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繋がりの魔石術


 ブンッと箱の中から飛び出した細い光の線は、まず右側のすぐ近くで倒れていたコモラに当たり、彼の体全体が白く光ると次に台座の端に倒れているクィルガーへと走る。そしてクィルガーが光ると左側で倒れているサモルに、そしてヴァレーリアへと光が繋がっていく。

 

「……⁉ な、なんだこの光は⁉」

 

 透明魔石から出た白い光が四人を繋ぐと、マルムや黒ずくめたちが驚いて声をあげた。

 私は透明魔石を握ったまま、反対側の手で指輪の青い魔石に触れる。

 

「『マビー』」

 

 青の魔石の名前を呼ぶと、魔石からソの音が鳴った。自分の中のドの音をソに合わせていくと、シャンッと音が鳴って魔石が光る。

 

「みんなに解毒を」

 

 魔石が砕けないよう注意しながら一人分の解毒をするときと同じイメージで力を込めると、魔石から出た青いキラキラが透明魔石から出てる白い光の線に乗ってヒュンッと流れていった。

 白い光の線で繋がってる順番に青いキラキラが巡っていき、それが到達した人はファァッと青い光に包まれ、なにかが浄化されるように光が上へと舞い上がっていく。

 全員に光が行き届いてその青い光が収まると、四人の体が同時にピクリと動いた。

 

「な……!」

 

 それを見たマルムが目を見開く。

 私は青の魔石から手を離し、隣の緑の魔石に触れた。

 

「『ヤシル』」

 

 緑の魔石の名前を呼んで魔石のラの音と自分の音を合わせる。

 

「みんなに癒しを」

 

 さっきと同じように一人分の癒しの力を込めると、今度は緑のキラキラが白い光の線に乗って、次々と巡っていった。四人の体が緑の光に包まれて癒しがかけられる。

 

「う……」

 

 緑の光が収まると倒れていた四人がそれぞれ意識を取り戻して起き上がるのが見えた。

 

 やった! 成功した!

 

「ど、どういうことだ? この光は……御子様⁉」

 

 黒ずくめたちは白い光が出てきている箱の中の私に注目している。

 

 よし、今のうちに。

 

 私は透明魔石から手を離し白い光を消す。そして、再び緑の魔石の名を呼んだ。

 

「おい! なにをぼうっとしている! さっさとそいつらに聖なる粉をかけよ!」

 

 マルムが起き上がりかけているみんなをまた毒で攻撃しろと命じるが、そうはさせない。

 

「右足に強化を!」

 

 私は強化の魔石術を足にかけ、背中を箱の壁に押し付けて箱の扉を思いっきり蹴った。

 ガコォォン! と大きな音がして扉が吹っ飛んでいく。

 

「そのまま毒を使ったら、私も死にますよ!」

「み、御子様!」

 

 私が毒を使おうとしていた黒ずくめたちにそう叫ぶと、黒ずくめたちの動きがピタリと止まった。

 その瞬間、マルムの背後から首に腕がかかる。

 

「ぐ……!」

「おまえら、それ以上動くなよ。動いたらこいつの命はない」

 

 クィルガーがマルムの首を絞め、黒ずくめたちを睨みつけた。マルムの腕は後ろ側に回されそこもガッチリ抑えられている。

 

「クィルガー!」

 

 私は箱の外に出ようと身を乗り出す。その瞬間、フワッと体を持ち上げられて抱き締められた。その暖かくて柔らかい胸と力強く抱きしめる腕にブワッと涙が溢れる。

 

「ディアナ……!」

「ヴァレーリア……!」

 

 よかった、生きてる、みんな生きてる!

 

 私はヴァレーリアにしがみついて涙を流した。ヴァレーリアが「よかった……!」と言ってぎゅっと腕に力を入れる。気がつくとサモルとコモラも側に来て、私を守るように剣を構えていた。

 

「ヴァレーリア」

 

 クィルガーがこちらを見てなにか合図する。ヴァレーリアはそれに頷くと私をコモラに預けた。コモラはまとっていたマントで私を包むとよいしょっと背負って前でマントの端を縛る。完全におんぶされてる格好になった。

 そんな私にヴァレーリアが小声で指示を出す。

 

「ディアナ、これからここを一気に突破して外に出るわ。外に出たらある穴の中に入るから、そこに入ったらすぐに耳を塞ぎなさい」

「耳を?」

「カタルーゴ人の本気は、恐ろしいからね」

 

