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大蛇来襲と出会い


 ウソ……どうしよう!

 

 穴の大きさはおそらく縦横二メートル以上はある。その穴の横幅ギリギリで入ってきたということは、つまりこの大蛇の頭の大きさもそれくらいあるということだ。

 大蛇は穴から体を少しだけ入れると、ゆっくりと頭を動かしながら部屋の中の様子を探り出した。よく見ると額にも目がある。

 チロチロと長い舌を出したり引いたりしている姿を見て、蛇は目が悪いから舌で匂いを感知して行動するのだという豆知識を思い出した。

 

 確実に獲物を探してるよね……わ、私かな……?

 

 それに気付いてゴクリと唾を飲み込む。虫や爬虫類は平気な方だが流石に三つ目の大蛇には出会ったことはない。

 蛇を凝視したまま動けないでいると、肩にいるサルが両手両足で必死に私の肩を掴み震え出した。その本気で怖がっている感触に自分の恐怖もさらに増してしまう。

 

 うひぃ……どうしたらいいの?

 

 すると大蛇が何かを嗅ぎ取ったようにゆっくりと頭を下げ始めた。ズルズルと胴体が部屋の中に入ってくるが、大蛇はかなり長いらしく尻尾は見えない。

 ゆったりと真っ直ぐに自分の方に向かってくる大蛇の頭を見てさすがに私の体も震え始める。

 

 マズいマズいマズい……!

 ととと、とりあえず動かなきゃ!

 動け動け動け動け‼

 

 心の中でそう叫ぶが体が全然言うことを聞かない。顎が勝手に震えて歯がカチカチと鳴り、大蛇がそれに気付いて私の頭上三メートルあたりでピタリと一度止まる。そして次の瞬間、勢いよく口を開けて私に襲いかかった。

 

「グアアアア‼」

「ぎゃ————————————っ‼」

 

 恐怖より逃走本能が勝った私は叫びながらその口の攻撃をギリギリで避けた。大蛇はものすごい勢いで床に口をぶつけるがすぐに上へ頭を引っ込める。

 チロチロと舌を出し、逃げた私の匂いを捉えると再び襲いかかってくる。

 

「ヒィィィィ————————‼」

 

 私は叫びながら大蛇の攻撃を走って避ける。が、部屋には隠れるところがどこにもない。

 

「やだ! 死ぬっ死ぬって! やだやだやだ誰か助けて——‼」

 

 私は大蛇の口を避けながらそう叫ぶ。

 こんなところで蛇に食べられて死にたくない。いやもう死んでるんだっけ? 死後の世界だったら食べられても大丈夫? そんなことを思うが蛇の獰猛な口を見たらとてもじゃないが冷静ではいられない。

 嫌だ。あの中に丸呑みされて食べられるのは絶対に嫌だ。

 それから私は必死で逃げる。子どもの体にしては体力があるらしく、しばらく攻撃を避けて走り回っているといきなり上の穴から声が聞こえた。

 

「おい‼ そこに誰かいるのか⁉」

 

 ウソ誰か来た⁉ やった!

 

「います‼ 助けてぇ——‼」

 

 必死でそう叫ぶと、突然大蛇がギャア! と悲鳴を上げて体をビクつかせ、ザザザーっと穴の外に体を引いていく。

 大蛇の頭が穴から見えなくなって、私は部屋の隅っこの床にペタリと座り込んだ。

 ハァハァと肩で息をしていると、横から「パムゥ」と小さな声が聞こえる。肩の方を見るとサルが怖かった、という顔をしてぷるぷる震えていた。怖かったね、と私はサルをそっと撫でる。

 

「大丈夫か?」

 

