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これからどうしよう。
レティシアは、途方にくれていた。何とか街までたどり着いたが、もうくたくただ。こんなに歩いたのは、生まれて初めてだった。荷物も重いし、兎に角何処かで休みたい。
「宿を探さないと……」
これまで屋敷の外で、寝泊まりするのは親類の屋敷に泊まる以外なかった。だが、知識としては知っている。
レティシアは、フラつきなから懸命に宿を探して歩いた。だが、何処もいっぱいらしく中々宿が見つからない。気がつけば辺りは薄暗く、陽が落ちていた。このままでは、野宿なるものをしなくてはならなくなる。
「お嬢さん、今夜の宿をお探しですか」
途方にくれていた時、後ろからそう声をかけられた。レティシアが振り返るとそこには、如何にも人好きする笑みを浮かべる男性が立っていた。
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「離して下さいっ‼︎やめてっ」
男に無理矢理腕を掴まれ、レティシアは部屋の中へと放り込まれた。
『実は空いている宿が、あるんですよ』
そんな言葉に騙されて、ここまで付いてきてしまった。辿り着いた先は、街の外れにある寂れた屋敷だった。何となく、嫌な感じがしたレティシアは「やはり、結構です」そう言って立ち去ろうとしたが、瞬間腕を掴まれ引きずられる様にして連れて行かれた。
「身なりがいいから、何処ぞのお嬢様かと思ったが……どうやら、本当にそうみたいだな。これは、当たりだな」
男はレティシアをベッドに組み敷くと、無理矢理衣服を剥ぎ取ろうとする。無論レティシアは、力いっぱい暴れて抵抗した。
「チッ……大人しくしろっ」
バチンッ。
鈍い音が部屋に響いた。男に頬を平手打ちされたレティシアは、放心状態だ。何が起きたのか理解出来ない。左頬がじんじんと痛む。
「やっと大人しくなったか。面倒かけさせるなよ……売り飛ばす前に、俺が味見してやる」
男は嫌な笑みを浮かべると、大人しくなったレティシアの服を肌蹴させた。
気持ち悪い。怖い。嫌。誰か、助けて……。恐怖の余り声は出ない。
「綺麗な肌だな」
舌舐めずりをし、男が胸元に触れた瞬間。扉が蹴破るごとく開いた。
「っ、なんだ⁉︎今取り込み中っ、お、おい⁉︎」
数人の男達が部屋に入ってきた。あっという間に、レティシアを襲おうとした男は拘束され連れて行かれた。唖然としながら、ただその光景を見守るほかない。
よく見ると、男達の恰好からして兵士なのだという事は分かった。ただ1人だけ明らかに違う出立ちの男もとい美青年がいる。彼はレティシアに気が付くと、こちらへ歩いて来た。
「大丈夫ですか?怪我などされていませんか?」
青年は心配そうにレティシアを覗き込んでくる。優しい風貌と声色に、一気に身体の力が抜けた。そして、身体が無意識に震え出す。涙が溢れ出し、止まらない。
「っ……」
怖かった。ただ、ただ、怖かった。自分の身に一体何が起きたのか、分からなかった……。
そんなレティシアをそっと抱き寄せ、彼は優しく頭を撫でてくれた。
「もう、大丈夫だよ」
薄れゆく意識の中、そう声が聞こえた。