プロローグ
公爵令嬢のレティシアは、義妹のロザリーに腹を立てていた。ロザリーと名目上家族となってから、早1年。これまで様々な嫌がらせを受けてきた。
本人曰く、病弱であるらしく、それを盾にして事あるごとにレティシアを悪者にしようとしてくる。初めこそ、身体が弱いなら多少の事は仕方がないと我慢していたが、暫くして病弱というのは嘘だと判明した。
だが、父は未だロザリーが病弱だと信じて疑わず、義母とロザリーのいいなりになっている。
「お義姉様。これ私がお義姉様の為に用意したんです!食べてみて下さい」
ある日ロザリーから、焼き菓子を手渡された。一見するとなんの変哲も無い焼き菓子だ。
だが、先日貰ったお菓子の中には針が入っていた。危うく口に入れる所だったが、食べる前に念の為割ってみて、本当に良かった。
その際無駄だとは思うが一応、父に報告をした。
『ロザリー、それは本当か』
『私、そんな事知りません。お義姉様、酷いですわ……そんな嘘をお父様に報告なさるなんて』
『嘘などでは……』
ロザリーは、涙ぐみながらワザとらしく浅い咳をする。
『ロザリー⁉︎大丈夫か⁉︎』
父は大袈裟なくらい狼狽、ロザリーの背中をさする。そして一言。
『お前は、病弱な妹を思い遣る事が出来ないのか』
それが先日の話だ。そもそも、義妹といってもレティシアとロザリーは同じ歳だ。余り妹、妹と強調するのはやめて欲しい。
レティシアは、溜息を吐き仕方なしにロザリーの前に、手を差し出す。受け取らないという選択肢はない。又、父に叱られる。
「はい、お義姉様」
ボトッ……。
鈍い音を立てて、焼き菓子は床に落ち潰れた。レティシアは、呆然とする。だが、ロザリーは満面の笑みで笑い、次の瞬間には泣き真似を始めた。
「くすんっ……酷いですわ、お義姉様。ワザと床に落とすなんてあんまりです」
ロザリーが、ワザと床に落としたのだが、それをレティシアの所為だという。
そこに、丁度良く何故か婚約者のエドモンが現れた。
「レティシア、またロザリーを虐めているのか」
「違います、私は虐めてなんて」
レティシアは、弁解をするが全く取りあって貰えない。凄い形相で睨まれた。
「ロザリーから、全て聞いているぞ。ロザリーがご両親から可愛がられているからといって、彼女に嫉妬して、随分と酷い虐めをしているそうだな。君には、ほとほと愛想が尽きた。そんな人とは思わなかった。幻滅した。……この際だからハッキリ言わせて貰う」
エドモンの酷い物言いに、レティシアは、唇をキュッと結ぶ。誰も、自分の話を聞こうともしてくれない。
エドモンは、ロザリーを庇う様にレティシアに立ち塞がった。
「君とは婚約を破棄させて貰う。君の様な、性根の悪い女性とは添い遂げらない。代わりにロザリーと婚約をする」
その瞬間、ロザリーの口元が吊り上がるのが見えた。
「君は強い女性だから大丈夫だろう。君と違って彼女はか弱く繊細な女性なんだ。俺が守ってあげなくてはならない」
呆気なく、レティシアは婚約破棄を告げられた。彼と婚約したのはもう、10年程前の事だ。それなりに良好な関係を築いていたと思っていたが、勘違いだったようだ。
レティシアは、暫くその場で立ち尽くしていた。