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レティシアは、間の抜けた顔をしてディオを見ていた。
拾ってあげる……それって、もしかしなくても私の事⁉︎
頭が混乱している中、ディオは笑顔のままとんでもない発言を連発してくる。
「勿論、タダではないけどね」
「それは、どういう……まさか」
先程の会話が頭を過ぎる。ディオ本人から、人身売買の話を聞いたばかりだ。
……まさか、彼もまた人身売買の売人なのでは⁉︎
「君の身体で払って貰うよ」
やっぱり⁉︎売り飛ばされるっ。
レティシアは青くなり、慌てて立ち上がると、扉へと向かって走る。きっと最初の男とこのディオという青年は仲間だったんだ。それでもって、仲間割れでもしたに違いない。
助けてくれた、良い人だと思ったのに……まさか、仲間だったなんて……。
「おっと、どこに行くのかな」
いつの間にか扉の前に先回りしていたディオに、腕を掴まれた。彼は不敵に笑みを浮かべ、舌舐めずりをした。
「シア、君美味しそうだよね」
「っ……」
冗談ではなく、食べられてしまうっ⁉︎とレティシアは本気で恐怖を感じた。
人身売買とはまさか、人肉⁉︎……どこかで食べる非人道的な者達がいると聞いた事がある……ようなないような?
混乱し過ぎて、もう自分でも何を考えているのか分からない。
「は、離してっ‼︎私、食べてもっ美味しくないですっ」
レティシアの言葉に、ディオは愉快そうに笑った。
「美味しくない?そうかな、僕にはとても甘美に見えるよ……特にぷっくりとした、この唇」
顎を持ち上げられ、親指で唇を撫でられる。
「美味しそう……」
そう囁きディオは、レティシアの唇に自分のそれを寄せようとしたが、寸前でピタリと動きを止めた。
指一本分の距離しかない。熱い彼の吐息を感じる……。
「お取り込み中申し訳ございませんが、お食事の準備が整いました」
急に扉が開くと、執事の恰好をした男がそう告げた。
「何度も声をおかけしたのですが」
そして、執事はそう補足をする。こんな状況なのに、随分と冷静だ。レティシアは助けを求めるように、執事を見るが。
「続きは、食事の後になさって頂いて宜しいですか」
だが、彼はとんでもない提案をした。
「そうだね、折角の食事が冷めてしまう。という事で、シア。続きはまた後で、ね」
そう言いながら、ディオはレティシアの頬に口付けをした。恥ずかしさに、一気に顔が熱くなるのと、取り敢えず助かったという安堵感に、気が抜けた。