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クラウディオは、かれこれ半刻近く部屋の扉を叩いている。久しぶりに早く帰宅して、レティシアとゆっくり夕餉でも食べ、その後寝室でイチャイチャしようと目論んでいたのが、台無しだ。
まあ、イチャイチャと言っても、精々口付けと抱き締めるまでだが……。
「シア‼︎開けてよ⁉︎」
ドンドンッと、扉を叩いて部屋の中にいるレティシアに呼びかけるが、反応はない。
クラウディオは帰宅し、レティシアの元へ直行したのだがこの有様だ。一体何がどうなっているのかさっぱりだ……今朝屋敷を出た時は、普通だった。いや、寧ろドレスの件で上機嫌だった筈だが。
「どうしたっていうの⁉︎」
懸命に思考を巡らせるが、彼女がこの様な行動をとる心当たりが全くない。
「ディオ様」
そこに、セザールが声を掛けてきた。なんとも言い難い表情を浮かべている。
「セザール、君何か知ってそうだね」
セザールは、躊躇いながらも昼間の出来事をクラウディオに説明をした。すると、クラウディオの顔色は見るからに悪くなる。
「成る程、ね。それで、シアは閉じこもってる訳だ」
自分で蒔いた種だ。それは分かっている。だが、敢えて伝えるのもどうかと思い彼女には伏せていた。
それに伝えるも何も、そもそも「実は僕は女性にだらしないんだ。これまで、多くの女性と関係を持った」なんて言える訳がない……故に黙っていたのに。
「で、その使用人達は」
クラウディオから洩れた声は、普段からは考えられない程低い声だった。
「……先程、改めて呼び出しキツく言い聞かせました」
「手緩いね」
自分の所為だとしても、それとこれとは別の話だ。主人の噂話を廊下などで話しているなど本来ならあり得ない。
「セザール、君の躾がなってないんじゃないの」
「申し訳ございません……」
苛々する。
八つ当たりだとは分かっていても、勝手に口を突いて出てしまう。これまでの自分ではあり得なかった。
1度閨を共にすれば飽きてしまって、興味がなくなる。相手からどう思われようとまるで、気にならなかった。嫌われようと、どうでもいい。まして何もしないでベッドにただ一緒に寝るだけなど、あり得ない。意味がない。
だが、今は違う。
レティシアなら、ただ一緒に隣で眠るだけで満たされる。無論、彼女を抱きたい気持ちは大いにある……正直辛い。でも、正式に彼女を妻に迎えるまでは、我慢すると決めていた。
彼女に対して、誠実でありたい……シアを、大切にしたいんだ。
クラウディオは、ギュッと手を握り締めた。
目前で先程からずっとセザールが、頭を下げ続けている。いつもなら「もういいよ」と軽く笑って済ませられるのに、大人気ないがその一言がどうしても言えない。
「セザール、下がれ。今は君の顔も見たくない」
彼は、もう1度深々と頭を下げると踵を返した。
クラウディオは、扉に背を預けそのままズルズルとその場にしゃがみ込んだ。情けないが何もする事が出来ない。
扉を蹴破る事も出来なくはないが、そんな事をした日には間違いなくレティシアからは嫌われる。
「いや、もう嫌われているかな……」
生まれて初めて、こんなにも自分を情けなく思った。




