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3

レティシアは、ゆっくりと目を開ける。見慣れない天井が視界に入り、部屋を見渡した。


「ここは……」


「あぁ、目が覚めた?」


少し離れた場所の机に向かっていた青年は、振り返りレティシアを見た。


「あ、あの……」


頭が上手く働かない。それに、頬がヒリヒリする。無意識に、手で左頬を押さえた。


「大分、冷やしたんだけど。やっぱり、まだ赤いね」


彼はそう言うと、扉の外に声をかける。すると程なくして侍女が濡れた布を持ってきた。


「はい、もう少し冷やそうか」


「あ、ありがとう、ございます……」


布を受け取ろうと手を出すが、彼はそのまま直接レティシアの頬に布を当てる。目を丸くするレティシアをよそに、彼は笑みを浮かべた。



「君、名前は?」


「え……れ、シアです、シアと申します」


あんな事があった直後だ。目前の青年は悪人には見えないが、念の為本名は伏せておく。



「シアか、素敵な名前だね。僕はディオ」


彼はそう言って、笑った。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「どう?少しは落ち着いたかな?」


温かいお茶を出され、レティシアはそれを口にしてほっと一息吐く。


「はい、本当にありがとうございました」


丁寧に頭を下げる。彼がいなければ、あのままあの男に何をされていたか……想像したくもない。



「言い方は悪いけど、平手打ち1つで済んで本当に良かったよ。あの男は、人身売買の売人でね。あのままなら君は、何処かに売り飛ばされていたかもしれない」


ディオの言葉に、血の気が引いた。人身売買……聞いた事はあるが、その時はどこか別の世界の話の様で、自分とは無縁のものだと思っていた。


まさか、私が売り飛ばされそうになっていたなんて……。


レティシアは、黙り込み俯いた。暫く沈黙が流れ、唐突にディオが口を開いた。



「で、君は何処の貴族のお嬢さんかな」


レティシアは固まる。どうして……⁉︎


「あぁ、だって、そんな身なりがいい平民なんていないからね。直ぐに分かったよ」


まるで心を読んだように、ディオはそう答える。


「で、何処のお家かな?」


「……」


嫌な汗が身体を伝うのを感じた。彼が何者か分からない以上答える訳にはいかないが、どう誤魔化せばいいものか……。


「警戒しているみたいだね。いいよ、分かった。取り敢えず今は、聞かないでおいてあげるよ」


微妙な言い回しだが、取り敢えずは助かった。


「で、シア。君はこれからどうするのかな」


ディオの言葉に、レティシアは今自分が置かれている状況を思い出した。


行くあてなどない。これから、どうすればいいか分からない。


住む場所もなければ、金銭的な問題もある。屋敷からは多少は金貨や装飾品は持ってきた。だが、そもそもそれらをどうすればいいか、分からない。


今日街を歩いてみて、散々思い知った。如何に自分が無力で無知なのかと。

自分より遥かに小さな子供が果物を売っていたのを見かけた。そこに同じくらいの子供が来て、お金を払いリンゴを買った。


あの様に小さい子供が当たり前に出来る事が、レティシアには出来ないのだ。


恥ずかしかった。自分は屋敷を追い出されたら、1人では何も出来ない。あのリンゴ1つの価値すら、自分には分からないのだから……。





「分かりません……私、帰る場所がないんです」


レティシアは俯いた。急な事で、涙を流す暇すら無かったが、今になって目の奥が熱くなってくる。泣いてはダメだと思いなんとか堪えた。


ぽんっ。


瞬間、頭を優しく撫でられた。


「あ、あの⁉︎」


レティシアは戸惑い驚く。思わず、変な声色になってしまう。恥ずかしい……。


「成る程。なら、僕が君を拾ってあげるよ」


ディオは、満面の笑みを浮かべて、そう言った。


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