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魔石術ラウンドと武器ラウンド


 長方形のフィールドの左右、サッカーでいうゴールがある部分の前に私とクドラトが立つ広い台があり、フィールドのちょうど中央部分に間を空けて二箇所の石の塊がある。私が立っている台は石一個分の高さで縦に四つ、横に十個ならんでいて、二箇所の石の塊は十個以上の石がピラミッドのように積まれていた。

 

「とりあえずさっさとこの台を降りなきゃね」

 

 ヴァキルの前にいるとお互いになにもできない。私は正面、敵側に向かって台の上を走りそのまま下へ飛び降りる。見ると、クドラトも同じように台から飛び降りていた。敵側のヴァキルが丸見えになる。

 

「『キジル』衝撃を」

 

 右手を突き出して衝撃の魔石術を放つ。敵側のヴァキルにまっすぐに向かっていく赤色の光は、中央のラインを超えたあたりでクドラトの放った衝撃の魔石術によって弾かれた。

 

「てめぇから先制攻撃するとはな」

「小手調べってやつです」

「『キジル』衝撃を!」

 

 クドラトがそう命じると、私の衝撃よりも大きな赤い光が一直線にこちらのヴァキルに向かってきた。

 

「『キジル』衝撃を!』

 

 私はさっきより威力を上げた衝撃の魔石術を使ってそれを弾き飛ばす。

 

 ヴァキルから離れても、この位置にいれば相手の魔石術には対応できそうだね。でもそれは向こうも同じだ。

 ここから衝撃を打ちまくっても仕方ない……なんとか相手の不意をつかないと。

 

 そんなことを考えていたら、クドラトが中央に積まれている石に向かって魔石術を唱えた。

 

「『サリク』石を向こうへ!」

 

 黄色い光に包まれた一つの石がふわりと浮き、こっちのヴァキルに向かってブン! と飛んでくる。

 

 あんなでかい石を直接当てる気なの⁉ ヴァキル壊れちゃうよ!

 

「『サリク』石を留めて!」

 

 私から放たれた黄色い光が飛んでくる石を包み、空中でぴたりと止まる。お互いの体から黄色い光が出続けている。クドラトが石を飛ばそうとする力と私がそれを留めようとする力が拮抗して、石は空中でガタガタと揺れている。

 

「衝撃で砕けばよかったものを!」

「そんなことしたら破片が飛んできて危ないでしょ!」

 

 私はそう言いながら魔石術の威力を上げた。魔石術の力は私の方が強い。石を留めてそのまま下にゆっくりと降ろした。

 

「チッ魔石術での力比べだと負けるか」

「あ、そうだ……衝撃で……」

 

 今度は私が黄の魔石術を使い、中央に積まれた石を向こうのヴァキルに向かって飛ばす。

 

「俺の真似しても仕方ないぞ。『キジル』衝撃を!」

 

 クドラトが放った衝撃の魔石術が飛ばした石にぶつかり、バァァァン‼ と大きな音を立てて大破する。

 

「うわ!」

「いてて」

 

 ド派手に破壊された石の破片が観客席にまで飛んでいく。

 細かな石の破片がクドラトの後ろのヴァキルまで飛んでいくが、それをクドラトは衝撃の魔石術で一度に弾いた。

 

「おいクドラト! こっちにまで飛ばすな!」

「うるせぇ! 嫌ならどっか行け!」

 

 私は続けて同じように石をどんどんヴァキルに向かって投げつけた。それをクドラトが衝撃で潰していく。

 

「やめろって!」

「いててて!」

 

 クドラト側の観客席に座っていたシムディアクラブのメンバーがたまらず反対側へ逃げていった。

 左側に積まれた石が半分くらいになったところで私は動きを止める。

 

「何度やっても同じだぞ小娘。それともなにか? 石を小さく砕いて攻撃できる数を増やしたかったのか?」

「そうですね、先輩は律儀に砕いてくれるので助かります」

「フン! 石を砕きたかったら初めからこうすればいいんだよ! 『キジル』衝撃を‼」

 

 クドラトは今までで一番力を入れて衝撃を放った。その赤い光は左側の塊に飛んでいって、バガァァァァン‼ とそこに残っていた石を全て砕いた。

 

「わ! ちょっと! あぶな!」

 

 大きな魔石術の衝撃がこちらにまで飛んでくる。砕かれた石と一緒に。

 

 ちょっとこれ私に対する攻撃になるんじゃないの⁉ もう!

