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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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音楽のおはなし


 私は用意していたメモを机の上に置いてソヤリに差し出す。そこには私の字でドからシまでの音の名前が書いてある。

 

「音楽には『音階』というものがあります」

「音階?」

「音をその高さによって順番に並べたものです。音楽はこの音階にある音を使って作られているんです」

「ここに書かれているものは?」

「基本である七つの音の名前と、それを音の高さ順に書いたものです。低い音からド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シといいます。この七つで一オクターブといって、この音の塊が高い方にも低い方にも続いていきます」

「……この音の並びがずっと続いていくのですか?」

「そうです」

 

 ソヤリが珍しく眉を寄せ考え込んでいる。音楽のことを知らない人にとってはきっと難解なものに違いない。

 

「実際にその音を出してみていいですか? 決して歌いませんから」

「どうしますか? アルスラン様」

『……聞かねばわからぬな』

 

 私はそれを聞いて「んんっ」と喉を鳴らす。そして「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と音階に乗せて、なるべく丁寧にはっきり聞こえるように声に出した。

 

「これが基本の音階です。音は他にもありますが、今回はややこしいので省きますね。魔石の音はこの七つの中に全部あるので」

「魔石の音がこの中にあるのですか?」

「そうです。ソヤリさん、この音って聞き覚えありませんか?」

 

 私はミの音で「あー」と声を出す。ソヤリが目を閉じてその音を集中して聞いている。

 

「……もしかして赤の魔石の音ですか?」

「はい、正解です。赤の魔石は『ミ』の音なんです」

 

 私はそう言ってメモに書いてあるミの部分をトントンと指差す。

 

「それから黄の魔石の音は『ファ』で青の魔石の音は『ソ』、緑の魔石の音は『ラ』です」

「このメモに書いても?」

「どうぞ。これ、あとでアルスラン様にお渡ししてください」

 

 ソヤリはさっき私が言った通りにメモにあるそれぞれの文字の下に魔石の色を書いていく。私はそれを確かめながら「あー」と順番に魔石の音を出す。

 

「それで、私の中の音っていうのがこの『ド』の音なんです。あー」

 

 その音を聞いたソヤリが腕を組む。

 

「……私の音とは違いますね」

「あ、そうなんですか?」

『自分の中の音は人によって違うからな』

 

 私とソヤリの会話に王様が入ってくる。

 

 へぇ、自分の中の音はみんな違うんだ。

 

「私の場合はこのドの音なので、音合わせをする時はこのドから魔石の音に向かって引き上げていくんです。ドーレーミーファー、とかドーレーミーファーソーとか」

「この順番に上げていくのですか」

「そうです。私はこの音階が身についているので、勝手に順番に引き上がっていくんです」

「それは我々がやる音合わせより効率が良いのですか?」

「効率が良いというより、正確に音を捉えられるという感じでしょうか。みなさんの音合わせのやり方は、魔石の音という的の中心に向かって色んな場所から矢を射る感じだと思います。その的を狙ってエイッと矢を放つ感じなので当たるときは当たるけど失敗する時もある」

「……確かに、慣れればその失敗は無くなりますが初めのうちは失敗が多いですね」

「私のやり方はその的に向かってすでに道ができてる状態なんです。その道の上に玉を置いて転がすだけで勝手に的の中心に当たりますし、どこから投げてもその道に沿って転がるので的を外すことがありません」

「自動的にその音に繋がっていると」

「はい。だから失敗なんてしませんし、そんなに集中力もいりません。慣れれば一瞬でその音に到達できますよ」

「…………」

 

 ソヤリはそれを聞いて顎に手を当ててまた考え込む。目線はメモに固定されている。すると腕輪の方から王様の声が響いてきた。

 

『ディアナ、我々は音合わせをするときに身近なものを叩いて似ている音を探すのが一般的だが、その音もその音階にあるということか?』

「うーん、どうでしょう……その辺のものを叩く音っていうのは音程のある音ではないというか、いろんな音が混じっていて音階の中の音として捉えられないことが多いんです。コップをチーンと鳴らしたりとか、一定の音でプーと鳴らさないと正確な音として捉えるのは難しいと思います」

『では我々が的にしている音も、そもそも正確に合ってるとは言えないのだな』

「あ、そうですね、もしかしたらみなさんが魔石の音だと思っているものは正確には少しずれているのかもしれません」


 それでも音合わせはできるんだから結構アバウトなんだろうか、魔石術って。 

 

『……音を正確に捉えている其方とそうではない魔石使いで、使う魔石術の効果が変わるのかどうか……』

 

