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クラブ活動初日と新メンバー


 各寮の玄関ホールに演劇クラブの活動日を記した紙を貼り付けてから数日後、クラブ活動の初日となった。午後の授業が終わって、私は側近二人とファリシュタとハンカル、ラクスとともに練習室へと向かう。

 

「やっと今日が来たねぇ」

「ふふ、楽しそうだねディアナ」

「俺も楽しみだぞ!」

「……あれ? 練習室の前に誰か来てるな」

 

 ハンカルの声に前を向くと、廊下の先にある練習室の前に数人の生徒が立っているのが見えた。見知った顔の人たちではないのでクラブメンバーではない。

 そのうち一人が私たちが歩いてくるのに気づいて隣の人のマントをクイクイッと引っ張る。引っ張られた人がこちらをみてパッと顔を輝かせた。

 

「こんにちは! ああ、よかった。ここで合ってたんだな」

「こんにちは……あの、もしかして演劇クラブに用事が?」

「ああ、俺たち演劇クラブに入りたいと思って来たんだ」

「え! 入会希望の方ですか⁉︎」

「そうだ! 俺たちはそう思ってここに来たんだけど、そっちの女子たちも入会希望なんだそうだ。だから一緒にここで待ってた」

 

 その元気のいい男子生徒はニカっと笑って側に立っている三人の男子と、その横に体を寄せ合って緊張した面持ちで立ってる女生徒二人を指差す。そこへさらに二人の男子生徒が廊下の奥から歩いてきた。

 

「あの、僕演劇クラブに入りたいと思ってきたんですけど」

「あ、僕も」

 

 お、おおおお! 嘘! 入会希望者がいきなりこんなに⁉

 

 私が口を開けて感動していると、ラクスが元気がいい男子生徒の後ろに立っている男の子を見て目を見開いた。

 

「あ! タルティンじゃないか! おまえも演劇クラブに入ってくれるのか?」

「うん、面白そうだから」

 

 タルティンと呼ばれた可愛い顔の男の子はラクスと顔見知りのようだ。

 

「とりあえず中に入りましょうか」

 

 私は練習室の鍵を開けて来てくれた人たちを中へ入れる。そこへいつもの演劇メンバーも次々とやってきた。みんな入会希望者の人たちを見て驚いている。

 

「ディアナ様、まだ扉の近くにいてください」

 

 全員が練習室の中に入り、私がみんなの集まっているところへ行こうとすると、ルザとイシークに止められた。いきなり人数が増えたので、念のため少し離れた場所から危険な人物がいないかチェックしたいようだ。

 私が新しい人たちのことを眺めながら扉近くに立っていると、コンコンというノックとともに扉がガチャリと開いて、そこからツァイナが顔を出した。そして中の様子を見てギョッと目を見開き、すぐに扉を閉めてしまった。

 

「あ、ちょっと、ツァイナ!」

 

 私が慌てて声をかけるとイシークがサッと扉を開けてくれる。出入り口から覗くと、ツァイナは扉のすぐ横の壁に背中をくっつけて深呼吸していた。

 

「ツァイナ、大丈夫だよ」

「!」

 

 私の声が聞こえてツァイナは勢いよくこちらを振り向く。


「半分くらいツァイナと一緒で今日来たばかりの人たちだから」

「そ、そうなんですか……」

「来てくれて嬉しいよ。ほら入って、ファリシュタやナミクもいるから」

 

 私がそう言うと、ツァイナはホッと息をついてススッと中へ入ってきた。その時ツァイナの細かな三つ編みの先にキラリと光る髪飾りがついているのが見えた。こういう装飾品は前までつけていなかった気がする。

 

「ツァイナ、その髪飾り綺麗だね。よく似合ってるよ」

「! あ、ありがとうございます……。これ、学院が始まる前にお父様からいただいたんです」

「そうなんだ。やっぱりツァイナのお父様は優しい方なんだね」

 

 私が笑うと、ツァイナも照れ臭そうに笑った。どうやら貴族の家族とも前よりはうまくいっているようだ。

 

「おや、随分と賑やかですね」

「オリム先生」

 

