ヤンギ・イルの長い夜
大晦日の日は心なしか家にいる人たちがみんな浮き足立っていた。表面上は落ち着いているが、出産の準備をしながら緊張しているのがその足音でわかるのだ。
私はそんな館内の音を聞きながら、仕事に向かうクィルガーをヴァレーリアと一緒に玄関まで見送りにいく。
「じゃあ行ってくる。ヤンギ・イルの儀式を見届けたらすぐに戻る」
「わかったわ。こっちにはお義母様もいらっしゃるし、大丈夫よ」
「ああ」
クィルガーは軽く頷くと、ヴァレーリアの頬をするりと撫でる。それから私に視線を移して呆れた顔になった。
「ディアナ、今からおまえがそんな顔でどうする」
「むぅ、ちょっと緊張してるだけですよ。大丈夫です、お母様は私が守ります!」
「いや、おまえが張り切るとロクなことにならないから普通でいてくれ」
「どういう意味ですか!」
「あとから来る母上の言うことをよく聞いて邪魔にならないようにな」
「大丈夫ですってば!」
「……心配だ」
クィルガーはそう言ってため息をついたあと、「頼んだぞ」と私の頭をポンポンと叩いて玄関を出て行った。
「さて、お義母様たちがいらっしゃるまで最後の散歩でもしようかしら」
「えっ今日も歩くんですか? 大丈夫なんですか?」
「大丈夫よディアナ。出産が今夜だってわかってるんだから、それまでにできることはやらないとね」
「私も一緒に行きます!」
「ふふ、そう言うと思ったわ」
私は一度女性館に戻り、防寒具を着せてもらって散歩コースの中庭へ出る。出産は女性館の一室で行われるので数日前からその準備が始まっており、いつもより行き来するトカルの数が多い。
「トグリとチャプだけじゃなくておばあ様もきてくれることになって、ちょっとホッとしました」
「今日が出産となると、医者の数が足りなくなるからね」
ヴァレーリアと中庭を歩きながら今夜の話をする。
普通の日の出産の場合、貴族の女性医師が来てこちらのトカルたちと連携して産むことになるのだが、ヤンギ・イルの日は王都中の妊婦さんが産気づくため、女性医師の数がどうしても足りなくなる。そこで出産経験のある家族に応援に来てもらい、女性医師が万が一間に合わなくてもどうにかできる態勢を整えるのだ。
そんなわけでうちでは五人の出産経験を持つおばあ様とそのトカルたちが来てくれることになった。
頼もしいことこの上ない。
「お義母様は双子の出産経験もあるから、本当に頼もしいわ。出産が始まったらディアナはクィルガーと一緒にいてあげてね。ああ見えて結構緊張してるから、あの人」
「えええ! 私もおばあ様と一緒に手伝いますよ」
「ディアナ、私が辛い顔してても取り乱さない? 冷静でいられる?」
「う……」
お母様のそんな姿を見て……大丈夫でいられる自信は、ないかも……。
正直にたじろぐ私を見てクスクスと笑いながらヴァレーリアは私の頬に手を添える。
「あなたが大丈夫じゃなくなったら私、そっちが心配で出産どころじゃないわ。ディアナの力が必要になったらちゃんと呼ぶから、それまではお父様と一緒にいてちょうだい。ね?」
「……はい、わかりました」
ものすごく心配だけど、確かに私が邪魔してはダメだ。おばあ様もいることだし、今回はお父様と一緒に待っていることにしよう。
私はヴァレーリアのお腹に手を当てて中の赤ちゃんに語りかける。
「お姉様は待ってますからね。頑張って出てくるのですよ」
私の言葉にお腹からポコンッと返事があった。
夕方にトグリとチャプ、そしておばあ様がやってきて、みんなで一緒に夕食をとる。今夜の料理はいつもより量がすごい多い。
「今夜は長くなるからね、ちゃんとご飯を食べておくのよヴァレーリア」
「はい、お義母様」
「うわぁ! 相変わらず美味しそうだね!」
「どれから食べよう!」
「あなたたちは張り切らなくてよろしい」
おばあ様にたしなめられても全く聞いてない双子がすごい勢いでご飯を食べ始める。ちなみに私たちだけでなく、トカルやトレルにとっても長い夜になるので、彼らのご飯も料理人がフル回転で用意しているらしい。
コモラ、忙しすぎて目が回ってそう。
「女性医師の人は高位貴族を優先してきてくれるんですか?」
「他のところはそうでしょうけど、うちは特に強制はしていないわ。彼女たちはプロですもの、どこの家が大変な出産になるかはわかっているでしょうし、その判断に任せた方がいいと思ってね」
