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食事をしながらレティシアは、向かい側に座っているディオを見た。
普通に食事をしている……。
だが油断は出来ない。何しろ彼は、人身売買の売人だ。しかも。人肉を食す……かも知れない。
「どうかした?全然食べてないね、口に合わなかったかな」
まるで食事に手をつけていないシアを、心配そうな表情を浮かべて見ている。
「い、いえ……」
あんな顔でこちらを見ているが、私は騙されません!とレティシアは唇をキュッと結ぶ。だが、そんな事を思いつつも、本日既に2回も騙されてしまった……情けない。
レティシアは、目前に並んでいる食事を睨みつける。
もしかしたら、この目前のお肉も……ごくりと、喉を鳴らす。
「なんなら、僕が食べさせてあげようか?」
不意にディオはそう言って、意地悪そうな笑みを浮かべると立ち上がった。そして、こちらへと歩いてきた。
ディオはフォークに肉の欠片を刺すと、レティシアの口元へ近づけてくる。
「はい、あ~ん」
「っ……」
余りの出来事に、レティシアは目を見開き固まってしまう。尋常で無い汗が流れる……。
何があろうと、あ~んなどしません!私は、例え餓死しようと人の道を外すなどしない!と密かに心に誓った。
「ディオ様、行儀が悪いですよ。席にお戻り下さい」
側で控えていた執事に注意されたディオは、つまらなそうな顔をして肩をすくめる。
「本当に、セザールは堅いね。ほんの冗談だよ」
ディオは執事を、セザールと呼んだ。
それにしても、冗談とは……一体どこから何処までが冗談なのか。レティシアには、判断できない。
「じょ、冗談とは……このお肉は」
その先は、とてもじゃないがレティシアには聞く事は出来ない。怖すぎる……。
「肉?肉がどうかしたの?あぁ、もしかして嫌いだったかな」
レティシアは、首を横に振る。
「なら、この肉がどうしたの」
聞くべきか、聞かざるべきか……私は一体どうしたら、いいのっ。
「じ、じ、じ……」
「……じじじ?」
人肉なんですか⁉︎と聞きたいが、言葉にならない。
レティシアの挙動不審な様子に、流石のディオも困惑した表情になる。
「じじじ、じゃありませんっ」
「いや、だって君がそう言ったから」
こんなやり取りを、暫く2人は続けた。一向に話は進まない。
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セザールは、自分の主人であるディオとその客人であるレティシアを見遣る。かれこれ、同じやり取りを続ける事四半時。
珍しいですね……。
ディオは昔から随分と大人びた子供だった。故に子供の様に振る舞う彼を見るのは珍しいというより、初めてかも知れない。
「言ってません」
「いや、言ってた」
「言ってません」
「言った」
とは言え、彼はもう子供ではない。流石に、止めなければ……。セザールがそう思い、声を掛けようとした瞬間だった。
「人肉を食べるなんてっ、天罰が下ります‼︎」
レティシアが、叫んだ。