 ツァイナのあとにオリム先生もやってきたので、とりあえず新しい子たちはオリム先生の方へ集まってもらうことにした。先にオリム先生の持っている入会申請書にサインしてもらうためだ。それが終わってから自己紹介してもらうことにして、そこから離れた小上がりの方にいつものメンバーと集まる。

 

「いやぁ、びっくりだね。いきなりこんなに増えるなんて」

「七、八……九人か。去年より明らかに増えるな」

 

 と、チャーチとケヴィンが言えば、

 

「今年はアードルフ先輩がいないからお茶の用意が大変そうだねぇ」

「シャオリー先輩、心配するところはそこではないのでは……」

 

 とシャオリーにイリーナがつっこむ。

 

「みなさん役者志望なんだろうか?」

「裏方にも誰か来てくれるといいんですけど」

「本当だね」

 

 裏方三人組は新しい人たちの希望が気になるようだ。ちなみにヤティリは私たちがいる小上がりの近くにひっそりと佇んでいる。いつも自分が使っている小上がりのところにオリム先生たちがいるので、居場所がないようだ。私はそんなヤティリに声をかける。

 

「ね、ヤティリ、あとで脚本の打ち合わせしよ?」

「う、うん。わかった」

「それと、新しい子たちの特徴とかまとめてくれるとありがたいんだけど」

「ああ、そういうのは得意だから任せて……デュヒヒ」

 

 ヤティリはニヤリと笑うと懐からサッとメモ用紙を出してスタンバイを始める。そこへ、書類を持ったハンカルがやってきた。

 

「ディアナ、今日はどうするんだ?」

「そうだねぇ、せっかくだからまず新しいメンバー入れて改めて自己紹介しようか。それから今年の演目について話もしたいし、増えた音出しについても紹介したいし」

「今年の演目……」

 

 私の言葉にケヴィンがピクリと反応して苦い顔になる。

 

「そんな顔しないでくださいよケヴィン先輩。私、気合入ってるんですから」

「其方が張り切ると、とんでもないことになるではないか!」

 

 私の熱意を伝えようとしただけなのに、余計に心配になるようなことを言うな! と怒られてしまった。なんで?

 私が首を捻っていると、練習室の扉を強くノックする音がしてガチャリと開いた。

 

「失礼つかまつる! 拙者はクベストと申す者! こちらが演劇クラブの練習室で相違ないか?」

 

 やたらと威勢のいい男子生徒が扉前でビシッと姿勢を正し、変わった口調で問いかけてきた。

 

 な、なんか面白い人がきた……口調が完全に侍だよ。

 

 私がそちらへ行こうとするとハンカルが「俺が行こう」と出入り口に向かってくれる。

 

「ここは演劇クラブの練習室ですが、なにか?」

「演劇クラブに入会したく馳せ参じたのだが、受け付けてもらえぬだろうか?」


 え! この人も入会希望者⁉

 

「入会はいつでも受け付けていますよ。ちょうどあちらで同じ入会希望者の方たちが登録を行なっているので、そちらに行ってもらってもいいですか?」

「なんと! 同じように考える同士があんなにも。あいわかった。拙者もすぐに署名いたそう!」

 

 クベストと名乗った男子生徒はキビキビっと動いてオリム先生の方へ向かった。

 

「な、なんか変わった人だね」

 

 と、戻って来たハンカルに言うと、

 

「おそらくダナ国の人だろう。あの国の人は特徴的な喋り方をするからな」

「ああ、そうだろうね。しかしダナ国の学生がくるとは意外だよ」

 

 とチャーチが肩をすくめる。ダナ国と言うのはチャーチの出身のカリム国の端っこに位置する極小国なんだそうだ。学生の数も少なく、他国との交易も積極的には行っていないため謎に包まれた国らしい。

 

「ウヤトと同じで真面目で賢い人が多く、魔石装具クラブに所属している者が多いイメージだが、まさか演劇クラブにくるとは……」

 

 ケヴィンもそう言って小首を傾げた。

 しばらくして新メンバーの登録が終わると、全員に練習室の真ん中に絨毯を敷いて、その上に輪になるように座ってもらった。さすがに二十人以上いると小上がりに集まるのは無理がある。ヤパンの数もギリギリだ。

