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クラブ紹介の演技披露


 始業式の翌日、演劇クラブの練習室にメンバー全員に集まってもらった。新入生へのクラブ紹介の練習をするためだ。

 

「やぁ、久しぶりだね。うちの女性メンバーは今年も変わらず美しいね」

 

 チャーチがキラキラ笑顔でそう声をかけると、ケヴィンが呆れたような顔になる。

 

「お前は相変わらず軽いな……」

「今年もよろしくお願いしますねぇ」

「わたくし、今年もディアナに服を作ってきましたの! あとで見てくださる?」

「今年も音出し隊を頑張ります」

「私も」

「あ、ぼ、僕も……!」

 

 シャオリー、イリーナ、ダニエル、ナミク、エルノの挨拶に私は満面の笑みで応える。

 

「今年もよろしくお願いします!」

 

 ラクス、ハンカル、ファリシュタ、それと私も含めて十一人で輪になって打ち合わせを始める。ちなみにヤティリは部屋の隅の小上がりの上ですでになにかを書いていた。本当はツァイナも呼びたいと思ったのだが、ここへ来ていきなりメンバー全員と共同作業をするというのはハードルが高い気がしたので今日は呼んでいない。

 

「クラブ紹介の出し物なんですけど、今年は踊りを入れたいんです」

「踊りを? 演技ではなく?」

「演技ももちろん入れますよチャーチ先輩。ただ今年の演劇公演会の演目は踊りが多いので、できれば今のうちに新入生にそれを披露しておきたいんです」

「いきなり新入生に踊りを披露して驚かれないか? 引かれなければいいが……」

 

 ハンカルが腕を組んで懸念を口にする。確かに踊りを見慣れていない新入生にはちょっと刺激が強すぎるかもしれない。なんせ子どものころから禁忌だと教えられてきたものだから。

 

「うん、だから最初は演技で新入生を惹きつけて、心を掴んでから踊りのシーンを短時間だけ入れたいと思ってるんだ。とりあえずインパクトさえ与えることができたらいいかなって……」

「まぁ衝撃的なものではあるだろうな」

「いいじゃないかハンカル! 俺は賛成だぞ。今までの価値観を壊すには最初にバーン! とかました方がいい気がするし」

 

 ラクスがハンカルの肩をベシベシと叩きながら笑う。それを聞いていたケヴィンが口を開いた。

 

「だったら武術演技も混ぜたらいいのではないか? あれは踊りというより剣術の手合わせに見えるから抵抗感もないと思う」

「あ、じゃあ武術演技をやっている間に、いつの間にか踊りになるって感じはどうでしょう?」

 

 私がそう提案すると、みんな「それはいいな」「面白そうだ!」と頷いてくれた。

 方向性が決まったので早速演技の中身を詰める。今回は私が簡単に脚本を書いてきた。短い出し物なので脚本というか、メモ書きに近い。

 

「去年のイリーナの衣装を使いたいから、登場人物は貴族の夫婦二組で、仲が悪いっていう設定です。で、お互いに見栄の張り合いをするんだけどどんどん熱くなちゃって、いつの間にか決闘になるっていう流れなんですけど」

「じゃあ僕とケヴィンが去年と同じ敵対してる貴族の父親役ってことだね」

「そうです。シャオリー先輩もそのままケヴィン先輩の妻役でお願いします。私がチャーチ先輩の妻役をしますので」

「はぁい」

「俺は出番ないのか?」

 

 私が配役を決めていくと、ラクスが眉を下げて悲しげに言う。

 

「まさか、踊りをするのにラクスがいなかったら始まらないじゃない。後半チャーチ先輩とケヴィン先輩が決闘しているところに、いきなり出てくる使用人の役をしてもらいたいんだ。この使用人はね、騒ぎが大好きな青年で二人の戦いに勝手に参入してくるの」

「なんだそれ! ははは」

「で、決闘もめちゃくちゃになって最後にみんな踊り出すって感じでどうかな」

「なるほど、うんうん……じゃあ最後の踊りは速くて派手な方がいいな」

 

 ラクスはそう言うと体を揺らし始めた。もう体が踊りたくて仕方なくなっているらしい。

 

「じゃあ早速始めちゃいますか」

 

 私がそう声をかけるとみんなが立ち上がり、準備体操を始めた。

 

 さて、新入生への踊りの初披露はどうなるかな……。

 

