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「さて、ブランザ公爵。この後、お時間を頂戴しても宜しいですか」
クラウディオは、ブランザ公爵に向き直るとそう言った。瞬間彼は、身体をピクリと震わせた。
「父上から、お話ししたい事があるそうですよ」
「へ、陛下が……」
放心状態になった。この後の自身の運命を悟って絶望しているのだろう。
まあ、爵位を剥奪され何処か遠方へ飛ばされる事は目に見えている。自業自得だ。同情はしない。
「わ、私は無関係ですわ。この人が勝手にしていた事です」
公爵の妻、レティシアの義母はクラウディオにそう言って踵を返す。すると義母の手を、ブランザ公爵が掴んだ。
「お前だけ逃げるなど、許さんぞ」
「私は、関係ないわ!貴方が勝手にした事でしょう⁉︎巻き込まないで頂戴!」
皆が見ているというに、互いに罵り合いを始める。クラウディオは、やれやれと肩をすくませた。
「そんな事仰っても、夫婦ですからね。しかも、貴女は騙しとった金銭を使ってますよね、その出所を知りながら……僕の見解では、同罪だと思いますよ」
「っ……」
唇を噛み締め小刻みに震えながら、彼女は黙り込んだ。そこに、数人の兵が現れ、ブランザ公爵とレティシアの義母を連れて行った。
「お父様?」
それまで状況がまるで分かっていなかったレティシアが、声を上げた。
「ディオ様、お父様達はどこへ……」
「父上が、お2人に話したい事があるみたいでね」
「陛下がお父様に……どうして……それに、兵が」
不安そうなレティシアに、そっと口付ける。すると、彼女は顔を真っ赤にしながら俯き口を閉じた。
「心配しないで」
強引に誤魔化し押し切る。
今は、話すべきではない。きっと、優しいレティシアは傷つくだろう。後で2人きりになったら、思う存分彼女を、慰めてあげればいい。
クラウディオは、ロザリーを見遣る。
「ロザリー嬢、君1人になってしまったね。これから、どうするのかな」
「……っ」
何か、言いたげにしているがロザリーは黙り込みクラウディオを睨みつけるだけだ。
「病弱なフリは、もういいのかな?今の君、全然か弱く見えないよ」
その言葉に一気に顔を真っ赤に染めるロザリーに、クラウディオは彼女の耳元で、囁いた。
「公爵は爵位を剥奪され、辺境へと飛ばされる。無論君の母君もね。娘の君には責務はない故、ついていく必要はない。だが、ここにはもう君の居場所はないよ。残念だったね、折角公爵家のお姫様になれたのに。残るなら経済力のない君は、平民に混ざり生活するか、若しくは修道院かの2択しかない。心して考える事だ」
「そんなの、嫌‼︎私は公爵令嬢なのよ⁉︎貴族のお姫様なの‼︎」
ロザリーは気が触れた様に、叫んだ。参列者は一様に、彼女を見る。レティシアも、驚き顔を上げた。
「ズルいわ‼︎お義姉様ばっかり‼︎」
ロザリーは、レティシアに掴み掛かろうとする。
「ロザリー⁉︎」
クラウディオは、レティシアに触れさせないようにロザリーを突き放した。
「ディオ、様……ロザリーは……」
彼女は、程なくして兵に取り押さえられると、何処かへと連れて行かれる。引き摺られながらも、レティシアへの暴言は止まらなかった。
ようやく、静かになった。
「彼女、精神的に不安定みたいだね」
まあ、これから彼らにはそれ相応の罰を受けて貰う事になる。
全ては、僕のシアを蔑ろにした罰だ。
クラウディオは、レティシアに優しく微笑んだ。