 王様はそう言って黙ってしまう。そこでソヤリがハッと気付いて王様に声をかけた。


「アルスラン様、それよりこのディアナの音合わせのやり方はそもそも学生には教えることは難しいのでは。この音階というものを教えるということは音楽を教えるということですから」

 

 まぁ、そうだよね。音楽が禁忌とされているこの世界では難しいよね。

 

「あ、でもソヤリさん、旅芸人が持ってた音出しって呼ばれるものを使えば音程を教えることはできると思いますけど」

「音出しですか」

「あれは楽器ではないんですよね?」

「そうですね。何かの合図をするときに鳴らすこともありますし、訓練の時にも使ったりしますから」

 

 私からみたらあれは立派な楽器だ。多分トランペットと同じで吹き方で音程が変えられるものだと思う。

 

 あと太鼓もあったしね。太鼓が大丈夫なんだったらリズムを取ることだってオッケーにならないかな。

 音楽はダメでもリズムがいけるならダンスができるんだけどなぁ……。

 

「どうされますか? アルスラン様」

『……すぐに実行することはできぬ技術ではあるが一考の価値はあるな。ディアナのやり方はもう少し研究がしてみたい』

 

 おや、少し王様の声に張りが出てきた?

 

『ディアナ、音階については今後も質問するかもしれぬ』

「え、あ、はい! それは喜んで!」

 

 もしかして音楽に興味持ってくれたのかな? だったら嬉しいな!

 

 それを聞いたソヤリが王様に確認をとる。

 

「ではこれは有益な情報であったということでいいのですか? アルスラン様」

『そうだな。ソヤリ、学院に置いてある拡声筒をいくつかディアナに渡してやれ』

「はっ」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

 

 やった! 交渉成立! マイクゲットだ!

 

『話はこれで終わりか?』

「はい! あとは勧誘を頑張ります!」

『……そうか』

 

 私がそう言った途端に王様のテンションが下がる。なんで?

 

「あの、アルスラン様、本当に演劇って面白いんですよ? アルスラン様も一度ご覧に……」

「もう切れましたよ」

 

 話の途中でソヤリが自分の腕輪をふるふると振った。見ると腕輪のとんがり石の光が消えている。

 

 むぐぐ……。

 

「演劇の良さを伝えたかったのに……」

「お忙しい方ですからね」

 

 ソヤリはそう言って机の上にあるメモを自分の懐に入れ、私に向き直る。

 

「さて、もう少しいいですか? ディアナ」

「これで終わりじゃないんですか?」

「貴女にもう一つ聞きたいことがあるんです。今日のアルスラン様のお声で気になるところはありましたか?」

「お声ですか?」

「面接の日にアルスラン様と話したあと、アルスラン様の体調について気にしていたでしょう?」

 

 ああ、あれか。

 

「私が抱いた印象でいいんですか?」

「はい」

 

 私が勝手に感じた感想でいいのだろうか。毎日顔を合わせてるソヤリの方が王様の体調についてはよくわかってると思うけれど。

 

「今日は最初の方はとても調子が悪そうに聞こえました。前回よりしんどそうというか、声に力がなかったです」

「……そうですか」

「でも最後の方は少し元気が出てましたね。声に張りが出てきて少しだけ楽しそうでした」

「アルスラン様は新しい知識を好んでいらっしゃいますからね。ディアナの話に興味をもたれたのだと思います」

「音楽のお話だったらいくらでもできますよ?」

「……アルスラン様が望めばお願いしましょう」

 

 ふっふっふん、やった。これからも王様に音楽の話をしてどんどん好きになってもらおう。

 

「……貴女は本当に不思議な人ですね」

「へ?」

「膨大な知識を持っている我が王が興味を惹くような新しい情報を持っているのに、その情報と交換するものがただの拡声筒とは」

「え、でも拡声筒は貴重な魔石装具だって……」

「作るのが難しいものなので大量生産はできませんが、それでも毎年新しく作られているものですから、何年後かには普通に出回ってますよ」

「ええええ!」


 もしかして情報の価値を低く見積りすぎた⁉

 

「……もっと貴重なものと交換した方が良かったんでしょうか」

 

 首をがっくりさせながらソヤリに言うと、

 

「まぁでも、ディアナの音合わせのやり方はすぐに実行できるものではありませんし、これくらいでよかったのかもしれませんね」

 

 と慰められた。

 

 ううう……そうか、あんなに本を読む王様が知らないことって本当に珍しいんだ。その価値を甘く見過ぎてた。

 でも音楽のことだったらまだまだ教えられることはある。それをこれからの交渉に使えばいいんじゃない?