 

 

 クラブ紹介の当日、女子更衣室で衣装に着替えてから大教室の控え室——というかもうすっかり演劇クラブの練習室という認識になってるけど——に入ると、他のクラブの人たちもすでにやってきていた。

 みんな衣装を着て入ってきた私たちを見て驚いた顔をしている。ちなみに私が着ているのは去年社交パーティで着たイリーナ作の服だ。

 

「わ! 演劇クラブは衣装着てやるんだね!」

 

 そこへ笑顔でやってきたのはグルチェ王女だ。今年も相変わらずのフレンドリーさである。

 

「お久しぶりですグルチェ様。ここにいるっていうことはもしかして……」

「そう、私社交クラブのクラブ長になっちゃったの。はぁー……嫌だなぁ」

「グルチェ……そんな顔をしたら他のクラブメンバーに失礼だろ」

「別にいいんだよハンカル。だって嫌がる私をクラブ長に推したの、ここにいるみんななんだもん」

 

 グルチェ王女はそう言って後ろにいる社交クラブのメンバーをジトっと睨んだ。最終学年で一番力のある王族なので自動的にグルチェ王女がクラブ長に決まったらしい。他のクラブならまだしも社交クラブなので身分が一番上の人がクラブ長になるのは避けられないのだそうだ。

 

「それは仕方ないですよね……頑張ってくださいグルチェ様。私、応援してます」

 

 私が拳をグッと握って応援のポーズをとると、グルチェ王女の目がキラリと光った。

 

「ねぇディアナ、耳触ってもいい? それで私、元気出るかも」

「それはダメです」

「お願いちょっとだけ!」

「ダメですってば」

「ディアナぁぁぁ」

「グルチェ、いい加減にしろっ」

 

 ハンカルに怒られて、グルチェ王女は半泣きになりながらお付きの人に引きずられていった。

 

 ……やっぱりグルチェ王女って変わってるよね。

 

 シムディアクラブの方を見ると、高学年の学生に混じってユラクル王子がいるのが見えた。王子は私と目が合うとふわりと笑う。

 

 相変わらず癒し系王子様だ。

 

 私はユラクル王子の元へ行くと軽い恭順の礼をとった。

 

「お久しぶりです、ユラクル様」

「久しぶりですね、ディアナ。ああ、その服……とてもよく似合っています」

「ありがとうございます。ユラクル様もシムディアクラブで出られるのですか?」

「ええ、クラブ長とともにシムディア・アインについて紹介するのです。ディアナの作ったこの競技の面白さをちゃんと伝えてきますね」

「まぁ、嬉しいですユラクル様」

 

 私がそう言ってニコリと笑うと、ユラクル王子も同じように笑う。

 

 ううーん、ユラクル様は今年も可愛い。

 

 イバン王子の望みを受け入れて跡継ぎになることを了承したユラクル王子だが、さすが王子様なだけあってそのような空気を微塵も感じさせない。

 その後シムディアクラブのクラブ長や魔石装具クラブのクラブ長に挨拶をして時間になるのを待った。

 

「みなさんお揃いですね」

 

 しばらくするとアサスーラ先生とアサン先生、そしてオリム先生が控え室にやってきた。どうやらテクナ先生は今年も逃亡中のようだ。

 アサスーラ先生とアサン先生が進行のため大教室に向かうと、私はオリム先生に近づいて挨拶をする。

 

「今年もよろしくお願いします、オリム先生」

「ええ、こちらこそ。そういえば大教室を覗きにきている学生がちらほらいるようですよ。地下一階の出入り口前の廊下に生徒が溜まっていると連絡がありました」

「え? 新入生ではなく?」

「在校生みたいですよ。どうやら目的は演劇クラブのようです」

 

 へ?