 

「『キジル』衝撃を」

 

 私と後ろのヴァキルにまで飛んできた小石を、衝撃で飛ばしていく。

 

「『サリク』石を向こうへ!」

 

 クドラトがさらに砕いた石をこちらに向けて飛ばしてくる。しかも数個同時に。石が小さくなったのでまとめて飛ばすことが可能になったらしい。

 私はそれを衝撃で飛ばしながらチラリともう一つの右側の石の塊を見る。

 

 ここからじゃ目標物が見えないからあっちに行くしかないか。そうだ。

 

「『サリク』石をこちらへ!」

 

 私は魔石術の威力を上げて右側に残っている大きな石の塊を自分の方へ引き寄せた。

 

「な! あの大きさの石を一度に何個もだと⁉」

 

 クドラトが驚きで目を見開く。

 私はその石を自分のヴァキルの前に並べて、上へどんどんと積み重ねていった。

 

「あれはなんだ?」

「壁を作っているんじゃないか?」

 

 観客席からの声に私は内心「正解!」と言って石の壁を見上げた。ヴァキルの前に高さ三メートルの壁ができていた。これで小さな石の攻撃からヴァキルを守ることができる。

 そして私はくるりと踵を返すと、その石が積まれていた方へ全速力で走り出す。

 

「なに⁉ ヴァキルを見捨てるのか! 馬鹿め!」

 

 私が思いっきりヴァキルから離れたことで石ではなく、衝撃の魔石術を直接クドラトが打ち込んでくる。それを私は走りながら横から衝撃の魔石術を唱えて弾いた。こちらから弾けるのは中央付近のこの辺がギリギリだ。

 

 でももう攻撃はさせない。

 

「『キジル』炎を!」

 

 私はクドラトの上に一メートルほどの炎の塊を出現させる。炎を出しただけで攻撃はしていない。突然頭上に現れた炎にクドラトが「あちぃ!」と言って頭を守った。

 その隙を見逃さずに私は続けて魔石術を唱えた。

 

「『サリク』石をあちらへ!」

 

 正面から中央右側へ移動したことでクドラト側のヴァキルとその周辺がよく見えるようになった。そのヴァキルの後ろ側に落ちていた小石に向かって魔石術をかけたのだ。

 黄色い光がその小石を包み、狙い通りヴァキルの後ろ側に向かって飛んでいった。

 

 カァァァァァン‼

 

「そこまで!」

 

 よし!

 

 おおおおお、と観客席から歓声が上がる。

 

「勝者ディアナ!」

 

 アサン先生の声が聞こえて歓声はさらに大きくなった。

 

「くそ!」

 

 クドラトが悔しそうに足元の小石を蹴る。

 

「二回戦の準備をしますので、二人とも一度上へ」

 

 オリム先生に言われて二人ともそれぞれの階段で上へ戻る。

 

「ディアナ!」

「すげぇぞディアナ!」

「まずは一勝だな」

 

 ファリシュタとラクスとハンカルが駆け寄ってくる。

 

「うん、魔石術ラウンドは取りたかったからね、よかったよ」

「あんなでけぇ石をよく同時に動かせるよな」

「あれは一級授業で習ったから」

「うへー一級ってやっぱすげぇな」

 

 ラクスが目を丸くして驚く。

 

「石をたくさん投げて砕けさせたのはヴァキルの後ろ側に破片を落とすのが目的だったのか?」

「そう。正面から攻撃しても弾かれるのはわかってたし、じゃあ後ろからヴァキルを狙ったらいいかなって」

「なるほど……あの一瞬でよくそこまで考えられたな」

 

 ハンカルも腕を組んで感心したように頷いている。

 私たちが喋っている間に、一回戦で砕けた石がまとめてフィールド外へ運ばれ、代わりに積み上げられたアクハク石がフィールドの中へ運ばれていく。そしてあっという間に次のステージが出来上がった。上から覗くと、さっきとは全く違う配置になっているようだ。

 

