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プロローグ


 死ぬ間際、私の頭に浮かんだのは、コンクールの舞台の上で審査員の冷めた視線を浴びながら歌っている、それはそれは哀れな十四歳の自分の姿だった……。

 

 

 私の名前は本田恵麻ほんだえま、とてつもなくエンタメが大好きな人間だ。

 映画、漫画、小説、ゲーム、アニメ、スポーツ……他にも楽しめるものならなんでも好き。特に音楽と演劇に対しては並々ならぬ情熱がある。

 

 そんな私は小さなころ、ミュージカル俳優になるのが夢だった。

 物心ついた時にはすでに歌と踊りが大好きだった私はキッズ向けのミュージカルスクールに通い、そちらの道に邁進していた。

 自分なりに一生懸命練習をして努力をして「ミュージカル俳優になりたい!」という気持ちをぶつけて行けば、いつか絶対なれるものだと幼い私は信じて疑わなかった。

 

 ほら、小さいころって自分はなんにでもなれるんだ! って変な思い込みをするでしょ?

 

 けれど、悲しいかな現実はそう上手くはいかなかった。ミュージカルのコンクールの成績は振るわず、演劇のオーディションには落ちまくり、私の自信はゴリゴリと容赦なく削られていった。そして結果が出ないまま中学に上がり、とあるコンクールに出ていた一人の出場者を見て私の自信は粉々に砕け散ったのだった。

 

「一生懸命努力しても、夢が叶わないことってあるんだ……」

 

 現実を思い知った私は、十四歳の夏、夢を諦めた。

 

 夢を諦めた私が感傷的になったかといえばそうじゃない。しばらくは落ち込んでいたがじっとしているのは性に合わないと気付き、元々ミュージカルを始めエンタメが大好きだったことを思い出して、今度はやる側ではなく観る側に回ることにした。

 音楽のライブに全力で参加し、映画や演劇を連日鑑賞し、小説や漫画を一気読みし、ゲームの縛りプレイをして、某テーマパークで全アトラクションを制覇する、そんなふうにありとあらゆるエンタメを楽しんだ。それは最高の時間で、それらを楽しむためにバイトを始め、今まで歌や踊りの練習に当てていた時間を全部そちらに注ぎ込んだ。

 何かに夢中になる、ハマってる状態はなんというか「無敵」だ。現実で嫌なことがあってもハマってるものに熱中すれば秒で忘れられるし、ドーパミンがどばどば溢れて元気が出る。夢を諦めた傷もいろんなものに熱中していくうちに塞がっていった。

 

 エンタメの力って本当にすごいよね。

 

 そうして一通りいろんなものにハマったあと、私はふと思った。

 

 次はやる側でもなく見る側でもなく、作る側になりたい! と。

 

 思ったら即行動、の私は早速高校でミュージカル部を立ち上げた。

 自分は演じずにプロデュースに徹する。部員を見て演目を決めて、ミュージカル部の熱意を生徒会にプレゼンして部費をぶんどる。演技の指導もスケジュール管理も、できそうな子と一緒にやる。背景美術を美術部の友達に頼んだり、舞台衣装や照明も個人的に依頼しに行く。

 時には自分だけが空回って怒られたり言い合いになったりしたが、そうして走り回って迎えた文化祭の公演は大成功で、その時私はプロデュース業を一生の仕事にしようと誓ったのだ。

 

 そしてそれが私の新しい夢になった。

 

 そのあと映画部の自主制作映画のプロデュースを頼まれたり、文化祭全体のプロデュースを頼まれたりして高校生活を過ごし、大学に入ったあとは本場のエンタメのプロデュースを学ぶためにアメリカに留学した。

 そう、アメリカにはショービジネスの本場、ブロードウェイ、ラスベガス、ハリウッドがある! もうその国の土を踏んだと思っただけでワクワクが止まらない。

 今度こそ自分の夢を叶えるんだと気合を入れながら、私は街の通りを鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「えっと、日用品は大体揃ったから、あとは食料かな……」

 

 スマホを操作して地図を見ていると、突然体が持っていかれそうなくらい強い風が吹いてきて、私は思わず「わぷっ」と目を閉じる。

 

「危ない!」

「へ?」

 

 誰かの叫び声と、開けた目に飛び込んできた四角い物体の角。

 

「い⁉」

 

 

 

 そこで私は死んだ。それはもう呆気なく。


 

 

 

始まりました。

さあこれから!って時に死んじゃった彼女はどこへぶっ飛んで行ったんでしょうか。


次は 目覚めた私、です。

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