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一級授業 自分の特性


 今日は今年初めての一級魔石学の授業だ。ハンカルと一緒に大講堂に入ると、多くの生徒が私との距離を空けて様子を窺うなか、グルチェ王女が満面の笑みで話しかけてきた。

 

「ディアナ! 久しぶりだね」

「グルチェ様、お久しぶりです」

「ハンカル、演劇クラブの副クラブ長になったんだって?」

「ああ、グルチェも社交クラブの副クラブ長になったんだろ? 珍しいな、そういうの好きじゃないのに」

「だってレンファイの補佐をするなんて恐れ多くて誰もできないって言うんだよ。だから仕方なく私が引き受けたの」

「ははは、なるほどね」

 

 ハンカルと話したあとグルチェ王女は私の方をまじまじと見つめて、ニヤッと笑って言った。

 

「ねぇディアナ、ちょっとだけその耳触ってもいい?」

「へ?」

「ディアナがエルフだって公表してからさぁ、ずっと触ってみたいって思ってたんだよねぇ。ね、ちょっとだけ、ダメ?」

「グルチェ、それはダメだって国にいる時から言ってるだろ。そんな風に王族が言ったらディアナは断れないし、こんな人前でそういうことをするものじゃない」

「えー、ちょっとくらいいいじゃない。ハンカルは真面目すぎるんだよ」

「グルチェが適当すぎるんだ」

 

 私がチラリと周りを見ると、学生たちがグルチェ王女の台詞に聞き耳を立てている気配がした。

 

 確かに今ここではやめといた方がいいかな……。

 

「グルチェ様、今はその……目立つので、ご期待には添えないんですけど、あとでこっそりとならいいですよ」

「ほんと⁉ ありがとうディアナ!」

「ディアナ……」

「大丈夫だよハンカル。別に痛くも痒くもないものなんだし」

 

 私はそう言って自分の耳をみょんみょんと摘んで引っ張った。それを見てグルチェ王女は「おお、意外とよく動くんだね」と言って感動しているし、周りの生徒も距離を置きながらも興味深そうに眺めている。

 

 本当はエルフって存在に興味があるけど、みんな近寄れないんだろうなぁ。グルチェ王女は別だけど。

 

 そこへイバン王子が小さな男の子を連れてやってきた。

 

「久しぶりだねグルチェ。みんなに俺の弟を紹介したいんだけど、いいかな」

「久しぶりイバン。へぇ、そっちの子がイバンの弟?」

「ああ、弟のユラクルだ」

「初めまして、ザガルディの第二王子ユラクルといいます」

 

 男の子はそう言ってふわっと笑った。私と同じくらいの背で白い肌にサラサラの銀髪をおかっぱに揃えている。薄紫の水晶のような綺麗な目をしているので、なんだか儚げな王子様という印象だ。頭にはイバン王子と似たような複雑な刺繍の入った帽子を被っていた。

 

「イバンも出会った時は可愛い美少年だったけど、ユラクルはそれ以上に可愛いね。私はウヤトの第三王女のグルチェよ。よろしくね」

 

 グルチェ王女のあとに、私とハンカルも自己紹介する。私が挨拶すると、ユラクル王子は少し目を見張ったあと、


「クラブ紹介の時は遠目だったのでよくわからなかったのですが、ディアナの瞳はとても綺麗ですね」

 

 と言ってにこりと笑った。

 

 ん? 瞳? 最初に気になるのって耳じゃないの?

 

「そ、そうですか?」

「ええ。あ、それにクラブ紹介の時の演技、すごく感動しました。あんな劇はザガルディでも見たことがありません」

 

 おお、劇のことを褒めてくれるなんて、なんていい子なんだ!

