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相部屋と打ち合わせ


 黄の寮に着くと、学年ごとに分かれて集まるように言われる。どうやら高学年から順番に中へ入っていくようだ。集まった各学年の生徒たちの前に、今年の監督生の男女が立って挨拶を始めた。

 

「あ、じゃあ俺も前に行ってくるよ」

「え? ハンカル監督生になったの⁉」

「ああ。どうやら成績でトップだった者がなる決まりらしい」

「ん? だったら私も監督生ってこと? 特になにも言われてないけど」

「クラブ長をしてる者は監督生には選ばれないらしいよ。イバン様もそうだろ?」

「そうなんだ……。イバン様は王族だから免除されてるのかと思ってたよ……」

 

 二年生のグループの前に出たハンカルと女生徒が、寮での注意事項を告げる。ファリシュタがその様子を見て言った。

 

「あ、女の子の方の監督生もウヤトの人なんだね」

「本当だ。服装がそうだね。ウヤトの人って本当に優秀な人が多いんだなぁ」

「俺にも少し頭の良さをわけて欲しいぜ」

 

 三人でそんなことを話していると、二年生が入寮する順番になった。今年からは自分の魔石があるので、みんな自分で洗浄の魔石術を靴にかけて中へ入っていく。

 

「そういえばディアナの魔石のネックレスすごく素敵だね。繊細でとても綺麗」

「ありがと、私も気に入ってる。これ職人さんがすごくこだわって作ってくれたんだよ。ファリシュタは結局腕輪にしたの?」

「うん。三級の魔石は小さいから指輪にするって選択肢もあったんだけど、指先に魔石がむき出しになってるのが怖くて……」

 

 ファリシュタがそう言って腕輪を見せてくれる。細くてシンプルな銀の腕輪に四つの魔石がはまっていた。

 

「お、ファリシュタのもシンプルでいいな。俺の腕輪はこれだ」

 

 隣にいたラクスも袖を少しめくって見せてくれる。ラクスの腕輪はファリシュタのものより少し太めで、立体的な模様の入った派手な作りだった。

 

「おお、いいね。ラクスっぽいよ。腕輪にもいろんなデザインがあるんだね」

「結構みんなこだわるところだからな。お、ここからは別々みたいだ。じゃあな」

 

 寮に入ると男女別に分かれ、受付で自分の部屋番号を教えてもらって鍵をもらう。私はファリシュタと同じ部屋だった。

 

「ディアナと同じ部屋になれるなんて信じられない……!」

 

 ファリシュタがそう言って感動している。学院は平等とはいえ、あまりに身分差がある者たちが同部屋になると、下位貴族が居づらい思いをするので、高位と中位、中位と下位の組み合わせになることが多い。

 私とファリシュタのように高位と特殊貴族が一緒になるというのは、まずないことなのだ。

 

 ……これは多分、王様かソヤリさんの指示だね。

 

 私と同部屋になる人はかなり信用のある人しか無理だ。ファリシュタは去年から私と仲が良かったし、怪しいところもないと判断して選ばれたんだろう。

 

 となると、他の人はどんな人なんだろう?

 

 と考えていると、

 

「私も同じ部屋なのでよろしくお願いします」

 

 と、突然後ろから声をかけられ、ビクッとしながら振り返った。

 私のすぐ後ろに細身で背の高い女生徒が立っていた。褐色の肌にショートの黒髪、そして女性には珍しくターバンを巻いている。透き通るような水色の目をしているのでなんとなくミステリアスな雰囲気が漂っていた。

 

 びっくりした! ちょっと待って、今全然気配を感じなかったよ? この子何者⁉

 

「驚かせてしまってすみません。私はルザ。今年からディアナ様の護衛を務めるようにと仰せつかりました」

「あ、同室になる護衛って……」

「はい。私です」

「ディアナ? 護衛って?」

 

 ファリシュタが私とルザのやりとりを聞いて不安な顔をする。

 

「部屋に向かいながら説明するよ」

 

 私は寮の階段を上りながら、個人的に学生の護衛がつくことになっていることをファリシュタに説明した。

 

「ルザさんは私たちと同い年なのに護衛ができるんですか? すごいですね」

「ルザでいいですよ、ファリシュタ」

「でもルザさんも敬語だから……」

「すみません、この口調で育ってきたもので……」

 

 その丁寧な口調を聞いてるとなんとなくソヤリが頭に浮かんだ。

 

 ソヤリさんの娘ってことはないよね?