 よくわからなかったがその真剣な声音に私はコクリと頷く。

 

「行け」

 

 クィルガーが合図するとヴァレーリアを先頭にコモラ、サモルの順番で部屋の出入り口へ向かって走り出した。出入り口はクィルガーとマルムがいる台座の向こう側だ。

 台座の周りには黒ずくめが多くいるのでヴァレーリアはまっすぐ台座に上り、クィルガーとマルムの横をすり抜けて反対側の床に降りた。途中マルムがなにか言おうとしたが、クィルガーにガッチリ首を抑えられてなにも発することが出来ない。

 そしてクィルガーはマルムを拘束したままサモルの後ろにつく。

 

「み、御子様とマルム様を離せ!」

 

 台座と出入り口の間にいる黒ずくめが流石にこのままではダメだと思ったのか私を取り戻そうと向かってきた。それをヴァレーリアが魔石術で吹き飛ばしていく。クィルガーより威力は弱めだが、前にいる黒ずくめを避けるには十分だ。

 途中倒れている大蛇の頭を避けて出入り口に到着すると、そのまま三人は出入り口を抜けてその先の通路を走る。

 後ろを見るとクィルガーがこちらに背を向けて出入り口の前で立ち止まったのが見えた。出入り口から黒ずくめが出ないように塞いだようだ。

 通路を抜けて大きな扉を越えると、外に出た。しかし立ち止まることなくそのまままっすぐ進む。そして木々の間を縫うように走っていると、コモラが叫んだ。

 

「今から飛ぶからディアナちゃんは衝撃に備えて!」

 

 ええ⁉

 

 そんなこと言われてもどうすればいいかわからない私は、とりあえずコモラの肩を掴んで体を強張らせる。その瞬間コモラがとぉ! と飛んだ。

 

 ぶぉわっ!

 

 体にドンっと衝撃がくると同時にザザザー! と山の斜面に滑りながら着地する音が聞こえる。

 コモラの体が止まるのを感じて顔を上げると、上の方にさっき飛んだ場所が見えた。どうやら緩やかな崖になってる斜面を三、四メートル飛び降りたらしい。

 

「こっちよ!」

 

 一緒に飛び降りたヴァレーリアとサモルが呼ぶ方を見ると、そこにぽっかり大きな穴が空いている。直径二メートル以上はある大穴だ。

 コモラが素早くその穴に入って私を降ろし、後から入ってきたヴァレーリアが私を抱きかかえるようにして身を伏せる。

 

「ディアナ、耳を塞いで」

 

 そう言われ慌ててスカーフの上から耳を塞いだ。その瞬間、

 

 ドゴオォォォォォォン‼‼

 

 と、ものすごい爆発音が聞こえた。耳を塞いでいるのにその爆音にビクッと体が震え、そこにビリビリと振動が伝わり、穴の天井から土がパラパラと落ちる。

 すると穴の外になにかが飛んでくるのが見えた。石や土、木の破片……そういうものがどんどん降ってくる。

 

 え? なになに⁉ なんの爆発⁉

 

 音は祠の方から聞こえたのでクィルガーがなにかやったのだろうか。あまりにすごい衝撃に不安が押し寄せる。そんな私にヴァレーリアが大丈夫よ、と声をかけて頭を撫でた。

 

「クィルガーが『覚醒』を使ったのよ」

「覚醒?」

「カタルーゴ人特有の体質というのかしら、彼らは怒りを溜めると『覚醒』という技を使えるの。どういう仕組みで使えるのかは知らないけど、『覚醒』状態になると気が昂り痛みを感じなくなり体全体が強化されるらしいわ」

 

 それっていわゆるバーサーカー状態ってやつ? クィルガーにそんな特殊能力があったなんて……。

 

「その『覚醒』状態で魔石術を使えば、魔石が砕けないギリギリの威力のものを放つことができるの。クィルガーは多分それを使ったのね。……全く、逃げるこっちのことも考えて欲しいわ」

 

 ふうっとヴァレーリアが息をつく。

 

「この感じじゃ、祠は吹き飛んじゃってますね」

「おわぁぁぁクィルガーさんの本気、めっちゃ怖いぃ」

 

 そう言いながらサモルとコモラが穴の外を確認する。

 

「それだけ、ディアナのことが心配で、あいつらのことが許せなかったんでしょ」

 

