-2- マイカ
さっきも言った通り、プレイヤーの間ではマイカ=ニートとかクズとか呼ばれていて、実際わたくしの中身も彼のルートを攻略したときはイライラさせられましたの。
冒険者になれなくて親のすねかじっている24歳に、格好いいとか素敵とか、ときめきを覚えたり惚れ込んだりする女性がいると思いまして?
マイカの悪い所は、親しい女の子のすねもかじっているところなのよね。
マイカの初めてのスチルも、お金がなくて女の子の家から追い出されたところをという、最大に格好悪いシーンなのよ。制作陣は何を考えてそのスチルを描いたのかしら。
あら? でもこのマイカ、何かおかしいですわ。
確かにしゃべり方とか見た目はそっくりですけど……冒険者の規定すら満たせないもやしっ子がどうして現在進行形でわたくしを抱えていられるのかしら?
わたくし、自慢じゃないけれどお邪魔キャラの定番、ボンキュッボンを兼ね備えていますからそれなりに本体の重量はありますのよ。
それに豪奢を凝らした真紅のドレスにはこれでもかとレースと宝石が縫い付けてあって、とにかく重いはずでは……。
「おっと、いつまでも僕の腕の上では大変ですよね。椅子を出しますので、申し訳ないですがしばらく芝生の上にいてもらっても?」
「ああ、はい。分かりましたわ」
「はい、椅子が出ました。どうぞ座ってください」
「ご丁寧にありがとうございますわ」
いや待って!? 椅子が出ましたって何?
確かに目の前のお花畑には丸椅子があるけど、下の花を無残に突き破って安定した椅子があるけども!
これ……もしやマイカのそっくりさんなのでは!?
わたくしの希望的観測は、本人の言葉が証明してくれましたわ。
「お嬢さん。僕はマイカ。ゼロって呼んでください。さて、お嬢さんは何故ここに?」
「そこのぱいろーがわたくしを誘拐したのですわ。何の説明もなしに」
「ああ。そこの黄色いのですね。何ですか、椅子がない? 幻獣とかいう偉い地位にあるんだから椅子ぐらい自力で出してください」
ぱいろーが嘆く声が聞こえますわ。
君たちってボクを労わる気持ちが足りてないよね。そういうところそっくり。
とかなんとか言ってますけれども、残念ながらわたくしの中身、あなたが空想上のキャラクターに過ぎないって知ってるから雑に扱ってるだけですわ。
でもやっぱりおかしいですわね? 生粋のエメラルド国民であるマイカが幻獣を恐れないどころか、わたくしの倍ぐらい雑な対応しているなんて。
「そういう訳でマイカ」
「ゼロです」
「……ゼロ。理由はぱいろーに聞いてくださいまし」
「黄色い生物さん、彼女をここへ連れてきたのはどうしてですか?」
「さっき言った通りだよ。ボクは君とそこの令嬢なら話が弾むだろうと思って、気遣いをしてあげたんだよ。君はいつも訳の分からないことを言っているし、この女の子も訳の分からないことで悩んでいたから、君ならきっと解決できるだろう?」
「その同じ日本人だから言葉が通じるだろうみたいなノリやめてください。要は丸投げってことでしょう」
「ほら、その日本人ってやつ。ボクはその言葉知らないけど、さっきこの子も言ってたよ。日本人が異世界に転生なんてままあることよねって」
そこの黄色いマスコット! 人のプライベートな発言をバラしてんじゃありませんわよ!
暫定マイカも頷いているからよいものを、って頷いてる!?
「そうですね。僕も多くの異世界を見ましたが、よくあることです」
わたくしはまだ一回目ですわ!
多くの異世界を見ましたがってどういう発言なのよ!?
「なるほど、そこのお嬢さんは転生者なのですね。お金持ちの女の子が、転生者で悩んでいる。あと僕を見てぎょっとした。……ということは、この世界は元ネタがありますね?」
最後の問いはわたくしに向けてのものでしょうね。
でも、わたくしはそれには答えられませんでしたわ。
何故って? ドレスが重すぎて椅子から転げ落ちたからですわ!
このドレス、見た目と重量にパラメータ振り過ぎですわ! 実用性皆無ですわー!
「いたた……」
わたくしがその通りだけど、まさか男性に向かって乙女ゲーム云々という訳にはいかないし、そもそも乙女ゲームの説明からしなくてはいけないのでは?と頭を巡らせていると、暫定マイカがわたくしを引き起こして、言ったのですわ。
「残念ながら僕の家は貴族仕様ではありません。手持ちはありますが、女の子を一人で宿屋に泊めさせる訳にはいきません。でも、貴族が休める場所なら一つ心当たりがあります」
僕に着いてきてくれませんか?
シチュエーションが違ったら言われてみたいセリフだったわ。
でもこれ、単に休める場所への案内をされているだけなのよね。
わたくしは少しがっかりしながら、暫定マイカの腕に抱かれて……抱かれて!?
婚約者でもない今日初対面の男性の腕の中!?
これはヒロインだったら惚れてますわね、間違いない。
さっきので足をくじきませんでしたか?などと気遣われながら、その場をあとにしたのでした。
ちなみにぱいろーは言うだけ言ってどっか行きましたわ。
だから、わたくし自宅には戻れませんの。物理的な距離の問題で!
これで暫定マイカが足速いとかいう設定だったらワンチャン家に……いや無理か。
とりあえずこの場は暫定マイカに従うしかないのよ。
困ったときは地元民に頼る! 言葉も通じるし、もうこれしかないわよね!