 

 ソヤリは年齢不詳でそもそも家族がいるのかもわからない。

 

 このあとの打ち合わせで聞いてみようかな。

 

「ルザ、私のこともディアナでいいよ」

「いえ、それは……」

「あくまで同室の友達ってのが前提にあって、実は護衛も兼ねてるっていう形にしたいんだから。友達に敬称つけるっておかしいでしょ?」

「……そう言われると、そうですね」

「じゃあここからは様付けは禁止で」

「わかりました、ディアナ」

 

 私がキリッとした顔で言うと、ルザは戸惑いながら呼び方を直した。それをみてファリシュタが「去年の私みたいだね」とクスクスと笑っている。

 二階に着いて右側の女性区域の方へ入る。一年生の時はそのまま奥側の廊下を進んでいったが、二年生は階段から手前側へ進んで左に折れた先に部屋がある。手前側に歩いて進むと、目の前に外に出入りできる掃き出し窓が見えた。そこからベランダに出ることもできるらしい。

 

「一年の時にはあまりベランダには来なかったけど、今年は部屋に戻るついでに寄るのもいいかもね」

「そうだね。ベランダには机と椅子もあるし、みんなでお茶してもいいかも」

「であればベランダでの護衛の仕方も頭に入れなければ……」

 

 ルザがそう言ってなにやらブツブツと呟いている。本当に二年生かなと思うくらい護衛任務のことしか頭にない。ある意味すごい子だ。

 二年生の部屋が並ぶ廊下を少し進んだところに、私たちの部屋があった。ルザが「私が開けます」と前へ進み出て扉をノックしてガチャリと開ける。

 相部屋は個室と違って廊下はなく、いきなり開けた空間があり、左側にリビングが、右側と奥はすぐ壁になっていて奥の壁に扉があった。

 ルザに続いて私とファリシュタが中へ入ると、リビングのヤパンに座っていた女生徒が立ち上がって近づいてきた。ふわふわとした赤い髪に緑の目をした気の強そうな女の子だ。

 

「初めまして、貴女たちが今年同室に……え⁉」

「あ……!」

 

 その子が挨拶の途中で私とファリシュタを見て目を見開くと、同じようにファリシュタが驚いた声を上げた。

 

「ザリナ……今年も貴女と一緒だなんて……」

「な……なぜ……っ」

 

 驚きながらも冷静に呟いてるファリシュタに対して、その子は口をパクパクさせてひどく動揺している。

 

「ファリシュタ、知り合い?」

「……去年も私と同室だった子なの。ええと、その……」

 

 少し気まずそうな顔をしているファリシュタを見てピンと来る。

 

「あ、もしかしてファリシュタに辛く当たってた子?」

 

 私の言葉にその子がビクリと肩を揺らす。当たりのようだ。

 

「なぜザリナが同室に……」

「そ、それはこちらも同じよ。なぜ貴女が……」

「身分のバランスを考えてのことではないですか?」

 

 お互いに距離を空けて戸惑う二人に、ルザが顎に手を当てて答える。

 

「私とディアナは高位貴族です。ファリシュタは特殊貴族ですから、もう一人を下位貴族にしないとバランスが取れないと思われたのではないでしょうか」

「アルタカシークの下位貴族であれば、私以外にもたくさんいるわよ」

「ディアナと同室になるにはかなり信用された家のものでないとダメです。ザリナでしたか? 貴女はともかく貴女の家はかなり信用されてるのでしょう」

「なるほど、そういう基準なんだね」

 

 ルザの説明に私はほうほうと感心する。

 でも家が信用されてるからって、私のことをよく思ってない子が同室っていうのはどうなんだろう。ファリシュタもやりにくいだろうし……。

 そう思ってファリシュタを見ると、意外にもファリシュタは笑って言った。

 

「私は大丈夫だよディアナ。ザリナには去年言いたいことは全部言ったから」

「え?」

「それにザリナには謝りたいなと思ってたんだ」

 

 ファリシュタのその言葉に今度はザリナが「え?」と言って目を見開く。

 

「腹が立ってたとはいえ、貴女に酷いこと言っちゃった。ごめんね」

「な……」

「ああいう時だって淑女らしく振る舞うのが貴族だよね。私はやっぱりそこが至らなかったって思ったんだよ。だから今年からは淑女らしい言い方で嫌なことは嫌だって言うからね?」

「え……」

「どうやって怒ったらいいか館で訓練もしたんだから」

 

 と、ファリシュタはそう言ってクスクスと笑った。

 

 淑女らしく怒るって……もしかしておばあ様みたいにってことかな。笑顔で怒るファリシュタ……怖そう!

