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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
一年生の章 武術劇

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基礎魔石術学、青の章


 今日は基礎魔石術学の青の授業だ。

 

 青の魔石術は今までも使ってるし、特に問題ないかな。

 

 そう思いながら小教室で待っていると、本鈴から少し経ってヨボヨボとヘルミト先生が入ってきた。

 

「えー、今日は青の魔石術についてやっていこうと思います。えー、そこの君……」

 

 と、先生が言い終わる前に前列の端に座っている生徒が席を立って廊下へ向かい、教科書と魔石の乗ったワゴンを押して入ってくる。

 

「あの子……すっかり助手だね」

「気の毒というか、順応するのが早いというか」

 

 私とファリシュタはそう言葉を交わしながらその生徒を見つめる。

 教室の生徒全員に教科書と青の魔石が行き渡る間に、ヘルミト先生は教室の隅から椅子を持ってきて教卓の向こう側に座った。

 

「えー、では今日は青の魔石術について学んでいきましょう。青の魔石術は還元の魔石術と呼ばれています。洗浄、浄化、鎮静、解除など対象物の状態を元に戻す効果があることからそう呼ばれるようになりました」

 

 なるほど……なにかを取り去る力なのかと思っていたけど、還元の力なんだ。

 

「四つの魔石の中では一番安全な力だと言われていますが、鎮静は大きな力でかけすぎると、対象物の生命活動を下げ過ぎてしまう恐れがあります。興奮しているものを鎮めるにはいいのですが、普通の状態の人にかけると廃人のようになる場合もあるので気をつけてください」

 

 その説明に私は一人青ざめる。

 

 うわぁ、結構怖い魔石術だった。クィルガーの覚醒を鎮めようとして使ったけど、力加減間違えてたら危なかったのかな……。

 魔石術はちゃんとしたところで習わなければいけない理由がわかるね。

 

「今日はまず洗浄の魔石術をやりましょう。これは力加減を間違えても綺麗になる範囲が広がるだけで済みます。あとみなさんが校舎や寮内に入るときに使うものですしね」

 

 そう言って先生はほっほっほと笑う。

 アルタカシークの建物内はほとんどが床に座る仕様になっているので、基本的に汚れた靴では歩かない。そのため外を歩いてから校舎や寮に入る時に、靴に洗浄の魔石術をかける必要があるのだ。

 上級生はみんな自分で自分の靴を綺麗にできるが、一年生は自分の魔石を持っていないので各建物の入り口にいる「洗浄係」なる上級生に魔石術をかけてもらっている。

 

 一年生が入ってくる入り口でずっと待機してるのも大変そうなので、入り口に青の魔石を設置しておけばいいのに、と密かに思っていた私は手をあげて質問する。

 

「先生、校舎の出入り口に青の魔石を置いておけばいいと思うんですけど……」

「なぜですか?」

「青の魔石を置いておけば『洗浄係』が一年間もその役目をしなくてもいいですよね?」

「一年間『洗浄係』をしないと罰にならないですからね」

「え?」

 

 先生はそう言ってほっほっほと笑いながらその事情を説明する。

 

「あの『洗浄係』の上級生たちは、みな昨年度になにかしらやらかした生徒たちなのです。彼らはその罰として新入生に洗浄の魔石術をかける役目を負っているのですよ」

 

 なんと、あれは罰だったのか。

 

「早々に役目を終えては罰になりませんから、校舎の出入り口に青の魔石を設置しないのです。みなさんも来年あの係に任命されないよう気を引き締めて学生生活を過ごしてください」

 

 「それは嫌だな」「授業終わるごとにあそこに行かなきゃいけないんて」と生徒たちは顔を顰める。

 

「悪いことしたら説教部屋で怖い罰があるって言ってたけど、こういうのもあるんだね……」

「一体なにをしたらそんなことになるんだろう……」

 

 真面目で優しいファリシュタは首を傾げているが、洗浄係の上級生たちは圧倒的に男子生徒が多かった。きっと喧嘩とかその辺だろう。

 貴族は育ちがいいからそういうものとは縁遠いと思ってたが、ファリシュタの話を聞く限り嫌がらせなどは普通にあるようだし、イシーク先輩みたいに血気盛んな男子生徒はそれなりにいそうだ。

 

「今日は洗浄の魔石術を練習するのですが、せっかくなのでちょっと特殊なものの汚れ洗浄しましょう」

 

 先生はそう言うと、腰紐にかかっていた布袋を教卓の上に置いた。ドサっと置かれた布袋はなにやらもぞもぞと動いている。

 

 え? なんか生き物が入ってる?