 私もそうだけど、とヴァレーリアは私に微笑みかける。その気持ちが嬉しくて、私はぎゅうっとヴァレーリアに抱きついた。柔らかな胸の感触と彼女の香りに、この人たちの元に帰ってこれたという安堵が広がった。

 

 

 上からなにも飛んで来なくなったことを確認して、私たちは周りに黒ずくめが潜んでいないか警戒しながら祠があった場所まで戻った。

 そこには、信じられない光景が広がっていた。

 祠のあった場所の周囲の山肌がごっそり削られていて、なにもない。祠どころか木も土も吹き飛んでいて、あの大蛇もいなければ黒ずくめたちの姿形も残っていなかった。その威力を目の当たりにして言葉が出てこない。

 土煙がモウモウと立ち上がっている開けた場所の中心にクィルガーが跪いているのが見えた。よく見ると彼のいるところだけ床の石が残っている。

 クィルガーは下を向き、体を落ち着かせるようにゆっくり息をしていた。

 

「クィルガー!」

 

 私が走り寄ろうとすると、ヴァレーリアに肩を掴まれて止められる。

 

「まだ近付いちゃダメよ。『覚醒』が切れるまでは危ないから」

 

 その声にクィルガーが顔を上げた。彼の赤い目が光って揺らめいている。まだ怒りが鎮まりきっていないのか、その表情も険しい。こっちへ来るなとクィルガーが目で言っているのがわかった。

 

「『覚醒』が切れるまで待つしかないんですか?」

「この作戦を考えたときには待ってろ、としか言われなかったからねぇ」

 

 ヴァレーリアがお手上げという感じで両手を上げるのを見て私はクィルガーに視線を戻す。

 

 このまましんどそうな姿をずっと見てるのはいやだな……なにかできることはないんだろうか。

 

 するとスカーフから出てきたパンムーが私のネックレスをくいくいっと引っ張って魔石の指輪を手に取って、ん、と私に差し出した。

 

 ん? 魔石の指輪?

 

「あ! そうだ鎮静の魔石術!」

 

 私は指輪を摘んでヴァレーリアを見上げる。

 

「鎮静の? あー、まあ確かに、使えないこともないんだけど……」

 

 ヴァレーリアが腕を組んで考え込む。鎮静の魔石術は痛みを抑えたり、暴れる動物にかけて大人しくさせたりする効果があると聞いた。

 

 パンムーは透明魔石の使い方も教えてくれたのだから、きっと間違ってないよね。

 

 私は青い魔石に触れながらクィルガーへ近付いていく。それに気付いたクィルガーがあっちに行け! という顔で睨んできた。

 

「『マビー』……クィルガーを鎮めて」

 

 そう命じると魔石からキラキラと青い光が飛んでいってクィルガーを包む。

 しばらくして青い光が収まると俯いていたクィルガーが顔を上げた。光って揺れていた赤い目が治まっている。

 私は自分の体の状態を確かめているクィルガーに近寄っていって声を掛けた。

 

「『覚醒』は切れましたか?」

 

 そう尋ねる私にクィルガーは何回か目を瞬かせ、眉を下げて口の端を上げる。

 

「おまえ……俺のことが怖くないのか?」

「全然怖くなんてないですよ。クィルガーは私を助けてくれたじゃないですか」

 

 確かに全てが吹き飛んだ状態には驚いたが、クィルガーが怖いなんて思わなかった。それどころか彼が本当に助けにきてくれたことに涙がポロポロとこぼれ出す。黒ずくめたちから解放されたことと、みんなが生きていたことへの安堵で緊張が一気に解けた。

 

「馬鹿、泣くな。子どもに泣かれるのは苦手なんだ」

 

 いつものクィルガーの口調に、私は泣きながら笑ってクィルガーの胸に飛び込んだ。

 

「怖かった……怖かったです……っ!」

 

 抱きつかれて驚いていたクィルガーはそれを聞いて、フッと笑って私の背中に手を回す。

 

「言ったろ? 強い敵が現れても、俺が全員蹴散らしてやるって」

 

 そう言って背中をぽんぽん叩いてくれる。その逞しい腕の中で、私はしばらく泣き続けた。

 

 

 

 

必死で使った魔石術でみんなを助けることができました。

そしてクィルガーの覚醒で黒ずくめたちは殲滅。


次は 馬上での報告、です。

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