため……ね。まぁ、その気持ちはわかるわ。でもディアナ……本当にイバン様と一緒にやってるのね……」

 

 ヴァレーリアがそう言って頭が痛い、という顔をする。そういえば彼女は元々ザガルディの貴族だ。

 

「ヴァレーリアはイバン様に会ったことはあるんですか?」

「んー、昔王族主催の大きな宴が開催された時に城でチラッと見たことはあるわ。でもその時はイバン様がまだ幼い頃だったし、綺麗な顔立ちの王子だなと思ったくらいね」

「そうなんですか」

 

 今でもあの爽やかさなのだ。幼少の王子様はさぞかし可愛かっただろう。

 

「クィルガーはいつ帰ってくるんですか?」

「いつもは仕事が終わり次第だから遅くなることもあるけど、今日は早いと思うわよ」

「え?」

「今日はディアナが帰ってくるからって朝からソワソワしてたんだから」

「ぶはっ!」

 

 落ち着きがないクィルガーを想像して吹き出してしまった。

 

「クィルガーって意外と……あれですよね」

「あんなに子煩悩な父親になるとはね」

「今日は演劇の男子メンバーを連れてこなくて正解でした」

「それはいい判断よ、ディアナ」

 

 私たちはそう言って笑い合った。

 

 あー……やっぱり家っていいなぁ。

 

 

 

 

久しぶりの帰宅です。

ヴァレーリアの胸に飛び込んで

帰ってきたことを実感。


次は歓迎の夕食、です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