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-6- ヴァージル

 

 あら、暫定マイカ。いつの間にそんな黒い羽根を付けて、堕天使の真似かしら。

 うん? 地上が遠ざかっていきますわね。なんかデジャブ……。

 その羽根、飾りじゃなくてホントに飛ぶんですの!?

 あ、え、距離があるから飛んでく? そういう話は事前にしてくれませんこと!?

 だって今日はワンピースですのよ、やっぱりパンツ見えちゃうじゃないですのー!!


「ゼロの速度を目で追えるような奴はいつでもパンツ見れるだろ」

「ホントですわね! ジェットコースターよりずっと速いですわ!?」

「こいつ結構余裕あるな」


 余裕なんてないですわよ!? ああ目が回る……。

 こういうときってしゃべると口を噛むんでしたっけ?

 じゃあ口を噛まないようするにはどうすればいいんですの?


「もう着いたから気にしなくていいぞ。ほら見えるだろ、スレート家の屋敷だ」

「赤い屋根なんですねえ。もっと不気味な感じかと思ってました。なんかイメージとしては新婚さんがいる、街の一軒家みたいです」

「赤い屋根で不気味とか、どこぞのチョコレートケーキ帝国だけ十分だ。さて。ゼロ、中庭に降りてくれ。そこで話すことが今回の条件だ」

「ちょ、ちょっとお待ちになって! 今晴れてますわよ」

「問題ない。おまえの目を覚ますのにもちょうどいい機会だ」


 ここでちょっとおさらいと行きましょ。

 ヴァージルは吸血鬼伯爵の異名を持つの。

 当然、現代日本人が知っているような吸血鬼のお約束は一通りそろえてるわ。


 青白い肌、赤い目、鋭く尖った犬歯。屋敷には常にカーテンが敷かれている。

 さらにヴァージルは吸血をすることで、一時的に身体能力を上げることができるの。

 でも活動できるのは夜と、日中は曇りの時だけ。

 こんなに晴れていたら具合が悪くなるどころか、肌がただれてしまうわ。

 それも直ちに吸血しなければ命が危ういような……。

 トキワはいったい何をするつもりなのかしら?


「ヴァージル。約束通り来たぞ。ゼロも一緒だ」

「ああ。ありがとう。彼がゼロ、姪っ子が言っていた者だな?」

「こんにちは、ヴァージルさん。姪っ子? 誰のことでしょう」

「ジルコニアのことだ。しきりにコニーと呼んで欲しがった、褐色の斧使いの少女を覚えているか? おれたちと変な屋敷に取り込まれたときの話だが」

「ああ! コニーさんのおじ様ってヴァージルさんのことだったんですね! っていうかあのホラーMAX屋敷を変で済ますって……さすがトキワさんですね」


 暫定マイカと親しげに話ながら、ヴァージルは庭にやってきましたわ。

 その肌は健康的で、ほのかに赤みがかっていて、目こそ赤いままですけどゲームで見た弱々しいヴァージルの立ち絵とは全く異なっていましたわ。

 誰ですの。この人も暫定ヴァージルということかしら。それとも――。


「そしてあちらの女性が話していた件だ」

「初にお目にかかる、カラミティ嬢。オレはヴァージル・スレート。前世での名をヴァージル・フォン・デスという。正真正銘のヴァンパイアだ。よろしくな」

「ご、ご挨拶ありがとうございますわ。わたくし、リリア・カラミティと申します。またの名を新崎 美咲、現代日本から転生した者ですわ」


 あ、これ、いわゆる乙女ゲームの世界じゃないパターンね!

 とち狂ったヒロインが、攻略対象はデータじゃない、生きてるんだ!って言われるシーン!

 ということは、暫定マイカもゲームのマイカそのものではないってことね。

 ゼロがサイテーな人間であることは変わりないですけど。


 というか! うっかり普通に答え返してしまったけれど、周りは引いてないかしら?

 ゼロとトキワはそうだろうな、って顔ね。ちょっとムカつくわ。

 ヴァージルは全然気にしてないわね。良かった。


 ゲーム知識で悪いけれど、ヴァージルは屈指の癒しキャラで常識人だから、ここで引かれるとすごく心が痛いのよね。

 ヴァージルの周りにいる人は顔面蒼白だけど、おそらくこれはヴァージルが日の当たる庭にいるせいでしょうね。

 け、決してわたくしのせいじゃないわ! 頭のおかしい令嬢がいるせいではないのよ!


「ぼっちゃま、本当にお身体はよろしいんですか?」

「ああ、少し眩しいがこれくらいは人間でも普通のことだろう?」

「ぼっちゃま……少しでもおかしいと感じたらすぐに言ってくださいまし」

「最悪は用意してある血液を飲むから心配するな」


 血液……やっぱりこのヴァージルも吸血はするのね。

 ゲーム通り、屋敷に専用に勤めさせている人間から吸うのかしら?

 プレイ中はそういう世界観だからって眺めていられたけれど、この目で見ることになったらと思うとちょっと気分が重いわ。

 人間が可哀想だからヴァージルに吸血しないでって言うのも、何様って感じだし。


「おまえ、今もブタの血液飲んでるの?」

「たしなむ程度にな。血に酔うと問題だろ?」

「そういえばコニーさんが、おじ様は血を飲むと具合が悪くなって寝込んでしまう、と言ってましたね。ヴァンパイアとはウゴゴって気分です」

「夜に戦闘力が上がったり、空を飛べたりするからヴァンパイアだろ?」

「僕の知ってる吸血鬼とは違いますね……」


 わたくしが知っている吸血鬼とも違いますわよ!

 しかし困りましたわ。

 ブタの血を少量いただいているだけなら、一つ問題は解決したのだけれど。

 このヴァージルがゲームのヴァージルとは違うなら、なんて呼べばいいかしら。


「お話し中失礼したしますわ。わたくし、ようやく目が覚めましたわ。ここはゲームの世界観風の異世界であって、あなたたちは厳密には攻略対象とは呼べないのですね」

「この世界にヒロインが下り立てば、そういう役に割り当てられるかもしれないがな」

「茶々を入れないでくださいまし。わたくしはあなたたちを個の人間として認める努力をしたいのですわ。その一環として、ゲームとは違う名前で呼ばせてくれませんか?」

「いいですよ! ゼロって呼んでください!」

「えートキワでいいんだけどなあ。じゃあトッキーでいいよ」

「ではジルと。親しい間柄ではこう呼ばれていたのでな」

「ありがとう。ゼロ、トッキー、ジル。よろしくお願いしますわ」


 さて、次の元攻略対象はどなたかしら?

 もうどんな人でも構いやしないわ。誰でもかかってきなさい!


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