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【書籍化&コミカライズ連載中】娯楽革命〜歌と踊りが禁止の異世界で、彼女は舞台の上に立つ〜【完結済】  作者: 藤田 麓(旧九雨里)
五年生の章 推理アクション劇

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私の変化


「ディアナ!」

「ディアナ様!」

「馬鹿! ルザとイシークは動くな!」

 

 覚醒してくる意識とともに周りの焦っている声が耳に響いた。一度目をギュッと閉じてから開くと、目の前にラギナの心配そうな顔があった。いつの間にか膝をついていた私を後ろから支えてくれている。

 

「ラギナ……」

「ディアナ、良かった。私のことわかる?」

 

 私は頷きながら体を起こして、周りを確かめた。高炉の中でみんなの位置は聖火と繋がる前と特に変わっていない。高炉の出入り口の方を見るとルザとイシークが数歩前に身を乗り出していたので、私は大丈夫だよと笑顔で頷く。二人のホッとした顔を確かめたあと目の前の台の上に浮かんでいる聖火に視線を向けた。

 

「あの……私、どうなっていたのですか?」

「それが……透明の炎を作ったところで、ディアナの体がいきなり白く光り出したんだよ。びっくりして声をかけてもディアナは炎に手を伸ばしたまま反応しないし、もうどうしようかと思った」

 

 ラギナが言うには私は白い光に包まれたまま炎を出し続け、数分ほどしたところでいきなり炎と白い光が消えて崩れ落ちるように倒れたんだそうだ。こんな現象は初めてだったらしく、火守りたちもテクナ先生も未だに動揺している。

 

 聖火様と結構喋ったと思ったのに、数分の出来事だったのか……。


「ディアナ、一体なにがあったの? 体は大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ。というか、元気になりました」

「へ?」

 

 私はくすりと笑って聖火と向き合う。私がスッと手を伸ばすと、聖火はじゃれるように私の腕の周りをくるくると回り出した。その光景に周りの人たちが息を呑む。

 

「聖火様と、少しお喋りをしたんです。ね?」

 

 聖火はそれに応えるようにピカピカと発光する。

 

「お、お喋り? え……喋れるの?」

「はい。ちょっと特殊な空間でしたが……お喋りすることができました。ふふ、とても可愛い少年のような声だったんですよ」

「ええ——! なにそれ! 羨ましいぃぃぃぃ!」

 

 そんなラギナの反応に後ろにいたテクナ先生がずっこけた。

 

「なんだその感想は! もっと他に言うことあるだろうが馬鹿娘!」

「なんでよ! めちゃくちゃ羨ましいじゃない! ええー私も聖火様とお話ししたぁい!」

 

 ラギナがそう叫ぶと聖火はその場でぴょんぴょん跳ねる。

 

「ラギナのことも気に入っているって言ってましたよ。見てると面白いって」

「え! ほんと? 私のことも話したの?」

「はい。ラギナからは火のことが大好きだって気持ちが伝わってくるから、聖火様も好きだって。あと火守りの人たちもいつも居心地のいい場所を作ってくれるからいい人たちだって言ってました」

「う……うそ……私の気持ち、伝わってたんだ……う、嬉しいぃぃ!」

「なんと……聖火様が……」

 

 イルハンはそう呟くとその場で跪き、「なんという光栄でしょうか……」と言って恭順の礼をとる。よく見ると周りに跪いている火守りたちの中には肩を震わせている者もいた。何千年も火を守り続けてきた彼らにとって聖火の言葉はかなり心に響くものだったようだ。

 

 ていうか、聖火様が喋ると分かった途端、みんな様づけで呼ぶようになっちゃったね。

 

 その変化にふふ、と笑っていると、テクナ先生が呆れた声を出した。

 

「お前ぇはほんとに……毎度信じられないことするな。なんなんだ一体」

「そう言われましても……私もまさか聖火様と喋れるとは思っていませんでしたし……不可抗力といいますか……」

「はぁ……そんな言葉で片付けられることじゃねぇぞ……それで、聖火と喋ってなにか変わったのか?」

「え?」

「顔がさっきと違ぇから」

「そうなんですか? それは……良かったです。えへへ、聖火様とお話ししてかなり楽になりました」

「そうか。ならいい。で、他になにか言ってたか? 俺たちへの要望なんかは?」

 

 テクナ先生は私の周りをウロチョロしている聖火を見ながらそう尋ねる。

 

