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言って……しまった。我慢出来ずに、つい言ってしまいました。
「人肉……」
ディオが鋭い目つきでこちらを見ている。レティシアは、怯んだ。
このままでは……私は、明日の晩餐にされてしまいますっ‼︎
椅子を蹴る勢いで立ち上がると、レティシアは後退った。ディオは、獲物を捕らえた様な視線を向けジリジリと詰めよってくる。とうとう壁に追い詰められてしまい……逃げ場がない。
次の瞬間ディオが、壁にドンッと音を立て腕を突いた。レティシアを、逃すまいとする。
壁に、ドン⁉︎これは、かなり怒っている⁉︎
レティシアは恐怖の余り、目をギュッと瞑った。きっと、門外不出的な極秘事項がバレてしまったから、彼は激怒しているに違いない……。
屋敷を追い出されてから、まだ1日しか経ってないのに……儚い命でした。
「せめて、美味しく調理して下さい……」
せめてもの願いだ。不味いのは嫌だ。どうせ食べられるなら、美味しく食べられる方が救いがある気がする。
レティシアは、嘆願した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
消え入りそうな声で嘆願してくる彼女。
「シア……」
ガタガタと身体を震わせて、目尻に涙を滲ませている彼女はどう見ても追い詰められた、小動物にしか見えない。
だが、分からない。美味しく調理して欲しいとは、一体どういった意味なのか……。
情事でのことを言っているなら、もう少し艶っぽくなるだろうし。そもそも、シアがその様に言うとは考えづらい。どう見ても、純粋無垢で男女の事柄などまるで理解していない様にしか見えない。
これが計算されたものならば、ある意味彼女は天性の悪女だろう。
「ちょっと、さっきから何言ってるのか分からないんだけど……調理とか、人肉とか」
人肉……。そこで、ディオはハッとなる。かなり飛躍した発想だが、まさか。
「もしかして、シア。僕が君を、美味しそうって言ったから……本当に食べられると思ってるの?」
かなり、半信半疑だった。まさか、あり得ないと。だが、彼女は……。
激しく首を、何度も縦に振った。
昔から感情の薄いディオだが、流石にこれには呆気に取られて固まった。きっと今、かなり間の抜けた顔をしていることだろう。
「ハハッ。君、面白いね」
思わず、笑ってしまった。可笑しかった。こんな風に笑ったのは、初めてかもしれない。
ディオがシアに手を伸ばすと、瞬間ビクっと身体を震わす。だがその手を引っ込めることはせずに、そのまま頭にぽんっと優しく載せた。そして撫でる。
「大丈夫だよ、怯えなくても。僕に、人肉を食べる趣味はないから」
彼女は、ゆっくりと目を開いてこちらを見た。どうやら、様子を窺っているようだ。
ディオは、にっこりと優しく笑って見せた。