 

 私が目を丸くすると、隣にいたハンカルが口を開いた。

 

「わざわざ演劇クラブのクラブ紹介を見にきている学生がいるということですか?」

「そうです。去年の公演会を観て演劇に興味を持った学生かもしれませんね」

「その人たちは大教室に入れるのですか?」

「そこまで大人数ではないようなので許可しました。彼らにも楽しんでもらえるように頑張ってください」

 

 なんと、クラブ紹介の演技まで観にきてくれる人たちがいるとは。

 

「ディアナ、やってやろうぜ」

「うん」

 

 気合いを入れるラクスに私は大きく頷いた。

 

 各クラブの人たちが順番に呼ばれて行き、いよいよラストの演劇クラブの出番が来た。先に大教室に入っていったオリム先生が演劇クラブの説明をすると、私と演劇クラブメンバーが扉から入っていく。

 

「! あれは……っ」

「あれが噂の……!」

「思ってたより小さいな。本当に三年生なのか?」

 

 私の姿を見てザワザワとざわめく新入生の反応は去年とあまり変わりはない。ただ私が新入生と同じくらいの背丈なのでそっちに驚いている人が多いようだ。

 

 まぁ、みんなと同じように大きくならないもんね。エルフだから。

 

 最初に私の容姿に驚いた新入生たちは次に演劇メンバーに視線を移し「あれは……普通の服ではないですよね?」「まぁ、なんて素敵な装いなのでしょう」とみんなが着ている衣装について口にする。

 私はオリム先生から拡声筒を受け取って、去年と同じように演劇クラブのプレゼンを始めた。「今まで劇を観たことがある人は?」という質問に対して手をあげる人は去年と比べると減っている。

 

 うーん、少ないね。ちょっと残念。

 

 私が話している間に音出し隊のメンバーが教壇の横に音出しを持って座る。その前にはもう一つ拡声筒が設置されていた。

 

「それでは、ここで実際に演劇クラブの劇を観てもらうことにしましょう。教室内が少し暗くなりますが、舞台をよく観るための演出ですので、安心してご覧ください」

 

 私はそう言うと、ハンカルとオリム先生と協力して天井の光虫を魔石術で剥がして教室外へ移動させた。特に教壇の上部分はかなり量を減らして真っ暗にする。ちなみにスポットライトはすでに設置済みだ。

 突然剥がれた光虫や暗くなる教室に新入生たちのざわめきが大きくなる。

 そこに、ナミクのナレーションが響いた。

 

「ここは、とある小さな国の貴族の街。そこに反目しあう二組の貴族の夫婦がいました」

 

 そのナレーションが終わると、スポットライトが舞台を照らし、チャーチと私、ケヴィンのシャオリーがそれぞれ進み出る。

 

「おや、誰かと思えばドレル様ではないですか。このような華やかな場に来られるとは珍しい」

「これはチャイルズ様。このような素晴らしい宴に貴方のような方がいると途端に空気が軽くなってしまいますな」

 

 空気が軽くなる、というのは「貴方の軽薄な空気が場を乱す」という貴族特有の悪口だ。それを言われたチャイルズは一瞬固まるが、笑顔のまま言い返す。

 

「そちらこそ、あまり重苦しい空気を出されますと、せっかくの宴が葬式になってしまいますぞ」

「まぁ、このようなところで葬式だなんて……縁起でもないことを仰らないでくださいチャイルズ様」

 

 ドレルの妻であるマリアンナが不機嫌な笑顔で横から口を挟む。シャオリーはおっとりしているがさすがリンシャークの高位貴族だ、不機嫌な笑顔の演技が普通に上手い。

 新入生たちも馴染みのある貴族らしい応酬にクスクスと笑って反応していた。

 その後も私も含めて言い合い合戦が加熱していき、とうとうドレルとチャイルズが庭に出て決闘だ! と言い出した。他人が開催している宴で決闘始めるなんて、と思うがそこは物語なので許してほしい。

 模造刀を出してドレルとチャイルズが向かい合うと、音出し隊の太鼓が鳴り出した。その音に新入生たちがビクリと肩を揺らす。

 

「今日こそ決着をつけてやろう!」

「ああいいとも!」

 

 二人の台詞と同時に太鼓の音も少しだけ大きくなる。

 

「やああああ!」

「たああああ!」

 

 ケヴィンとチャーチの武術演技が始まった。ケヴィンはもう三年目だし、チャーチも去年みっちりやったので二人の武術演技は問題なく進む。二人とも五年生になって背丈もそれなりにあるので、とても迫力のある出来になっていた。

 二人の剣がぶつかるたびにファリシュタのカスタネットが鳴り響き、それにまたビクリとなりながら、新入生たちはどんどん演技に見入っていく。

 

 いいよいいよ、みんな食いついてる!