 

「ありがとうございますユラクル様。もし興味がおありでしたら演劇クラブにも見学に来てください。お兄様のイバン様もいらっしゃいますし」

「そうですね、そうしたい気持ちはあるのですが、今はシムディアクラブに慣れることに精一杯で……」

「えっユラクル様はシムディアクラブに入られたのですか?」

 

 見たところ、イバン王子と違って戦闘とかは得意ではなさそうな感じがするのに。

 

「父上の指示でね、ザガルディの王族男子は必ずシムディアクラブに入って体を鍛える決まりなんだよ。ユラクルは戦闘より作戦を考える方が得意だからそっちで活躍して欲しいと思ってるよ」

「でも今はまだ基礎鍛錬が主なので、それについて行くのにやっとなんです……」

「へぇ、大国の王子様ってのは本当に大変なんだねぇ。がんばってね、ユラクル」

「はい。ありがとうございますグルチェ様」

 

 ちょうどその時本鈴の鐘が鳴り、今年も変わらず機嫌の悪そうなバイヌス先生が靴を鳴らして大講堂に入ってきた。

 新一年生たちが明らかにその雰囲気にびびっている。

 

 わかる、わかるよその気持ち。

 

「ああ、今年も君たちのような未熟者を相手にしなければならないとは、遺憾だ。一級魔石使いに優秀でない者は不要なので、ついて来れない者は置いていく。そのつもりで授業を受けるように」

 

 おお、今年も言うねぇバイヌス先生。

 

 バイヌス先生は去年と同じように一年生だけ大講堂の隅に集まるように言い、イバン王子に授業の進行を任せた。

 どうやら今年もお互いの力がどれくらいのものになっているか確かめるところからスタートするらしい。

 イバン王子の指示で生徒たちがそれぞれのグループに分かれていった。

 私はイバン王子、レンファイ王女、グルチェ王女とともにアクハク石を使って自分の限界値を確かめる。といっても、私は特級なので力は十に抑えている。

 どうやら全員去年からあまり力の上限は変わっていないようだ。

 

「珍しいじゃないレンファイ。あなたが変わらないなんて。毎年少しずつ力を伸ばしていたのに」

「……今年の夏休みは王位継承の教育が忙しくて訓練の時間が削られたから」

「ああ、なるほど。そりゃ来年だもんね、訓練してる場合じゃないか。ひー大変だねぇ」

 

 グルチェ王女がそう言ってうえっという顔になる。王族の決まりや縛りが苦手なグルチェ王女にとっては王位継承の教育なんて絶対したくないものに違いない。

 

「私もそうだけど、イバンだって珍しいじゃない」

「俺は……まぁ、いろいろと忙しかったし、なんかこう集中力が続かなくてね」

「えっイバンが? 信じられない」

 

 グルチェ王女が目を大きく開いて驚く。

 

「はは、俺だってそういう時はあるよ。あ、でもユラクルには内緒にしててくれ。知られると兄としては恥ずかしいから」

「あはは、そうなんだ。わかった」

 

 そんな会話をしている間にもバイヌス先生の測定が終わった一年生がイバン王子の元へ来て数値を報告していく。王子は一人一人笑顔で対応しながらそれぞれのグループに振り分けていった。

 一年生はイバン王子と話しながら私の方をチラチラと見ていたので、私は目が合うたびに満面の笑みを返したが、なぜか全員にびっくりされた。

 

 そんなにビビらなくても……。

 

 最後にユラクル王子がやってきて「私は兄上と同じグループのようです。ギリギリですけど」と言ってはにかんだ。

 

 うん、ユラクル王子は可愛い。癒し系王子。

 

「ディアナも同じグループなのですね。ということは、魔石使いとしての力も強いのですか?」

「ディアナの力は俺やレンファイと同じくらいだからね」

「そうなのですか! すごいですね」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 ユラクル王子に賞賛の目で見られて顔がにやけてしまう。

 

 それにしても普通の貴族には距離を置かれてるけど、こうやって王子や王女や先生たちは普通に接してくれてるんだから、私って結構ラッキーだよね。

 

 それぞれ振り分けられた一年生たちがグループ内で力を見せたあと、今度は二年生だけがバイヌス先生に呼ばれて大講堂の端に集まった。

 

「ああ、今年もまた気の抜けた顔ばかりだな。二年生の君たちには自分の特性について学んでもらう」

 

 自分の特性?

