-7- レンドール
「リリアもいい心構えができたみたいだし、残りの問題児に会いに行くか」
「次は誰なんです?」
「ゼロとは話が合うかもしれないな。暗殺者のレンドールだ」
「ほう。暗殺者か。楽しみだ」
「ヴァージルもついてくるか?」
「もちろんだ。昨日は早くに寝たから、久しぶりに外を出歩けるぞ」
え、レンドール?
ハッピーエンドでわたくしを惨殺死体にしたレンドール?
ぜ、前言撤回ですわ! かかってこないでくださいましー!
わたくしはゼロにお姫様だっこされて。
トキワは自分で空を走って。ジルはマントで空を飛んで。
空の旅行を楽しみながら、四人でレンドールの元へと向かってますわ。
ちなみにわたくしがお姫様だっこなのは、パンツ丸見え防止案ですのよ。
さすがにわたくしも三回も同じ轍は踏みませんのよ! オホホ!
「見えてきましたね……レンドールさんは近くにいる男性ですかね?」
「オレにはまだ見えないな。なんかでっかい人?は見えるが」
「それがレンドールの相棒だ。リリア、さっきおれが言ったことを覚えているな?」
出立前に言われた言葉ね。そんなに念押ししなくたって覚えてるわよ!
レンドール、の中身というべきなのかしら、彼は極度の女性嫌い。
レンドールの相棒に近付く女性はすべて敵対するきらいがある。
だから、諸々の説明が終わるまで、わたくしは喋らない作戦で行くのよね。
「ええ。黙っているわ」
でもこのレンドールなら却って安心かも。
だって、そういうヒロインなら確実にレンドールに近付くわ。
でも、レンドールはそういう女性は嫌いだから……。
うーん、でも相手はどんな病み男でも恋愛しちゃうヒロインちゃんよね。
不思議な力でレンドールを懐柔しちゃうかしら。
「そろそろ接近する。ゼロ、ヴァージル、念のため戦闘態勢を整えておけ」
「構いませんけど、その場合ミサキさんはどうするんですか?」
「おれが担当する。ヴァージルも問題ないな?」
「人間に攻撃するのは気が引けるが……分かった」
「相手は人外だろうと、殺すと決めたら絶対に殺す。殺し切るまで死なないような男だ。まあ、ヴァージルはなかなか死なないタイプだとは思うが、念のためな」
ここ、乙女ゲーム的な世界観よね?
恋愛を謳歌出来る平和な異世界を想像してたのだけれど、なんか殺伐ねえ。
いいえ待って、リリアを取り巻く環境はいつも殺伐だから、実際乙女ゲームと一緒ね!
その考え方はおかしい? 何よ、わたくしに文句を言えるなら言ってみたら?
わたくしは制作陣に言いなさいよ! って言い返してやるから。
「レン。ちょっと人数が増えたが話をしに来た。トキワだ」
「……レニー、隣で聞いてくれるか?」
「もちろんよ! このレニーさんにまっかせなさい!」
どすん、どすんと音を立てて、巨人が移動する。
ええ……。見た目すごいゴツイ大男なのよ、その相棒って。
でも今めっちゃ低くていい声で……女口調で喋りましたわね?
すごくリアクションしたい……でも黙ってないと惨殺死体……。
うう、ここは我慢ね。韻を踏んでる場合じゃないわ。
たぶんゼロあたりが突っ込んでくれるでしょうし。
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうまなのね」
「それで、黒髪の女が近付いてくるかもしれないと」
「僕のクロは除外してください」
「話がややこしくなるから黙ってろ」
えー突っ込むところそこ?
だいたい、ヒロインは18才から22才想定だから、絶対クロはヒロインとは間違えられないわよ。
あんな幼い子と病み男の恋愛とか誰得よ。ニッチなジャンルにもほどがあるわ。
「エッチなジャンルなら得をする人がいるかもしれない」
「な……」
危ない危ない。
うっかり何ですって! と返しそうになったけど今はお口にチャックだったわね。
エッチなジャンルなんてそんなに詳しくないけど、絶対クロちゃんが酷い目に遭うわ!
絶対、ぜーったい反対よ!