私の疑問におばあ様が答えてくれる。
「そういう方針のおかげか私がこの双子を産む時は四人の医師が来てくれたのよ。大変な出産だったから本当に助かったわ」
「双子の出産というのはやはり大変なのですか?」
「そうね、双子はまず妊娠期間から大変なのよ。マギアコアを持つ子を二人も宿すと、まず私のマギアコアから大量にお腹の子にマギアが流れてしまうの。そうなると魔石術を使うことが難しくなるのよ」
「ええっそんなことになるんですか」
「私が一級だったからこの双子も育ったけど、マギアが小さい人たちはうまく育たないか、どちらもかなり階級の低い子になる場合が多いわね。あとお腹に当てておく魔石もたくさんいるし……経済的にも大変なのよ」
なるほど。一級であり、高位貴族のアリム家だからこそ、この双子を産むことができたってことなのか。
私が貴族の双子事情に感心している横で当人のトグリとチャプはばくばくとご飯を平らげている。そのうちトグリがなにかを思い出したかのようにパッと顔を上げて私に話しかけた。
「あ! そういえば僕ら今年から学院騎士団に入ったんだけど、ディアナ知ってた?」
「え? 二人とも学院騎士団にいるんですか?」
「えっへへへ」
「実はそうなんだ。気づかなかったでしょ?」
こんな騒がしい双子がいたら気づきそうなものだけど、正直全然気づかなかった。
「それは知りませんでした」
「兄上からね、ディアナに気づかれないように仕事するのが課題だって言われたから、学院でディアナを見ても声をかけないようにずっと我慢してたんだよ!」
「シムディア対決の時もさあ、声が出そうになるのすっごい我慢したんだから!」
「あの時は兄上もいたしね」
「見つかったら怒られちゃう」
なんと、クドラトとのシムディア対決の時にも大講堂にいたらしい。いつもの二人だったら絶対に私の応援とかしそうなのに。
「よく我慢できましたねぇ。私全然気づきませんでしたよ」
「ふふふん、やればできるんだよ僕たちだって」
「ね!」
「……人が普通にできることを自慢するんじゃありません、全く」
おばあ様がそんな双子に呆れている。それからは学院の私の様子を双子を交えておばあ様に報告する流れになっていく。
「最上級生の男子生徒と対決をしただなんて二人から聞いた時は心配したけれど……でも、大事なことを貶められて怒るのは当然のことよ。よく引かなかったわね、ディアナ」
「はい、だって私の大事なクラブですから」
「それでこそアリム家の娘よ。カラバッリもその話を聞いて『ディアナは度胸があるな』と褒めていたわ」
「本当ですか? 嬉しいです」
おじい様に褒められるのはかなり嬉しいな、とニマニマしていたら、
「でもこれからは本当に危ないことはやめてちょうだい。こっちの心臓が持たないわ、ディアナ」
とヴァレーリアに怒られてしまった。
「はい、すみません。今度からは気をつけます……」
「はは、ディアナも怒られることがあるんだね!」
「僕たちと一緒だねディアナ!」
「あなたたちと一緒にするんじゃありません!」
と、なぜか最後は双子がおばあ様から怒られていた。
そして夜になってみんな防寒着を着て館の屋上に向かう。まだ体調の変化がないヴァレーリアも「この儀式は私もみんなと見たいから」と言って一緒にやってきた。
私はヴァレーリアの体が冷えないようにその手を握りながら空を見上げる。白く吐く息が暗闇に吸い込まれていくようだ。
「あ、始まるよ」
トグリが声を上げて城の方を指差すと、城の頂上に黄色い光が灯ったのがわかった。
アルスラン様の黄の魔石術だ……。
黄の光の球はどんどんと大きくなり、城全体を照らすほどになる。そして球の周りに土星の光の輪のようなものが浮かび、その輪が王都全体にブワッと広がる。王都の端まで広がった輪に向かって光の球から何本もの光の線が伸びて、そこから黄色のキラキラが降りてきた。
キラキラ、キラキラと王都が黄色い光に包まれていく。
やっぱり凄いな……この魔石術。夢の国にいるみたいだ。
私は光の源である城の頂上を見上げ、そこにあるであろう王の塔を思い浮かべた。
今日のアルスラン様の体調はどうかな……この儀式をするために無茶してないよね?
