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-1- リリア

 

 ごきげんよう! 現代日本に住まう皆様方、聞いてくださいまし!

 おっと、失礼。わたくしはリリア・カラミティと申しますわ。

 『花の散る頃に』という乙女ゲームのお邪魔キャラ……一般的に浸透した言葉で例えると悪役令嬢ですわ! どの攻略対象の婚約者にもなる尻軽令嬢ですわ!

 なんとわたくし、たいして珍しくもないことですけれども、中身が現代日本人ですの!

 おほほ、生まれ出でてびっくり仰天、この世界観、知ってますわ!

 わたくしの中身がやっていたフリーの乙女ゲームにそっくりですわ!

 という訳で、わたくしはこれからハッピーエンドおよびグッドエンドの条件の一つ、『リリア・カラミティを無力化する』を回避するために行動しますのよ!


 ……と吠えるはずだったのですけれども、なんでわたくし外を飛んでるのかしら?

 あらいやだ、ドレスのまま来たから、下々の人間が上を見たらパンツ丸見えね。

 それもこれも! 『花散る』のマスコットキャラクターであり、この世界(乙女ゲーム)の設定の根幹をなす幻獣のせいですの!

 この左手で書いたのかと見まごうほど適当な作図と、目に眩しい原色カラーリング、ぬいぐるみのような場違いな感触……あなた本当に乙女ゲームの生き物ですの!?

 あと、わたくしをどこに連れて行く気ですのー!!




 黄色いマスコット……ぱいろーは何も話す気はないようなので。

 ここらでこの世界こと、『花散る』(正式名称:花の散る頃に すずのねブロッサム)の世界観のおさらいをしておきましょうか。


 『花散る』は王道ファンタジーで、西洋ヨーロッパをモデルにしてますの。

 ただし、幻獣という人間よりはるかに強く賢い生き物がいることが、その辺のテンプレファンタジーとは違いますわ。

 魔術を使える人間でも叡智を願うような存在……まあこの人間大のぬいぐるみがそうなんだけれども。

 ここでは神に祈るのではなく、幻獣たちの知恵を借りて様々な災難をなんとかするのよね。


 ちなみにぱいろーは記憶の幻獣であるとされているわ。

 周回プレイの際に、よくお世話になったわ。このルートは何回目だとか、好感度はどれくらいだとか、既に見たことのあるスチルの閲覧もできたわね。


 それから、主人公……ヒロインのこと。

 ヒロインは現代日本からのトリッパーよ。

 あ、これはわたくしの妄想とかそういうのではなくて、ゲームの設定上そうなのよ。

 デフォルト名は『鈴波 琴音』。

 そんな名前の現代人がいるかって言いたくなるけれど、乙女ゲームの世界だし、しがらみやらたそがれやら抱える現代日本から転移してくるのだから、せめて名前ぐらいはキラキラしてたって構わないわよね?

 彼女は辛うじて言葉は通じるものの、二度と自力では日本には帰れない異世界に誤作動で転移させられ、心に闇を抱える男やら病んでる男やらの相手をしなければいけないの。

 乙女ゲームの宿命と言ったらそうだけど、なんでこんな男しか選択肢にないのかしらね?

 優しい心の持ち主、って紹介にはあるけど、寛大な心の持ち主の間違いだと思うわ。


 あとは……五人の攻略対象ね。

 わたくしの中身は全ルート攻略したし、全エンドコンプリートしたし、スチルもすべて埋めたからいくらでも語れるけど、そろそろ地上が近付いてきたから手短に済ませるわ。


 一人目。王族に連なる者。トキワ・シャルトルーズ。俺様キャラ。

 舞台になるエメラルド王国の現国王の隠し子ね。

 俺様だけど攻略するにつれて本性、小心者の姿が見えてくるわ。

 ハッピーエンド条件は、王族であることを捨て、現国王の臣下になることよ。

 ちなみにこの場合、わたくしは現国王の手駒によって秘密裏に処理されるわ。


 二人目。心を閉ざした暗殺者。レンドール・ラセット。クールキャラ。

 好きで人を殺している訳じゃない暗殺者ね。

 クールキャラを謳っているけど、彼の共感者になればあっさり堕ちるわ。

 ハッピーエンド条件は、殺人に罪悪感を抱きながら暗殺業を続けることよ。

 ちなみにこの場合、わたくしはレンドール直々に手を下されるわ。


 三人目。夢破れた彷徨い人。マイカ・スマルト。庶民キャラ。

 冒険者に憧れたけどひ弱すぎてなれなかったもやしね。

 プレイヤーにはよくニートキャラとかクズキャラって言われてたわ。

 ハッピーエンドの条件は、自信を取り戻し自立した状態であることよ。

 ちなみにこの場合、わたくしはお父様に軟禁されて二度と登場しないわ。


 四人目。テクニカルスペシャリスト。ノア・レグホン。インテリキャラ。

 主人公を召喚することになった術式を作り上げた魔術研究者ね。

 国一の魔術師でもあって、悩みも一見なさそうに見えるけどそこはお約束ね。

 ハッピーエンドの条件は、主人公が魔術研究者になって一緒に働いていることよ。

 ちなみにこの場合、わたくしはノアの実験体になっていて檻の中(比喩なし)よ。


 五人目。吸血鬼伯爵。ヴァージル・スレート。誠実キャラ。

 体質のせいで友だちができないことが悩みの癒しキャラね。

 噂通り、本物の吸血鬼だけどそれは祖先に幻獣がいるからなのよ。

 ハッピーエンドの条件は、かつての友人と和解していることよ。

 ちなみにこの場合、わたくしは祖先の幻獣に吸血されてミイラになるわ。


 なーにが、『お邪魔キャラの無力化』よ!

 大概死んでるか、死んだ方がましな目にあってるじゃない!

 わたくしもなんでこんな面倒な男の尻を追っかけて婚約者になっているのかしら!

 こういうことにならないために頑張ろうとしたところを、って急降下!

 げっ、下に誰かいるじゃない!

 わたくしの体重と速度でミンチになったらごめんあそばせー!!




「大丈夫ですか? 空から降ってきたお嬢さん」

「あなたこそ大丈夫ですの!? どこか怪我は……痛い所は!?」

「ああ、この程度。ポーションで治せますよ。自己回復を待ってもいいですね」


 わたくしを空中キャッチして、ゆるやかに地面に降り立った人は、黒に近いやや青みががった目を向けてはにかむ。

 同じような色合いの髪がさらりと揺れて、わたくしの頬は急……に青ざめた。

 この顔、立ち絵! こいつは攻略対象のマイカじゃまいか!

 違うのよ? 韻を踏んだ訳じゃあないのよ? ほんとよ?


 なんてこと、いずれ攻略対象にも会おうとは思っていたけれど、こんなに早く。

 しかも、最初がマイカって。わたくしとわたくしの中身、リアルラックがありませんわ。


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