 

 私たちの前に立ったバイヌス先生が眉根を寄せたまま説明を始めた。

 

「特性というのは、簡単に言うと自分が得意な魔石術のことだ。力の弱い二級や三級の魔石使いは体の中にあるマギアコアが小さいため、特に特性はない。だが一級にはそれが顕著に現れる。一年間魔石術を習ってきて気づいている者もいるのではないか?」

 

 バイヌス先生にそう聞かれ、あ、となにかに気づく生徒が何人かいた。

 

 特に得意な魔石術? なんかあったっけ?

 

 赤、青、緑、黄と学んできたけどこれといって得意なものは思い浮かばない。どちらかというと黄の魔石術が難しいなぁという感想の方がすぐに浮かぶ。

 

「特に思い当たらぬ者もいるだろう。そういう者はバランス型と呼ばれ全方向に満遍なく力を発揮できるという特性を持っている。特性をはっきりと調べるにはある程度強い魔石術を使う必要があるため、この測定は私と一対一で行っていく。今までの授業では力を抑えて魔石術を使うことを中心にやってきたからな、大きな力を使うことに戸惑わぬように」

 

 ……確かに今まで思いっきり強い力で魔石術を使ったことってないもんね。イバン王子たちと強い力を使うときはアクハク石を使って攻守が同等の力になるようにしていたから派手なことにはならなかったし。

 

「では今から順番に四つの色の魔石術を使ってもらう。呼ばれたものはこの場所に残るように。他の者はあちらの壁際で待機だ。決してこちらには近づくな、怪我をしても知らぬぞ」

 

 そう言ってバイヌス先生はギロリと生徒たちを見回して、一人の生徒の名前を呼ぶ。私たちはゾロゾロと大講堂の端の方へ歩いて行って壁際で振り返り、特にすることもないのでそのままぼんやりと先生と生徒のことを見ていた。

 

「ねぇハンカル、自分の特性ってわかる?」

「そうだな……四つの色の中で考えると、緑が得意なのかもなとは思う」

「そうなの? 他のとなにか違うの?」

「他の魔石術に比べて音合わせも楽にできるし、癒しも強化もなんかこう、自然にできるというか……うまく説明はできないが」

「自然にできる、かぁ」

「特に強化の魔石術は得意なんだと思う。ディアナはそういうのないのか?」

「うーん、考えているんだけど特にこれといって得意なのってないんだよねぇ。黄の魔石術が難しいとは感じるんだけど」

「あれは誰でも難しいからな」

「そうなんだけど……あ」

 

 ハンカルの言葉で気がついた。もしかして王様の特性って黄の魔石術じゃない? ヤンギ・イルとか大砂嵐の砂の除去とか黄の魔石術めちゃくちゃ使うし、本を動かしたりするのも簡単にやってたし。

 

「ディアナ?」

「ううん、なんでもない。とすると私はバランス型ってことなのかな?」

「そうかもしれないな」

 

 とハンカルと話しているところでドゴォォォォン‼ という大きな爆発音が響いて、次の瞬間熱風がボォッと吹いてきた。

 

「うわぁ!」

「ひゃあ!」

 

 壁際に待機していた二年生が悲鳴をあげる。

 

「なになに⁉」

「炎の魔石術だな」

 

 熱風が過ぎて顔を上げると、バイヌス先生と一緒にいた生徒が動揺してアタフタしている。先生はその様子を見て「これくらいで動揺するな、馬鹿者」と睨んでため息をついた。

 

「どうやらあの人は赤の特性があるらしい。さっきの魔石術はまだ俺たちは習ってないものだろう? 特性があると習ってないものも突然使えるようになるみたいだからな」

「そうなんだ……びっくりした」

 

 その後も順番に生徒が呼ばれて特性のテストをしていく。そしてハンカルも呼ばれて行ってしまった。テストの様子を見てみると、やはり緑の特性があるみたいで強化の魔石術を使ったところでバイヌス先生となにやら話をしていた。

 壁際に残っているのは私とマリアーラ王女だけだ。

 

「あの……マリアーラ様は自分の特性に見当はついているのですか?」

「私? そうね……多分赤の特性があるのではないかしら?」

「赤ですか」

 