コモラの料理を食べる機会が増えたとはいえ、まだ健康にはほど遠いのだ。私は王様の体が心配になった。
「ディアナ? どうしたの?」
「ううん、なんでもないです。アルスラン様の魔石術は凄いなって……」
「そうね……こんなことができるのはこの世界でもアルスラン様だけじゃないかしら……んっ」
「お母様?」
「……っ。お腹が……」
ヴァレーリアはそう言ってお腹を押さえて顔を顰める。
「お母様⁉ 大丈夫ですか?」
「きたようね。ヴァレーリア、深呼吸をして、そう。まだ動けるわね?」
「ええ、大丈夫です」
「では部屋に行きましょう。トグリ、チャプ、ディアナを頼んだわよ」
「「任せて!」」
おばあ様の言葉に双子が揃って返事をする。
「お母様……っ」
「大丈夫よ、ディアナは無事に産まれるよう祈ってて」
「はい!」
私は一度ぎゅっとヴァレーリアの手を握りしめるとお腹をさすって離れた。部屋に戻っていくヴァレーリアを見送りながら手首のお守りを握りしめる。
私の後ろではヤンギ・イルが終わったあとの新年を祝う花火がそこら中から上がっていた。
女性館は出産が終わるまで閉められるので、私は双子と一緒に本館の談話室でその時を待つ。まだまだ時間はかかるだろうと思うのに、気が急いて落ち着かない。
部屋をぐるぐると歩く私を見て双子が笑っている。
「ディアナが僕たちみたいになってるね」
「僕たちって他人から見たらあんな感じなの?」
私はそんな言葉を聞きながらお守りを握って「無事に産まれますように」と何度も祈る。
そこに冬の空気をまとったクィルガーが勢いよく帰ってきた。私たちが部屋に戻ってきてそんなに経ってない。本当に急いで帰ってきたようだ。
「兄上⁉ 早すぎ!」
「ジャスルを飛ばして帰ってきた。ディアナ、ヴァレーリアは?」
「産気づいたのでおばあ様と部屋に行きました」
「そうか。医者は?」
「一度様子を見にきてくださるそうです」
「クィルガー様、まずはお召し替えを」
とクィルガーのトレルのカリムクに言われ、クィルガーは自室へ向かった。そして着替えが終わって戻ってくるころに女性医師が到着して女性館の方へ案内されていく。そのまま女性医師について行きそうになる私の襟をクィルガーが後ろから掴んだ。
「おまえが行ってどうする」
「だって気になって……」
「いいからここに居とけ」
談話室のヤパンにクィルガーと向かい合わせで座るが、二人とも目線をあっちこっちに漂わせてソワソワしている。双子が「こんな落ち着かない兄上を見るの、初めてかも」と小声で囁いていた。
それから割りとすぐに女性医師が女性館から出てきて状況を説明する。
「お産は順調ですが、まだ時間がかかりそうです。おそらく産まれるのは明け方かと。それまでの流れは指示しておりますので、どうぞご心配なさらす。私は他の家を回ってまだ戻ってきます」
と、女性医師はそう言って他の家へ忙しそうに向かっていった。
「明け方か……」
「長いですね……大丈夫でしょうか、お母様」
「母上が見ているから大丈夫だろう。俺たちができることはなにもないな」
「ううー……ずっと待ってるだけっていうのも辛いですね」
「そういう時は違うことをするに限るぞ。おい、おまえら夜食は食べるか?」
「え! いいんですか兄上!」
「食べます食べます!」
クィルガーがカリムクに言って夜食を用意させる。どうやら食べられるうちになにか食べておけという騎士特有の考え方らしい。
気持ちの切り替えが早すぎるよ……お父様。