 

 ヘルミト先生がほほほと笑いながらその布袋を開けると、中から一匹の小さな生き物が出てきた。トカゲのような体に、翼がついている。

 

 これってもしかしてドラゴン⁉

 

「この子はバトカクドラゴンといって主に沼地に生息している小型のドラゴンです。ドラゴンの中では知能も高く、人の言うこともよく聞くので危険は少ないですよ」

 

 先生がそう言うと、ドラゴンは生徒たちの方を向いて「モギャア」と鳴いた。

 潰れたヒキガエルみたいな声に吹き出しそうになる。顔は可愛いのに全身が沼みたいな色なので、ペットにしたいかと言われたら正直悩んでしまう残念なドラゴンだった。

 

 そのドラゴンの声に反応したのか、スカーフの中で寝ていたはずのパンムーがごそっと動いた。私はスカーフの中に手を入れて「大丈夫だよ」とパンムーを指で撫でる。

 そして変わったドラゴンの登場でざわついていた生徒に先生が恐ろしいことを言った。

 

「このドラゴンは口から泥を吐くので、今からみなさんの机をその泥で汚してもらいます。みなさんは自分の机を魔石術で洗浄してください。できなければ、ずっと汚いし臭いですよ」

 

 えええ⁉ やり方がアグレッシブ過ぎない?

 

 生徒から不満の声が上がるが、先生は気にせずドラゴンに命じる。命じられたドラゴンはバサッと翼を羽ばたかせて教室の天井まで浮上したあと、滑空しながら生徒の上を旋回し始めた。

 そしてゆっくり降下を始め、三段目から順番に机に向かってぺっと泥を吐きだした。

 

「きゃああ」

「うわっ」

 

 べちょっと泥の塊が机に落ちてきて生徒たちが悲鳴をあげる。見てる間に私とファリシュタの机の上にも泥が降ってきた。

 

 うげっ本当に臭いよこの泥……!

 

 しかも落ちてきた衝撃で自分のマントにも泥が飛んでいる。

 

 うひぃ、先生なんつーことを。

 

 私はたまらず青の魔石を握りしめて名を呼ぶ。

 

「『マビー』机と服に洗浄を」


 そう命じると魔石から青のキラキラが出てきて机と服を包み込み、ファンッという音とともに泥が消えた。と思ったら、隣のファリシュタのところの泥まで消してしまっていた。

 

 あらら、また制御できなかったな。

 

「ごめん、ファリシュタのとこまでいっちゃった」

「い、いいよディアナ……すごく臭かったから……」

 

 ちょっと助かったという顔でファリシュタが言う。

 音合わせはなんとかこなせるようになっている他の生徒も、こんな状況で冷静にかけるとなると難しいのか、洗浄の魔石術をうまくかけられず苦戦していた。

 そんな中、もう聞き慣れてしまった甲高い声が響く。

 

「なんですの……なんですのこれは! ああ! 私の服が! なんてことを! 私は王女ですのよ⁉ こんなことあり得ませんわ‼」

 

 そう言って人一倍パニックになっているティエラルダ王女がわーわーと叫んでいる。

 

 叫んでる暇があったらさっさと洗浄すればいいのに……。

 

「ちょっとあなた、私に洗浄をかけなさい! 早く!」

 

 と、横にいるティエラルダ王女の取り巻きの一人に命令するが、その子も慌てていて魔石術どころではない。

 

「落ち着いて魔石術を使えばすぐ綺麗になりますよ、ティエラルダ」

「先生! こんなことをするなんて非常識ですわ!」

「ほっほっほ、どんな状況でも冷静に魔石術をかけられるようにならないと、優秀な魔石使いにはなれませんよ」

「私は優秀ですわ!」

「では問題ないですね」

 

 先生にそう言われ、ティエラルダ王女は青の魔石を持って名を呼ぶが、なかなか音合わせがうまくいかないらしい。魔石を持っている手がプルプルと震え始め、顔が真っ赤になっていく。

 

「っもう! 一体なんですの! なんで私がこんな……っ」

 

 文句の途中で王女はキッと天井近くを飛んでいるドラゴンを睨みつけた。

 

「私をこんな目に合わせるなんて許しませんわ!」

 

 そう言って机の上にあった筆箱を掴んでドラゴンに向かって投げつけた。勢いよく投げた筆箱はドラゴンにかすりもせず明後日の方向へ落ちていく。

 

 すごいノーコンだ。

 

 ドラゴンは無傷だったが、自分が攻撃されたとわかったらしい。身体中の鱗を逆立てて威嚇の声を上げた。

 

「なんですの⁉ 王女の私になにか文句でも……」

「モギャー‼」

 

 ティエラルダ王女が言い終わる前に、ドラゴンが叫んで大量の泥を吐いた。

 ドドドドドド! と悲鳴をあげる暇もなく王女の全身が泥に埋まる。

 

「これ! やめなさい!」

 

 ヘルミト先生が慌ててドラゴンを止め、ティエラルダ王女の方に行こうとするがヨボヨボしていてとても遅い。

 

 わぁこれまずいよ! 窒息しちゃう!