「いえ、特に不満はないそうなので、今まで通りで大丈夫だと思います。あ、ただ……」

「なんだ?」

「これからも時々お喋りをしようと聖火様と約束したので、こちらにちょこちょこお邪魔してもいいですか?」

「は? お喋りだと?」

「はい。退屈しなくていいと仰って……」

 

 私がそう答えるとテクナ先生は頭を抱えた。

 

「あの、先生?」

「意味がわからん……」

「学生がここに来るのはやっぱりダメでしょうか?」

「聖火が喋りたいって言ってんだったら止めるわけにはいかねぇだろ。もういい、勝手にしてくれ……俺の手には負えん。イルハン、ディアナと聖火について任せていいか」

「なんと、私に任せていただけるのですか?」

「聖火の取り扱いはお前が一番よくわかってるし、ディアナは平民だろうがなんだろうが態度を変えるやつじゃない。こいつの子守りはお前に任せる」

「むぅ、子守りとはなんですか、先生」

「俺から見たらただの面白い子どもだ」

 

 近づいてきたテクナ先生が私の頭をポンポンとタップすると、イルハンと周りにいた火守りたちが一斉に私の前にザッと整列して跪いた。

 

「え? あの……」

「かしこまりました。このイルハン、聖火様とディアナ様をお守りすることをお約束いたします」

 

 ま、待って、子守りが拡大解釈されてない? めちゃくちゃ仰々しくなっちゃったよ。

 

 火守りたちの対応に驚いていると、ラギナが横からずずいと顔を寄せてくる。

 

「ディアナ、ねえ! 私もそのお喋りに参加できない?」

「え? いやそれは……多分難しいかと」

 

 聖火と話すには透明の魔石術を使わなくてはならない。現時点でそれをラギナにかけるのは不可能だ。

 

「ええー……つまんない……」

「でもラギナの言いたいことを伝えることはできますよ」

「あ、そっか。イシシ、いいね。じゃあディアナが聖火様とお喋りする時は私も呼んで! 直接話せなくてもその様子を見たいから」

「って言ってますけど、いいでしょうか?」

 

 私は台の上で跳ねてる聖火に問いかける。彼はそれに応えるようにピカピカと点滅した。

 そうして、私は今後も聖火を尋ねてここにちょこちょこ遊びに来ることになった。今聖火の機嫌がいいのならということでルザとイシークもついでに紹介して、聖火に覚えてもらう。二人は聖火の許しを得て私の近くにいれるようになったのでかなり安心したようだ。

 超高温の火入れにかなり時間を使ってしまったので、私は仕事の邪魔にならないように聖火に別れを告げて工房をあとにした。

 

「ディアナ様が白い光に包まれた時は……本当にどうしようかと思いました」

「心臓が止まりそうでした……」

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」

 

 工房からの帰り道、二人にそう言ってにこりと笑うとルザとイシークは同時に私の顔を覗き込んで「……本当にお顔が違いますね」「ディアナ様の憂いが晴れたようで嬉しいです」と顔を綻ばせた。二人のそんな表情は久しぶりに見る。

 

 本当に心配かけちゃったな……。

 

 頭がスッキリ晴れたからか、二人からの思いも素直に心に響いてくる。幸せなことだな、と思いながら私は冬の空を見上げた。

 

 

 それから私はいつもの日常に戻ることができた。今ある楽しさを感じていけばいいとわかったからか、目の前にある些細なことや楽しげな空気に触れて自然と笑うことが増えた。

 もちろん急に全ての不安がなくなるわけではない。ふとした瞬間に例の寂しい感情が出てくる時もあるが、そんな時はまず体を動かしてその感情に浸らない癖をつけるようにした。寂しい感情はあってもいい。ただそれに囚われなければいいのだ。

 そして調子を崩してから成果が芳しくなかった一級授業も順調に進むようになった。

 

「……いいだろう、合格だ」

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 手に握っているナイフが赤く光っているのを見て、私はホッと息を吐く。目の前にいるバイヌス先生が眉間に皺を寄せたまま片眉を上げた。

 

「調子は戻ったようだな」

「あ、はい……不甲斐ないところをお見せしました」

「お前は普段から気が抜けているからそこは気にしなくていい。しかし時間がかかったな……」

 

 先生の前半の台詞にちょっとムッとしながら私は赤色が消えてしまったナイフを眺める。去年やり始めた金属に魔石の力を宿すという課題が今年も継続されていたのだが、武器に力を宿す段階で私はずっと止まったままだったのだ。