談話室のローテーブルに夜食が並べられ、それに双子とクィルガーが手をつける。
「おまえは食べないのか?」
「とても食べれる気分じゃないですよ」
「いつも食い意地がはってるのに、珍しいな」
「逆によく食べられますよね……こんな時に」
「騎士はどんな時でも食べられるように訓練されてるからな」
「ディアナちゃんも食べようよ!」
「ほらっディアナちゃんの好きなシャリクもあるよ?」
む……シャリクか……。
チャプが美味しそうなシャリクをフォークで刺してこちらに向ける。香ばしいタレと香辛料の香りがふわっと鼻腔をくすぐって思わず涎が出てしまう。
そんな様子の私を見てクィルガーが苦笑した。
「食べれるんだったら食べとけ。もし助けに呼ばれたらそこからは休めないんだぞ?」
「は! そ、そうですね……いざという時に空腹で動けないなんてダメですもんね」
「そうだよ!」
「はい、これディアナちゃんの分」
とチャプが私用のお皿にシャリクをわけて渡してくれる。
「これは、仕方なく、仕方なくですよ!」
と自分に言い聞かせるようにして、私はシャリクをパクリと食べた。夕飯の時に食べたばかりだけど、いつ食べてもシャリクはやっぱり美味しかった。
夜食を食べ終わってからはお喋りをしたり、双子とチェスのようなボードゲームをしたりして時間を潰す。いつもならとっくに寝ている時間になってウトウトし始めた私は、クィルガーの膝を枕にして横になった。貴族の娘がする格好ではないけど、今日は誰も注意しない。
そうして少しだけ眠った私は、突然聞こえてきた足音に目を覚ました。女性館の方から玄関の方へ走っていくその音を聞きながら上体を起こす。
「どうかしたのか?」
「走ってる足音がさっきから聞こえるんです……なにかあったんでしょうか」
私の言葉を聞いてクィルガーが眉を寄せてカリムクに確かめるように言う。と、そのカリムクが部屋を出ようとしたところで、ヴァレーリアのトカルが部屋にやってきた。私はなにかあったのかと顔を青くする。
「どうした? なにかあったのか?」
「いえ、順調なのですけれど、医者の見立てより出てくるのが早そうで、今急いで医者を呼びにいかせたところでございます」
「そうなのか」
クィルガーはそれを聞いてホッとため息をつく。
「ヴァレーリアの様子は?」
「よく耐えてらっしゃいます。ターナ様の癒しもございますし、こちらには心配するなと伝えて欲しい、と」
そんなこと言われても心配するよぉ。
「わかった。よろしく頼む」
「かしこまりました」
トカルが部屋から出て行って、しばらくすると玄関から複数の足音が聞こえた。女性医師が着いたようだ。
「お父様、私そこまで行ってきます!」
「あ、おい待てディアナ」
居てもたってもいられなくなった私は、トグリとチャプを引き連れて女性館に繋がる渡り廊下の手前まで走っていく。クィルガーも後ろからすぐに追いついてきた。
女性館に繋がる渡り廊下の扉の前までくると、ちょうど玄関の方からやってきた女性医師と合流した。女性医師と呼びに行ったトカルたちがびっくりしている。
「あの、なにかあったら呼んでくださいね! 私すぐに行きますから!」
「大丈夫ですよお嬢様、無事にお生まれになったらすぐにお知らせします。ここは冷えますので部屋でお待ちください」
女性医師はそう言ってにこりと笑い、女性館への扉を潜っていった。私はそれを見送りながらぎゅっと手首のお守りを握る。
しばらく女性館の方を眺めていると、クィルガーが「体が冷えるから部屋に戻るぞ」と私の肩を叩いた。