 左右にヴァキルの置かれた台があるのはさっきと同じだけど、その間のあれは……。

 

「なんだあれ? 石で作られた迷路みたいになってるぞ」

「石は三段積みで並んでいるから……上に登ることはできないな」

 

 左右のヴァキルの間に石の壁で囲われた空間ができていて、その中が石で仕切られた通路のようになっている。

 

 子どもの時にやった巨大迷路みたい。

 

「二人とも、上から覗くのはそこまでです。すぐにヴァキルの方へ行ってください」

 

 オリム先生に促されて私とクドラトはあまり通路を見る時間がないまま再び下に降りた。

 下に降りてしまうと、通路の中は三メートルの高さの石の壁に防がれて全く見えない。

 

 これは……迷路を先に抜けた方が勝ちってことだよね。魔石術は使えないから石を動かすことは不可能だし。ヴァキルの台を降りてすぐに弓で狙ってみる? 的が全く見えない状態で打っても当たらないか……。

 

 作戦を考えながらヴァキルの台に登ると、とあることに気づく。

 ヴァキルは今回は正面ではなく九十度横を向いて設置されていたのだ。

 

「これは正面から矢を射っても当たんないね。やっぱり通路を早く抜けて向こうの台に横から近づいてから、矢で狙うしかないな……」

 

 台の上からクドラトを確認しようとしたけど一メートルの高さからでは三メートルの高さの壁の先は全然見えなかった。背が低いって不利だ。

 

 先輩の武器は確か剣と小さな石を投げられる紐状の投石器だったよね。私が考えたみたいにまずは一発撃ってくるかな?

 

「……いや、先輩の性格からして多分開始直後からこっちに走ってくる気がする」

 

 猪突猛進してくるクドラトの姿が容易に想像できて、私は首を振った。

 

 うん、私も全速力で迷路に突っ込もう。

 

 武器しか使えない体力勝負なラウンドは、下手になにか考えるより体を動かした方が良さそうだ。

 

「では武器ラウンドを始める! 『キジル』衝撃を!」

 

 アサン先生がそう宣言して大講堂の大鐘を鳴らす。第二回戦、開始だ。

 私は開始の合図とともに迷路の入り口に向かって一直線に走り出した。ヴァキルの置いてある台を飛び降りて、迷路に突っ込む。最初の細い通路を進んだ先に、いきなり右に続く道と奥に続く道が出現する。

 バッと奥の道を確かめるとすぐに行き止まりが見えたので手前の曲がり角を曲がる。

 

「急げー急げ急げ!」

 

 試合が始まってから投石器を使った攻撃はない。やはりクドラトも同じように迷路に飛び込んだようだ。

 

 再び道が二つに分かれているが、自分の陣地に戻る方向に道が続いている方は避けて、相手側に向かう道を選ぶ。いくつかの分かれ道を超えて走っていると、道がまっすぐ続いている通路に出た。

 

「あ!」

 

 その長い通路の一番奥の曲がり角からクドラトが飛び出してくるのが見えた。そのまま、すごいスピードでこちらに向かって走ってくる。

 

 ひぃぃぃぃぃぃ! なんちゅうスピード! このままじゃ正面衝突しちゃう!

 

「あ、そうだ!」

 

 私もスピードを緩めずクドラトの方へ走っていく。

 

「どけ! 邪魔だ!」

 

 私が止まるか避けるかするだろうと予測してクドラトはそのまま突っ込んでくる。もう少しで二人が交錯するというところで、私は地面を蹴った。

 

「先輩肩借ります!」

「な!」

 

 私は右の壁を使って三角飛びをして突っ込んでくるクドラトの肩に左足を着地させ、その勢いを利用してまたジャンプし、右の壁の一番上に手をかけた。

 そのまま体を持ち上げて壁の上へ登る。

 

「てめえ!」

「今のは攻撃じゃないからセーフですよね」

 

 勢い余って少し通路を進んだところでようやく止まったクドラトがこちらに向かって文句を言う。

 

「そんなの有りか!」

「まともに速さ勝負してたら負けますから」

 

 私はそう言って腰から弓矢を取り出し、ブンッと振って構える。壁の上から敵側のヴァキルは丸見えだ。

 

 弓をカーブさせたらギリギリいける?