 まず私たちから自己紹介を始める。クラブ長の私、副クラブ長のハンカルが挨拶をして、そのあと役者組、音出し隊、イリーナ、ヤティリの順番に話してもらう。ヤティリはこういうのが苦手なのか「ヤティリ……です。き、脚本を書きます」とだけ言ってオリム先生の方へ逃げていった。

 次は新メンバーに自己紹介をしてもらう。

 

「俺たちは四人でまとまった方がみんな覚えやすいと思うから」

 

 と言って立ち上がったのは最初に声をかけてくれた元気のいい男子生徒と、その側にいた三人の男子だ。

 

「俺たちは四兄弟なんだ。こっちが長男のカッタ、俺が次男のイッキ、こいつが三男のウギルで、そいつが四男のタルティンだ。ジャヌビ国の高位貴族だが、まぁうちの国は緩いから身分なんて気にせず気軽に話してくれ。じゃあ兄上から挨拶を」

「カッタ、六年だ。よく体が大きくて怖いと言われるが、性格は大人しい方だと思っている。イッキと私はシムディアクラブと掛け持ちになるが、こちらの活動も手は抜かない。よろしく頼む」

 

 カッタはピンクの短髪に茶色の目をしたガタイのいい青年だ。朴訥な雰囲気で、静かに見守るお兄ちゃんという感じだ。

 イッキはさっきから兄弟の代表として喋ってるだけあって社交的で元気がいい。オレンジの髪に焦茶の目をしていて、少年漫画の主人公がそのまま喋ってるという感じだ。

 

「ウギル、四年生です。イッキ兄上に誘われて演劇クラブに入ることにしました。人と一緒になにかをするのが好きなので、仲良くしてください」

 

 ウギルは人当たりの良さそうな青年で紺色のサラサラ髪に青い目をしていて背が高く、シュッとしている。チャーチのように自分からアピールしたりしないが、絶対に女子にモテるタイプだ。

 

「タルティン、三年です。ラクスから聞いてて興味はあったんですけど、兄上に誘われたから入ることにしました。得意なのはモノマネです。よろしく」

 

 タルティンはふわふわの水色の髪に青い目をしている可愛い顔の少年でラクスと違ったマイペースさを持っている。ラクスとは同じ国出身の同級生ということで、たまに教室で話をしている仲のようだ。この四人は去年の演劇クラブの公演会を観て、特に踊りと武術演技に興味を持ち、自分たちもやってみたいと思って今日来てくれたんだそうだ。

 

 おお、踊りたい人が入ってくれた! 嬉しいな。

 

 ジャヌビ四兄弟の次はさっきの侍みたいな人だ。

 

「拙者はクベスト、三年、ダナ国出身の中位貴族でござる。昨年の演劇公演会を観に行った折、照明灯があのように使われていることに衝撃を受け、演劇に興味を持った。魔石装具クラブとの掛け持ちになるが、いろいろ経験したいと思っている。よろしくお頼み申す」

 

 クベストはグレーの髪を一つ括りにして、彫りの深い顔立ちで藍色の目をしている。本当に侍とか、浪人みたいな風貌だ。これで腰に刀を差していたら完璧である。スポットライトに感激したということで裏方希望なのかと思ったら、役者もやってみたいとのことだった。

 次になんとなくぼんやりとしている男の子の番になった。

 

「……エガーリクです。二年です。ウヤト出身の下位貴族です。……ええと、よろしくお願いします」

 

 小さな声でそういうと、エガーリクはコテっと顔を傾けた。タルティンのようなマイペースとは違って、なんというか独特な雰囲気を持っている。クリクリとしたミルクティ色の髪がボンッと存在感を主張していて、その髪の下から大きな赤い目がのぞいていた。彼も裏方希望かと思ったら役者希望だった。

 

「……あの、クラブ長がやっていたあれ、やりたいんです」

「私?」

 

 エガーリクが私の方を見てコクリと頷く。

 

「あの、ティルバルがやってたターンって飛んでくるっと回るやつ……」

「あ、去年私が公演会でやったティルバルの踊りってこと?」

「はい。あんな動き見たことがないから、やってみたくて」

 