「……もう少しだけ」
私はそう答えて、目を閉じて赤ちゃんのことを考える。
大丈夫かな。頑張ってるかな。もうすぐ会えるかな。
お姉ちゃんはここにいるよ。待ってるよ。応援してるからね。
心の中でそう願った瞬間、胸元がポワッと温かくなって私はハッと目を開けた。
「どうした?」
「透明の魔石が……っ」
服の下から引っ張り出した透明魔石が、私の手のひらで光っている。それを見た途端、クィルガーの顔が険しくなった。
「なんか命じたのか⁉」
「命じてませんよ! ただ赤ちゃんのことを思っただけで……」
「パム……パムパム」
焦る私とクィルガーをよそにパンムーが透明魔石に近づいて、何度もうんうん頷いている。そして私に向かって、手を組んで祈るようなポーズをとった。
「それは……祈れってこと?」
「パム」
パンムーは頷き、女性館の方を指差してまた祈りのポーズをする。
「赤ちゃんのことを祈れってこと?」
「パム!」
パンムーの答えを聞いて私はクィルガーと顔を見合わせた。
「い、いいんでしょうか?」
「わからん……、おいパンムー、それは危険なことにはならないのか?」
「パム」
パンムーは大丈夫と言うように大きく頷いた。
「お父様……」
「……絶対に魔石の名前は呼ぶなよ」
「はい」
私は神妙な顔をして透明魔石を持ち、目を閉じて祈った。
赤ちゃん、大丈夫だよ、もうすぐ会えるよ。
お母様が外へ出してくれるから、あなたも頑張って。
お姉ちゃんはすぐそばで待ってるからね!
そう強く祈っても、透明魔石に特に変化はなかった。ただポワポワっと温かくなるだけだ。
「なにも起きませんね……」
「……まぁなにか変なことが起きるよりいいだろ」
クィルガーと二人でホッとしていると、パンムーがなにかに気づいたように空中を見上げ、そのままそれを追うように視線を動かした。
え? なに? なんかいるの?
「ちょっとパンムー、変な動きしないでよ……」
ちょっと口を引き攣らせながら話しかけると、パンムーは「大丈夫だよ」というように両手で丸の形を作った。
なにが大丈夫なんだろう……。
と、それからしばらくして渡り廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。女性館に繋がる扉が開かれてヴァレーリアのトカルの一人が出てくる。目の前に私たちがいることに「ひゃっ」と驚いたあと、すぐに跪いて口を開いた。
「おめでとうございます! 無事にお生まれになられました! 元気な男の子です!」
「わぁ! もう? やったね!」
「おめでとう兄上! ディアナちゃん!」
トカルの言葉に双子がまず喜びの声をあげた。
「ほ、本当に⁉ お母様は?」
「母子ともにご無事です。おめでとうございます、ディアナ様」
「生まれた……男の子……ううー……」
それを聞いて涙がブワッと溢れ出す。
よかった、生まれたぁぁ。本当によかったよぉぉぉ。
私が思わず横のクィルガーに抱きつこうとしたら、クィルガーがいきなりしゃがみこんだ。驚いて見ると、クィルガーは顔を手で覆って「はぁぁぁぁ……良かった……」と肩から力を抜いていた。
お父様も心の中では相当心配してたんだね。
私はそんなクィルガーの真正面に立って両手を広げる。
「お父様ぁ」
クィルガーは指の間から私をチラリとみると、手を広げ、無言で私を抱き締めた。
ディアナやクィルガーにとってとても長い夜でしたが
赤ちゃんが無事に生まれました。
元気な男の子です。
次は 私のきょうだい、です。