 

 私はうんうんと一人で納得する。

 

「ソヤリさんと次に面会できるのっていつになりそうですか?」

「そうですね……ひと月に一度くらいはと思っていますが」

「では次の時までにまた情報を用意しておきます」

「またアルスラン様と交渉するのですか?」

「わかりませんけど、物事が進めば必要なものは増えていきますから」

「そうですか。ではこの部屋に呼ぶ時にはまた手紙を出しますので」

「あ、そういえばあの手紙って誰が私の部屋に入れたんですか?」

「さて誰でしょう」

 

 ソヤリはそう言って胡散臭そうな笑みを浮かべた。

 

 ソヤリさんって、絶対敵に回したくないタイプだよね……。

 

「ああ、そうだ、非常に不本意ですがクィルガーから貴女の様子を教えろと言われていたんですが、なにか伝えておくことはありますか?」

 

 クィルガーに伝言かぁ……えーっと……。

 

「……可愛い女の子の友達ができたって言っておいてください」

「……わかりました」

 

 そうしてソヤリとの面会が終わった。

 

 

 翌日、図書館で本棚の整理をしながらファリシュタに練習場所と拡声筒をゲットしたことを告げる。

 

「え? 本当に⁉」

「うん、学院側から許可を貰ったよ」

「じゃあ早くラクスとハンカルを誘ってみなくちゃね」

「そうだね」

 

 私はそう言って一枚ずつ硬いカードを本棚に挿していく。十八番の本棚はそれぞれのジャンル分けが済んで、そのジャンルの境目にわかりやすくジャンル名を書いたカードを挿していく段階まできていた。これが終わったら整理終了だ。

 

「ここまでが『冒険もの』でこっちが『建国もの』。でこっちは『恋愛もの』と」

「こう見たら本当にわかりやすくなったね」

「うん。こんなに早く終われるとは思わなかった。ありがとうファリシュタ」

「ううん、こういうの好きだから楽しかったよ」

 

 私たちは出来上がった本棚を改めて眺めた。整理するために全ての本を調べたので、結果的にこの本棚にどんな本があるかは把握できた。

 

「劇のお話はこの中から選んでいくの?」

「うん、今はね。この本の中で学生が興味持ってくれそうなものもちょこちょこ見つけたし。でも今年のはもう決まってるよ」

「あのクィルガー様の本?」

「ふふ、そう」

 

 そう言ってファリシュタと笑い合う。ファリシュタはあれからクィルガーの本をすぐに読んでくれて「すごく面白かった!」と興奮気味に語ってくれた。基本的に戦いの話なのだが、村の娘の話もあり女性でも楽しめる物語になっているのだ。

 そこまで計算して書いてるこの作家さんは本当にすごい。

 

「でもあのクィルガー様の本を劇にしようと思ったら長すぎるんじゃない?」

「うん、今回は演劇クラブの勧誘用に使いたいだけだから、物語の中の一部分を切り取って台本に起こそうと思ってる」

「台本って?」

「演じる役者さんの台詞と動きを書いた本のことだよ」

 

 私はそう言って自分の荷物から束になった紙を取り出した。

 

「これが台本」

「え? これディアナが書いたの?」

「うん。クィルガーの本を元に作ってるんだ。まだ途中だけどね」

 

 ファリシュタは台本に目を通しながら書いている台詞を口に出す。

 

「『おい、おまえはこの街の兵士だろう、なぜ村へ助けに行かない?』」

 

 私はそれに乗っかるように兵士の台詞を読んでいく。

 

「『騎士でもねぇのになぜ俺が危険を冒してあんなチンケな村へ助けに行かなくちゃいけねぇんだ』」

「『そうか、おまえは村を助ける力がないからそう言うんだな』」

「『あ? なんだと? 俺は強えぞ!』」

「『じゃあ俺と勝負してみるか?』」

 

 そこまで二人で読んでファリシュタはフフフと笑う。


「すごい、これ読んでるだけで劇になるんだね」

「そう、なんとなく劇の楽しさが伝わるでしょ?」

「うん、台詞を読み合うって面白いね」

 

 ファリシュタのその言葉に私はハッとする。

 

「そうだ、いいこと思いついた」

「え?」

「ラクスとハンカルを勧誘するのに、これ使えるかも」

 

 そう言って台本を覗き込んで続きの台詞を読んでいると、

 

「コホン、図書館ではお静かに」

 

 とやってきた司書の人に怒られた。

 

「すみません……」

 

 台本の読み合わせは図書館でしちゃダメだね。

 

 

 

 

王様との交渉でマイクを無事ゲットしました。

音階という存在に興味を示す王様ですが

演劇に興味はないようです。


次は初めての読み合わせ、です。

ディアナの演劇のターンが始まります。

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