表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/570

中間テスト


 十二の月に入り、中間テストの日が迫ってきた。演劇クラブを作るためにもここはきっちり好成績をとっておきたい。という、強い気持ちとは裏腹に私は部屋で情けない声をあげていた。

 

「ああーぁぁぁ……頭が爆発するぅ」

 

 目の前に広がっているのは歴史の教科書と参考書だ。テスト範囲になっている箇所にしおりを挟んでいる。

 

「いくら本の文化が一番発展してきたからってこんなに教科書分厚くしなくてもいいじゃん……」

 

 この世界では魔女時代の音楽が禁止された代わりに本と服飾の文化が発展した。特に本は印刷という技術が発明されてから爆発的に普及したので、その充実っぷりがすごい。

 しかも歴史学は相当に研究されているらしく、各国の細かいところまで授業で学んでいくのだ。

 

 恵麻時代の時は世界が広かったから日本の歴史とざっくりした世界史だったけど、こっちは広いとはいえ一つの大陸だけだから一つの国に対する掘り下げ方がエグいんだよね……。

 

 私は教科書の最後に載っているこの大陸の地図を眺める。

 

「地理だったらまだ好きなんだけどな……」

 

 そう思いながらぼーっとしていると、視界の中にパンムーがニョキっと出てきた。

 

「パムパム!」

 

 パンムーはそう言って私の手をぺしぺしと叩く。

 

「わかってるよパンムー。でも集中できないものはしょうがないんだもん」

 

 するとパンムーはジェスチャーを始めた。横に人がいるような動きをして、パンムーはその人になにかを説明している。どうやら誰かに教えてもらえと言っているらしい。

 

「歴史は暗記だからそんな必要ないかと思ってたけど……集中力維持のために頼むかぁ」

 

 パンムーはそれを聞いてうんうんと頷いた。

 

 

 というわけで急遽勉強会を開くことになった。

 練習室にいつものメンバーが集まっている。私とラクスはすでに歴史の勉強に疲れていてげんなり顔だ。

 

「ごめんねハンカル。自分の勉強もあるのに」

「いいよ。ちょうど歴史の復習をしようと思ってたから」

 

 先生役は歴史が得意なハンカルだ。ファリシュタも部屋にずっといるのに疲れていたらしく、誘ったらすぐに来てくれた。

 

「でもここ使ってよかったのか?」

「演劇の練習のために借りたからダメかもしれないけど、でも談話室も図書館もいっぱいだからねぇ」

 

 テスト前はみんな考えることが同じなので、勉強できる場所はすでに学生で溢れていた。

 

「本当にディアナは歴史が苦手なんだな。他の教科はできるのに」

「面白い物語になってたら覚えられるんだけどね……」

 

 どうしてこう、教科書というものはつまらない書き方をするんだろう。もっとドラマチックに書いてくれたら興味が湧くのに。

 

「じゃあ自分の中で面白い話にしてみたらいいんじゃないか?」

「へ?」

 

 ハンカルはそう言って教科書を開く。

 

「今回の範囲は魔女時代の小さな国の成り立ちと農耕の歴史だろ? 歴史上の人物というのはほとんど出てこないし、覚えるのは国の名前と当時の農業と農具の名前が多い。それならその時代に生きていた村人を主人公にした物語にしてみてもいいんじゃないか?」

「なるほど! 勝手に物語仕立てにしちゃうんだね」

「お、そういうのは面白そうだな!」

 

 私とラクスはその案に顔を輝かせた。とりあえず出てくる農具の名前ごとに村人の名前を決めてそれを国と農業の成り立ちと繋げていく。

 

「村人の名前と農具の名前を似た感じすればいいんじゃないか?」

「はっそうだね!」


 私たちはハンカルの説明を聞きながらテスト範囲の歴史を物語にしていった。

 

 おお、なんか楽しくなってきた。

 

 面白味のなかった内容が生き生きとしたものになってきた。この作戦はいける気がする!