 その声に顔を上げると、大柄の男性が穴からロープを垂らして部屋の中に降りてきていた。タンッタンッと足で壁を蹴りながらスルスルと降りてくる。慣れた動きだ。

 その人は紺色の羽織に銀色の胸当てと籠手、茶色のロングブーツという出立ちで、腰から剣を下げてる。

 いかにも冒険者という感じの男性だが、頭に変わったバンダナのようなものを被っていた。白いハチマキのようなものを後ろで縛っていて、頭頂部は露わになっているが後頭部は四角い布地が被さっている。どこかの映画で見た砂漠の部族の人が使っていそうなバンダナだった。

 

「怪我はないか?」

 

 その男性が床に降りて近づいてきた。日焼けした肌色に赤い目。筋肉質な体に整った精悍な顔立ちをしていて、背がめちゃくちゃ高い。歳は三十前くらいだろうか。

 髪はバンダナに隠れていてよく見えないが、頭頂部を見ると銀に近い金髪を細かく編み込み何本も後ろに流していて、その三つ編みの先は肩甲骨の下あたりまであった。

 

 なんか怖そうな感じだけどまともな人っぽいね……。

 

 私は立ち上がり、服の汚れをはたきながら男性にお礼を言おうと明るい場所まで進み出る。すると男性が驚愕して目を見開いた。

 

「っ……‼ お前……エル……フ、か……⁉」

「……へ?」

 

 男性の驚きと警戒に満ちた赤い目が私を捉える。

 

「え? ……エルフ? 私エルフなんですか?」

 

 そう答えながら初めて私は自分の耳に手を当てる。根本から指を這わせていくと、そこに人間とは明らかに違う長さの耳があった。

 

「わぁ本当だ。耳が長い! 私エルフだったの? あ、だから木々のざわめきやサルの声がうるさく聞こえてたのか」

「あ? なんで自分のことエルフだって知ら……」

「クィルガー! 抜け駆けは許さないわよ!」

「げ……うるさいのに見つかった」

 

 クィルガーと呼ばれた男性が顔を顰めて穴を見上げると、穴から伸びたロープを伝って今度は女の人が降りてきた。

 すぐに女性だと分かったのは今の声と、その、体つきが私から見ても見惚れてしまうほど豊満だったからだ。彼女のすぐ後ろから男性が二人、同じようにして降りてくる。

 

「私たちを出し抜いて先に祠を見つけようとするなんてずるい男ね!」

「別に出し抜いたつもりはねぇよ。ここの情報を先に知って動いただけだ」

「なんの情報もなかったってあの村で言ってたのはなんなのよ⁉」

「さて?」

 

 ナイスバディの女性が男性にプンプン文句を言いながら床まで降りてこちらにやってくる。

 

 うひゃあ、なんつう美人。

 

 その女性は透き通るような肌色に紫の目、意志の強そうな黒い眉をしている二十代半ばくらいのエキゾチックな顔立ちの美人さんで、ウェーブがかった艶のある黒髪が胸下まで流れているのだが、その毛先にかけて黒からローズピンクに色が変わっていた。

 白いマントをゆったりと羽織り、その下にはラベンダー色の脛丈まである長い上着を纏って腰紐で締めている。その上着にはピンクや白の豪華な刺繍が裾にかけて入っているので冒険者っぽい格好なのに上品に見えた。

 頭には洗顔するときのヘアバントみたいな、シンプルな形のバンダナが巻いてあって、背中に弓を背負ってるのがチラリと見える。

 

「で? 何かめぼしいものは見つかっ……」

 

 そう言って近づいてきた女性は私を見て、ピタリと動きを止めた。紫の目を目一杯開き口をパクパクさせている。

 

「エ……エエ……エル…………」

 

 そこでハッとして口を押さえる。言ってはいけないことを言いそうになった、という顔だ。そんな彼女の後ろから男性二人が私を覗き見て大声を上げた。

 

「えええ⁉ もしかしてエルフ⁇」

「うわぁ! すごーい! 初めて見たぁ!」

「あんたたち! 呑気な声出してんじゃないわよ!」

「姐さんだって驚いてるじゃないですか」

「可愛いねぇ、迷子かな?」

「こんなところに迷子のエルフがいるわけないでしょう⁉️」

 

