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13

婚儀まで後10日。


レティシアは、上機嫌で廊下を歩いていた。実は昨夜、クラウディオからドレスを贈って貰ったのだ。


以前、採寸されたのは覚えているが、まさかクラウディオからドレスを贈って貰えるなどと思わなかった。嬉しくて、思わず抱きついてしまった。


真っ白なドレスに金色の薔薇の刺繍が無数に施されている。少々派手だが、とても美しいドレスだった。


だが、実はまだ袖は通していない。

どうせなら、クラウディオに一番に見てもらいたいと思ったのだが、最近彼は多忙で余り屋敷にいない。


夜遅く帰ってきても、疲れて直ぐに眠ってしまう故、話すらまともに出来ていない……。


正直寂しいが、我慢だ。我儘を言って彼を困らせたくない。



「でも、驚いたわよ」


「本当よね。あの殿下が、ご結婚なさるなんて」


ピタリと、レティシアは歩みを止めた。そして、急いで物陰に隠れる。


どうやら、侍女達には気づかれてはいないようだ。


廊下の曲がり角に差し掛かった所で、話し声が聞こえて身体が勝手に反応してしまった。


殿下……。


もしかしなくても、クラウディオの事だろう。



「少し前まで、女性を取っ替え引っ替えされていて、噂では毎晩違う女性と閨を共にしていたって……」


「しかも、婚約者候補の何人ものご令嬢達にも手を付けて、随分と揉めたのでしょう?」


「で、結局全てダメになっちゃって……」


女性を取っ替え引っ替え⁉︎ディオ様が……。


毎晩違う女性と閨を共に……仲良く、同じベッドで一緒に寝てたということ?


婚約者候補に手を付ける……これは、意味が分からないけど。


兎に角、ディオ様はこれまで私みたく一緒のベッドで仲良く寝る様な女性が沢山いらっしゃったという事よね……。



瞬間レティシアは、全身冷水を浴びたような感覚がした。何も知らないで、クラウディオと結婚出来ると1人舞い上がっていた……。


レティシアの事を拾ってくれた彼。心のどこかで、自分は特別なのだと思っていた。実に浅ましい。自分は彼にとって、何ということもない存在だったのだ。




「無駄話をしていないで、持ち場に戻りなさい」


不意に聞き慣れた声が聞こえた。セザールだ。彼の言葉を受け侍女達は、慌てて何処かへ行ってしまった。


レティシアも急いで踵を返した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



セザールは廊下の曲がり角から、気配が去っていくのを感じた。


レティシアに用事があり、彼女を探していたがとんだ場面に遭遇してしまった……。


クラウディオの話を聞いて、彼女は何を思っただろうか。怒りに震えているか、悲しみに暮れているか、はたまた軽蔑したか……。


クラウディオは、レティシアに隠したままでいるつもりだった様だが、セザールはいつかバレるのではないかと思っていた。



「……一波乱ありそうですね。困ったものです」


セザールは、深いため息を吐いた。



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