 

 激しさを増す戦いの中、舞台の袖からラクスがピョコリと現れて二人の戦いを興味深そうに覗き出した。変な人物の登場に新入生たちが不思議そうな顔をする。

 ラクスは二人の戦いぶりを眺めると、突然笑顔でポンと手を打ち、自分の剣を掲げてバッと二人の間に割り込んだ。

 

「む⁉」

「なんだお前は⁉ 邪魔をするな!」

「私はこういう喧嘩が好きなんです! 私も入れてください!」

「はぁ⁉」

 

 ラクスはそう言うと笑顔で剣を振り始めた。太鼓の音は止み、ナミクの笛のちょっと呑気な音がラクスの剣が振られる度に鳴る。

 

「なんだあれ」

「変なのが間に入ってきたぞ」

 

 新入生たちがそれを見てポカンと口を開ける。

 

「なんなのだお前は!」

「お前を相手にしている暇はない!」

「では力ずくで追い払ってみてください。私より強ければできるはずです」

「なんだとっ」

「望み通りにしてやろう!」

 

 挑発に乗ったドレルとチャイルズが今度はラクスに向かって攻撃を始めた。再び激しい太鼓のリズムが鳴り響き、ファリシュタのカスタネットも激しさを増す。

 

「わ、すごい……!」

「速すぎてよく見えないぞ」

 

 カンカンカン! と剣がぶつかり合い、ラクスがふわりと飛んで二人の攻撃を避ける。武術演技は戦っている様子からどんどんと跳躍の踊りに変化していく。

 

「なんなのだこいつは!」

「ははは、ははは」

「待て! このっ」

 

 踊るラクスを追いかけて二人もステップを踏み始める。周りでその様子を見ていた私とマリアンナもラクスに引っ張られて舞台の前の方に出され、ラクスに翻弄されるうちに踊り出してしまう。

 

「私はこっちですよ」

「待ちなさい!」

「きゃあ! こっちに来ないで!」

「さあさあ、こっちです!」

 

 ラクスに誘導されて私たちも踊りを踊る。ついにはチャイルズとドレル、私とマリアンナが手を取り合ってくるくると回り出した。

 太鼓の音がそこで一段と速くなって、私たちはそのリズムに乗って踊った。そしてラクスが今までで一番高くターン! と飛ぶと、その着地と同時にみんなでフィニッシュのポーズをとった。

 音が止み、しばらく固まったままだった私たちは、お互いに見つめ合い気まずい顔になる。

 

「いやぁ、楽しかった! やはりみんなで騒ぐのが一番ですね! それでは!」

 

 とラクスは笑顔で舞台上からはけていく。その様子をポカンとした様子で見ていた私たちは、急に我に返ってバッと離れ、お互いの夫婦に分かれた。

 

「ご、ゴホン、変な邪魔が入りましたな。今回はこれくらいにしておこう」

「そ、そうだな。それではまた」

 

 私たちはそう言ってお互い反対方向に向かって歩いっていった。そこでスポットライトがフッと消える。

 

「こうして、お騒がせな青年によって二人の喧嘩は収まったのでした。不思議な不思議なお話です。おしまい」

 

 ナミクのナレーションが終わると、大教室の中はシーンと静まり返った。新入生は衝撃のあまり固まってしまっているようだ。と、その時大教室の後ろの方から大きな拍手が聞こえ、「面白かったぞ!」「また新しいな!」と男子生徒の声が響いた。それに釣られるように新入生の間からも拍手が起きて、やがて大教室中にその音が鳴り響く。

 再び教壇にスポットライトが灯り、私たちは前の方に歩いていく。

 

「ありがとうございます。今観ていただいたのが演劇クラブの劇です。見慣れないものがたくさん出てきて驚かれたと思いますが、とても刺激的で楽しいものだったでしょう?」

 

 拍手が収まるのを待って私がそう語りかけると、新入生たちはお互い顔を見合わせながらザワザワと囁き合っている。

 

「今年は去年の恋愛物語とは違った、とてもユニークなものを披露したいと思っています。興味を持たれた方はいつでも演劇クラブに見学に来てください」

 

 私は練習室の案内や四の月の演劇公演会について話をして、演劇クラブの紹介を終えた。大教室から出てからも新入生のざわめきはずっと続いたままだった。

 

 うん、クラブ紹介としてまずまず成功だったんじゃない?

 

 

 

 

クラブ紹介が無事に終わりました。

いきなり劇のダイジェスト版を観た新入生は本当にびっくりしています。


次は 青の授業 除去の魔石術、です。

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