 

 ポカンとするザリナに近づいて、私は改めて挨拶をする。

 

「初めまして、ディアナといいます」

「し、知ってるわよ」

「今年一年よろしくね、ザリナ。あ、もし私になにか言いたいことがあったら、ファリシュタに言わずに私に直接言ってね」

 

 私がそう言ってにこりを笑うと、ザリナは顏を引きつらせた。

 そのあと部屋を見て回る。部屋の奥の扉を開けると寝室になっていた。寝室の床にはぶ厚いマットレスが四つ並んでいる。それぞれの距離は余裕を持って開けられているし、部屋の天井も高いのでそんなにぎゅうぎゅうな印象は受けない。

 寝室にはもう一つ扉があって、そちらはクローゼットになっていた。四人分のものが入るようになっているので、かなり広めの部屋だ。そこに家から送られた自分たちの荷物が置かれてあった。

 

 今年もコモラのお菓子をたくさん詰めてきたからね。あとでみんなで食べようかな。

 

 部屋を見回してる間にスカーフからパンムーが出てきて勝手にリビングでくつろぎ始めた。驚いてるザリナと興味深そうな顔をしてるルザにパンムーを紹介する。

 

「ペットも一緒だなんて非常識よ……!」

 

 と初めはプリプリしていたザリナだが、パンムーが可愛らしく首を傾げているのを見て「ま、まぁ特に悪戯とかしないのであればいいわよ」とすぐに態度を軟化させた。

 

 パンムー、人から可愛がられる手段を知ってるよね……グッジョブだよ。

 

 四人それぞれ自分の荷物を出してセッティングを始める。今年は個室ではないので服の数はかなり減らしてもらったけれど、それでも多いなと他の三人の服を見て思う。

 あらかた荷物の整理が終わってひと休憩していると、ルザがコソッと「そろそろ打ち合わせの時間です」と耳打ちしてきた。

 

「ルザは私の予定を知ってるの?」

「もちろんです」

 

 なんか護衛というより秘書みたいだ。

 私が「クラブ紹介の打ち合わせに行ってくる」と言うと、ファリシュタは笑顔で「こっちは大丈夫だからいってらっしゃい」と送り出してくれた。

 部屋の奥ではザリナがなんとも気まずい顔をしていたけれど、ファリシュタが大丈夫そうならいいかな。

 

 

 それからルザとともに寮を出て校舎の方へ向かう。私はさっきから気になっていたことを口にした。

 

「ルザってもしかして、ソヤリさんの娘?」

「私がですか? ふふふ、違いますよ」

 

 なんだ、違うのか。

 

「ソヤリ様は私の尊敬する方であり、目標です」

「ええ! ソヤリさんが目標?」

「はい。私は小さなころからソヤリ様に憧れて、あの方に近づけるように日々鍛錬してきました。将来はソヤリ様の部署に所属して働くのが夢です」

 

 ルザはそう言って笑顔で頷いている。

 

 わぉ、あの感情が見えないソヤリさんに憧れてるなんて、変わった女の子だ。

 

「ソヤリさんのことを昔から知ってるんだね」

「ええ。私の父がソヤリ様の部下なのです」

「ん? 部下?」

「昨年はヤガと名乗っていましたね」

 

 なんと、ヤガの娘なのか。

 

 そんなことを話しているうちに説教部屋に着いた。扉の前に今話していたヤガが立っている。二人はお互いの存在を気にしていない素振りで扉の横に控えた。

 

 うーん、この二人が親子なのか。そういえば気配を感じさせないところとか、似てるかもしれない。

 

 私が二人の顔を見比べているとヤガが扉の向こうに合図を送り、私を部屋に入れた。部屋の中にはいつも通り、感情の読めないソヤリが座っている。

 

「久しぶりですね」

「お久しぶりです、ソヤリさん。お待たせしてしまいましたか?」

「いえ、先ほど来たばかりですので。クラブ紹介の書類は持ってきましたか?」

「はい。これです」

 