「さて、という訳でその18才から22才ぐらいの女性に絡まれたら、恋愛しないでくれというのがおれたちのお願いだ」
「了解した。元よりそんな気はない。女はたいがい厄介事を持ってくる」
「あらその言葉はいただけないわね。私も厄介事を持ってきたことがあったかしら?」
「いやおまえは男……」
「いくらレンとは言え、その暴言見過ごせないわ! スープレックス!」
「いたた! やめろ馬鹿! 体格差を考えろ! こっちは日本人なんだぞ!」
「国の違いなんて微々たるものよ。だいたいここは異世界でしょ。同じ異世界人じゃない」
「その地球内にいるなら同じ地球人だから大丈夫みたいな論理やめろ!」
やっぱりレンドールも転生日本人なのね……。
でもその、異世界に相応しくないその三つのガンはどうしたの?
わたくしのいた時代には確かに銃は存在したけれど、たいていの日本人はそんなものには無縁だったはずよ。
それにヴァージルみたいに吸血鬼がいたなんて話は聞いたことないし。
この人たち、いったいどこから来たのかしら?
「それでこのあと最後の攻略対象に会いに行くんだが、おまえらも行くか?」
「確認したいのはやまやまだが、レニーがな。目立つんだ、こいつ」
そういう問題かしら?
ここ、小高い丘になってるからどっちにしろ、麓の人間には丸見えよ?
「あと移動手段がない。歩いていくしかない」
「そうだな、じゃあ先に移動手段を確保してからにするか。あとその相棒がでかいのは呪いのせいだから、こっちで勝手に解いとくぞ」
「え、呪いだったの? やだ、服を新しくしなくちゃ」
「何、呪い? 待て、呪いの発生源はどこだ。場合によっては……」
場合によっては、って……たぶん報復しちゃうんでしょうけど。
トッキーがひらがなで「でぃすぺる」って書かれた紙で、レンドールの相棒をなでる。
すると、大男はみるみる小さくなって……さっきの半分ぐらいで止まったわ。
服は、当然合ってないから惜しげもなく裸体が晒されるわ。
わーみごとなきんにく。やっぱり大男なのは変わらないわね。
「呪いはツインの試練らしいよ。はい、服」
「きゃー! 恥ずかしいわ! あ、ありがとう。ってこれ男物だわ!」
「そりゃそうだろ。ツインはあとで締めるとして。おれたちはおまえらみたいに空は飛べないぞ。移動手段を得るためまでの移動手段は、依然徒歩オンリーだ」
「問題ない。寄るのは麓の馬屋だからな」
「馬を買うのか? 高いぞ。あそこ王家ご用達?とかなんとかだって」
あはは、今まさに話しているのがその王家の一員よ。
でも、トッキー、いえトキワはみだりに王族であると明かしてはならないはず。
どうするのかしら? ポケットマネーから大金をポンって出したりするのかしら?
そういえば朝から監視員が一人もついてないように見えるけど、大丈夫なのかしら?
主にわたくしの身柄がやばい。
「知り合いに掛け合って出動してもらうだけだ。こっちもあっちも旨みのある取引をするからな。金は必要ない」
「ふうん。分かった。おれは口を出さないでおく」
「そうしてくれるとありがたい。そう言えばリリア、もう喋っていいぞ。レンのことはなんて呼ぶんだ?」
「何の話だ?」
「いや乙女ゲームの呼び名と異世界の名前が同じヤツが多いから、呼び分けたいらしい」
「はあ。事情はよく分からんが、レンでいいぞ」
「私のことはレニーでいいわ」
「よろしくお願いしますわ、レニー、……レン」
どうしよう。レンドールのこと、レンって呼ぶことになっちゃったわ。
もしわたくしがヒロインでレンドール推しだったら、レンドールを最初から愛称で呼んでるお邪魔キャラなんてまず間違いなく刺すでしょうね。
ああ、トッキーが不思議そうな顔してますわ。でも、あなた心読めるんでしょ!
見なさいよ、わたくしの周りに乱立する死亡フラグを!
「おれは必要ない時に心を読んだりしないぞ。非効率だからな」
「そうなのか」
何素直に納得してるのですのー!?