 なんとエガーリクはガッツリ踊りがやりたくて入ってくれたらしい。最初から踊り志望の子が来てくれるなんて思わなかった。やった。

 次はその隣にいる最後の男の子の番になった。黒から空色にグラデーションになっている髪を一つに括り、薄紫の目をしたミステリアスな雰囲気の美少年だ。独特な刺繍が入った服を着ているので、さらに不思議な魅力が増している気がする。

 

「私はメイユウ、二年です。リンシャークの下位貴族です。私は、その、去年の公演会でファンになってしまったんです、あの衣装の」

「え、衣装?」

「はい! あんな素敵な衣装は見たことがありません。私は昔から美しい服を見るのが好きで……できれば、あの衣装を作った方の弟子になりたいと思って来ました」

 

 なんと、イリーナの弟子希望?

 

「まぁ……! わたくしの弟子に?」

 

 私たちが視線を送ると、イリーナが口を押さえて目を見開く。

 

「貴女があの衣装を? お一人で作られたのですか?」

「ええ、そうですわ」

「! 凄すぎます! あのような美しい服は見たことがありません! どうか私に衣装作りのお手伝いをさせてください」

「まぁ! 手伝ってくださる方は大歓迎ですわ! こちらこそよろしくね、メイユウ」


 イリーナが目を輝かせてそう言うと、メイユウはホッとしたように微笑んだ。

 

 すごい、なんて美少年なんだ。

 ちょっと待って、衣装係が増えたのは嬉しいけど、できれば役者もやってほしかったよ!

 

 私が心の中で悔しがっていると、メイユウの近くに座っていた女の子二人が会話に入ってきた。

 

「私たちもあの衣装に憧れてやってきたんです!」

「といっても、私たちはあの衣装が着たい派なんですけど」

 

 女の子たちはそう言って自己紹介を始める。

 

「私はチェシル、二年です。カリム国の下位貴族でこっちのマーラとは幼馴染です。イリーナ先輩の作られる衣装を着てみたいと思って入りました。よろしくお願いします」

 

 チェシルは赤いストレートの髪に赤い目、褐色の肌をしたスラッとした女の子だ。ハキハキとした喋り方で、声もよく通る。

 

「マーラ、二年、チェシルと同じカリム国の下位貴族です。わ、私もあの可愛らしいお衣装が着てみたくて入りました……! あの、イリーナ先輩、あとで握手してくださいっ」

 

 いかにも憧れのアイドルに会いにきました! というテンションで喋るマーラは明るい茶髪を二つ括りにして大きなオレンジの目をしていた。チェシルと違って背が低く、丸っこい顔立ちだ。この二人は凸凹コンビなので覚えやすい。

 憧れの眼差しでお願いされたイリーナは戸惑いながら「わ、わたくしでよければ」と返事をしていた。

 最後はツァイナの番だ。いきなり大勢の貴族がいる中で喋ることになって顔がこわばっている。不安げな顔で私を見たので、私は大丈夫だよ、と笑顔で頷いた。

 

「ツァイナといいます。二年、アルタカシークの中位貴族です。去年の公演会で聞いた音出しの音が忘れられなくて入りました。できれば太鼓を叩きたいです。よろしくお願いします」

 

 ツァイナがそう言って目を伏せると、隣にいたマーラが「同じ二年なのですね」と笑顔を向けた。ツァイナはそれに戸惑いながらも笑顔でコクリと頷いた。新メンバーには二年生が結構いるのでなんとかなりそうだ。

 

「男子が七人に女子が三人か。そのうち役者志望が八人で衣装担当と音出し担当がそれぞれ一人ずつ……」

 

 ハンカルが確認しながら手元の紙に情報を書き付けていく。いきなり人数が増えたので把握するのは大変だけど、役者がかなり増えたので私はかなりワクワクしてきた。

 

 これなら計画通り踊りの劇ができるかも! 

 

 みんなを見渡しながら、私は今年の計画を思い浮かべてニンマリと笑った。

 

 

 

 

演劇クラブに新メンバーがたくさん加わりました。

今後ちょくちょく出てきますのでいきなり全員覚えなくても大丈夫です。

踊りたいメンバーが入ってきてウハウハのディアナ。


次は 今年の演目と脚本作り、です。

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