 私は席を立って三段目のティエラルダ王女の元へ向かいながら青の魔石の名を呼んだ。

 

「『マビー』ティエラルダ様に洗浄を!」

 

 そう言って魔石をかざすと、いつもより大量のキラキラが出てきてティエラルダ王女を覆っている泥の塊を包んだ。次の瞬間、ファンッという音と同時に大量の泥が消える。

 泥を被る寸前の顔のまま固まっていた王女は目を大きく見開き、そのままバターン! と後ろに倒れた。

 

「ティエラルダ様!」

 

 と取り巻きの女子たちが駆け寄る。「どれどれ」とようやくヘルミト先生が到着してティエラルダ王女の様子を見た。

 

「気を失っているようですね。医療係を呼んで医務室に運んでもらいましょう」

 

 そう言って私を振り返り、眉を下げる。


「助かりました、ディアナ。あなたが素早く洗浄をかけてくれたおかげで大事には至りませんでした」

 

 いや、王女様が大量の泥を浴びて人前で卒倒するって結構大事だと思うんだけど……。

 

「よ、よかったです……」

 

 その後ティエラルダ王女が運び出され、何事もなかったかのように授業は続けられた。ティエラルダ王女の大量泥被り事件が衝撃的過ぎたのか、一気に冷静さを取り戻した生徒たちは次々と洗浄の魔石術を成功させた。

 

 今日の授業は特に問題はないだろうと思ってたのに、なんかすごい疲れたよ。

 

 

 放課後、図書館の中で私はファリシュタと本棚の整理を始めた。とりあえずどんな本があるのか把握しないことには分類もできないので、まずは十八番の本棚にある全ての本のタイトルとジャンルを小さなメモ用紙に書き出していく。

 

「これは実在した人物の生涯を書いた本だから『伝記』で、こっちは完全創作ものだから『物語・冒険』だね」

「ディアナ、実在した人物の話を元にした創作物語はどうするの?」

「んー、楽しむための娯楽作品になってたら『物語』に分類しようか」

 

 と答えながら振り返るとファリシュタが持っていたのは「砂漠の騎士クィルガー物語」だった。

 

「……ファリシュタ、その本読んだことある?」

「ううん。私貴族になるための勉強が大変だったから、こういう物語の本を読む機会がなかっ……あれ? この本のクィルガーって……」

「……私もこの前初めて知ったんだけど、その本の主人公ってうちのお父様みたい」

「ええ!」

「私も驚いたけど、話としてはものすごく面白かったからおすすめだよ」

「……う、うん……読んでみる」

 

 その後も二人で手分けしてメモに書き出していく。ファリシュタは本当にこういう作業が得意らしく、本棚の前で作業しやすいようにワゴンを持ってきたり、メモがバラつかないように箱に分けていったり、きびきびと動いていた。


「本当によく気がつくね、ファリシュタ」

「私の家って農家でね、小さいころから家のお手伝いよくしてたんだ。だからこういう仕分けみたいな作業とか帳簿をつけたりとかは割と得意だよ」

「帳簿もつけれるの?」

「うん。実は勉強の中で一番好きなのって算学なの」

「へー! それは意外だぁ」

 

 そういうとエヘヘとファリシュタは照れ笑いをする。

 

「他の教科も好きになれたらいいんだけど」

「私も歴史さえ好きになれれば……」

「ディアナは歴史が苦手なんだね」

「うん、死ぬほど苦手」

「そうなんだ。そういえばハンカルは歴史が得意だって言ってたよ」

「テスト前に勉強教えてくれないかなぁハンカル」

「勉強会かぁ。それも楽しそうだね」

 

 そんな話をしながら私たちはせっせと本の整理を続けた。

 

 

 

 

思いがけずティエラルダを救うことになりました。

ヘルミト先生は結構マイペースです。


次は基礎魔石術学 黄の章、です。

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