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-3- トキワ

 

 暫定マイカに抱きかかえられて数分。

 暫定マイカの言う、貴族の休み場所の前にいますわ。

 でも、おかしいんですの。わたくし、この屋敷を見たことがありますわね!

 具体的には、わたくしの中身がトキワのルート攻略中にスチルの背景で!

 今世、リリア・カラミティとしては初めて見るのですけれど、そう、ここは攻略対象の一人、トキワ・シャルトルーズが暮らしているという屋敷なのですわ!


 っていうか、公認されているとは言え国王の隠し子だし、彼のバッドエンドの描写からして貴族であるわたくしがここに近付くってもう死亡フラグでは?

 わたくしのお父様は庶民のマイカとも娘の婚姻を結ばせてしまうやり手(?)の領主ですし、半闇落ちしている王族の隠れ家とか知ったら小躍りして喜ぶんじゃないかしら。

 そ、そんな……。

 ゲームではわたくしが婚約者になっている攻略対象=主人公が選択したルートの攻略対象だから、万が一お父様の早とちりで婚約者になったりしたら大変よ。

 ヒロインがトキワ推しじゃなかったとしても、何があるか分かったもんじゃない。

 わたくしは死にたくありませんのよ!


「大丈夫です? 顔色悪いですけど」

「だ、大丈夫ですわ。ちょっと貴族的因習を顧みて嫌な予感がしているだけですわ」

「貴族的因習……結婚ですか? ふーむ、ここの人は好きな人が既にいるので大丈夫ですよ。あ、ちなみにあなたとは違う人です」

「なるほど、既に心に決めた方がいらっしゃるのね……」


 待って! それ余計にダメなパターンじゃないかしら!?

 お父様が婚姻を結ぼうとした時点でわたくしの命がおしまいエンドよ!

 ヒロインのお邪魔キャラがいなくなるから世界にとってよいエンドかもしれないけれど!

 お父様が変な気を起こさないように釘を刺しておかなくちゃ。

 わたくしの釘程度で止まってくれるのかは定かではないのですけれどね!


「トキワさん、入りますよ」


 ギィと扉が軋んだ音を立てます。

 なんだかお化け屋敷に入る前みたいな気持ちですわ……。

 ええい、もうなるようになれ、ですわ!

 暫定マイカに続いて玄関に足を突っ込みます。

 うわ、暗い。ここ本当に王族が住んでいますの?

 本当にお化け屋敷みたいですわ。どうしてこんなホラー仕様に?


「ようこそいらっしゃいました。主は部屋で待っていらっしゃいます。ご案内いたしましょう。どうぞ、こちらです」

「あ、すみません。お願いできますか? あと、今日はちょっと貴族の女性もいるんですけど、問題ないですよね?」

「ええ。主はすべて存じておりますよ」


 ええー!? 暫定マイカ、随分とフランクな対応ね!?

 さっきの幻獣の態度は笑ってみていられたけどこれは笑えないわ!

 あなた、設定上庶民なのよ!

 そこらへんの貴族ならともかく、王族に仕えるのって基本貴族だからそんな強気じゃ罰されても文句は言えないわよ!?


 それにこれはゲームの情報だけど、王の隠し子であるトキワはいつ愚かな貴族の誘いに乗っても問題ないように監視を付けられているの。

 つまり、屋敷の人間はすべて国王直属の部下なのよ!

 ゲームでは立ち絵なしのモブとして描写されていたけれど、ああ恐ろしい!

 きっとこの執事も監視員の一人に違いないわ。だって肩幅が暫定マイカの倍あるもの。

『主はすべて存じておりますよ』ですって?

 それっておまえの悪事は全部知ってるからいつでも殺せるって意味じゃないでしょうね!?

 わたくしの内心など知る由もない暫定マイカは和やかに会話を続けていますわ。


「あ、そういえば女性の名前聞いてませんでした。あなたの名前はなんて言うんです?」

「えっ、いや、あの……」

「ゼロ様。むやみに女性のプライベートを聞いてはなりませんよ。とは言え、我が主は当然ご存知でしょうが。貴族であれば貴族名鑑に載っているはずですからね」

「キゾクメイカン? 図鑑のようなものですか?」

「ええ。おおむねその認識で間違いないかと」


 危なかったー!

 ここで意気揚々と自分の名前を名乗りでもしたら、処刑台に向かって一直線ですわ!

 貴族の令嬢が、王族、しかも隠し子の家に行くって、どう考えても権力のために婚約しようとしているようにしか見えませんのよ!

 しかもこのドレス! お邪魔キャラにありがちな真紅のドレス!

 悪役は黒か赤を着とけばいいんじゃないかってぐらいの毒々しいデザイン!

 わたくしの数少ない美点、大きな胸と身体のラインを強調する布地!

 これは完全に、一発ヤリに来てるようにしか見えませんわよ!

 ワンチャン子どもができれば、大勝利みたいなフラグが見え見えですの!

 わたくしの中身的には、大勝利どころか処刑台フラグが見え見えですけどね!

 誰か助けて!


「仕方ない。おまえに死なれてはこちらの計画も狂う。助けてやろうじゃないか。では、代償に何を失う?」

「へ?」

「それ完全に悪役のセリフですよね」

「ゼロ、そしてリリア・カラミティ。よく来た。おれがおれたるためにおまえたちに協力しよう。そのためには情報が必要だ。この世界と主要キャラクターの説明を願おうか」


 あ、いつの間にかに部屋にいたみたいですわ。

 で、あれがトキワ・シャルトルーズですか。攻略対象ですね。

 世界観とヒロインと攻略対象の説明をすればいいんですのね。

 分かりましたわ。

 半闇落ちっていうか完全闇落ち犯罪一歩手前みたいな感じですけど、命が惜しいので教えますわ。


「誰が完全闇落ち犯罪一歩手前だ。聞こえているぞ」

「言い得て妙じゃないですか。一歩手前っていうかどっぷり浸かってる気もしますけど」

「そうだな。ディルメス、二人を歓迎しろ。茶の用意だ」


 えっそれって、ちょっと待って!? 飲んで大丈夫なやつですの!?


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