 それは意外だ。マリアーラ王女の聖女っぽい雰囲気からして緑とか青のイメージだった。それをそのまま伝えると、王女はクスリと笑って言った。

 

「性格と特性に関係性はないと思いますわよ」

「まぁ、そうですよね……なんかみんな特性があって羨ましいです」

「バランス型でもいいのではないかしら。逆に苦手なものがないということですし」

 

 確かにそうなんだけど。なんかこう、ゲームでいう属性みたいな感じで格好いいんだよね。それぞれの特性に合った武器を持つと特殊な攻撃ができるとかありそうじゃない。いや別に戦いたいわけじゃないけど。

 

 それからマリアーラ王女も呼ばれて行ってしまった。見ていると、本人の言うように赤の特性があるらしく、私の知らない魔石術を何個も使っていた。

 そして最後に私の番だ。先生に呼ばれて小走りで駆け寄っていく。

 

「最初に聞いておくが、自分で気づいている特性の色はあるか?」

「いえ、特にないです。イメージしやすくてすぐにできるようになる魔石術はありますけど、覚えてない魔石術を使えたことはありません」

「ふむ、ではバランス型か。まず赤から見よう。上の空間に向かって炎の魔石術を使いなさい」

 

 バイヌス先生はそこまで言ったあとわざと口元を隠しながら囁いた。

 

「力加減は三で良い」

「三ですか……」

 

 私も小声でそれに返す。

 

 それ以上にすると危ないってことだろう。

 

「では、いきます。『キジル』炎を」

 

 頭の中で目盛りを三に合わせて炎の魔石術を使う。すると私の上部から天井までの空間一杯に大きな炎がボアアァァァ‼ っと広がった。あまりの大きさと熱さに「うひぃぃぃぃぃ!」と自分で悲鳴をあげる。

 

 あつ! あっついよ! あと怖い‼

 

「まぁ想定内だな。……これくらいで動揺してどうする。おまえは自分の力をきちんと把握せねばならぬのだぞ」

「そうですけど、最初にこんなの見たらビビりますよ……」

 

 向こうの方で他の一級の生徒たちが驚いた顔でこちらを振り返り、なにやら話しているのが見える。

 

「力は大きいが予想通り特にこれに特性はなさそうだな。次は緑だ」

「はい」

 

 アクハク石を使って緑の強化と青の浄化を試してみたけど、馬鹿みたいに石が硬くなったり綺麗になり過ぎて石が光りだしただけで特に変わったことはなかった。最後は黄の引き寄せの魔石術でアクハク石を指示された場所まで動かすテストだ。これは一本釣りのイメージがついたおかげでちゃんとふわりと着地させることができた。

 

 よしよし、私成長してる!

 

「ふむ、魔石術としては問題ないな。特性としてはやはりバランス型のようだ」

「バランス型ってなにかいいことはあるんでしょうか?」

「特にはない」

 

 バイヌス先生の答えに私は心の中でズッコケる。

 

「逆に言えば弱点もないということになる。例えば赤の特性がある者はそれ以外の魔石術が不得意になる傾向がある。バランス型にはそれがない。敵としては一番厄介な相手だと言える」

「敵にしないでください……」

「フンッ例えばの話だ」

 

 先生が言うと例えに聞こえないよ……。

 

「あ、ということはもし一級の人と戦うことになったとして、その人の特性が赤の場合、その他の魔石術が苦手ってことだからそこを攻めればいいってことですか?」

「そうだな。まぁあくまで魔石術だけの戦いになれば、の話だが」

 

 そっか、普通は武器での攻撃も同時に来るもんね。ていうか一級の人相手に戦闘なんて絶対にしたくないよ。

 でもやっぱりバランス型ってつまんないな……突出したところがないっていうのが悲しい。

 

 そんな私の心情を察したのか、バイヌス先生がドスの効いた小声で呟いた。

 

「おまえはその力自体が突出しているということを忘れるな」

「あ、そうでした……」

 

 

 

 

久しぶりの一級授業でした。

ユラクル王子は癒し系王子です。バイヌス先生は相変わらずクセが強い。

特性が特になくてつまんないディアナでした。


次は 読み合わせと王子の謝罪、です。

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