 四人とも物語を作ったりしたことがないので、なんとも辿々しいものが出来上がったが、教科書に比べたら断然覚えやすいものになっている。

 

「こうやって自分で作ってみると、物語を書く作家さんって本当にすごいなって思うよね」

「確かにな」

「作家の頭ん中ってどうなってんだろな?」

 

 ハンカルとラクスとそう話していると、ファリシュタが首を傾げて言った。

 

「でもディアナも本を台本にしてたよね?」

「あれは原作の物語をまとめるだけだから創作とは違うよ。あんなアイデアや文章力は私にはないもん」

「じゃあこれからも劇でやるのはそういう本を元に作るのか?」

 

 ラクスの質問に私はうーんと腕を組む。

 

「それもいいんだけど、理想を言うといつかはオリジナルの脚本でやってみたいんだよね」

「オリジナルの脚本?」

「劇のために物語を書き下ろすってこと」

「その方がいいのか?」

「そりゃ劇のために書いてるから流れに無理がないし、初めから舞台映えするような演出を書くこともできるからね。役者に合わせた台詞にすることもできるし」

「なるほど」

 

 ラクスが納得するように頷くと、ハンカルがその横で難しい顔をして言った。

 

「誰が書くんだ?」

「そこなんだよ。劇のための物語を書ける人がいるといいんだけど」

「学生でか?」

 

 四人でうーむと唸る。

 

「作家ってやっぱり平民が多いのかな?」

「いや、そんなことはないぞ。貴族向けの本は貴族が書いているしな。あのクィルガー様の本も貴族の作家が書いていたはずだ」

「えええ! そうなの⁉」

 

 柔らかい文章だし平民の暮らしの描写も細かかったから平民の作家だと思ってたよ。

 

「だったら募集してみたら案外書いてくれる学生がいるかもしれないね」

 

 ファリシュタの言葉に私はあ、とひらめく。

 

「そうだ、劇のお披露目の時に一緒に募集してみよう!」

「作家を募集って?」

「そんな大袈裟なものじゃなくても、物語を書ける人を募集します、って感じで」

「そうだね。それはいいかも」

 

 とファリシュタと言っていると、廊下の方でわずかな物音がした。

 

「ん? なんか音がしなかった?」

「む?」

 

 立っているハンカルが出入り口に歩いていって教室の扉を開く。

 

「廊下には誰もいないぞ?」

「気のせいかな?」

「ディアナって耳いいよね。私はなにも聞こえなかったよ」

 

 エルフの耳だからねぇ……。

 

「なんか時々この教室にいると聞こえるんだよね、小さな物音が」

「えっ」

「怖いこと言うなよ!」

 

 ファリシュタとラクスがギョッとしてこちらを見る。私は二人の反応を見てニヤリと笑った。

 

「二人とも、こういうの苦手? いつか劇でもやってみたいんだけど。アンデッド系の怖い話とか」

「やだっ」

「それはやらなくていい!」

 

 全力で二人に拒否される。

 

「それは残念。図書館の本の中にそういうのもあったから、いいかなと思ったんだけど」

「そういうのは人を選ぶからな」

 

 苦笑しながらハンカルが戻ってくる。

 

 確かに人を選ぶし、貴族向けの話じゃないから仕方ないか。

 

 その後は自分たちで作った歴史物語を繰り返し読んでみんなで覚えた。

 

 

 そして歴史のテスト当日、私はあまり視線を動かさずに移動して教室の席に着く。他のものに気を取られてはいけない。とにかく集中しておかないと頭の中にパンッパンに詰まっている単語がこぼれ出しそうになるからだ。

 正直、入学試験を受けた時より真剣に勉強したと思う。

 

 早く……早くテスト用紙カモン!

 

 しばらくしてようやくテスト用紙が配られて試験開始の合図が出た。私は紙をめくって一心不乱に答えを書き出していく。

 

 よし、よしよし! わかるよ!

 

 頭の中でみんなで考えた歴史物語の登場人物が動き出す。私は少しニヤつきながらテストを解いていった。

 

 

 最大の難関だった歴史のテストを乗り越え、その他の教科のテストは危なげなく終えられた。

 

 ていうか、歴史だけずば抜けて難しいんだよ。多分。

 

 その他の教科の難易度は小学生レベルなのに歴史だけが突出して難しいのだ。

 私は練習室で改めてハンカルにお礼を言う。

 

「いや、そんな大したことじゃないし、俺もよく覚えられたから今後もこのやり方で歴史の勉強するのもいいかもしれないな」

「俺も歴史のテストでこんなに解けたのは初めてだったぞ! またやろうぜ」

「うん」

 

 それから練習前のストレッチをしながら、私はふと気付いて顔を上げる。

 

「テストが終わったからこれで思う存分練習ができるんだけど、冬休みってみんなどうするの?」

「俺はウヤトの館に戻るよ。国から荷物や手紙が届いてると思うし」

「俺も」

 