 席に座って書類を渡すと、早速ソヤリがペラペラと確認を始めた。

 

「武術演技を披露するのですね」

「はい。今見せられるものというのがそれしかないですし、見栄えもするので」

「音出しはどうするのです?」

「夏休みの間に買った太鼓があるので、それを使います」

「なるほど、わかりました。この流れで問題はないでしょう。アルスラン様に報告しておきます」

 

 あっという間に打ち合わせが終わってしまった。相変わらずソヤリさんは無駄がない。

 

「今日はこちらから貴女に知らせておくことがいくつかあります」

「なんでしょうか?」

「まず学院騎士団の団長が替わりました。貴女は直接接点はなかったようですが、一応報告しておきます。新しい騎士団長の名前はエルベクといいます」

「なぜ団長が替わったのですか?」

「三の月にテルヴァの侵入を許したからですよ。その責任をとって団長及び当日寮の警備についていた騎士たちは、王国騎士団へ降格になりました」

「あ、ああ……そうなんですね」

「貴女が無事に見つかったので降格だけで済みましたが、見つからなかったら命はなかったでしょう」

 

 うへぇ……厳しい。私、見つかってよかった。

 

「そういえばテルヴァの侵入経路はわかったんですか?」

「ええ、そういえば報告していませんでしたね。彼らは使用人たちが出入りする寮の裏口を通って入ってきていました。そこからバチカリク家の息子の手引きで寮の前庭に身を潜めたようです。降格になった騎士たちは主にその辺りを警備していたものたちです」

「なるほど」

 

 そういえばテクナ先生が寮に来た時に、帰りは使用人の出入り口から帰るとか言ってたね。

 

「それから今年から透明の魔石の研究を始めることになりました」

「……あ、そうでした。魔石術の基礎が身に付いたらするって言ってましたね」

 

 正直すっかり忘れていた。そんな私を一瞥したあとソヤリが口を開く。

 

「魔石術についてはオリム様が詳しいので、彼と私でこの部屋で行います」

「オリム先生とですか?」

「なぜ貴女が透明の魔石術を使えたのか、エルフの体だからできたのか、その辺りを探れるのは王と彼しかいないので」

 

 そっか、オリム先生は生物学を研究してるもんね。

 

「研究時にはアルスラン様とも通信で繋ぎます」

「私が用意することはありますか?」

「いえ、基本的にオリム様に任せていればいいですよ」

「わかりました」


 オリム先生の顔を思い浮かべていると、結婚式であったおじさま方の顔も浮かんで私は思わずふふ、と笑みをこぼす。

 

「なんです?」

「いえ、すみません。うちの結婚式にオリム先生と、以前執務長官をしていたというおじさま方が来られて……その時のことを思い出してしまいました」

「……五大老が来たのですか」

「五大老?」

「その五人をまとめてそう言うのです。オリム様も副学院長になる前は魔石執務長官をされていましたからね。その五人は先代からの付き合いなのですよ」

「そうなんですか。とても仲が良い五人なんですね。おじい様は嫌がってましたけど……」

「五大老は先代やアルスラン様に甘いのでカラバッリ様にとってはやりにくい相手だったようです」

 

 ふーん……確かに私にも機嫌よく近づいてきてたし、変わってるけど人がいいおじさま方なんだろうな。

 

「最後にもう一つ言っておくことがあります」

「はい」

「アルスラン様から『今年も成績は落とさぬように』とのことです」

「ええ⁉ なんでですか?」

「学院で生徒たちから認められるようになるには、好成績であることは必須なのだそうです」

「そんな……っ」

 

 今年は勉強はぼちぼちで良いかなって思ってたのに!

 

「王が特別に保護している者が人並みの成績というのは、確かに困りますからね。アルスラン様の評価を落とすようなことは私が許しません」

「えええー……」

「去年もできたことなのですから、問題ないでしょう」

「そんなに簡単に言わないでくださいよ」

「では健闘を祈ります」

 

 ソヤリはそう言ってさっさと打ち合わせを終えてしまった。

 今年は演劇クラブの活動に邁進しようと思ってたのに、勉強も疎かにできなくなってしまった。ガッカリだ。

 

 

 

 

まさかの人物と相部屋になりました。

彼女はこれからどう関わっていくのでしょうか。

ルザはヤガの娘でした。ちなみにソヤリは独身です。


次は クラブ紹介、です。

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