8
拾って下さい……。
そう嘆願して来たシアの姿は、実に愛くるしい。
女性から、拾ってとおねだりされて断るなど紳士たるもの出来る筈はない。
「仕方がない子だね。僕が、拾おう」
初めに言い出したのは自分だ。それに、言われなくとも拾う気満々だったとは言えない。
ディオは、あくまでシアから要請を受けて仕方がなくという事にする。その方が後々、何かあった時に有利になるからだ。
「では、シア。改めて、宜しくね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
シアを拾ってから、早くもひと月が経つ。
「ディオ様、起きて下さい」
毎朝こうして起こされている。いや、起こしているの間違いか……。
「全く仕方がないね、君は」
ディオはため息を吐き、シアの身体を揺する。すると、ふにゃと笑い寝返りを打った。
「ディオ、サマ……むにゃ」
「どうして、僕が君を起こす事が当たり前になっているのかな」
本当なら逆の立場だったのだが、彼女は朝が弱いらしい。始めは起きているかと疑ったが、大きな寝言だった……きっと、自分を起こす夢でも見ているに違いない。
「ほら、シア。朝だよ、起きて。起きないと……食べちゃうよ」
彼女の耳元で、そう囁くと効果は抜群だ。次の瞬間ガバッと、跳ね起きた。
「はい、おはよう」
「お、おはようございますっ」
顔を真っ赤にして恥じらう姿は、愛らしい。
「私としたことが、また……申し訳ございません」
しゅんとなるシアの頭を撫でる。
「別に怒ってないよ。だから、謝らなくていいから」
毎朝の事だが、甘いと思いつつも、つい許してしまう。
シアは今、ディオ専属の侍女だ。屋敷に置く代わりに、身体で払って貰っている。まあ、形だけだが。
どう考えても、彼女に侍女の仕事が務まると思えない。現に、これが現状だ。
因みにシアとは、毎日同じベッドで寝ている。無論手を出したりはしていない。流石に、こんな純粋無垢な少女に手など出せない……。
シアの希望で仕事を与えているのだが……。
一緒に寝るだけも、彼女の立派な仕事の一つだ。他には、一緒にご飯を食べる、一緒にお茶をする、一緒に散歩をするなどがある。
当たり前だが、どれも侍女の仕事ではない。そもそも、屋敷の使用人の数は十分足りている。
ぐぅ~。
不意に、彼女のお腹が鳴った。
「ハハッ、朝食にしようか」
「はい!」
シアは、恥ずかしがりながらも、嬉しそうに返事をした。
ディオは、部屋を出ると外に控えていた、本物の侍女に声を掛ける。
「後は、頼むよ」
「かしこまりました」
侍女は、丁寧に頭を下げると部屋の中へと入っていった。暫くすると、楽しそうな声が中から聞こえてくる。シアは、侍女とはすっかり打ち解けているようだ。
ディオは、くすりと笑いそのまま先に食堂に向かった。