 警戒心よりどちらかというと好奇心が勝った声で騒ぐ二人に、女性がことごとくツッコむ。

 どういう人たちなんだろうと思ったがそれより彼らの反応が気になった。エルフはこの世界ではそんなに珍しいものなのだろうか。

 どう反応していいのか分からずオロオロしていると、クィルガーと呼ばれた男性が女性に状況を説明し出した。

 村の情報を元に祠を探し回ったが全然見つからなかったこと、そんなときどこからか悲鳴が聞こえて駆けつけると大蛇が穴に首を突っ込んでいたこと、穴の中に呼びかけると助けてと返ってきたから穴の外に出ている蛇の胴体に攻撃をしたこと。

 大蛇は体を庇うように森の奥に消えたこと。そして中に入ると私がいたこと。

 

 へぇ、ここって祠だったんだね……。

 

 どうやらこの建物は完全に土と植物に覆われているらしく、外からは全く建物とはわからないらしい。あの穴に大蛇が突っ込んでいたから発見できたそうだ。

 その状況を聞いた女性が少々緊張しながら腰を屈めて私と視線を合わす。

 

「それで、あなたは自分がその、エル……フって知らなかったの?」

「……はい。さっき耳を触って初めて知りました」

 

 コクリと頷いて答えると、男性が私を見下ろして聞く。

 

「おまえ、名前は?」

「…………わかりません」

「は?」

「私、さっきここで目覚めたばかりなんです。体ごと氷漬けにされてたみたいで、それが割れて崩れたので動けるようになりました。……目覚める前の記憶は何もありません」

「氷漬けだと?」

「記憶がないの?」

 

 どちらの質問にも頷いて答える。前世の記憶はあるがこのエルフの子の記憶は全くない。

 

「記憶がないのに私たちの言葉はわかるのね?」

「……そういえばそうですね。なんでわかるんでしょう……」

 

 自分でも疑問に思いながら首を傾ける。あちらで死んでからこの世界に来てサルしか相手にしなかったから特に考えなかったが、どうやらここは死後の世界とかではなくいわゆる異世界の、しかもエルフの子どもの体に私の意識が入ってるという状況らしい。

 

 だとしたら、このエルフの子の元の意識はどこへ行ったのかな。氷漬けにされてる間に死んじゃった? この子がここの言葉を喋ってた記憶だけ受け継いだのだろうか。そんな都合のいいことある?

 

 そんなことを考えて首を捻っているとクィルガーが女性を手招きして後ろを向き、コソコソ話し出した。

 

「ヴァレーリア、おまえこれ以上関わるな」

「え?」

「わかるだろ? エルフだぞ? しかも記憶がないとか言ってるんだ。普通の宝とは訳が違う。深く関わる前に離れた方がいい」

「あなたはどうするのよ」

「こいつを見つけちまったのは俺だ。その責任は取る」

「あなたとこんな小さな子を二人きりにできるわけないでしょう⁉」

 

 二人は私に聞こえないようにと小声で喋っているが残念ながら丸聞こえだ。エルフだもの。

 

 しかしエルフって……ここでは結構危険な存在なのかな?

 

 その二人のやりとりを聞いて不安に思っていると、キュルルルルルーといきなり私のお腹が鳴った。

 

 ほわぁ! 恥ずかしい!

 

 突然の自分のお腹の音に赤面してアワアワしているとその音を聞いた子分のうち、ぽちゃっとしてる方の男性が笑って言った。

 

(あね)さん、とりあえず昨日の野営地まで戻ってご飯にしませんかぁ? もうすぐお昼ですし」

 

 お腹をすかせた子どもが焦っている姿に同情したのか、そこにいる全員がそれに賛同し、私たちは上部の穴から祠の外に出ることになった。

 

 

 

     

強そうな戦士に助けてもらいました。

自分がエルフであることにびっくり。

知らない人たちに囲まれて緊張しているのにお腹が鳴りました。


次は お昼ご飯と自己紹介、です。

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