 よぉし! やってみよ!

 

 と、弓をぎゅっと引いたところで足元が突然揺れた。

 

「うえ⁉」

 

 驚いて下を見ると、なんとクドラトがアクハク石に体当たりしている。

 

 ええええ⁉

 

 ドシンッドシンッとクドラトがぶつかる度に、石がズズズ……とずれていく。

  

 嘘でしょ⁉ こんな重たい石を力だけで動かせるの⁉

 

 危険を感じた私はたまらず横の石に飛び乗る、とそれを読んでいたらしい、クドラトは「うおおおおお‼」と叫び声をあげて私の飛び乗った石の二段目に思いっきりタックルした。

 

「ひゃああ!」

 

 クドラトの押した二段目の石が勢いよく前に押し出され、私が乗っていた三段目の石がぐらりと傾く。

 まずい! と思った時には私の体は空中に投げ出されていた。

 

「ディアナ!」

 

 と、上からファリシュタの悲鳴が聞こえた。

 

 ゴゴォォン……!

 

 ものすごい轟音とともに石が床に崩れ落ちる。

 

「……ったぁ」

 

 私は壁の上から通路に落ちた。咄嗟に受け身を取ったので大した怪我はないけど腰とお尻がジンジンする。私は腰のあたりをさすりながら立ち上がり、ハッと気づいた。クドラトがいない。

 私を落としている間に、クドラトは先に行ったらしい。マズい。こちらも早く通路を抜けなくては負けてしまう。私は慌てて倒れた石を乗り越えて通路の奥へ走り出した。

 何個か角を曲がった先に、やっと出口が見えた。

 

「出口でた! ヴァキルは……あそこか」

 

 急いでヴァキルの正面に回り込みながら弓に矢をつがえる。

 

 間に合って!

 

 ヴァキルの面が狙える位置にきたところで矢を放った。

 ビュン! と放たれた矢が真っ直ぐヴァキルに向かって飛んでいく。その直後、私の後方から、

 

 カァァァァァン‼

 

 という鐘の音が鳴り響いた。そしてそのあとこちらの鐘もなる。

 

「そこまで!」

「おおおおお!」

「惜しい!」

「僅差だったな!」

「勝者クドラト!」

 

 わぁぁぁ、と会場が湧く。私は肩でハァハァと息をしながら膝に手をつく。

 

 あああ、負けちゃった。

 

 どうやらクドラトの方が先に迷路を出たらしい。

 

 まさか壁を力づくで崩すなんてね……これは負けた。

 

 私は息を整えてフィールドを横切り、階段を上っていく。

 

「ディアナ、大丈夫?」

 

 観客席に着くとファリシュタがお茶を持って駆けつけてくれた。私はそれを受け取ってグビグビと飲み干す。

 

「あー疲れた……負けちゃった」

「惜しかったな」

「うん。壁の上に乗るのはいい作戦だったと思ったんだけどね」

「まさか足元を崩されるとはな」

「力が化け物すぎるよ」

 

 ラクスと話しているとファリシュタが「ディアナ怪我してない?」と泣きそうな顔で聞いてくる。そういえば腰とお尻が痛い気がする。そう言うと、ファリシュタがすぐに癒しの魔石術をかけてくれた。

 

「ありがとうファリシュタ。痛くなくなったよ」

「本当に?」

「うん。でも結構体力使っちゃったから少し休みたいかな」

「二人とも全速力でしたからね。いいでしょう、少し長めの休憩をとりましょう」

 

 私の言葉を聞いたオリム先生がそう提案してくれる。

 

 助かった……。これで一勝一敗か、最終ラウンドは絶対勝たなきゃね。

 

 私は休憩しながらチラリと特等席にいるクィルガーを見上げる。特等席のヤパンの上に部下の人たちと並んで座っていたクィルガーは、私と目が合ったあと、フッと口の端を上げて笑った。

 なんとなく「おまえならやれる」と言われている気がして、私は口元を引き締めて大きく頷いた。

 

 

 

 

魔石術ラウンドと武器ラウンドを終えて一勝一敗になりました。

残るは最終ラウンド。

イバン王子がかかっているので負けるわけにはいきません。


次は 最終ラウンド、です。

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