 学院では十二の月の終わりから一の月の初めにかけて冬休みがある。通常の休みの日と違って長いので、その間王都内にある各国の館に泊まる学生が多い。

 

 各国の館というのはアルスラン様が学院を作る時に同時に王都の中に作らせた大きな館で、各国分の数がある。各国の学生はアルタカシークに移動してきてまず初めに自分たちの国用の館に宿泊する。

 いきなり全国の生徒とその荷物を乗せた馬車が一斉に学院に入ると混乱するからだ。そのため学生たちが館に滞在している間に徐々に荷物を運び込み、順番に入寮していく仕組みになっているのである。

 

「ハンカルとラクスは自分のとこの館に戻っちゃうんだね。ファリシュタは?」

「私も貴族区域の家に戻るよ」

 

 ファリシュタも特殊貴族用の家に戻るらしい。となると冬休みに練習はできなそうだ。

 

「ディアナは戻らないの? 家は城のすぐ近くなんだよね?」

「どうしようかなぁ。みんなが戻るんだったらそうしようかな。家族の顔も見たいし」

 

 私はクィルガーとヴァレーリアの顔を思い浮かべる。普段は思い出すと寂しくなるのであまり考えないようにしてたが、やっぱり会いたい。

 

 コモラのクッキーも無くなっちゃったし、サモルに旅芸人ギルドについて聞きたいし帰ろうかな。

 

「家に帰ったら伝説の騎士がいるってのもすごいよな……」

「すごいのはクィルガーだけじゃないよ。お母様になる予定のヴァレーリアもすっごい美人で優しいんだから」

 

 私はそう言ってフーン! と胸を張る。

 

「ディアナは養子なのに本当に家族と仲が良いんだね」

 

 クスクスとファリシュタが笑う。

 

「私をたくさん守ってくれたからね。私は本当の家族だと思ってるよ」

「いい人に出会えたんだなディアナは」

「うん。本当に幸運だったなって自分でも思う」

 

 二人の話をしていたら、余計に会いたくなってきてしまった。

 

 ああー、早く帰ってヴァレーリアの胸に飛び込みたい!

 

 

 翌日、テストの上位成績者が発表された。談話室の壁にその紙が貼り出されていて、その前に人だかりができている。

 

 テストの順位発表って恵麻時代の学校ではなかったし、漫画の中だけの話かと思ってたけど、まさかここで出会うことになるとは……。

 

 四人で見にいくと、周りの生徒から私とハンカルに視線が注がれているのに気付いた。なんだろうと思いつつなんとか前の方まで進んで紙を見上げる。

 そこには各学年の上位十名の生徒の名前が書いてあった。名前の下にはそれぞれの寮の色も書いてある。

 一年生の欄に私とハンカルの名前が並んで書いてあった。

 

 わお……一位なんて初めて取ったよ。 

 

「ディアナに負けたか」

 

 ハンカルが口の端を上げて私を見る。

 

「全然悔しそうじゃないねハンカル」

「ディアナは歴史以外は問題ないし、魔石術の授業ではかなり優秀だからな。予想はしていたよ」

「私は一位でびっくりだよ」

 

 そんな私たちの会話にラクスが呆れたように言う。

 

「なんだこの会話は……同じ学生とは思えねー」

「やっぱりディアナとハンカルはすごいね!」

 

 ファリシュタの褒め言葉に私はえへへと口元を緩ませた。

 

「歴史を落とさなかったのが大きいよ。ありがとね、ハンカル」

「いや、俺も目標ができて嬉しいよ。学年末テストは負けないからな、ディアナ」

「そんなライバル視されても困るんだけど……」

「あ、イバン様はさすがだな」

 

 ラクスの声に五年生の欄を見るとイバン王子の名が一位の場所に記されていた。

 

「いや一位は二人だな。レンファイ様もさすがだ」

 

 よく見るとイバン王子の下に一位、レンファイと書いてある。

 

「大国の王族の人って頭の中どうなってるのかな……」

「その言葉はそのままディアナに返すぞ」

 

 私の言葉にラクスがため息混じりに言った。

 

 なにを言うかな。あの二人は成績だけじゃなく、その他の能力も別次元ですごいのだ。そんな超人と一緒にしないで欲しい。

 

 とりあえず、オール五に向けて順調にいけてるようでホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

勉強会のおかげで中間テストは切り抜けました。

練習室に不穏な音が。

大国の超人と一緒にされて全力で否定したいディアナです。


次は王子の提案と寮長との面会、です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