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ブランザ公爵の娘か。
ディオは、シアから彼女の事を聞いた。
「レティシア、それが君の名前なんだね」
レティシアは、頷いた。
ブランザ公爵といえば、少し前に再婚したとは聞いていたが……。
その後、詳しくレティシアが屋敷を追い出された経緯を聞いた。再婚した公爵が変わってしまった事、義母や義妹が、レティシアに辛く当たる事など。
特に義妹は病弱な事を盾にして、レティシアを悪者に仕立てようとしていたらしい。
「その義妹なら、僕は会った事あるよ。半年くらい前に開かれた舞踏会に、公爵が再婚相手と娘を連れて来ていたからね」
レティシアは俯いた。
「1つ、疑問なんだけど。僕は、君を社交の場で見かけた事がないんだよね。それは何故かな」
ブランザ公爵とは、昔からよく社交の場で見かける事も、無論挨拶や会話などもする。だが、その隣に娘はいない。随分と前に妻を亡くしたとは聞いていたが、娘がいるとは聞いた事がなかった。違和感がある。
再婚して間もない、連れ子は舞踏会に連れて来ていたにも関わらず、何故実子のレティシアは1度も連れて来なかったのか。
「……私は、お父様に嫌われていたので」
意外なレティシアの言葉に、ディオは驚いた。
「私の産みの母は、私を産んでから身体を壊してしまいました。元々身体が強い人ではなかったそうです。私が4歳の頃、母は亡くなりました……。お父様は母を心から愛していたんです。だから、母の命を奪った私を嫌っていました。父が部屋で話しているのを聞いたんです……『アレは私から、ジネットを奪った。アレの所為で、ジネットは死んだ』そう話していました。それまでは、知らなかった……だって表面上では、優しい父でしたから。知った時は、悲しかった」
表面上はいい父親を演じる一方で、社交の場などには、何だかんだと理由を付けてはレティシアを連れていかなかったそうだ。
「私は……それでも、嘘でも私に優しくしてくれるお父様が大好きだったんです。でも、再婚してからお父様はあからさまに私に冷たくなりました。義妹ばかりを可愛がり、私の言葉は何一つ信じてくれない……。最後には、捨てられてしまいました」
レティシアは、そう話し力なく笑った。ディオは、音がする程奥歯を噛み締めた。
レティシアの母が亡くなったのは残念だが、彼女に責任はない。それなのに、公爵は行き場のない手前勝手な感情を彼女にぶつけていた。
「おいで、シア」
ディオはシアを自身の上に座らせる。
「先程も言ったけど、僕は絶対に君を捨てたりしない。神に誓ってもいい。拾ったからには、責務は果たす」
目を見開き、レティシアはこちらを見ていた。余りよく理解してなさそうだ。
「僕の名前を、君に教えるよ」