 

 そもそも特性が透明の私には難しい課題なんだけどね。

 

 特性以外の魔石の力を武器に宿すのはとても難易度が高いのだ。現にバランス型の生徒の中でこれに合格できたのは私くらいしかいない。だがバイヌス先生は私が特級ということを知っているので容赦がないのである。

 

「これからはもっと早く宿せるように練習しなさい」

「はい……わかりました」

 

 すかさず次の課題を与える先生をじとっと見上げて、私は渋々頷いた。なにはともあれ不調は治ってきたのでこれからはもう少し順調に課題をこなしていけるだろう。


 

 

「ねぇヤティリ、ちょっといい?」

「う、うん。今ちょうど休憩中だから」

 

 とある日の練習室で私は脚本を持ってヤティリのいる小上がりに上る。彼はここのところ今回のフィヤト物語を小説の形に直す作業をしていた。

 

「あのね、ちょっとフィヤトの表現の仕方を変えてもいい?」

「表現の仕方を? どんな風にするの?」

「今まではフィヤトは変わり者というキャラクター性が前に出てたと思うんだけど、それにもう一つインパクトを足したいなって思って」

「インパクト?」

「ううーん……口で説明するのは難しいんだけど、こう、フィヤトは変わり者でよく喋るけどちょっと陰気臭いところがあるよね? インテリ特有のものというか」

「そうだね。推理のことばかり考えてる人ってそういうイメージだから」

「そう、それがちょっと重苦しい感じがしたんだよ。主人公のイメージってそのまま作品のイメージに繋がるから、だったらもう少し軽く強い部分も足したいかなって」

「ふむ……なるほど」

 

 私の言葉にヤティリは口元にペン軸の尾の部分を当てて考え込む。

 

「でもそうなるとキャラクターがブレないかな? 推理好きのイメージから離れる気がするけど……」

「それは……実際にやってみないとわからないけど……ああ、そっか今やってみればいいんだ」

「え?」

「ヤティリ、私の考えるフィヤトをやってみるからちょっと見てくれる?」

「ふぇ?」

 

 変な返事をするヤティリの向かいで姿勢を正して、私はフィヤトの冒頭にある台詞を喋り出した。親に次の仕事でヘマをすれば強制的に結婚の話を持ってくると言われて、フィヤトがぼやく台詞だ。

 

「ああーあ……面倒だね。なんで私は女に生まれてしまったんだろう。結婚なんてしたくないのに。ああでも、男に生まれてたとしても同じか……私はもっと自由に生きたい。好きなことだけ考えて生きたいよ」

「……!」

「この世界は謎に満ちている。その謎を解き明かすことに生涯をかけられたらこんなに幸せなことはない……! ああ、謎が私を呼んでいる。誰か私にもっと素晴らしい謎を持ってきてくれ……っ」

 

 台詞と言い終わると、ヤティリがポカンと口を開けたまま固まっていた。

 

「すごい……同じ台詞なのに全然印象が違う……!」

「これが私が今考えるフィヤトなんだけど、どうかな?」

「い、いいよディアナ! 確かに前までの鬱々としたフィヤトからかなり印象が強くなってる。それに思ったより推理好きと離れてる感じもないね。明るい変態って感じ……!」

「明るい変態……」

「物語を引っ張っていってる感じがするよ。うん、こっちの方が断然いい」

 

 彼の回答を聞いて私も笑顔で頷く。

 

「良かった。じゃあこれでいってみるね」

「で、でも今からこの感じで全部演技を直すの? 大変じゃない?」

「一度役を掴んだらあとは覚えてる台詞に感情を乗せるだけだから大丈夫だよ」

「ふへ……そんなものなんだ……さすがディアナ。ああでも今の演技見てたら小説のフィヤトも直したくなってきたな」

「え?」

「ううーん……ちょっとこれ書き直すの延期しよ。ディアナの今の演技をもっと見てから書き直したい」

「あ、ごめん、もう途中まで直してたんじゃないの?」

「いいよ。どうせなら面白くなる方を書きたいし。他にも書きたいものはあるからそっちから手をつけるよ」

 

 彼はそう言って目の前にある原稿を片付けながら「デュヒヒ……これだからディアナはたまんないね」と変なことを言って肩を揺らした。側にいたルザがすかさず半眼になって彼を睨んだ。

 

 

 

 

聖火と話したその後。

徐々に復調してきたディアナ。


次は ファリシュタとの約束と冬休み、です。

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